『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『出世と尿意と、同窓会。〜私たち、あれから大人になりました〜』

第156話『飲めや騒げや、そしてトイレは遠い』

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「すみませ~ん! 生ビール追加で五つ!」

「あと、ポテトと枝豆と、チーズ盛り合わせ!」

「やっぱタコワサ欲しくない?」

「てか日本酒いっちゃおうよ日本酒!」

 ──居酒屋《酔い処まるまる》の個室は、
 開始30分で完全に“陽キャ宴会会場”と化していた。

「ふはーーー!! これだよこれ!!」

 ミキは二杯目のビールを豪快に飲み干し、
 口の端に泡をつけたままガッツポーズ。

「いやあ~~久々に“飲んでる!!”って感じするわぁ!!」

「ふふ、ミキってやっぱ、飲み始めると止まらないよね」

 ナナは少し酔った顔で、レモンサワーを回しながら笑った。

「大丈夫、まだ“理性ボタン”あるから。いま光ってるし」

「え、ミキに理性あったの?」

 ユイが刺すようなツッコミを入れる。

「あるよ!? 会社の上司の前では“ビール1杯でほんのりピンクになる小動物”キャラだよ!!」

「詐欺だなぁぁぁぁぁ!!」

「営業とは演技力って誰かが言ってたから! たぶんどこかの漫画で!」

 一同、爆笑。

「──あのさ」

 その中で、ふとハルカがポツリと呟いた。

「トイレ、どこだっけ……?」

「うん?」

 全員が一瞬、黙る。

「いや、なんか……もうそろそろ……限界というか……」

「……あっ、わかる」

 ナナも、目元を押さえながら頷いた。

「ていうか、最初のビールが、すでに膀胱で“出番待ち”してる感じする」

「ちょっと待って。女子トイレどこよ?」

 ユイが席を立とうとするが──

「すみません、お手洗いは共用で、2階に2つだけです」

 店員の笑顔が、地獄の案内人に見えた。

「……共用……!? 2つ……!?」

 ハルカの手が震える。

「これって、あれじゃない?」

 ミキがゆっくりと言った。

「これ……また“アレ”始まるパターンじゃない……?」

 空気が一瞬で重くなる。

「アレって……もしかして、“誰が最初に行くか我慢大会”……?」

 ナナがそっと言うと、全員の目が泳いだ。

「い、いやいやいや、私たち、もう大人だし!? 社会人だし!? 人前で“トイレ我慢ゲーム”とかしないし!!」

 ハルカが強く否定する。

「いやでも、今すでに“誰が先に行くか”の空気出てるよね?」

 ユイの冷静な一言が刺さる。

「……なにこのデジャヴ感……」

「うん、これ……確実に“始まってる”よ」

 そのとき──
 ついに“あの女”が口を開いた。

「でもさぁ~~♡」

 レイナ・クロフォード。

 派手な金髪ポニテに日焼け肌、そして社会人になってもなお陽キャぶっちぎり。

「今度はさ、アタシたち“大人”なんだから!」

「我慢しても、余裕で乗り越えられるでしょ♡」

「“大人の尿意”、見せてこうよ!!」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 ハルカが叫んだ。

「またそのフラグ立てた!! この数年で一度も役に立たなかった前向きさ!!」

「だってほら、“おしっこ我慢”って大人でも役立つじゃん?」

「なにその理論!?!?!?」

「集中力! 自制心! 美脚筋トレ効果! 尿意って万能なんだよ!!」

「みさと先輩の亡霊が乗り移ってるぅぅぅぅぅ!!!!」

(※数年前、「尿意は教育だ」と豪語してた保健委員長・霞ヶ関みさと)

「いやでもマジでどうする? もうそろそろ行かないと、私、笑えなくなるかも」

「でも、先に立ったら“最初にギブアップした人”って見られる……」

「ていうか男女共用だし……誰か出てきた瞬間とか……目合わせたくない……」

 誰かが、テーブルの下で足をぎゅっと組む。

 別の誰かは、グラスの水を飲むフリをしながら手を震わせる。

 ──気づけば、
 戦場は始まっていた。

「我慢して、耐えて、静かに競って」

「でも誰も言い出せない……」

「これが……大人の尿意バトル……!!」

「いやそんなのいらないからぁぁぁぁ!!」

 全員が泣き笑いで叫ぶ中──
 居酒屋の暖簾の奥、トイレのランプは、まだ赤いままだった。

(続く)

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