『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『出世と尿意と、同窓会。〜私たち、あれから大人になりました〜』

第157話『社会人、膀胱に敗れる』

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「……てかさ、最近さ~、会議中の“意見ありますか”の時間ってさ」

「……地獄じゃね?」

 酔いが回り、会話のテンションがちょっと緩くなったころ。
 社会人ヒロインたちのトークは、仕事あるあるになっていた。

「上司の顔色見ながら、微妙な空気の中で“あ……あ、あります”とか言うの、めっちゃ嫌だわ」

 ナナがレモンサワーをちびちびやりながらぼやく。

「あるあるある! てかあの時間、誰も口開かないと、逆に地雷っていうか……」

 ミキがつまみのポテトを投げるように口へ運ぶ。

「私は会議中に“膀胱が限界”のとき、何も聞こえなくなるタイプ」

「おい今なんて言った!?」

 ユイが笑いながら振り返るが──

 その瞬間、ふと違和感を覚えた。

(ん?)

 その場にいるサバナの膝が、小刻みに揺れていた。

 いや、膝だけではない。椅子ごと。

「サバナ? なんか揺れてるけど……」

「ん? あっ……ダンスだよダンス。アフリカのリズムってやつ」

「そのリズム、完全に“トイレ我慢ビート”だよね!?」

「……正解……」

 サバナが悟ったような顔で頷く。

「てか、私も……もう3杯目でさ……そろそろ、ね」

 そう言ったのはナナだった。

「ちょっと店員さん呼んでさ、トイレどこかもう一回聞いてくる」

 すっと手を挙げるナナ。

「すみませ~ん、すいませ……」

 店員が来る前に、ミキが顔を引きつらせて突っ込んだ。

「お前それ、“本日のおすすめ確認”のふりして、トイレ位置聞こうとしてんだろ!?」

「しっ! しーっ!」

 ナナが慌てて口に人差し指を当てる。

「……見逃してよ。プライドと膀胱の戦いなの」

「うっわ、来てるわ……来てるねこれ……」

 ユイも両膝をピタリと閉じ、下を向いて手を組んでいた。

「大人になったら、こういうのなくなると思ってたのに……」

「ほんとに……」

 ハルカが、静かに呟いた。

(──いや、違う)

(この空気……この沈黙……)

(この“誰も立たないけど全員限界”な感じ……)

 あのときと、まったく同じ。

 青春の真っ只中、あの教室で。
 あのドリンクで。
 あの時の沈黙と震える時間──

「……まさか……またこの流れ……?」

 ハルカは、思わずグラスを置いて顔を伏せた。

(高校の頃で終わったはずだったのに……)

(なんで今、大人になって、また“尿意と沈黙のバトル”してるの……?)

「……ちなみに、誰かもう“限界”だったりする?」

 ミキが、怖いものを見るように口にした。

 沈黙。

「……しーん、だね」

「でもそれが逆にヤバいやつだよね」

「誰も行かない=全員我慢中、のパターン!!」

「また“最初に行くと笑われる”空気なの? 社会人なのに!? まだそれやるの!?」

「だってさあ、“あの子、トイレ行った=漏れそうだった疑惑”が勝手に浮くじゃん?」

「誰がそんな無言の名札ぶら下げたいんだよぉぉぉぉ!!」

 もはや笑いながら崩れ落ちるユイ。

 その隣で、レイナが空気を読まず、いつものテンションでビールを煽った。

「アタシ、まだ余裕♡」

「おまえ、膀胱どうなってんの!?」

 ツッコミを入れつつも、誰もがすでに気づいていた。

 この飲み会は、“時間の勝負”になる。

 誰が一番最初に立ち上がるのか。
 誰が一番最初に負けを認めるのか。

 青春ではなく、
 もう“社会人の誇り”が、今まさに試されていた。

 そのとき──

「すみません、トイレ、ただいま満室です。あと、おひとり様が中で意識失ってるっぽくて……」

 店員のその一言で、
 全員が──膀胱を抱えて震えた。

(続く)
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