159 / 203
『出世と尿意と、同窓会。〜私たち、あれから大人になりました〜』
第157話『社会人、膀胱に敗れる』
しおりを挟む
「……てかさ、最近さ~、会議中の“意見ありますか”の時間ってさ」
「……地獄じゃね?」
酔いが回り、会話のテンションがちょっと緩くなったころ。
社会人ヒロインたちのトークは、仕事あるあるになっていた。
「上司の顔色見ながら、微妙な空気の中で“あ……あ、あります”とか言うの、めっちゃ嫌だわ」
ナナがレモンサワーをちびちびやりながらぼやく。
「あるあるある! てかあの時間、誰も口開かないと、逆に地雷っていうか……」
ミキがつまみのポテトを投げるように口へ運ぶ。
「私は会議中に“膀胱が限界”のとき、何も聞こえなくなるタイプ」
「おい今なんて言った!?」
ユイが笑いながら振り返るが──
その瞬間、ふと違和感を覚えた。
(ん?)
その場にいるサバナの膝が、小刻みに揺れていた。
いや、膝だけではない。椅子ごと。
「サバナ? なんか揺れてるけど……」
「ん? あっ……ダンスだよダンス。アフリカのリズムってやつ」
「そのリズム、完全に“トイレ我慢ビート”だよね!?」
「……正解……」
サバナが悟ったような顔で頷く。
「てか、私も……もう3杯目でさ……そろそろ、ね」
そう言ったのはナナだった。
「ちょっと店員さん呼んでさ、トイレどこかもう一回聞いてくる」
すっと手を挙げるナナ。
「すみませ~ん、すいませ……」
店員が来る前に、ミキが顔を引きつらせて突っ込んだ。
「お前それ、“本日のおすすめ確認”のふりして、トイレ位置聞こうとしてんだろ!?」
「しっ! しーっ!」
ナナが慌てて口に人差し指を当てる。
「……見逃してよ。プライドと膀胱の戦いなの」
「うっわ、来てるわ……来てるねこれ……」
ユイも両膝をピタリと閉じ、下を向いて手を組んでいた。
「大人になったら、こういうのなくなると思ってたのに……」
「ほんとに……」
ハルカが、静かに呟いた。
(──いや、違う)
(この空気……この沈黙……)
(この“誰も立たないけど全員限界”な感じ……)
あのときと、まったく同じ。
青春の真っ只中、あの教室で。
あのドリンクで。
あの時の沈黙と震える時間──
「……まさか……またこの流れ……?」
ハルカは、思わずグラスを置いて顔を伏せた。
(高校の頃で終わったはずだったのに……)
(なんで今、大人になって、また“尿意と沈黙のバトル”してるの……?)
「……ちなみに、誰かもう“限界”だったりする?」
ミキが、怖いものを見るように口にした。
沈黙。
「……しーん、だね」
「でもそれが逆にヤバいやつだよね」
「誰も行かない=全員我慢中、のパターン!!」
「また“最初に行くと笑われる”空気なの? 社会人なのに!? まだそれやるの!?」
「だってさあ、“あの子、トイレ行った=漏れそうだった疑惑”が勝手に浮くじゃん?」
「誰がそんな無言の名札ぶら下げたいんだよぉぉぉぉ!!」
もはや笑いながら崩れ落ちるユイ。
その隣で、レイナが空気を読まず、いつものテンションでビールを煽った。
「アタシ、まだ余裕♡」
「おまえ、膀胱どうなってんの!?」
ツッコミを入れつつも、誰もがすでに気づいていた。
この飲み会は、“時間の勝負”になる。
誰が一番最初に立ち上がるのか。
誰が一番最初に負けを認めるのか。
青春ではなく、
もう“社会人の誇り”が、今まさに試されていた。
そのとき──
「すみません、トイレ、ただいま満室です。あと、おひとり様が中で意識失ってるっぽくて……」
店員のその一言で、
全員が──膀胱を抱えて震えた。
(続く)
「……地獄じゃね?」
酔いが回り、会話のテンションがちょっと緩くなったころ。
社会人ヒロインたちのトークは、仕事あるあるになっていた。
「上司の顔色見ながら、微妙な空気の中で“あ……あ、あります”とか言うの、めっちゃ嫌だわ」
ナナがレモンサワーをちびちびやりながらぼやく。
「あるあるある! てかあの時間、誰も口開かないと、逆に地雷っていうか……」
ミキがつまみのポテトを投げるように口へ運ぶ。
「私は会議中に“膀胱が限界”のとき、何も聞こえなくなるタイプ」
「おい今なんて言った!?」
ユイが笑いながら振り返るが──
その瞬間、ふと違和感を覚えた。
(ん?)
その場にいるサバナの膝が、小刻みに揺れていた。
いや、膝だけではない。椅子ごと。
「サバナ? なんか揺れてるけど……」
「ん? あっ……ダンスだよダンス。アフリカのリズムってやつ」
「そのリズム、完全に“トイレ我慢ビート”だよね!?」
「……正解……」
サバナが悟ったような顔で頷く。
「てか、私も……もう3杯目でさ……そろそろ、ね」
そう言ったのはナナだった。
「ちょっと店員さん呼んでさ、トイレどこかもう一回聞いてくる」
すっと手を挙げるナナ。
「すみませ~ん、すいませ……」
店員が来る前に、ミキが顔を引きつらせて突っ込んだ。
「お前それ、“本日のおすすめ確認”のふりして、トイレ位置聞こうとしてんだろ!?」
「しっ! しーっ!」
ナナが慌てて口に人差し指を当てる。
「……見逃してよ。プライドと膀胱の戦いなの」
「うっわ、来てるわ……来てるねこれ……」
ユイも両膝をピタリと閉じ、下を向いて手を組んでいた。
「大人になったら、こういうのなくなると思ってたのに……」
「ほんとに……」
ハルカが、静かに呟いた。
(──いや、違う)
(この空気……この沈黙……)
(この“誰も立たないけど全員限界”な感じ……)
あのときと、まったく同じ。
青春の真っ只中、あの教室で。
あのドリンクで。
あの時の沈黙と震える時間──
「……まさか……またこの流れ……?」
ハルカは、思わずグラスを置いて顔を伏せた。
(高校の頃で終わったはずだったのに……)
(なんで今、大人になって、また“尿意と沈黙のバトル”してるの……?)
「……ちなみに、誰かもう“限界”だったりする?」
ミキが、怖いものを見るように口にした。
沈黙。
「……しーん、だね」
「でもそれが逆にヤバいやつだよね」
「誰も行かない=全員我慢中、のパターン!!」
「また“最初に行くと笑われる”空気なの? 社会人なのに!? まだそれやるの!?」
「だってさあ、“あの子、トイレ行った=漏れそうだった疑惑”が勝手に浮くじゃん?」
「誰がそんな無言の名札ぶら下げたいんだよぉぉぉぉ!!」
もはや笑いながら崩れ落ちるユイ。
その隣で、レイナが空気を読まず、いつものテンションでビールを煽った。
「アタシ、まだ余裕♡」
「おまえ、膀胱どうなってんの!?」
ツッコミを入れつつも、誰もがすでに気づいていた。
この飲み会は、“時間の勝負”になる。
誰が一番最初に立ち上がるのか。
誰が一番最初に負けを認めるのか。
青春ではなく、
もう“社会人の誇り”が、今まさに試されていた。
そのとき──
「すみません、トイレ、ただいま満室です。あと、おひとり様が中で意識失ってるっぽくて……」
店員のその一言で、
全員が──膀胱を抱えて震えた。
(続く)
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる