『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『出世と尿意と、同窓会。〜私たち、あれから大人になりました〜』

第159話『“あの頃”の絆、再び』

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「ねえ……あと、何人……?」

 ミキの声は震えていた。
 目元の笑みは完全に引きつっていて、足は“ペンギンのような足踏み”状態。
 だが、それを見て誰も笑わない。

 ──なぜなら、自分も同じ状態だったからだ。

「2人……あと2人……」
 ナナが歯を食いしばって答える。
「けど、この“あと2人”が……長いんだよね、だいたい」

「くそっ……“あと2人地獄”って昔もなかったっけ……?」

 そう呟いたのはユイだった。
 店のトイレは男女共用。個室は2つしかない。
 そのうちの片方は、いまだ意識不明(?)の客が使用中。
 残された1つをめぐって、沈黙の戦争が続いていた。

 ──そこに。

「なあ……」

 ぽつりと声が落ちた。

 その声の主は、レイナだった。

「なあ……またさ、“誰が最初に漏らすかゲーム”、やる?」

 ピクッ。

 数秒の沈黙のあと──

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 6人が一斉に絶叫した。

「言うな!! それはもう……出禁ワード!!」

「呪いか!? 呪いを呼ぶ言葉か!? どっちなんだよぉぉ!!」

「バカバカバカ!! 今そんなの言ったらホントに……ッ!」

「あたしもう、笑ったら漏れるからやめて!! ガチで!!」

「お前ほんとにアホだなぁあああああああ!!(でも笑っちゃう!)」

 そう。
 それは、“あの頃”の口癖だった。

 利尿作用ドリンク事件。
 謎の保健委員長事件。
 そして、地獄の体育館裏決戦。

 誰かが「誰が先に漏らすかゲーム」と言い出した瞬間から、
 空気はなぜかお笑いモードに変わってしまう。
 でも──身体は限界。
 笑えば、揺れる。
 揺れれば、こぼれる。

「くぅ……思い出しちゃったじゃん……!」

 ナナが足をクロスして限界の顔。

「この感じ……ほんとに地獄……」

「“出るか笑うか”の選択を迫られるやつね……!」

「あーもー! まじで誰か早く出てきてよトイレえぇぇぇぇぇぇ!!」

 限界は、とうに超えていた。

 だが、それでも誰一人、列を離れない。
 逃げない。
 漏らさない。
 その理由は──

「……なんかさ」
 ユイがポツリと言った。

「結局、こうしてまた一緒に“我慢”してるのがさ、悪くないなって」

「……は?」
 ミキが呆れたように横目で見る。

「いまそれ言う!? 青春ポエムのタイミングじゃねーからな!?」

「でも……あのときも、みんなで一緒だったから、楽しかったじゃん」

 その言葉に、他のメンバーも思い出す。

 ──教室の沈黙。

 ──限界で足をクロスして笑いを堪えていた日々。

 ──体育館裏で並んで、出てこないドアを叩いたこと。

 ──そして、最初に“それ”が起きたあの瞬間。

「……懐かしいね」
 ハルカが小さく笑った。

「でも、もう大人なんだから……って思ってたのに」

「膀胱には、関係なかったんだよ……成長とか……」

「むしろ、我慢時間が伸びただけで、より地獄化した説あるよね……」

 その場にいた全員が、また小さく笑った。

 ふと、店の奥から、トイレのドアがギィ、と開いた。

 全員の視線が一点に集中。

 誰もが心の中で──「早く、入れ」と叫んだ。

 けれど、そこから出てきた男性は、なぜか笑顔でこう言った。

「ふぅ~、スッキリ! でもさ、壁に貼ってある標語、面白かったなー。“おしっこ我慢は、忍耐の美徳”ってやつ! 」

「だれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」

 一斉に全員が崩れ落ちた。

「どこでそんな道徳心育ててきたの!? このタイミングで言う!?」

「人が尿意で死にそうなのに、名言じみたセリフ残すなぁぁ!!」

「もうムリ……一回魂出た……!」

 笑いの中に、本物の涙が混じっていた。

 だが。

 そんな地獄の空気の中でも──

 不思議と、あたたかい何かが残っていた。

「……やっぱ、あの頃と変わってないね、私たち」

 サバナがぽつりと、誇らしげに言った。

 そして次に入る順番は──ハルカ。

「……いってらっしゃい。英雄」

 レイナが肩を叩く。

「生きて、帰ってくる……!」

 ナナが敬礼する。

「つか、普通にして! 恥ずかしいから!」

 そう言いながらも、ハルカは、笑っていた。

 笑って、泣きそうで、そして──走った。

(──つづく)
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