『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
169 / 203
『癒しとは──膀胱との闘いの果てにあるもの』

第167話『SA(サービスエリア)争奪戦』

しおりを挟む
「見えたぁぁぁぁぁ!!」

 ミキの絶叫が響いた。
 窓の向こう、ようやく姿を現した「●●サービスエリア」の看板と建物。
 それはオアシス、いや、“命の砦”といっても過言ではなかった。

「やっと着いた……っ!」

「神様、ありがとう……!」

「水を捨てに行くんだ……自分の中の……!」

 車内のテンションは、異様なほどに高まっていた。
 というより、限界を越えた興奮と切迫感がブレンドされた、**“尿意ハイ”**状態だった。

 だが──現実は、非情だった。

「うそ……駐車場、満車……?」

 ナナが呆然とつぶやく。

 バスは、サービスエリア入口でストップ。
 敷地内には観光バスと乗用車がぎっしりと詰まり、動く気配すらない。

「この期に及んで……!?」

「なんで今日に限って!? なんで渋滞が連続なの!?」

 運転手が言った。

「ちょっと待っててね、今誘導の人と確認するから」

「無理です! 尿意に“ちょっと”はありません!!」

「“待って”は一番言っちゃいけない単語です!!」

 後部座席のレイナがすでに窓のロックを解除しようとしている。

「開けるなぁぁぁぁ!! 飛び出すなぁぁぁ!!」

 車内がカオスになる中、ようやくバスがゆっくりと駐車場の隅に滑り込む。

 ──その瞬間。

「いけええええええ!!!!」

 誰ともなく叫び、女子たちが一斉に立ち上がった。

「トイレぇぇぇ!!!」

「死にたくないぃぃぃぃ!!」

「おしっこが命より重い日がある!!!」

 まさに“非常脱出”。
 乗降ドアが開くや否や、社会人女子たちが前のめりに突進していく。

 バスの横をすり抜けるスーツ女子軍団。
 彼女たちは、今──戦士だった。

「道をあけろぉぉぉぉ!!」

「社会人の意地見せてやるぅぅ!!」

 仁義なき女子トイレ争奪戦が、開幕した。

 トイレ棟の前には、すでに数名の女性客が列を成していた。

「うそでしょ!?ここでも待ち!?」

「列短く見えるけど……中が空いてないパターンだコレ!!」

「あたし先!!死にそうなの!!」

「こっちだって切実なんだよぉぉ!!」

 激しく口論になる……わけではなく、
 全員、ギリギリすぎて逆に無言。

 表情が引きつり、涙目で、足をクロスしながら待機する。
「これは戦いだ……誰とも目を合わせるな……!」

 列の最前に立つのは──ハルカ。

 だが、そのすぐ後ろにいたレイナがつぶやいた。

「ハルカ……ずるい……アタシだって一番になりたかった……」

「黙れ!!早い者勝ちだ!!」

「青春を一緒に戦った仲じゃん……!」

「友情より膀胱が先なんだよ!!!!!」

 そのとき、扉が一つ──カチャ、と開く。

「誰よりも早く!!!」
 ハルカが一歩踏み出しかけた、その瞬間──

「わたし……もう、ダメかも……」

 その声に、全員が動きを止めた。

 列の一番後ろ、膝を抱えてしゃがみ込む女性が一人。

 エミリだった。

 完璧主義で、理論的で、いつも冷静なエミリが──
 今、肩を震わせて、静かに涙をこぼしていた。

「こんな……はずじゃなかったのに……」

「体の限界って……こういうの……?」

 その姿に、列の誰もが言葉を失う。

 ミキが、小さく口を開いた。

「……譲ろうよ、先に」

 ナナも頷く。

「うん……あたしも、ちょっと限界だけど……エミリが一番やばい」

 レイナもサバナも、ゆっくりと一歩後退する。

「おまえら……!」

 ハルカが振り向き、全員の顔を見回す。

 全員が泣きそうな顔だった。

 それでも誰もが、譲ると決めていた。

 ハルカは一度だけ、目を閉じた。

「行け、エミリ……おまえが、先陣だ」

「え……でも、わたし……」

「漏れてからじゃ、遅いからな!」

 エミリは立ち上がる。

 ふらふらしながら、トイレの扉へと歩いていく。

(私たちは、大人になった……)

(でも、こういうときこそ──)

「友情ってやつ、見せてやろうぜ」

 扉が閉まる音が、静かに響いた。

 残された彼女たちの膀胱は、まだギリギリだった。

 でも、心はちょっと温かくなった。

 ――この物語は、尿意と共にある。

(つづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

処理中です...