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『出張は戦場!ラブもトイレも逃さない』
第189話『会議室で、恋と尿意と』
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朝の研修会場。
落ち着いた木の机が並び、窓からは初夏の陽光が穏やかに差し込む──はずなのに。
(なぜ、よりによってケントさんの隣なの……!?)
ハルカは朝から絶望していた。もちろんそれは恋的な意味でも、膀胱的な意味でも。
出張研修のメインプログラムは、朝10時から夕方4時まで、会議室でみっちり講義とグループワーク。
そして今、座席表に従って着席した結果、左隣にはケント。右斜め前にはナナ。そしてトイレの場所は──遠い。非常に遠い。
いや、正確には、女子トイレは一応ある。だが、そこに至るまでの廊下が長い。長い上に、途中で他部署の研修グループが複数同じ通路を利用している。
さらに朝から“のど乾き防止”と言って配られたレモン水がトドメを刺した。
(あのレモン水の罪、深すぎる……)
足元では、絶妙な角度で膝を交差し、ハルカは目立たぬよう呼吸を整える。
目の前ではプロジェクターの光がプレゼン資料を映し、司会が抑揚のない声で「チーム力の最大化について」などと語っている。
しかし、彼女の脳内は「膀胱圧力の最大化について」で占められていた。
「ハルカさん、大丈夫ですか?」
突然、耳元でケントの低い声。
鼓膜を震わせるその響きは、好きという感情を刺激し──同時に膀胱にも影響を与える最悪の副作用を持っていた。
「っ、だ、だいじょうぶです……っ」
笑顔を装って首を振るが、内心は大混乱。恋の緊張と尿意の緊迫。両方が波状攻撃を仕掛けてくる。
一方、その様子を、ナナは見ていた。
斜め前の席。彼女もまた、少し顔色が硬い。膝をそっと閉じ、太ももに力が入っているのが見て取れる。
(ナナも……我慢してる?)
思った瞬間、ナナと目が合う。
そしてわずかに、ナナは目を細め、すっとケントの方を向いた。
(──ッ!?)
ハルカの心拍が跳ね上がる。
恋の緊張と膀胱の緊急事態。それが“他ヒロインの視線”という三角関係の刺激でブーストされた。
まさに今、会議室には“恋と尿意の熱”が充満していた。
グループワークが始まり、チームごとにディスカッションが行われる。
だが、ハルカは集中できない。
ケントが質問してくるたびに心臓が跳ね、会議テーブルの振動が膀胱に伝わり、ナナが発言するたびに神経がそっちへ向く。
「じゃあ、このプランをA案としてまとめておきましょうか。ハルカさん、記録お願いできます?」
「は、はいっ!」
急に名指しされ、あわててメモを取りながら、ふとももに入れた力で“決壊の一線”をどうにか踏みとどまる。
だが、昼休みはまだ遠い。
気づけば室内温度が微妙に上昇し、冷房の効きも曖昧になってくる。
汗ばむ背中。冷えた足元。なのに、水分は朝からすでに……。
そのとき、ナナがそっと立ち上がった。
女子トイレの方向へと、静かに歩いていく。
その姿に、ハルカは――耐えがたいほどの羨望を覚えた。
(ナナ……ずるい……)
だが、すぐに次の想いが襲ってくる。
(今、席を立ったら、ケントさんに“我慢できなかった人”って思われる……!)
恋の見栄と、膀胱の現実。その狭間で、彼女の心は揺れた。
結局その後、午後の講義が始まるころにはハルカもナナも揃って席に戻り、そして新たな戦いの幕が上がる──。
(……これが、大人の青春なのかもしれない)
そんな哲学めいた結論に辿りついた頃、膀胱は限界に近づいていた。
落ち着いた木の机が並び、窓からは初夏の陽光が穏やかに差し込む──はずなのに。
(なぜ、よりによってケントさんの隣なの……!?)
ハルカは朝から絶望していた。もちろんそれは恋的な意味でも、膀胱的な意味でも。
出張研修のメインプログラムは、朝10時から夕方4時まで、会議室でみっちり講義とグループワーク。
そして今、座席表に従って着席した結果、左隣にはケント。右斜め前にはナナ。そしてトイレの場所は──遠い。非常に遠い。
いや、正確には、女子トイレは一応ある。だが、そこに至るまでの廊下が長い。長い上に、途中で他部署の研修グループが複数同じ通路を利用している。
さらに朝から“のど乾き防止”と言って配られたレモン水がトドメを刺した。
(あのレモン水の罪、深すぎる……)
足元では、絶妙な角度で膝を交差し、ハルカは目立たぬよう呼吸を整える。
目の前ではプロジェクターの光がプレゼン資料を映し、司会が抑揚のない声で「チーム力の最大化について」などと語っている。
しかし、彼女の脳内は「膀胱圧力の最大化について」で占められていた。
「ハルカさん、大丈夫ですか?」
突然、耳元でケントの低い声。
鼓膜を震わせるその響きは、好きという感情を刺激し──同時に膀胱にも影響を与える最悪の副作用を持っていた。
「っ、だ、だいじょうぶです……っ」
笑顔を装って首を振るが、内心は大混乱。恋の緊張と尿意の緊迫。両方が波状攻撃を仕掛けてくる。
一方、その様子を、ナナは見ていた。
斜め前の席。彼女もまた、少し顔色が硬い。膝をそっと閉じ、太ももに力が入っているのが見て取れる。
(ナナも……我慢してる?)
思った瞬間、ナナと目が合う。
そしてわずかに、ナナは目を細め、すっとケントの方を向いた。
(──ッ!?)
ハルカの心拍が跳ね上がる。
恋の緊張と膀胱の緊急事態。それが“他ヒロインの視線”という三角関係の刺激でブーストされた。
まさに今、会議室には“恋と尿意の熱”が充満していた。
グループワークが始まり、チームごとにディスカッションが行われる。
だが、ハルカは集中できない。
ケントが質問してくるたびに心臓が跳ね、会議テーブルの振動が膀胱に伝わり、ナナが発言するたびに神経がそっちへ向く。
「じゃあ、このプランをA案としてまとめておきましょうか。ハルカさん、記録お願いできます?」
「は、はいっ!」
急に名指しされ、あわててメモを取りながら、ふとももに入れた力で“決壊の一線”をどうにか踏みとどまる。
だが、昼休みはまだ遠い。
気づけば室内温度が微妙に上昇し、冷房の効きも曖昧になってくる。
汗ばむ背中。冷えた足元。なのに、水分は朝からすでに……。
そのとき、ナナがそっと立ち上がった。
女子トイレの方向へと、静かに歩いていく。
その姿に、ハルカは――耐えがたいほどの羨望を覚えた。
(ナナ……ずるい……)
だが、すぐに次の想いが襲ってくる。
(今、席を立ったら、ケントさんに“我慢できなかった人”って思われる……!)
恋の見栄と、膀胱の現実。その狭間で、彼女の心は揺れた。
結局その後、午後の講義が始まるころにはハルカもナナも揃って席に戻り、そして新たな戦いの幕が上がる──。
(……これが、大人の青春なのかもしれない)
そんな哲学めいた結論に辿りついた頃、膀胱は限界に近づいていた。
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