前代未聞のトイレ異世界転移ファンタジー~うちのトイレは異次元でした。街中は勘弁してください。いや、そこもちょっと!~

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第169話:オーケストラの演奏会で大失態!? もう嫌だよ、このトイレ!

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 俺の名前は佐藤太一、18歳。
 コンビニ飯が大好きで、それが原因で腹を壊しがちな、ごく普通の高校生だ……と言えたらどんなに楽か。
 でも最近はコンビニ弁当だけじゃなく、友達が作ってくれた料理でも腹をやられてる気がする。
 俺の日常は、引っ越し先のアパートに備え付けられた曰く付きトイレのせいで、完全にカオスと化してる。  
 トイレのドアを開けた瞬間、どこか知らない場所に便器ごと転移して、用を足さないと戻れない仕様。
 もう何回目か分からないけど、毎回メンタルが削られる。
 このトイレ、俺の状況とか感情とか完全に無視して転移先決めるっぽいし、引っ越した当初は「駅近で家賃安い、ラッキー!」なんて浮かれてた自分が恨めしい。  
 昨日は結婚式のチャペルで遥、彩花、美月、美咲、玲奈に囲まれて、新郎新婦の幸せをぶち壊す地獄を味わった。
 その前は処刑場で公開処刑より辛い目に遭ったし、毎回毎回が試練だ。
 なのに、今日もまた腹がゴロゴロ鳴ってる。
 原因は昨夜の飯だ。
 半額の「激辛四川風担々麺」を食っただけじゃなく、彩花が「太一くんに食べてほしいな!」って持ってきた手作り唐辛子チャーシューも一緒に食っちまった。
 コンビニの辛さと彩花の愛情たっぷり(辛さたっぷり)のチャーシューが胃の中で暴れてる感じだ。  
 学校から帰って少しスマホいじってたけど、我慢の限界が来た。
 仕方なくトイレに駆け込んだら、ドアを開けた瞬間――
 荘厳なバイオリンの音と、拍手の響きが耳をついた。
 目の前にはスーツやドレスを着た観客が座るコンサートホール。
 俺の便器は、ステージのど真ん中、オーケストラの指揮者の目の前にポツンと出現。  
「うおっ、オーケストラ!? 演奏会かよ!」  
 周りにはバイオリンやチェロを構えた楽団員が真剣な顔で演奏してて、指揮者がタクトを振ってる。
 観客席は静まり返って、みんな感動に浸ってる雰囲気。
 ホールに響く弦楽器の美しい音と、スポットライトが俺の便器を照らしてる――って、見えてないはずだけど、場違いすぎて浮きまくってるよ!  
「こんなとこで用を足すとか、マジで無理ゲーだろ……!」  
 腹痛は待ってくれない。
 担々麺の辛さと彩花のチャーシューのスパイスが下腹部をギュルギュル締め付けてきて、冷や汗が止まらない。
 でもその時、観客席の後ろから聞き覚えのある声が響いてきた。  
「兄よ! この音の聖域に眠る闇の旋律を我が手にせん!」  
 何だ、この厨二病全開のセリフ!?
 見ると、後ろの席でポーズ取ってるのは俺の妹、佐藤遥だ。
 ドレスっぽいマント巻いて、片手挙げて叫んでる。  
「遥!? またお前かよ!」  
「この調べこそ我が闇の交響曲! 兄よ、一緒に音を支配しようぞ!」
 遥が俺を指さしてくる。
 見えてないはずなのに、毎回絡んでくるな、お前!  
 すると、別の声が割り込んできた。
「太一くん、大丈夫? またお腹痛いんだね? 私のチャーシュー、辛すぎたかな?」
 明るい声と笑顔。
 山本彩花だ。
 クラスの癒し系ヒロインで、昨日も結婚式で心配してくれた。
 観客席から申し訳なさそうにこっち見てる。  
「彩花!? 何で演奏会に!? いや、チャーシュー美味かったけどさ!」  
 さらに別の声。
「太一、彩花ちゃんに近づきすぎじゃない? こんな場所でも落ち着いてね」
 穏やかで親しみやすい口調。
 山本美月だ。
 幼馴染で、いつも冷静にフォローしてくれる。
 今はドレス着て席の端でこっち見てる。  
「美月まで!? お前ら何でここにいるんだよ!」  
 すると、ステージ脇から低い声が響く。
「太一……私がそばにいるのに、演奏会で他の女と楽しそうに……許さないよ?」
 佐々木美咲だ。
 ヤンデレ気質のクラスメイトで、昨日も結婚式で怖い目をしてた。
 今は楽団員の後ろからジトッとした目でこっち見てて、音楽の感動が台無しだよ!  
「み、美咲!? またお前か!?」  
 さらに追い打ちをかけるように、別の声が。
「全てが虚無……この音も、私の心も……」
 中村玲奈だ。
 闇落ちしたクラスメイトで、いつも虚無感漂わせてる。
 ホールの隅で壁にもたれて、虚ろな目で天井見つめてる。  
「玲奈!? お前まで!? また全員集合かよ!」  
 混乱してる俺の横で、指揮者がタクトを振ってクライマックスに突入。
 楽団員が一斉に盛り上がる中、遥が「闇の音階が炸裂する!」って叫んで拍手してる。
 彩花が「太一くん、顔赤いよ?」って近づいてきて、美月が「ほら、落ち着いて」って笑ってる。
 美咲が「太一は私だけでいいよね?」って迫ってくるし、玲奈が「どうせ終わるだけ……」って呟いてる。
 演奏会がカオスと化してるよ!  
「集中しろ、集中しろ、集中しろ! 早く終わらせないと精神持たねえ!」  
 腹に全神経を集中させる。
 おっ、おっ、おっ、なんとか出そう……よし、気合入れろ!
 ブッ。  
「……うっ、音がホールに響いた!」  
 静寂の中、音が反響して観客が「何だ!?」ってざわつき出す。
 指揮者が「!?」ってタクト止めて、楽団員が一瞬演奏ミスる。
 遥が「闇の咆哮だ!」って叫び、彩花が「え、太一くん、これって……?」って目を丸くする。
 美月が「まさかね……」って苦笑い、美咲が「太一の全てを受け入れるよ……」って目を潤ませる。
 玲奈が「この臭いも虚無……」って呟いてるし、見えてないはずなのに演奏ぶち壊しすぎる!  
 ポチャン。  
「よっしゃ、出た! 終わった!」  
「ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」  
 光に包まれてアパートのトイレに戻った瞬間、便器の冷たい感触と換気扇の微かな音にホッとする。
 心臓バクバクで息を整えながら、俺は便器に座ったまま放心状態。  
「本当に何でこんなトイレ付きの部屋に住んじまったんだろ……」  
 汗だくで呟く。
 オーケストラの演奏会で全員に囲まれて用を足すとか、俺の人生終わってるだろ。
 遥の厨二病、彩花の優しさ(と辛いチャーシュー)、美月の冷静さ、美咲のヤンデレ、玲奈の虚無感が混ざって、音楽の感動を台無しにした罪悪感がヤバい。  
「ったく、次のトイレはどこに飛ばされるんだよ……」  
 腹痛が収まったことに感謝しつつ、俺はトイレのドアをそっと閉めた。
 次に開けるのが怖い。
 でも担々麺とチャーシューの残りがまだ胃で暴れてる気がするし、またすぐ来るかもしれない。
 コンビニ飯も彩花の手料理も、やめたいけどやめられないんだよな。
 安いし美味いし、優しさも嬉しいし、つい食べちゃうんだよ。  
 とりあえず、今日はもうトイレ行きたくない。
 でも腹の調子がそんな願い聞いてくれるわけないか。
 演奏会で生き延びただけでも褒めてくれよ、自分。  

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