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33話 まず捨てよ
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「なるほど、さすがガーヒル様」
ホールに響いた声。
まずそれは私のもの。
「政治は止めてはならない。ショウ・マスト・ゴーオン。つまりご自身が先頭に立って、皆を導いてくれるということですわね」
投げかけたその言葉に、ガーヒルは2つの顔色を同時に見せた。
ようやく自分の凄さに気づいたか、という優越の色。
そしてもう1つは、なんてことを言いやがったという焦燥の色。
やはり分かっている。
今のガーヒルは、それなりに頭の回る状況。今までなら前者の色のみを浮かべ得意満面にこちらを攻撃するだけのことだっただろう。だが今の彼は知ってしまった。
私の仕掛けた甘い毒の罠のことを。
だが時間は止まらない。
「あ、ああ――」
そう肯定とも保留ともつかない返事をしている間に、別の声があがった。
「あいや、待たれよガーヒル殿」
あがったのはしわがれた男の声。
もうちょっと耳に優しい人の声はないの? あ、ここは上に“ば”がつく貴族の集まりか。てか『あいや』って何? いつの時代の人? てかそんなふうに呼び止める人なんて見たこともないわ。
それが一体誰なのか。それが気になって、驚愕に振り向くガーヒルの向こうに視線を向ける。
ホールの中央右側。そこにひと際大きなグループを作っている集団がいて、そのさらに中央に居座る初老の男が、まさに声を発した人物だと特定した。
「アード伯……」
ガーヒルがその声の主に対してつぶやく。
はて、アード伯? 伯爵ってこと? なんかどっかで聞いたような…………ま、いいでしょ。覚えてないということはそこらの雑魚――だけど、周囲に集まる人と、おそらく彼が言い出すだろうことから、それなりに偉い人だと当たりはつけておく。
「ガーヒル殿。もしや貴殿が次なる筆頭大臣に名乗りを上げるということかな?」
「いや、それは……ですが、いえ……」
プライドと野心を隠せぬガーヒルはしどろもどろに答える。
「筆頭大臣という職務は多大な重責と行動力と思考力が必要となる。つまりそれだけの研鑽を積んできた者がつくべき役職。そうではないかね? 前筆頭大臣であるカシュトルゼ殿の通りに」
アード伯の言いたいことはやっぱりそこね。
要は『野心家の若造なんかの好き勝手やらせるか。年季と声望の高い自分こそ次期筆頭大臣にふさわしい』と。
「しかしアード伯。事は重大ですゆえ――」
「なればこそ、しっかり協議しなければいけないのではないかね? そう短絡的に名乗り上げた者がそうなるとしてしまえば、歴史ある我が国の威信が揺らぐことになろう。いくらお主が我が姪の子であろうとも、順序というものがあるのだ。でありますな、陛下?」
「む、そ、そうだな?」
「…………っ!」
はい、完璧。
私はチラッと今パパに目を向けた。
すでに引退を表明した今パパは、少し顔を引きつらせながらもどこか緩んだ雰囲気で私を見返す。
そう。今やカシュトルゼ家に対する風当たりはかなり弱まっている。
今パパが引退したことで、引きずり下ろす対象ではなくなったのだ。
正直、この国の筆頭大臣の椅子なんて、今はそんなにいいものじゃない。
国王は無能だし、他のこいつらも自分の利権しか考えたない。ダウンゼンみたいな反政府的な運動も見られる。さらに、他国の動向を考えるとどう考えても割に合わない。
金は入るけど、気苦労と根回し、それから少し責任と多大なる命の危険を冒してまで固執するお宝じゃない。
ならその死を振りまくお宝はさっさと手放して、見た目に惑わされている愚か者に渡してしまえばいい。
そうすればもはや私たちは宝を守る竜――ファブニールでなくなる。ジークフリートを気取る愚か者どもが、宝の争奪戦をしている間に戦力を整え
わざと手放すことで、最終的に得る。
それが今回の狙い。
そしてもう1つ。
ガーヒルとアード伯爵の口論、そうもはや口論に発展した内容は、さらに他のグループからの参入もあり、かなり混迷を極めていた。
それを収めようにも、発言権のある人たちががなりたてているわけだし、何より国王にそれを治める器量はない。
「エリーゼ、何かあるのか?」
その声はそこまで大きくなかったが、それでもその立場にある者としての尊大な響きが、愚かな貴族たちの騒動を一定下げる役割を果たした。
「あのー、わたくしごときが差し出がましい口を利くのは申し訳ないのですが――」
次第に静まっていく喧騒に、集まる視線。
それに対して、度胸と忍耐を使ってこう告げる。
「選挙、しません?」
ホールに響いた声。
まずそれは私のもの。
「政治は止めてはならない。ショウ・マスト・ゴーオン。つまりご自身が先頭に立って、皆を導いてくれるということですわね」
投げかけたその言葉に、ガーヒルは2つの顔色を同時に見せた。
ようやく自分の凄さに気づいたか、という優越の色。
そしてもう1つは、なんてことを言いやがったという焦燥の色。
やはり分かっている。
今のガーヒルは、それなりに頭の回る状況。今までなら前者の色のみを浮かべ得意満面にこちらを攻撃するだけのことだっただろう。だが今の彼は知ってしまった。
私の仕掛けた甘い毒の罠のことを。
だが時間は止まらない。
「あ、ああ――」
そう肯定とも保留ともつかない返事をしている間に、別の声があがった。
「あいや、待たれよガーヒル殿」
あがったのはしわがれた男の声。
もうちょっと耳に優しい人の声はないの? あ、ここは上に“ば”がつく貴族の集まりか。てか『あいや』って何? いつの時代の人? てかそんなふうに呼び止める人なんて見たこともないわ。
それが一体誰なのか。それが気になって、驚愕に振り向くガーヒルの向こうに視線を向ける。
ホールの中央右側。そこにひと際大きなグループを作っている集団がいて、そのさらに中央に居座る初老の男が、まさに声を発した人物だと特定した。
「アード伯……」
ガーヒルがその声の主に対してつぶやく。
はて、アード伯? 伯爵ってこと? なんかどっかで聞いたような…………ま、いいでしょ。覚えてないということはそこらの雑魚――だけど、周囲に集まる人と、おそらく彼が言い出すだろうことから、それなりに偉い人だと当たりはつけておく。
「ガーヒル殿。もしや貴殿が次なる筆頭大臣に名乗りを上げるということかな?」
「いや、それは……ですが、いえ……」
プライドと野心を隠せぬガーヒルはしどろもどろに答える。
「筆頭大臣という職務は多大な重責と行動力と思考力が必要となる。つまりそれだけの研鑽を積んできた者がつくべき役職。そうではないかね? 前筆頭大臣であるカシュトルゼ殿の通りに」
アード伯の言いたいことはやっぱりそこね。
要は『野心家の若造なんかの好き勝手やらせるか。年季と声望の高い自分こそ次期筆頭大臣にふさわしい』と。
「しかしアード伯。事は重大ですゆえ――」
「なればこそ、しっかり協議しなければいけないのではないかね? そう短絡的に名乗り上げた者がそうなるとしてしまえば、歴史ある我が国の威信が揺らぐことになろう。いくらお主が我が姪の子であろうとも、順序というものがあるのだ。でありますな、陛下?」
「む、そ、そうだな?」
「…………っ!」
はい、完璧。
私はチラッと今パパに目を向けた。
すでに引退を表明した今パパは、少し顔を引きつらせながらもどこか緩んだ雰囲気で私を見返す。
そう。今やカシュトルゼ家に対する風当たりはかなり弱まっている。
今パパが引退したことで、引きずり下ろす対象ではなくなったのだ。
正直、この国の筆頭大臣の椅子なんて、今はそんなにいいものじゃない。
国王は無能だし、他のこいつらも自分の利権しか考えたない。ダウンゼンみたいな反政府的な運動も見られる。さらに、他国の動向を考えるとどう考えても割に合わない。
金は入るけど、気苦労と根回し、それから少し責任と多大なる命の危険を冒してまで固執するお宝じゃない。
ならその死を振りまくお宝はさっさと手放して、見た目に惑わされている愚か者に渡してしまえばいい。
そうすればもはや私たちは宝を守る竜――ファブニールでなくなる。ジークフリートを気取る愚か者どもが、宝の争奪戦をしている間に戦力を整え
わざと手放すことで、最終的に得る。
それが今回の狙い。
そしてもう1つ。
ガーヒルとアード伯爵の口論、そうもはや口論に発展した内容は、さらに他のグループからの参入もあり、かなり混迷を極めていた。
それを収めようにも、発言権のある人たちががなりたてているわけだし、何より国王にそれを治める器量はない。
「エリーゼ、何かあるのか?」
その声はそこまで大きくなかったが、それでもその立場にある者としての尊大な響きが、愚かな貴族たちの騒動を一定下げる役割を果たした。
「あのー、わたくしごときが差し出がましい口を利くのは申し訳ないのですが――」
次第に静まっていく喧騒に、集まる視線。
それに対して、度胸と忍耐を使ってこう告げる。
「選挙、しません?」
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