政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成

文字の大きさ
35 / 68

33話 まず捨てよ

しおりを挟む
「なるほど、さすがガーヒル様」

 ホールに響いた声。
 まずそれは私のもの。

「政治は止めてはならない。ショウ・マスト・ゴーオン。つまりご自身が先頭に立って、皆を導いてくれるということですわね」

 投げかけたその言葉に、ガーヒルは2つの顔色を同時に見せた。
 ようやく自分の凄さに気づいたか、という優越の色。
 そしてもう1つは、なんてことを言いやがったという焦燥の色。

 やはり分かっている。
 今のガーヒルは、それなりに頭の回る状況。今までなら前者の色のみを浮かべ得意満面にこちらを攻撃するだけのことだっただろう。だが今の彼は知ってしまった。

 私の仕掛けた甘い毒の罠のことを。

 だが時間は止まらない。

「あ、ああ――」

 そう肯定とも保留ともつかない返事をしている間に、別の声があがった。

「あいや、待たれよガーヒル殿」

 あがったのはしわがれた男の声。
 もうちょっと耳に優しい人の声はないの? あ、ここは上に“ば”がつく貴族の集まりか。てか『あいや』って何? いつの時代の人? てかそんなふうに呼び止める人なんて見たこともないわ。

 それが一体誰なのか。それが気になって、驚愕に振り向くガーヒルの向こうに視線を向ける。

 ホールの中央右側。そこにひと際大きなグループを作っている集団がいて、そのさらに中央に居座る初老の男が、まさに声を発した人物だと特定した。

「アード伯……」

 ガーヒルがその声の主に対してつぶやく。

 はて、アード伯? 伯爵ってこと? なんかどっかで聞いたような…………ま、いいでしょ。覚えてないということはそこらの雑魚――だけど、周囲に集まる人と、おそらく彼が言い出すだろうことから、それなりに偉い人だと当たりはつけておく。

「ガーヒル殿。もしや貴殿が次なる筆頭大臣に名乗りを上げるということかな?」

「いや、それは……ですが、いえ……」

 プライドと野心を隠せぬガーヒルはしどろもどろに答える。

「筆頭大臣という職務は多大な重責と行動力と思考力が必要となる。つまりそれだけの研鑽キャリアを積んできた者がつくべき役職。そうではないかね? 前筆頭大臣であるカシュトルゼ殿の通りに」

 アード伯の言いたいことはやっぱりそこね。
 要は『野心家の若造なんかの好き勝手やらせるか。年季と声望の高い自分こそ次期筆頭大臣にふさわしい』と。

「しかしアード伯。事は重大ですゆえ――」

「なればこそ、しっかり協議しなければいけないのではないかね? そう短絡的に名乗り上げた者がそうなるとしてしまえば、歴史ある我が国の威信が揺らぐことになろう。いくらお主が我が姪の子であろうとも、順序というものがあるのだ。でありますな、陛下?」

「む、そ、そうだな?」

「…………っ!」

 はい、完璧。

 私はチラッと今パパに目を向けた。
 すでに引退を表明した今パパは、少し顔を引きつらせながらもどこか緩んだ雰囲気で私を見返す。

 そう。今やカシュトルゼ家に対する風当たりはかなり弱まっている。
 今パパが引退したことで、引きずり下ろす対象ではなくなったのだ。

 正直、この国の筆頭大臣の椅子なんて、今はそんなにいいものじゃない。
 国王は無能だし、他のこいつらも自分の利権しか考えたない。ダウンゼンみたいな反政府的な運動も見られる。さらに、他国の動向を考えるとどう考えても割に合わない。

 金は入るけど、気苦労と根回し、それから少し責任と多大なる命の危険を冒してまで固執するお宝じゃない。

 ならその死を振りまくお宝はさっさと手放して、見た目に惑わされている愚か者に渡してしまえばいい。
 そうすればもはや私たちは宝を守る竜――ファブニールでなくなる。ジークフリートを気取る愚か者どもが、宝の争奪戦をしている間に戦力を整え

 わざと手放すことで、最終的に得る。
 それが今回の狙い。

 そしてもう1つ。

 ガーヒルとアード伯爵の口論、そうもはや口論に発展した内容は、さらに他のグループからの参入もあり、かなり混迷を極めていた。
 それを収めようにも、発言権のある人たちががなりたてているわけだし、何より国王にそれを治める器量はない。

「エリーゼ、何かあるのか?」

 その声はそこまで大きくなかったが、それでもその立場にある者としての尊大な響きが、愚かな貴族たちの騒動を一定下げる役割を果たした。

「あのー、わたくしごときが差し出がましい口を利くのは申し訳ないのですが――」

 次第に静まっていく喧騒に、集まる視線。
 それに対して、度胸と忍耐を使ってこう告げる。

「選挙、しません?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...