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35話 お嬢様の帰還
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「エリ、どうするつもりなのだ。ガーヒル卿とアード卿の直接対決など……」
屋敷に戻る馬車の中ではだんまりだったお父様が、家の玄関をくぐるや否や、そう喚きだした。
「昨日、お話ししたはずですわお父様。我々が引いたことで、相手は権利欲にかられて身内争いを始めると」
「そ、それは確かに。見事であったが……しかしお前がそれに入り込む必要はなかろう? 今は隠忍する時というのならば、徹底的に身を慎むべきだ」
その今パパの言葉に内心ほくそえむ。
なるほど、この嗅覚が今パパをこれまで国のトップに収まっていた理由。生き馬の目を抜く政治の世界では、保身に長けたものでないと。
どれだけ優れた政治家で、理念もあり、国民のために働くとしても、保身がなければこの世界では生きていけない。なぜなら彼らを引きずり下ろすのは民意ではなく、同業者だから。
そう前パパは言っていた。
だからそういった意味では今パパのことは凄いと思っているし、学ぶべきところは多いと思っている。
けどこれは別。
最終的なゴールがどこにあるかが違っている以上、今パパの方針で妥協はできない。
私が望んでいるのは復讐。
安寧も大事だけど一番の本命はそこ。
それになにより。中途半端な制裁で相手を追い詰めるつもりはない。
なまじ力のある相手を見逃してしまえば、力を取り戻した相手に報復される。だからやるときは徹底的に。相手に反攻の意志と力を無くすまで叩き潰すのが私の流儀。
巡り巡ってこれは今パパのためになるんだけど、そこまでは分かってはくれないか。
「これも考えあってのこと。あとのことは私に任せていただけると、そういうお話でしょう?」
「う、うむ。そう、だな。エリのやることにはもう口を挟まん。好きにするといい」
「では早速。お金を出してくださらない?」
「いきなりたかるのか……」
「正当な献金というものですわ。それに、選挙はとかくお金がかかるもの」
「まぁ良い。つまりお前はあの2人に勝たせる気などさらさらないということだな」
「そういうことです。理解が早くて助かりますわ」
「これでも元筆頭大臣よ。ふむ。お前が後を継ぐか。娘ではなく息子が欲しいと思っておったが、こうもわしに似るとは」
「いえ、まったくにておりません。私はお母さま似ですから」
「ふっ、そういうところだよ」
あら、なにか失礼なことを言われた気分。
ま、いいでしょう。別に誰に似たからといって今の私が変わるわけでもないし。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様」
私たちの話がひと段落したところを見計らって執事長のワルドゥが声をかけてきた。
「おお、帰ったぞ。何もなかっただろうな」
「はぁ、あ、いえ、その……」
「なんだ、歯切れの悪い」
「それが、その……」
ちらりとワルドゥがこちらに視線を向ける。
その意図を察した私はうなずく。
「ああ、ちゃんと来たのですね。で今どこに?」
「はっ。控えの前にてお待たせしております……が」
「おい、ワルドゥどういうことだ。エリ、何をしたのだ?」
今パパがうろたえた様子で私とワルドゥを交互に見る。
そのさまは何も知らない子供のようで滑稽そのもの。
「ええ、お父様。今私がすること。勝つための手を打つ。それだけですわ」
「か、勝つため……いや、それにしては打つ手が……もしや今日のこの流れを見越して……」
「いえいえ、それほど私は未来を見ることはできません。できるのは負けないための工夫。それだけですわ。では」
そう言って今パパとワルドゥを残して、廊下を行く。
玄関ホールすぐ、1階の小部屋の前にたどり着くと、ノックもせずに無遠慮にドアを開く。
「待たせたわね」
そう言って室内を見回す。
そこには2人の男。クロイツェルとダウンゼンが、静かに私の帰りを待っていた。
屋敷に戻る馬車の中ではだんまりだったお父様が、家の玄関をくぐるや否や、そう喚きだした。
「昨日、お話ししたはずですわお父様。我々が引いたことで、相手は権利欲にかられて身内争いを始めると」
「そ、それは確かに。見事であったが……しかしお前がそれに入り込む必要はなかろう? 今は隠忍する時というのならば、徹底的に身を慎むべきだ」
その今パパの言葉に内心ほくそえむ。
なるほど、この嗅覚が今パパをこれまで国のトップに収まっていた理由。生き馬の目を抜く政治の世界では、保身に長けたものでないと。
どれだけ優れた政治家で、理念もあり、国民のために働くとしても、保身がなければこの世界では生きていけない。なぜなら彼らを引きずり下ろすのは民意ではなく、同業者だから。
そう前パパは言っていた。
だからそういった意味では今パパのことは凄いと思っているし、学ぶべきところは多いと思っている。
けどこれは別。
最終的なゴールがどこにあるかが違っている以上、今パパの方針で妥協はできない。
私が望んでいるのは復讐。
安寧も大事だけど一番の本命はそこ。
それになにより。中途半端な制裁で相手を追い詰めるつもりはない。
なまじ力のある相手を見逃してしまえば、力を取り戻した相手に報復される。だからやるときは徹底的に。相手に反攻の意志と力を無くすまで叩き潰すのが私の流儀。
巡り巡ってこれは今パパのためになるんだけど、そこまでは分かってはくれないか。
「これも考えあってのこと。あとのことは私に任せていただけると、そういうお話でしょう?」
「う、うむ。そう、だな。エリのやることにはもう口を挟まん。好きにするといい」
「では早速。お金を出してくださらない?」
「いきなりたかるのか……」
「正当な献金というものですわ。それに、選挙はとかくお金がかかるもの」
「まぁ良い。つまりお前はあの2人に勝たせる気などさらさらないということだな」
「そういうことです。理解が早くて助かりますわ」
「これでも元筆頭大臣よ。ふむ。お前が後を継ぐか。娘ではなく息子が欲しいと思っておったが、こうもわしに似るとは」
「いえ、まったくにておりません。私はお母さま似ですから」
「ふっ、そういうところだよ」
あら、なにか失礼なことを言われた気分。
ま、いいでしょう。別に誰に似たからといって今の私が変わるわけでもないし。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様」
私たちの話がひと段落したところを見計らって執事長のワルドゥが声をかけてきた。
「おお、帰ったぞ。何もなかっただろうな」
「はぁ、あ、いえ、その……」
「なんだ、歯切れの悪い」
「それが、その……」
ちらりとワルドゥがこちらに視線を向ける。
その意図を察した私はうなずく。
「ああ、ちゃんと来たのですね。で今どこに?」
「はっ。控えの前にてお待たせしております……が」
「おい、ワルドゥどういうことだ。エリ、何をしたのだ?」
今パパがうろたえた様子で私とワルドゥを交互に見る。
そのさまは何も知らない子供のようで滑稽そのもの。
「ええ、お父様。今私がすること。勝つための手を打つ。それだけですわ」
「か、勝つため……いや、それにしては打つ手が……もしや今日のこの流れを見越して……」
「いえいえ、それほど私は未来を見ることはできません。できるのは負けないための工夫。それだけですわ。では」
そう言って今パパとワルドゥを残して、廊下を行く。
玄関ホールすぐ、1階の小部屋の前にたどり着くと、ノックもせずに無遠慮にドアを開く。
「待たせたわね」
そう言って室内を見回す。
そこには2人の男。クロイツェルとダウンゼンが、静かに私の帰りを待っていた。
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