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55話 エリ様の出陣
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外に出た。
ああ、太陽の光が眩しい。あの暗くてジメジメしたところで、陰謀だの策謀だの足の引っ張りあいに媚びへつらい阿諛追従。本当に陰険で薄暗い陰キャの集まりばかりで息が詰まるところ。
私みたいな明るくて活発で最新のコスメとふわふわなスイーツ大好きな交友関係の広い陽キャには辛くて辛くて。ええ、本当ですわよ?
「しかし、エリーゼ様。よろしいのですか」
後ろからついてくるグルートル隊長が不安げに聞いてくる。
「あら、私が出るのがいけない?」
「いえ、そういうわけではなく……。我々はあくまで中央区の警備隊。国外に出て他国と戦うのはまた別でして」
「ああ、そこなら問題ありませんわ」
この世界には明確な軍というのはない。
いえ、あるのですけどちょっと特殊というか。
国王がこの国のトップなのは間違いないのですが、その配下に軍隊があるわけではないみたい。軍は各領地を統治する私たちのような貴族がそれぞれ少量保持しているレベル。
そして実際に戦うとなった時は領民を徴兵して戦いに臨むという形。
領地だけを平和に治めるならそれほど大きな軍勢は要らないし、逆に領主である貴族が力を持ちすぎると反乱の恐れがあるからそうはいかない。
だから国――というより領地を狙う相手に対しては、そこに住む領民を兵としないといけないわけで、当然、普段は農作業しかしていない連中だから兵としての練度はほぼない。
だからこのハバリエ王国というのはそこまで強くはないんだけど、それなりに大きな領土を持ち、他国との外交折衝によって実戦をしなくても国を維持出来てきたという歴史を持つらしい。
ただ、今こちらに向かっているイチノ国は国家の軍として大規模な軍隊がいて別みたい。
国土としてはハバリエ王国の方が大きいが、兵の強さではイチノ国に軍配があがるということみたい。あまり軍とかのことは分からないから、そこらへんは聞きかじった内容。
というわけでグルートル隊長はそこらへんを案じてくれているみたいで、その好意は素直に受け取りましょう。
「安心してください。出て来る前に、皆さまから軍の供出を依頼して、それが陛下に認められましたので。前線に向かいながら数を増やしていけますわね」
「は、はぁ……」
グルートル隊長は分かったような分からないような顔で頷く。
あらあら。このお人もなんというかお人よしですわね。
私がこれからやろうとしているのは各地にある正規軍。それを集めること。私の元に。
そう。つまり、このハバリエ王国のほとんどの兵が私の命令で動く。だからもし仮に、私が反逆の意志を見せたら誰もこの国を守ることはできないってこと。
いえ、万全を期すならイチノ国を素通りさせて、この国都を陥とさせてから逆襲してイチノ国の主力を全滅させるのもあり。
ふふふ。そっちの方がいいかしら。
やらないけど。
私が欲しいのは万全のこの国。
イチノ国に侵略されてボロボロになった国なんて不要ですもの。
そこらへん、国のことを何も考えてない政治家の皆さんよりマシだとは思っていますわ。ああ、これほど民のことを考えるなんて。私って菩薩か観音か。
「エリーゼ様」
そんな思考を遮るのは、背中にかけられた言葉。
後ろを見ればクロイツェルが走ってこちらに駆けよって来るのが見えた。
「あら、クロイツェル。どうしました?」
「私も連れて行っていただきたい。イチノ国の前線の近くに我が領土がありますので、そこから兵と領民をかき集めればそれなりの数にはなるかと」
あらあら。まぁまぁ。
この人も必死ね。
いえ、分かりやすいというか。
ここで動けば国を守った英雄として名を残せる。
国都の奥に縮こまって何もしない連中より、大きく発言力を伸ばせる。
弱小貴族として、立場を一変させる一発逆転の機会を逃さない見識と行動力は大したものね。
まぁ私は戦闘のことなんてよくわからないから、少しでも分かる人がいるとありがたいのは確か。
「ええ、では指揮を任せましょうか」
「わ、私が総指揮官に!? し、しかしこれはエリーゼ様が起こした軍ではないのですか!?」
「私はちょっとやることがあるので。ここから前線までに兵をまとめていってください」
「……わ、分かりました。ではそのように」
まぁ正直言うと雑用を押し付けた。
一瞬迷ったのは、ここで断れば連れて行ってもらえないと思ったからだろう。この男も案外したたかね。
「おぅい、エリ!」
中央区から上町のところに出ると、そこにはダウンゼンと街の人たちが集まっていた。
クロイツェルがダウンゼンの顔を見てムッとしている。
そんな視線を気にせずにダウンゼンはこちらに近寄ってくると、
「どうした、外に出てきて。結果はどうなったんだ?」
どうやら彼らに話は伝わっていないらしい。それも当然か。こんな一大事、何も対応がないまま国民に伝われば大混乱をきたす。
「ちょっとした大事が起きてね。耳を貸しなさい」
私がダウンゼンを呼び寄せると、目を輝かせて犬みたいに駆け寄ってきた。
近寄った彼に対し、私が小声で喋ろうとすると、そこにクロイツェルも耳を寄せてきた。
「あ? なんでおめぇが来るんだよ」
「ふん。私はエリーゼ様に軍の総指揮を任されたのだ。国防の全てに目を通すのは当然だ」
はいはい、これも定例行事。
「無駄な時間を使いたくないから結論だけ言うわ。ダウンゼン、人数を集めて。できれば腕っぷしの強いの」
「なんだ、何が起きた」
「イチノ国が攻めてきたわ」
「なっ!!」
「静かに。これは国の一大事よ。あなたたちの働きで色々と風向きが変わる」
「なるほど。それでエリの方がガーヒルより立場が良くなるってことか」
「あなたたちの立場もよ」
「?」
「これであなたたちが活躍してみなさい。軍より役立つってことで、立場も変わるんじゃないかと思って」
「……ありがてぇ」
「別にあなたのためにやったわけじゃないから。この国のためよ」
そして自分のためでもある。
本当に不思議なことがある。
国の為政者となったのなら、国を守ること――それは民衆を守ることに心を砕くべきなんじゃないかって。
けど別にそれは博愛主義とか国粋主義とかそういう青い考えじゃない。
前パパも言ってた。
『自分の利益だけを追い求める政治家は三流だよ。民衆のためになって、国のためになって、そして何より自分のためになる。その政策を実行できてこそ一流の政治家だ。言っておくが、パパはね。他の人の暮らしなんて本当はどうでもいいんだ。けど他の人の暮らしを良くすると、巡り巡って自分たち、そしてママや琴音たちに良い暮らしをさせることができる。だからパパは頑張るんだ』
そう。ダウンゼンやクロイツェル、そして街の人たちに恩を施すのは別に彼らのためじゃない。
全て巡り巡って私のためになるからやること。
己だけの利益を求める雑魚は徹底的に潰されて、跡形も残らない。
そんな無様さを、あの三流たちに思い知らせてあげないとね。
「というわけでしばらくはこのこと他言は無用。あとはクロイツェルと協議して」
「……」
「……」
あからさまな嫌悪を現して無言でにらみ合う2人。
はぁ、人選間違ったかしら……。
ああ、太陽の光が眩しい。あの暗くてジメジメしたところで、陰謀だの策謀だの足の引っ張りあいに媚びへつらい阿諛追従。本当に陰険で薄暗い陰キャの集まりばかりで息が詰まるところ。
私みたいな明るくて活発で最新のコスメとふわふわなスイーツ大好きな交友関係の広い陽キャには辛くて辛くて。ええ、本当ですわよ?
「しかし、エリーゼ様。よろしいのですか」
後ろからついてくるグルートル隊長が不安げに聞いてくる。
「あら、私が出るのがいけない?」
「いえ、そういうわけではなく……。我々はあくまで中央区の警備隊。国外に出て他国と戦うのはまた別でして」
「ああ、そこなら問題ありませんわ」
この世界には明確な軍というのはない。
いえ、あるのですけどちょっと特殊というか。
国王がこの国のトップなのは間違いないのですが、その配下に軍隊があるわけではないみたい。軍は各領地を統治する私たちのような貴族がそれぞれ少量保持しているレベル。
そして実際に戦うとなった時は領民を徴兵して戦いに臨むという形。
領地だけを平和に治めるならそれほど大きな軍勢は要らないし、逆に領主である貴族が力を持ちすぎると反乱の恐れがあるからそうはいかない。
だから国――というより領地を狙う相手に対しては、そこに住む領民を兵としないといけないわけで、当然、普段は農作業しかしていない連中だから兵としての練度はほぼない。
だからこのハバリエ王国というのはそこまで強くはないんだけど、それなりに大きな領土を持ち、他国との外交折衝によって実戦をしなくても国を維持出来てきたという歴史を持つらしい。
ただ、今こちらに向かっているイチノ国は国家の軍として大規模な軍隊がいて別みたい。
国土としてはハバリエ王国の方が大きいが、兵の強さではイチノ国に軍配があがるということみたい。あまり軍とかのことは分からないから、そこらへんは聞きかじった内容。
というわけでグルートル隊長はそこらへんを案じてくれているみたいで、その好意は素直に受け取りましょう。
「安心してください。出て来る前に、皆さまから軍の供出を依頼して、それが陛下に認められましたので。前線に向かいながら数を増やしていけますわね」
「は、はぁ……」
グルートル隊長は分かったような分からないような顔で頷く。
あらあら。このお人もなんというかお人よしですわね。
私がこれからやろうとしているのは各地にある正規軍。それを集めること。私の元に。
そう。つまり、このハバリエ王国のほとんどの兵が私の命令で動く。だからもし仮に、私が反逆の意志を見せたら誰もこの国を守ることはできないってこと。
いえ、万全を期すならイチノ国を素通りさせて、この国都を陥とさせてから逆襲してイチノ国の主力を全滅させるのもあり。
ふふふ。そっちの方がいいかしら。
やらないけど。
私が欲しいのは万全のこの国。
イチノ国に侵略されてボロボロになった国なんて不要ですもの。
そこらへん、国のことを何も考えてない政治家の皆さんよりマシだとは思っていますわ。ああ、これほど民のことを考えるなんて。私って菩薩か観音か。
「エリーゼ様」
そんな思考を遮るのは、背中にかけられた言葉。
後ろを見ればクロイツェルが走ってこちらに駆けよって来るのが見えた。
「あら、クロイツェル。どうしました?」
「私も連れて行っていただきたい。イチノ国の前線の近くに我が領土がありますので、そこから兵と領民をかき集めればそれなりの数にはなるかと」
あらあら。まぁまぁ。
この人も必死ね。
いえ、分かりやすいというか。
ここで動けば国を守った英雄として名を残せる。
国都の奥に縮こまって何もしない連中より、大きく発言力を伸ばせる。
弱小貴族として、立場を一変させる一発逆転の機会を逃さない見識と行動力は大したものね。
まぁ私は戦闘のことなんてよくわからないから、少しでも分かる人がいるとありがたいのは確か。
「ええ、では指揮を任せましょうか」
「わ、私が総指揮官に!? し、しかしこれはエリーゼ様が起こした軍ではないのですか!?」
「私はちょっとやることがあるので。ここから前線までに兵をまとめていってください」
「……わ、分かりました。ではそのように」
まぁ正直言うと雑用を押し付けた。
一瞬迷ったのは、ここで断れば連れて行ってもらえないと思ったからだろう。この男も案外したたかね。
「おぅい、エリ!」
中央区から上町のところに出ると、そこにはダウンゼンと街の人たちが集まっていた。
クロイツェルがダウンゼンの顔を見てムッとしている。
そんな視線を気にせずにダウンゼンはこちらに近寄ってくると、
「どうした、外に出てきて。結果はどうなったんだ?」
どうやら彼らに話は伝わっていないらしい。それも当然か。こんな一大事、何も対応がないまま国民に伝われば大混乱をきたす。
「ちょっとした大事が起きてね。耳を貸しなさい」
私がダウンゼンを呼び寄せると、目を輝かせて犬みたいに駆け寄ってきた。
近寄った彼に対し、私が小声で喋ろうとすると、そこにクロイツェルも耳を寄せてきた。
「あ? なんでおめぇが来るんだよ」
「ふん。私はエリーゼ様に軍の総指揮を任されたのだ。国防の全てに目を通すのは当然だ」
はいはい、これも定例行事。
「無駄な時間を使いたくないから結論だけ言うわ。ダウンゼン、人数を集めて。できれば腕っぷしの強いの」
「なんだ、何が起きた」
「イチノ国が攻めてきたわ」
「なっ!!」
「静かに。これは国の一大事よ。あなたたちの働きで色々と風向きが変わる」
「なるほど。それでエリの方がガーヒルより立場が良くなるってことか」
「あなたたちの立場もよ」
「?」
「これであなたたちが活躍してみなさい。軍より役立つってことで、立場も変わるんじゃないかと思って」
「……ありがてぇ」
「別にあなたのためにやったわけじゃないから。この国のためよ」
そして自分のためでもある。
本当に不思議なことがある。
国の為政者となったのなら、国を守ること――それは民衆を守ることに心を砕くべきなんじゃないかって。
けど別にそれは博愛主義とか国粋主義とかそういう青い考えじゃない。
前パパも言ってた。
『自分の利益だけを追い求める政治家は三流だよ。民衆のためになって、国のためになって、そして何より自分のためになる。その政策を実行できてこそ一流の政治家だ。言っておくが、パパはね。他の人の暮らしなんて本当はどうでもいいんだ。けど他の人の暮らしを良くすると、巡り巡って自分たち、そしてママや琴音たちに良い暮らしをさせることができる。だからパパは頑張るんだ』
そう。ダウンゼンやクロイツェル、そして街の人たちに恩を施すのは別に彼らのためじゃない。
全て巡り巡って私のためになるからやること。
己だけの利益を求める雑魚は徹底的に潰されて、跡形も残らない。
そんな無様さを、あの三流たちに思い知らせてあげないとね。
「というわけでしばらくはこのこと他言は無用。あとはクロイツェルと協議して」
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