58 / 68
56話 出発は人力車で
しおりを挟む
一通りの仕事を終え、王都の外には初めて出た。
ダウンゼンと出会ったのは下町だから厳密には王都内。
だからどんなものかと思ったけど、
「……うわ、なんもない」
想像以上になにもなかった。
東京ドーム何個分っていう感じの、見渡す限り広がる平原。草木が風になびき、さわさわと心地よい音を運んでくる。
昔、夏に行った北海道の雄大な草原を思い出す。
けどそれだけ。
別に私に自然愛護の精神はないから、こういうのを見るとなんとももどかしい気がする。
もっとこうバリバリ開発しちゃいましょうよ。
ここに超巨大なショッピングモールをドーンと作って、その横には大テーマパークにちょっとお洒落なホテル街。
ああ。あの山とか冬はスキー場とかにできるんじゃないですか? ゴルフ場? はぁ? あんな一部の人間にしか利益がいかなくて、森を破壊するだけのどうでもいい施設を作る人の神経が理解できないですわ。
私、自然愛護とかいう偽善の心はないですけど、自然を愛でる風雅な心は失っていませんもの。
ええ、そうね。あそこらへんの森は開発するんじゃなく、自然公園として管理できるようにしましょうか。あとは温泉が発掘できれば文句なし。
温泉旅館からショッピングモール、そして王都へとつながる一大観光地プロジェクト!
ふふふ、これは完璧な町おこしになるわね。
「おいおい、何もないったぁいただけねぇなぁ」
と、私の野望をぶち壊す粗野な声。
「はぁ……なんでいますの?」
深くため息をついて後ろを見る。
そこにはダウンゼンが悠然と寝転がっていた。
「なんでって、これは俺の馬車だからだよ」
「馬車、ねぇ」
野暮用でクロイツェルにめんど――大切な仕事を任せた私は少し途方に暮れた。
行動の自由を得たものの、結構見切りで出たしまったので、どこにどうやって行けばいいのか分からない。
これでもやっぱり少し動揺していたのかもしれませんわね。いえ、その責任に押しつぶされそうになっていたか。
という感じで困っているところに現れたダウンゼンが、足を用意してくれるというからそれに乗った。
けどそれにはもうすでに後悔し始めている。
「馬車というか人力車じゃない」
というかリアカーよね。これ。幌もないし、荷台の横に車輪を2つつけだけのもの。
「ジンリキシャ? なんだそれ?」
「知らないならいいわよ」
「まぁまぁ、姐御。ちょっち我慢してくれよー。俺っちの走りはちょっぱやだからよ!」
と、私とダウンゼンの会話に入って来たのはリアカーのハンドルを握る男。なんでもダウンゼンの舎弟とのことで、かなりマッチョ。
この人が引いてくらしいけど、本気?
てか誰が姐御よ。
姉御ならまだしも、姐御じゃ完全に関係者じゃない。
「ふっふっふ。クロイツェルの野郎め。いつも威張り散らしやがって。ま、こういう気遣いができる男ってのが最終的には勝つんだよな。ここから前線まで2日。というわけで、エリよぉ」
「それ以上近づいたら蹴落とすから」
「まだ何もしてないじゃんかー」
「目が犯罪的だった。だからこれは正当防衛。誰がどうみても有罪はあんたよ」
「ひでぇ! 貴族特権を振りかざすわけでもなく、普通に酷い!」
「あら酷くなんかありませんわ。本来なら私にいやらしい視線を送った時点で島流し、触ったらその時点で打首のうえ市中引き回しよ」
「どんだけ罪深いんだ!?」
「市中引き回しの上、打首獄門だってツッコミなさいよ。ま、いいわ。乙女の柔肌にはそれくらいの価値があるの」
「乙女ねぇ……ぐぇ!」
蹴りを入れた。
荷台からひっくり返ったダウンゼンの巨大な体が落下する。ちっ。走ってたらもっとダメージを与えられたのに。
「なにすんだ!」
「別に。邪な視線を感じたから叩き潰さなきゃと思っただけ」
「邪って、ただ乙女っていうからちょっと……」
「ちょっと?」
「いや、だってそれじゃあ――」
ちらっとダウンゼンの視線が再び私の胸元に集まる。
「もっと蹴りを入れられたい?」
「すみませんでした!!」
まったく。これから大事だっていうのに、本当に緊張感がないんだから。
「よし、アニキに姐御! じゃあそろそろ行きますぜ! しっかり掴まっててくれよー!」
と、リアカーのハンドルをぎゅっと握りしめたマッチョが、勢いよく足で地面を蹴った。
突然の急発進に、何の準備をしていなかった私は荷台の中を転げまわる羽目に。
「ぎゃわわわわー!!」
「ちょ、おい! 俺を置いていくなー!」
私より哀れなダウンゼンの声が次第に小さくなり、見上げる空。襲うような圧力を持った風に包まれ――私は気を失った。
ダウンゼンと出会ったのは下町だから厳密には王都内。
だからどんなものかと思ったけど、
「……うわ、なんもない」
想像以上になにもなかった。
東京ドーム何個分っていう感じの、見渡す限り広がる平原。草木が風になびき、さわさわと心地よい音を運んでくる。
昔、夏に行った北海道の雄大な草原を思い出す。
けどそれだけ。
別に私に自然愛護の精神はないから、こういうのを見るとなんとももどかしい気がする。
もっとこうバリバリ開発しちゃいましょうよ。
ここに超巨大なショッピングモールをドーンと作って、その横には大テーマパークにちょっとお洒落なホテル街。
ああ。あの山とか冬はスキー場とかにできるんじゃないですか? ゴルフ場? はぁ? あんな一部の人間にしか利益がいかなくて、森を破壊するだけのどうでもいい施設を作る人の神経が理解できないですわ。
私、自然愛護とかいう偽善の心はないですけど、自然を愛でる風雅な心は失っていませんもの。
ええ、そうね。あそこらへんの森は開発するんじゃなく、自然公園として管理できるようにしましょうか。あとは温泉が発掘できれば文句なし。
温泉旅館からショッピングモール、そして王都へとつながる一大観光地プロジェクト!
ふふふ、これは完璧な町おこしになるわね。
「おいおい、何もないったぁいただけねぇなぁ」
と、私の野望をぶち壊す粗野な声。
「はぁ……なんでいますの?」
深くため息をついて後ろを見る。
そこにはダウンゼンが悠然と寝転がっていた。
「なんでって、これは俺の馬車だからだよ」
「馬車、ねぇ」
野暮用でクロイツェルにめんど――大切な仕事を任せた私は少し途方に暮れた。
行動の自由を得たものの、結構見切りで出たしまったので、どこにどうやって行けばいいのか分からない。
これでもやっぱり少し動揺していたのかもしれませんわね。いえ、その責任に押しつぶされそうになっていたか。
という感じで困っているところに現れたダウンゼンが、足を用意してくれるというからそれに乗った。
けどそれにはもうすでに後悔し始めている。
「馬車というか人力車じゃない」
というかリアカーよね。これ。幌もないし、荷台の横に車輪を2つつけだけのもの。
「ジンリキシャ? なんだそれ?」
「知らないならいいわよ」
「まぁまぁ、姐御。ちょっち我慢してくれよー。俺っちの走りはちょっぱやだからよ!」
と、私とダウンゼンの会話に入って来たのはリアカーのハンドルを握る男。なんでもダウンゼンの舎弟とのことで、かなりマッチョ。
この人が引いてくらしいけど、本気?
てか誰が姐御よ。
姉御ならまだしも、姐御じゃ完全に関係者じゃない。
「ふっふっふ。クロイツェルの野郎め。いつも威張り散らしやがって。ま、こういう気遣いができる男ってのが最終的には勝つんだよな。ここから前線まで2日。というわけで、エリよぉ」
「それ以上近づいたら蹴落とすから」
「まだ何もしてないじゃんかー」
「目が犯罪的だった。だからこれは正当防衛。誰がどうみても有罪はあんたよ」
「ひでぇ! 貴族特権を振りかざすわけでもなく、普通に酷い!」
「あら酷くなんかありませんわ。本来なら私にいやらしい視線を送った時点で島流し、触ったらその時点で打首のうえ市中引き回しよ」
「どんだけ罪深いんだ!?」
「市中引き回しの上、打首獄門だってツッコミなさいよ。ま、いいわ。乙女の柔肌にはそれくらいの価値があるの」
「乙女ねぇ……ぐぇ!」
蹴りを入れた。
荷台からひっくり返ったダウンゼンの巨大な体が落下する。ちっ。走ってたらもっとダメージを与えられたのに。
「なにすんだ!」
「別に。邪な視線を感じたから叩き潰さなきゃと思っただけ」
「邪って、ただ乙女っていうからちょっと……」
「ちょっと?」
「いや、だってそれじゃあ――」
ちらっとダウンゼンの視線が再び私の胸元に集まる。
「もっと蹴りを入れられたい?」
「すみませんでした!!」
まったく。これから大事だっていうのに、本当に緊張感がないんだから。
「よし、アニキに姐御! じゃあそろそろ行きますぜ! しっかり掴まっててくれよー!」
と、リアカーのハンドルをぎゅっと握りしめたマッチョが、勢いよく足で地面を蹴った。
突然の急発進に、何の準備をしていなかった私は荷台の中を転げまわる羽目に。
「ぎゃわわわわー!!」
「ちょ、おい! 俺を置いていくなー!」
私より哀れなダウンゼンの声が次第に小さくなり、見上げる空。襲うような圧力を持った風に包まれ――私は気を失った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる