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57話 エリ様、前線に立つ
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3日。
それが王都を出発してから最前線にたどり着くのにかかった時間。
いやー、つまりそういうこと。
たった3日の距離に敵の軍勢が来ていた。それはもはや王手と言ってもよくて、あと1日。何も手を打たずにいれば、王都は包囲されてどうにもならなかったということ。
まぁその3日の旅程が大変だったのはもう語るまでもない。
……語りたくないわよ?
「なー、エリ。そろそろ機嫌直してくれないか?」
「うるさい。夜に婦人の部屋に入って来るなんて犯罪よ? 重罪よ? 断罪よ? 大罪よ? 死罪よ?」
「ぐっ、そ、それはだな。いや、この絶望的な状況というか。いっそ死ぬ前にお前を……」
「は? どこが絶望的ですって? てか死ぬつもりなの? 馬鹿なの?」
「え……でもよぉ。イチノ国はこんなところまで来てて、こっちの集まりは悪いってもんだ。もうダメだろ」
やれやれ。
この諦めの早さも困ったもの。
どう諭して、そして突き落としてやろうかと少し思案していると、
「エリーゼ様」
クロイツェルがやってきた。
着替えたらしく、布地の多い服でいかにも貴族で指揮官という風情を出している。
「クロイツェル。早かったわね」
「いえ、こちらは馬でしたので。そちらもご無事で、本当に何よりです。それより――」
と、クロイツェルは笑みを引っ込めて視線だけで人を殺しそうなほどにダウンゼンを睨みつけて、
「おい、貴様。さっきの聞こえたぞ。エリーゼ様を夜這っただと? 万死に値する」
「うるせぇ! お前に何が分かるってんだ!」
「ふっ。たとえ死の間際になろうとも、
「はっ。無駄にかっこつけやがって。そうやって実はエリと一緒になるのが怖いんだろ、この童貞野郎が」
「な……! ど、童貞ではない!」
「どうだか。これはもう頭の中もチェリーなんだろうな」
「ぐっ、ぐぐ! 貴様、そこに直れ!」
「直れと言われて直る馬鹿がいるかよ、この童貞野郎」
「はいはい、2人ともストップ」
本当にこの2人は顔を合わせれば口喧嘩。
まったく。何が原因かは知らないけど、私の前ではやめてよね。ホント。
「で、クロイツェル。状況は?」
「はっ。集まったのは5千ほど。早馬を飛ばしましたので、もう少しすれば1万にはなりましょう」
「敵は?」
「3万がここから3キロのところに野営しております」
「今が5千で敵が3万だぁ? 10倍の敵とか全然だめじゃねぇか、なにやってんだ貴族様よぉ」
「どうやら下賤の者は算数もできないらしいな。幼等部から、いや、生まれる前からやり直したらどうだ?」
「やめなさいっての!」
ちょっと苛立ちが募って雷を落とす。
すると大の大人2人がしゅんと肩を落としてしまった。言いすぎとは思わない。
「しかしエリーゼ様」
としょんぼりした様子で聞いてくるのはクロイツェルだ。
「数だけでなく質も問題です。あちらは正規兵が3万、こちらは正規兵は2千で、あとは徴収した農民が3千ほどになっております」
「ふぅん。それの何がダメなの?」
「え?」
クロイツェルの顔が固まった。
「エ、エリーゼ様は軍学をきわめていらっしゃるのでは?」
「は? なにそれ。ぐんがく? そんなもの、学校の教科にはなかったわ」
「し、しかし。先ほどエリーゼ様は絶望的ではないと」
「ああ、そうだ。それは俺も聞いたぜ、エリ。こんなんじゃ勝負にならない。一瞬で負けて俺らは屍を野にさらすことになる」
「あいにくだけど、私に戦いのことなんてわからないわよ。だって、こんなこと見たことも聞いたこともないんだもの」
改めて元の世界は平和だったんだなって思うわ。
まぁ戦争じゃなく、政争ってのはすごい身近にあったわけだけど。
「あのですね。相手は訓練された正規兵。こちらは正規兵はいるものの数が少なく、残りは武器ももったこともない農兵です。しかも相手の方が圧倒的に数が多い。これはまともに戦っては勝ち目がないのですよ」
諭すようにクロイツェルが言う。
けど、ふぅ。本当に頭が固い。クロイツェルだけじゃない。この世界の人間が。
なんで誰もかれも何も考えずに真正面から突っ込むだけなのか。
戦い方ってのは、それだけじゃない。
前パパは言ってた。
『相手の方が地盤も実弾(金銭)も強い場合なんて往々にしてある。そういう相手とは真正面から戦わないこと。勝てるわけないからね。だからそういう時は搦め手から攻めるんだよ。たとえば相手の悪評をばらまいたり、秘書を買収したり、選挙妨害を仕掛けるのも悪くないね。うん。もちろん公職法で捕まらないように気を付けないといけないけどね!』
まったく。我が親ながらとんでもないことを言う。
まぁそのおかげで、私は議員の子として育ってこれたわけなんだけど。
だから今もそう。
相手の方が数が多い?
相手の方が強い?
それがどうしたの。
弱いなら弱いなりの戦い方があるってもの。
というより、この戦いはそういう戦いじゃない。
ここに敵がいる。
それだけで意味を成す。
その成すのは、私のプラス。
これをもってガーヒルとの戦いに終止符を打つ。そのための戦い、もとい茶番。
さて、それじゃあ始めましょうか。
この私の、エリーゼ・バン・カシュトルゼ一世一代の大詐術を。
だから、こうい言い放つ。
「安心なさい。私は味方も、相手にも犠牲を出さずに勝って見せますわ」
それが王都を出発してから最前線にたどり着くのにかかった時間。
いやー、つまりそういうこと。
たった3日の距離に敵の軍勢が来ていた。それはもはや王手と言ってもよくて、あと1日。何も手を打たずにいれば、王都は包囲されてどうにもならなかったということ。
まぁその3日の旅程が大変だったのはもう語るまでもない。
……語りたくないわよ?
「なー、エリ。そろそろ機嫌直してくれないか?」
「うるさい。夜に婦人の部屋に入って来るなんて犯罪よ? 重罪よ? 断罪よ? 大罪よ? 死罪よ?」
「ぐっ、そ、それはだな。いや、この絶望的な状況というか。いっそ死ぬ前にお前を……」
「は? どこが絶望的ですって? てか死ぬつもりなの? 馬鹿なの?」
「え……でもよぉ。イチノ国はこんなところまで来てて、こっちの集まりは悪いってもんだ。もうダメだろ」
やれやれ。
この諦めの早さも困ったもの。
どう諭して、そして突き落としてやろうかと少し思案していると、
「エリーゼ様」
クロイツェルがやってきた。
着替えたらしく、布地の多い服でいかにも貴族で指揮官という風情を出している。
「クロイツェル。早かったわね」
「いえ、こちらは馬でしたので。そちらもご無事で、本当に何よりです。それより――」
と、クロイツェルは笑みを引っ込めて視線だけで人を殺しそうなほどにダウンゼンを睨みつけて、
「おい、貴様。さっきの聞こえたぞ。エリーゼ様を夜這っただと? 万死に値する」
「うるせぇ! お前に何が分かるってんだ!」
「ふっ。たとえ死の間際になろうとも、
「はっ。無駄にかっこつけやがって。そうやって実はエリと一緒になるのが怖いんだろ、この童貞野郎が」
「な……! ど、童貞ではない!」
「どうだか。これはもう頭の中もチェリーなんだろうな」
「ぐっ、ぐぐ! 貴様、そこに直れ!」
「直れと言われて直る馬鹿がいるかよ、この童貞野郎」
「はいはい、2人ともストップ」
本当にこの2人は顔を合わせれば口喧嘩。
まったく。何が原因かは知らないけど、私の前ではやめてよね。ホント。
「で、クロイツェル。状況は?」
「はっ。集まったのは5千ほど。早馬を飛ばしましたので、もう少しすれば1万にはなりましょう」
「敵は?」
「3万がここから3キロのところに野営しております」
「今が5千で敵が3万だぁ? 10倍の敵とか全然だめじゃねぇか、なにやってんだ貴族様よぉ」
「どうやら下賤の者は算数もできないらしいな。幼等部から、いや、生まれる前からやり直したらどうだ?」
「やめなさいっての!」
ちょっと苛立ちが募って雷を落とす。
すると大の大人2人がしゅんと肩を落としてしまった。言いすぎとは思わない。
「しかしエリーゼ様」
としょんぼりした様子で聞いてくるのはクロイツェルだ。
「数だけでなく質も問題です。あちらは正規兵が3万、こちらは正規兵は2千で、あとは徴収した農民が3千ほどになっております」
「ふぅん。それの何がダメなの?」
「え?」
クロイツェルの顔が固まった。
「エ、エリーゼ様は軍学をきわめていらっしゃるのでは?」
「は? なにそれ。ぐんがく? そんなもの、学校の教科にはなかったわ」
「し、しかし。先ほどエリーゼ様は絶望的ではないと」
「ああ、そうだ。それは俺も聞いたぜ、エリ。こんなんじゃ勝負にならない。一瞬で負けて俺らは屍を野にさらすことになる」
「あいにくだけど、私に戦いのことなんてわからないわよ。だって、こんなこと見たことも聞いたこともないんだもの」
改めて元の世界は平和だったんだなって思うわ。
まぁ戦争じゃなく、政争ってのはすごい身近にあったわけだけど。
「あのですね。相手は訓練された正規兵。こちらは正規兵はいるものの数が少なく、残りは武器ももったこともない農兵です。しかも相手の方が圧倒的に数が多い。これはまともに戦っては勝ち目がないのですよ」
諭すようにクロイツェルが言う。
けど、ふぅ。本当に頭が固い。クロイツェルだけじゃない。この世界の人間が。
なんで誰もかれも何も考えずに真正面から突っ込むだけなのか。
戦い方ってのは、それだけじゃない。
前パパは言ってた。
『相手の方が地盤も実弾(金銭)も強い場合なんて往々にしてある。そういう相手とは真正面から戦わないこと。勝てるわけないからね。だからそういう時は搦め手から攻めるんだよ。たとえば相手の悪評をばらまいたり、秘書を買収したり、選挙妨害を仕掛けるのも悪くないね。うん。もちろん公職法で捕まらないように気を付けないといけないけどね!』
まったく。我が親ながらとんでもないことを言う。
まぁそのおかげで、私は議員の子として育ってこれたわけなんだけど。
だから今もそう。
相手の方が数が多い?
相手の方が強い?
それがどうしたの。
弱いなら弱いなりの戦い方があるってもの。
というより、この戦いはそういう戦いじゃない。
ここに敵がいる。
それだけで意味を成す。
その成すのは、私のプラス。
これをもってガーヒルとの戦いに終止符を打つ。そのための戦い、もとい茶番。
さて、それじゃあ始めましょうか。
この私の、エリーゼ・バン・カシュトルゼ一世一代の大詐術を。
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