知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話38 諸人行成(エイン帝国プレイヤー)

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「そっか、負けちゃったんだ。そう兄さんは言っています」

「そうね、負けちゃったのね。そう姉さんは言っています」

「キッドは死んでしまったんだね。残念だ。そう兄さんは言っています」

「椎葉さんは亡くなってしまったのね。悲しいです。そう姉さんは言っています」

 頭がおかしくなりそうだった。
 旧ビンゴ王国首都にある王宮で、私は再びあの双子に会っている。

 敗走した旧ビンゴ軍を攻めている最中に、急にいなくなったはずのオムカ軍が強襲をしてきた。
 それに対して迎撃を行おうとしたキッドも、殺されてしまった。
 遠目だったが、彼を斬ったのは里奈さんのように見えた。

 そして散り散りになって逃げまどう兵たちに紛れて、なんとかここまでたどり着いたのがつい昨日のこと。
 逃げる途中で右肩に受けた矢は、途中の砦で治療してもらったものの、勢いかって攻めてくるオムカと旧ビンゴ軍に追われて逃げざるを得なかったため、まだ完治していない。
 そしてその途中で椎葉くんが増水した川に落ちたという話も聞いた。

 3万いた兵たちだが、ここまで逃げられたのは今のところ1万に満たない。
 それほどの大敗北だった。

 よく生き延びたと思う。
 さすがに疲労困憊で、一晩ベッドでぐっすり眠ってもまだ疲労感はぬぐえない。

 そしてこの双子に呼ばれ今に至る。

 ただ彼らに敗報を伝えたものの、どうも悲しんでいるようにも怒っているようにも見えない。
 事実をただ事実と認めているのか、それとも何が起きているか理解していないのか。

「分かっているのですか。敵は途中で旧ビンゴの民を加え、2万以上に増えたそうです」

 それはここに来る道中で聞いた話。
 軍略は良く分からないけど、相手が増え、こちらは減った以上、楽観はできない。
 それにこの首都には旧ビンゴ軍の降伏兵が多くいるというのだから、それが反乱を起こせば我々の命はないのだ。

 それでもこの双子に焦りは見えない。
 いつも通りに、お互い体をからませ、薄気味悪い笑みを浮かべている。

「そうなの。でも問題ないわね、兄さん」

「そうなんだ。でも問題ないね、姉さん」

「つまりもうすぐなのね兄さん」

「ああもうすぐだね姉さん」

「いえ、もう始めようかしら兄さん」

「そうだね、始めようか姉さん」

 そのやり取りに違和感を覚える。
 いや、違和感というより言いしれようのない邪悪な空気。

「あなたたちは何を……」

「諸人さん。お疲れ様でした。もう帰っていただいて結構です。そう兄さんが言っています」

「諸人さん、お疲れ様でした。帝都に戻ってお休みください。そう姉さんが言っています」

「な……しかし、それは」

「ええ、しっかり煌夜さんにお伝えくださいと兄さんが言っています」

「ええ、今までお世話になりましたと姉さんが言っています」

 煌夜に伝える?
 今までお世話になった?

 それは別れの挨拶。
 それだけでは不自然ではない。
 だがそれをプレイヤーのまとめ役である煌夜へ伝えるということは――

「まさか……裏切るのですか!?」

「裏切る? 何を言っているいるのか意味が分からない。そう兄さんが言っています」

「裏切る? ただ理想郷ユートピアを作るだけ。そう姉さんが言っています」

「そう、自分たちの理想の国を。そう兄さんが言っています」

「そう、帝国とか王国とか関係ないのです。そう姉さんが言っています」

「なんて、ことを……」

 理解ができない。

 理想の国?
 理想郷ユートピア

 そんなもの、できるわけない。
 人が住む以上、何かしらのいさかいは必ずある。
 だからこそ法が必要で、厳しく取り締まらなければならないのに。

 ましてやこの場所は、旧ビンゴ王国の国民が大勢いる。
 そんなところに国を創ろうなど、この双子に虐殺された人たちが黙っているはずがない。

 それでもこの双子は何ら問題にしていないように笑顔を向けてきた。

「それで、すぐに発たれますか? そう兄さんが言っています」

「それで、私たちと一緒に作りませんか? そう姉さんが言っています」

 逃げるべきだ。
 そう思った。

 だがそれ以前に、法を学ぶ者として、調停者として、煌夜に派遣された者として、彼らの暴走を止めなければならない。そう感じ取った。
 そのためにはまずは彼らに恭順すること。
 それから煌夜との連絡を取りつつ、なんとかお互いを収めるしかない。

「私は戻りません。あなたたたちが何をするか見極めるまで、ここでお手伝いをさせてもらいます」

 その決然とした答えに、双子はふわりと笑う。
 初めて見せる彼らの裏表のない笑み。
 だがそれが意味するものが何かが分からない。

「ありがとうございます。でも残念です、そう兄さんが言っています」

「ありがとうございます。でも悲しいです。そう姉さんが言っています」

 何がだろう。
 それが分からない。

 だがその迷いが致命的な遅ったなることを、その時気づかなかった。

「あなたは嘘つきです。きっと裏切ります。そう兄さんが言っています」

「私たちは嘘つきです。私たちの世界にあなたはいりません。そう姉さんが言っています」

「……っ!」

 双子の気配が増す。
 それは明らかな敵意、反意、害意――そして殺意。

 何も言わず、身をひるがえして逃げる。
 だがそこに立ちふさがる影。
 武器を持った衛兵2人。
 危険。迷いはなかった。

私の言葉を聞きなさいヴォクス・デイ!」

 スタンガンを食らったように衛兵がびくりと動き、そのまま膝をついた。
 今のうちだ。広間から飛び出すように出て、広い王宮をひたすらに走る。

 人気はない。それが幸いだった。

 外。出た。そこには兵たちがたむろしていた。
 一緒に逃げてきた、味方の兵だ。

 こうなったら彼らに全てを話すしかない。
 あの双子にもはや容赦はない。
 ここにいれば彼らもきっと安全ではないはずだ。

「皆、逃げるのです!あの双子は――ぐっ!」

 熱い。何かがわき腹に入って来た。
 遅れて痛みが来る。

 刺されていた。
 槍が自分の左わき腹に刺さっている。

 兵を見る。
 その目はうつろで、こちらに殺意も害意もなくただ槍を突き出したように見える。

 馬鹿な。まさかすでにこの者たちも……あの双子の支配下だというのか。

「くっ! 私の言葉を聞きなさいヴォクス・デイ!」

 兵のかかったスキルを無力化する。
 だが刺されたことは変わりない。

 それにスキルも打ち止めだ。日に3回しか使えないスキル。
 さっきの2人と今の1人で得打ち止め。

 痛みに耐えかねて膝をつく。

「おやおや、これは大変ですね。そう兄さんが言っています」

「おやおや、これは痛そうですね。そう姉さんが言っています」

 双子だ。
 王宮の扉に現れた2人は、お互いの手のひらを合わせ、まるで合わせ鏡のように立っている。

 その2人を睨みつけながら、叫ぶ。

「分かっているのですか!? もうすぐ帝国が全土を統一します! あなたたちも元の世界に帰れるのですよ!?」

「元の世界? そんなものに一銭の価値もない。そう兄さんが言っています」

「元の世界? そんなものに一切の未練もない。そう姉さんが言っています」

 そこで初めて自分の愚かさを知った。
 この2人に調停など無意味。

 彼らはすでに終わった人間だ。
 この社会のことわりから外れてしまっている存在だ。

 そんなものを、社会の中に組み込む調停など意味を持たない。
 宇宙人に話しかけるようなもの。

「さて、それではさようなら諸人さん。色々お世話になりありがとうございます。そう姉さんが言っています」

「さて、それではさようなら諸人さん。都合よく動いてくれてありがとうございます。そう兄さんが言っています」

「ま――」

 待て。
 その言葉が出る前に、背中に何かが入って来た。痛みを感じる前に、それが2本3本と増え、数えきれなくなったところで、意識が消えた。
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