知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話37 喜志田志木(旧ビンゴ王国将軍)

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「あーあ、こちとら重傷者だってのに。アッキーは人使いが荒い」

 いや、アッキーは死にぞこないか。
 ははっ、重傷者に死にぞこない。
 本当に何やってんだろうね。

「はっ、なんでしょう?」

 クロスが俺のつぶやきに反応する。
 真面目なのはいいんだけど、こういうところまで反応するの、若干うざいね。

「なんでもない。まったくもって、いい天気だってこと」

「はぁ……」

 クロスは小雨の降るどんよりとした黒空を見上げて首をかしげる。

 ま、そりゃそうだよね。
 俺も前の世界では嫌な天気だと思ってた。

 けどこの世界では違う。
 というより、俺のスキルがそういうものだから。

 気温10度以上25度以下、湿度50%以上、地面は濡れていて風速3メートル以上10メートル以下。敵との兵力差は3倍以上で午前9時から夕方5時までの間。装備は剣か槍のみで、敵の大将と接敵する。

 そんな馬鹿みたいな縛りをクリアした場合に限り、発動するスキル。
 それが『一撃必殺ワンターンキル』。

 まったく、字面だけで選ぶんじゃないね。
 気候が合致するだけでも大変なのに、それに加えて時間と兵力差も指定されているわけだから、そのタイミングで戦闘が起こるなんてどれほどの確率だと思ってるんだか。

 しかもその状態で倒すべき敵と肉薄しなくちゃいけない。つまり自分が前線に出なくちゃいけない。

 こんな徹頭徹尾めんどくさいスキルだが、決まった時はまさにその名の通り、“敵の大将を必ず殺す”。どんな劣勢でも、気候が、地形が、兵たちが、何かしら外的要因が重なって必ず勝てる戦になるのだ。

 それだけの条件でこれだけ? と思うかもしれない。
 けど、近代になる前の戦争は軍の大将がすべてだった。
 大将は精神的主柱だったと言ってもいい。

 さらに言えば足軽とかの下級兵士にとっては、自分の手柄を保証してくれる経済的な主柱でもあるのだ。
 それが失われれば、部隊の中枢は混乱し、軍の大部分を構成する下級兵士にとっては手柄を立てても意味がなく、忠誠心なんてないから負けだと思ったらすぐに逃げる。
 有名な桶狭間おけはざまの戦いなんてその代表例だろう。

 だから大将を討ち取るのは古代から近代に至るまで戦争においては重要なわけで。
 それを確実に行えるこのスキルは、ある意味チートだ。

「それじゃあ、行きますか」

 敵が見える。
 川を渡ったところで陣を組みなおしている。数はおよそ1万。

 胸がずきりと痛む。
 またあの闘争の中に入るのかと思うと緊張する。
 ったく、柄じゃないってのに。

 けど今さら取って返すわけにはいかない。

「さぁ、行こうか」

「はっ」

 俺が呟くとクロスが答えて部隊を動かす。
 うん、これだけで通じるからやっぱりいいね。

 先頭はグリード。俺は皆に守られて部隊の中枢にいる。
 兵力は2千。機動力を重視したため、重騎兵とはいえ彼の部隊を選んだ。

 いや、しかし王太子の軍からわざわざこっちに来るとは。
 ご苦労様というかなんというか。あの王太子、苦手……てゆうか嫌いなんだよね。俺を牢に入れた張本人でもあるし。
 ま、そこらへんはこの戦いが終わってからにしましょうかね。

「うおおおおおおお!」

 グリードが突っ込んだ。敵。多い。奇襲にもしっかり対応してくる。
 だから勢いが止まる――わけないんだよなぁ、これが。

 来た。風だ。
 背後から突風。敵からすればアゲインスト。

 前を向くことすらも難しい状況。そんな風を受ければ抵抗は弱まる。
 逆にこちらは追い風になる分、前に出やすい。

 押しまくった。

 条件を満たせばどんなに劣勢であっても、一撃必殺する状況まではお膳立てしてくれる。
 天が、地が、人が味方になるのだ。

 敵が崩れ、ゾイ川を背負った。

「このまま突っこんで大将を討つ!」

 たかぶってる自分の声に気づく。
 まぁ悪くない。こういった勢いに呑まれるというのも。

 敵が最後の抵抗をしてくる。だが抜けた。前衛は突破した。
 あとは敵の大将。見えた。3千くらいに守られている若い男。隣に女。

 女連れかよ。
 はっ、見せつけてくれちゃってさ!

 きっと彼らにとっては背水で決死の覚悟だろう。まだ兵力はこっちが少ないのだから当然か。
 けど残念。更なるお膳立てが待ってる。

 地鳴り。川。上流。

「こ、洪水!? また!?」

 敵の悲鳴。
 ああ、そういえばアッキーにやられたんだったね。ご愁傷様。彼らの背後を濁流が薙ぐ。水しぶきが敵の背中を濡らす。
 完全に退路を断たれ、動揺で陣形が崩れた。

「突き落とせ!」

「しゃああああああ!」

 グリードがとんでもない叫びをあげて突っ込んでいった。
 敵を次々と押しつぶすようにして、敵の総大将に肉薄していく。

 まったく、とんでもないやつだよ。
 頭は弱いんだけど、つくづく味方でよかったと思う。

 さぁ、フィナーレだ。
 大将の男。こちらを見てくる。腕が伸びた。途端、地面から火が噴き出して先陣を飲み込む。火に驚いて馬が驚いて棹立ちになる。ちっ、スキルか……雨の中に炎とか!

 そんなふざけた状況でも、けどまだ俺の『一撃必殺ワンターンキル』は味方をする。
 川に流れ込んだ大量の水が、せき止められた勢いで爆発し、水が降りそそぐ。
 炎が消えた。
 だから行く。

 立ちふさがる敵は部下たちが排除してくれる。
 剣を抜いた。
 人を斬る。
 罪の意識は、2度目で消えた。3度目にはもうどうでもよくなった。
 そして4度目は……そうだな、クロエ。彼女に捧げよう。なんてね。

 敵。顔が見える。日本人。プレイヤー。情報を遮断した。ただの敵。だから斬った。浅い。邪魔が入った。隣にいた女。それが身をていして男を守った。くそ、爆発しろ! もう一撃。それでとどめになる。このくだらない戦争はこれで終わる。
 だから突き刺してやろうと剣を引いたその刹那。
 男と女は地面を蹴り、そのまま背後の濁流に跳んだ。

「な!?」

 俺の攻撃を回避しようと思ってのことだろうが、それにしては自殺行為だ。
 背後の川は、かなりの勢いで流れているから、一瞬で彼らを飲み込み、見えなくなる。

 …………えぇ~~~~。そういうのあり?
 あり?
 だけどまぁ……ほぼ死んだようなものか。あれ。
 河童だろうと、今のこの川じゃあ溺れるでしょ。

 けどどこか肩透かしをくらった気分。
 いやいや、問題ない。敵の大将は川に飛び込んでお亡くなりになりましたよっと。

「敵の大将は死んだ! 離脱するぞ!」

 そう叫ぶと、明らかに力を落としたように敵の抵抗が弱まる。
 よし、ここがポイント。

 目的は果たした。
 なら後は離脱する。
 スキル『一撃必殺ワンターンキル』は、敵の大将を討ち取るまでは手助けしてくれるが、その後のことは保証してくれない。
 だから今、この瞬間は1万の中に2千でいる危機的状況なのだ。

 だから敵が復讐に燃えて襲いかかってくる前に離脱する必要があった。

「グリッド、北へ抜けろ!」

御意ぎょいぃぃぃ!」

 炎の中、生き残ったグリッドが先陣を切り、北へと進路を変更して敵を蹴散らしていく。
 俺たちはそれに続き、離脱する。

 心中のように川に飛び込んだ敵の大将。
 なんとなく後味の悪さを感じながらも、これで敵の軍は壊滅状態だ。
 長かったこの戦線もようやく趨勢すうせいがはっきりするだろう。

 胸にわずかな安堵と達成感を残して、俺たちは戦場を離脱していった。
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