知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
397 / 627
第4章 ジャンヌの西進

第74話 ジャンヌ調査隊

しおりを挟む
 会議の翌日。
 斥候せっこうの知らせで、帝国軍が城攻めを開始したのを知った。

 相手は部隊を3つに分けた。
 3万を北門の攻略に当て、1万を東門およびこちらへの警戒に当てる。
 そして残り1万が本陣らしく、それらより後ろにいるという。
 本陣でありながら、どちらにも対応できる援軍であり遊軍であり、そして退路を確保する役目もあるのだろう。

 昨日俺が想定した部隊を2つに分ける策より、かなり柔軟性に富んだ布陣だ。

「ますます攻めにくいねぇ。ところでアッキー。相手の布陣全然違うじゃん? あれだけ自信満々に言い切ったのに、外した気分はどう?」

「お前も同調してたじゃねぇか!」

「えー? しらなーい」

 いつもの調子を取り戻した喜志田にいら立ちを覚えながらも、俺は思考を切り替える。

 どちらにせよこちらから仕掛けるなんてもってのほか。
 一刻も早い陣の完成と、補給路の確保が目下の最重要課題だ。

 ただそれはサカキとか実働隊に任せればいいことで、俺は俺でやることがある。

「しっかし、本当に行くの? あれ、完全に雨雲だよね」

 喜志田が西の山脈にかかる黒い雲を指し示す。
 風の流れ的にもこちらに来ることは間違いないだろう。

「しょうがないだろ。俺はここらの地形を知らないんだ」

「地図ならあるじゃん。グロスの話を聞いてもいいし」

「実地で見るのは全然違うんだよ。見ると聞くとは大違いってやつだ」

「ま、いいけどね。しばらく戦闘ないってことは休んでていいでしょ」

「昨日のやる気はどこいったんだよ」

「さぁ、10年後ぐらいに置いてきたんじゃない?」

「お前……」

「大丈夫大丈夫。あの女をギッタギタにしてやりたいのは本気だから。だからこっちもこっちで考えとくよ。だからアッキーもよろしく。帝国軍を一方的にボコれて、あの女の頭蓋骨で敦盛あつもりダンス踊れて、ビンゴ国民はあまり殺さず、あのあかしとかいう舐めた奴らを屈服させられる作戦をさ」

「わがままか!」

 どれだけ都合のいい作戦だよ。
 てかそれは作戦じゃなく奇跡だ。

 それに俺は別にあの人を殺したいわけじゃない。
 住む世界が違って、もし道が交わらなくても、何かを介してそれがつながることもあるんじゃないかと思うわけで。
 殺し合う以外の選択肢も、あっていいんじゃないかと思うわけで。

 とはいえ、動かなければ始まらない。
 そんな話をしたうえで俺はクロエたちを連れて巡察に出る。
 北には帝国軍が1万で待ち受けているから、必然進路は西へ。

 右手、1キロ先に首都スィート・スィトンを見ながら馬を走らせる。
 今回は各地から補充した馬に全員が乗っているから、移動はそれなりに早い。

「あれがビンゴ王国の首都ですか……小さくないです?」

 マールが疑問を口にする。
 確かに遠く離れているといっても、どこか小ぶりだ。
 オムカの王都バーベルと比べるのがいけないのだろうか。

 北門を攻められているのに、こっちはまるで静かだからということも影響してそうだ。

「んん? 言われてみれば確かに小さい? てゆうか門小さくない?」

「はっ……それは貴様の眼が悪いということだ。そんな小さな門で一国の首都が…………小さいな」

「ほらー! ウィットは否定から入るの、よくないと思います!」

「う、うるさい! お前がいつも適当なことを言うからだろ!」

「にゃにおー!」

「こらこら、お前ら。喧嘩は後にしろ。うーん、でも不思議だ。もうちょっと近づいてみるか?」

「た、隊長。それは危険かと」

 慌てたマールの制止に、クロエもウィットも同時に頷く。
 ただ、そこに答えを出してくれたのが馬上で背伸びをしていたルックだ。

「いやー、あれ。ちょっとくぼんでるみたいですよー」

「くぼんでる?」

「はい。城門の手前辺りのラインになっているところ。あそこが斜面になって、そこから下がった窪地くぼちに城があるみたいです」

「あー、本当ですね。そこからガクって下がってるから、低く、小さく見えるんですね」

「なるほど、盆地になっててそこに建ってるってことか」

 これは1つ重要な情報だ。
 けど疑問は残る。

「なんであんなところに首都を置いたんだ? 攻められやすくなるだけだろ」

「え? なんでですか、隊長殿。あぁやった方がカッコいーじゃないですか」

「馬鹿か貴様。城壁ってのは高ければ高いほどいいんだ。それをわざわざ低くして、敵に矢を撃ってくださいと言ってるようなものだろ」

「まぁー、どれくらいかわからないけど。あの高さなら届くかなー」

「はっ、分かりました。きっとあそこは落とし穴なんですよ。敵が来たら落ちる感じの!」

「貴様以外誰も引っかからないだろうな」

 クロエのトンデモ論はとりあえずスルーするとして。
 おそらく俺が見るにこれは――

「そもそもが敵に侵略されづらいところだからじゃないですか。この周囲の山脈自体が大きな城壁だって、前に隊長が言ってましたし。それにこの高低の激しい盆地部分で、広く場所をとれるのはあそこくらいしかなかったとか」

「さすがマール。その通りだと俺は思ってる」

「あ、はい! ありがとうございます! やりました、うふふ」

「む、むむーマールー! よくも隊長殿から褒められやがりましたねー!」

 どういう恨み節だよ、クロエ。

 けどおそらくそれが正解だ。

 そもそもこの地域は、山々が連なりかなり軍としては移動しづらい。
 ここに到達するまでに整備された道は俺たち、喜志田、それから帝国軍が入ってきた3つしかない。しかもかなり険しい山道だ。
 だから敵が攻めてくれば、その3路を押さえれば事足りるので、首都それ自体に防衛機構は必要ないのだろう。

 そうでなくてもこの山々に囲まれた盆地だ。
 もともとの面積があるわけではなく、さらにそこら中に丘や川があり、平地となる部分が少ない。
 俺たちの滞在している場所も少し狭く感じるのに、20万もの人が暮らす場所となったらそこくらいしかなかったのだろう。

 一通り城の周りを観察して再び進みだす。
 南門を通り過ぎ、ビンゴ軍の陣地も素通りすると、目の前に大きな川が現れた。

「また、川か」

「ゾイ川よりは小さいですが、流れは急ですね。あの山から何本かが合流しているようです」

 ウィットが視線を向けるのは、黒い雲を宿した西の山脈。
 雲の隙間から覗くその頂上部分は、雪化粧をまとっているらしく白く染まっている。

「川はうねって、首都に近いところも通っているようです。おそらく生活水はそこで汲み上げるか、引き入れているのでしょう」

 確かに『古の魔導書エンシェントマジックブック』で確認してみれば、この川の一部が首都スィート・スィトンの西、数百メートルの部分を通っている。
 そこから細い水路を作り、それがスィート・スィトンのところまで伸びていた。

 西側には門がないので、ここらの地形はそこまで重要じゃなさそうだが……。
 もうちょっと首都の近辺を直に見てみないと分からないな。

 だがマールはかなり渋っているようで、

「隊長、それはやはり危険です」

「ふふん、ならマールはここで留守番ですね。何かあったら私たちが隊長殿を守ればいいんだから」

「クロエ、貴様に同意するのはしゃくだが、西門はない。城壁からの狙撃さえ気を付ければ問題ないだろう」

「敵がいたら自分が最初に見つけるから大丈夫だよー」

「う、うぅ……みんなして楽天的な……。なら、もう言いません。隊長は私が守ります!」

 というわけで、首都スィート・スィトンに西から近づく。

 城壁が大きくなり、その石のカタチまで認識できるまで近づいたところで、大きな穴が目の前に広がった。
 いや、穴ではない。
 目の前の地面が急斜面になって、落ち込んでいるのだ。

 ルックが見た窪地はこれか。

 一番高低差があるところでは2メートル近くある。
 そのへこんだ部分に、首都スィート・スィトンは鎮座しているのだ。

 この高いところからは城壁の上に届きやすいと思えたが、意外と城壁まで距離はある。長いところで100メートルくらいはあるだろう。

「ルック、ここから城壁、届くか?」

「うーん、撃ってみないとわからないですねー。ギリギリ届くかもですけど、威力はないかもですー」

「なるほど……」

 弓の射程距離は数百メートル以上あるというが、それは仰角ぎょうかくに射て落下した時の距離だ。
 盆地にあるとはいえ、窪地の高さを差し引いても城壁は10メートル弱ある。
 そんな距離と高さで、城壁の上の敵を射殺すほどの弓を射ることができるのは、そう多くないだろう。

 なら近づけば、となるがそうなると城壁は2メートル近く高くなるから王都バーベルまではいかないものの、通常の城攻めと同じくらい困難にはなる。
 ちなみに鉄砲は、と思うが、この世界の鉄砲は100メートルが殺傷範囲だろうから、こちらも無理だろう。

 となるとこれはこれで意外と守城に向いているのかもしれない。

 一見、堀も何もなく、城門だけの脆弱な守り。
 だが仮にこの城を攻める場合、まず弓の援護は効果的に得られない。
 さらに攻める時は斜面を駆け下りればいいが、退くときはこの斜面を登らないといけない。
 その時に後ろから襲われればひとたまりもないだろう。

 そしてもう1つ。

 西門の土台の部分に小さなくぼみのようなものがある。
 そこから石畳が一直線にこちらに向かって伸びている。

 それは俺たちの背後。降りてきた斜面に達し、そこでさらに傾斜をつけて登って行っている。

 石畳を外せないか試してみたが、難しそうだ。
 これが何かを見てみたかったが、おおよそ検討はついている。

 先ほど地図で見た、川から引き込んだ水路だろう。
 それをあの斜面を使って首都に流し込むようにしている。
 水が汚れないよう、また敵に毒を盛られないよう、石で蓋をしているということらしい。

 うぅん、やっぱり見ると聞くとじゃ大違いだ。

 俺が西門をじっと見てあれこれ考えていると、クロエがふいに馬を左に走らせる。
 何かと思ったが、戻ってきたクロエが言うには、

「帝国軍が北門を攻めてます」

「ん、そうか……なら行くか」

 ここまで来たんだ。
 もうやれることは最後までやっておこう。

 その時だ。
 ふと、ぽつりと水滴が落ちてきた。
 見上げればどんよりと曇った灰色の雲が俺たちの上空を覆い尽くしている。

「雨か……」

 ぽつぽつと雨だれが落ちてきて、いずれは本降りになりそうな気配だ。

「どうしますか。ここで切り上げて雨に備えた方がよいのでは。お体が冷えて風邪でも惹かれれば、我が国の大事です。病み上がりなのですからなおさら」

「はっ、隊長殿がお風邪をひいては大変! すぐに暖めましょう! 人肌で!」

「貴様は真面目な話ができんのか!」

 ウィットの言う通り、これで体を壊しても仕方ない。
 だが俺たちはスポーツ選手じゃない。

 土砂降りの雨の中でも、敵が攻めてきたら戦わなければ殺されるだけなのだ。
 だからこんな雨で文句を言ってられないだろう。

「いや、行こう。帝国最強の城攻め。この目でしっかり見てみようじゃないか」

 その俺の言葉に、クロエはふんふんと鼻を鳴らして、ウィットは何度もうなずき、ルックはぼうっとして、マールは小さくため息をついた。

 空元気で言ったんじゃない。

 こいつらがいればなんとなかなる。
 こんな行き詰った状況でもそんな気が、俺にはしているんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...