知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第88話 別離……?

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 王都についたのは全てが終わった後だった。
 時間にすれば約1週間の道程を5日ほどで走ったことになるから、超特急の大返しだったわけだが、起こったことを振り返れば大遅刻もいいところだ。

 先行するためにブリーダの騎馬隊と一緒に来たけど、結局王都では戦闘はなかった。

 いや、終結していた。

 各国の軍は撤退していて、王都バーベルは今や復興の真っ只中だ。

 幸いにして死者はそれほど多くはない。
 王宮での攻防だけという奇妙な戦闘の背景から、一般人には被害が皆無だったことが大きい。

 マリアはもちろん、ジルにニーアも負傷したものの無事で、重傷を負ったというイッガーも一命を取り止めホッと一安心というところだが。

 というわけで、俺は胃の痛くなるような思いで、マリアの前に顔を出すことになった。

 正直に言えばこれは俺の失策だ。
 マツナガに注意を払っていたとはいえ、こうも簡単に事を起こすのを許したのは、対策が脆弱ぜいじゃくだったことに弁解できない。
 だからニーアに色々と突っ込まれるんだろうなぁ、と暗鬱あんうつとしたまま謁見の間に入る。

 そこにいるのはマリアとニーアだけ。
 マツナガはもちろんいない。
 今は嫌疑がかけられていて、彼の執務室――は色々あって使用不可能らしく、ジルの監視下のもとに軟禁状態だという。

「遅れて、申し訳ありません」

 マリアの前で膝をついて頭を下げる。
 本当なら無事を祝って頭を撫でてやりたいところだけど、俺たちしかいないとはいえ一応公式の場。臣下の礼は取らないといけない。

「ジャンヌ、良いのじゃ。ジャンヌが無事だっただけでも――」

「女王様」

 ニーアが鋭い口調でマリアを咎める。
 するとマリアは困った様子で、

「う……えっと、その……た、大変だったのじゃ!」

「はい、聞いてます」

「とっても、とっても怖かったのじゃ!」

「はい、申し訳ありません」

「それで……大変で、怖くて、心細くて、でもニーアたちがいてくれて、それでジーンも危なくて、でもお姉さまが来てくれて……とても……とても……のじゃああああああ!」

 マリアの瞳に光が見えたと思ったら、それが決壊して一気にあふれ出て泣き出してしまった。
 本当に危ないところだったと聞いている。
 里奈がいなかったら、本当にどうにかなっていただろうことも。

「本当に、申し訳ありません」

「ジャンヌ」

 ひたすら平身低頭する俺に、ニーアが声をかけてくる。

「口ではこう言ってるけど、ジャンヌのこととても心配してたんだから」

「お前が言わせんだろうが」

「さって、なんのことかな? ま、あたしもそれなりに頭に来てたってことで」

「う、それは……悪かった」

「そ。だから公式な会見はこれで終わり」

 んっと、ニーアが顎でマリアを示す。
 はぁ……ま、しょうがないよな。

 立ち上がると、マリアの傍まで行って、泣きじゃくるマリアをゆっくりと包み込むようにして抱きしめてやった。

「怖いときにいてやれなくてごめん。それと……よく頑張った」

「ジャンヌ……ジャンヌぅぅぅぅ!」

 マリアが俺の胸元に顔を押し付けて盛大にむせび泣く。
 あ、着替えてなかったから汗臭いし汚いんじゃ……。

 なんて思ったけど、まぁこいつがそれで気が済むならいっか。
 俺は少女の想いを一身に受け、彼女が落ち着くのを待った。

 それから数十秒。
 ようやく泣き声も小さくなり、すんすんと揺れる背中に手を置いた。

「落ち着いたか?」

「……ん」

「じゃあ、もういいな」

「んー、まだなのじゃー。ジャンヌ~、久しぶりのジャンヌなのじゃぁ~」

「ぎゃわ! だから揉むな!」

「ああ、久しぶりのジャンヌ成分がー」

「女王様、ずるい! あたしもジャンヌ成分を吸い尽くす!」

 お前らなんなんだ。
 クロエもそんなこと言ってたけど、俺は電源か何かか!?

 はぁ……。久しぶりというか変わらないなというか。

 というわけで落ち着いた様子のマリアにニーアと、それぞれのことを語る。
 俺は征西の顛末てんまつを一から話したし、マリアたちはそれまでのことや今回の事件のことを語った。

 正直、この事件を聞いたときに、こんな平和な時間を再び持てるとは思ってもみなかった。
 それもこれも、里奈がすべてをまとめてくれたおかげ――

「そうだ、里奈はいないのか? もう家に戻ったのか? 無事だったのか?」

 俺の言葉に、ハッとしたようにマリアとニーアが顔を上げ、そして辛そうに下を向く。

「姉さまは……」

「おい、なんだよ。まさか……」

「いや、生きてはいるよ。怪我もない、大丈夫。ただ――」

 ニーアの言葉に不吉な予感がよぎる。

「ただ?」

「同盟国の兵を殺して、国の重臣を傷つけて、その責任を取らなきゃいけないって」

「そんな! だってあいつらは反乱軍だ!? マツナガのも自業自得じゃないか!」

「それ以前に、ジャンヌのことだよ」

「俺?」

「彼女、聞いたよ。サカキをやった、あのヤバイ奴なんだって?」

「あ、ああ……」

「それで今回のビンゴ王国戦線でも色々もめたとか」

「そ、それはそうだけど! 別にあいつが気に病むことは――」

「仕方ないのじゃ。姉さまは優しいから。何より、ジャンヌの負担になりたくないと思うのは当然じゃろ」

「それは……」

 そうなのかもしれない。
 いや、確かに里奈は少しおかしかった。
 俺が息を吹き返してからも、何か思い詰めていたようで……。

 でも、でもなんだ。

「そんなの……言ってくれなきゃ。言ってくれれば、俺が何とかしたのに!」

「言えなかったと思うのじゃ。そうすると、大事な時に、ジャンヌに心配させてしまうからの」

「あるいは、言おうとしたとか。ジャンヌ、記憶にない?」

「あ――」

『なんでもない。後で話すね』

 俺が生死の狭間から戻った後の煮え切らない彼女の態度。

『うん……待ってる』

 首都に旅立つときの彼女の寂しげ顔。

 もしかして、このことをずっと俺に相談しようとしたんじゃないのか。

 それなのに、俺は……。
 竜胆と愛良にたき付けられたものの、情勢を優先して里奈との会話を後回しにしていた。
 戦いが終われば話せる時間はいくらでもあると高をくくっていた。

 そんな時間は、彼女になかったというのに。

 そして彼女は思い詰めて、俺を守るためにここに戻ってきて、そして何も言わずに去っていった。

 俺がもうちょっと気を使ってやれば、変えられただろう結末。
 だが後悔しても遅く、俺は二度と彼女に会えない。

 その事実がじわじわと心を黒く染めていく。
 そしてあふれ出す気持ちが抑えきれず、叫ぶ。

「俺は、馬鹿だ……里奈のこと、何も考えてやれなかった! もっと、やりようがあったのに……話を聞いてあげるだけでよかったのに!」

「うん、でも明彦くん忙しいから」

「忙しさなんてどうでもいい! それより大事なものはたくさんあったんだ!」

「私のこと、大事に思ってくれてるんだ」

「当たり前だ。何より、俺が死にそうになってた時にずっとつきっきりで看病してくれていた。その恩をまだ返せてない! これまでだって、ずっと心の支えになってくれていた! ほかのみんなだってそうだ。マリアも、誕生日を祝えなくてごめん。俺がもっとしっかりできてたら……こんなことには」

「ふーん、じゃあ遅ればせながら私の誕生日も祝ってくれる?」

「当たり前だ。里奈の誕生日だって祝ってやる。里奈がいなくなったって、俺は里奈に……」

 ん?
 何か変だ。
 てか俺は今、誰と話している?

 なぜかニヤニヤしているマリアじゃない。
 なぜかニヤニヤしているニーアじゃない。

 もう1人の人物が、この部屋にいる。

 そしてその声の主は背後!

「じゃあ明彦くんに、たっかーいプレゼント買ってもらおうかな」

 里奈がいた。
 いなくなったはずの里奈がいた。

 真っ白なブラウスを着た、笑顔の里奈が立っていた。

 いや、これは夢か。幻か。
 ほっぺをつねってみる。痛くない。
 近づいて里奈の姿をした方のほっぺをつねる。

「ひゃ、ひゃひひひょひゅん?」

 痛くない。当たり前だ。
 それでも幻ではない。
 この手に返ってきたのは、確かなる実態。

「なんで……?」

「ん……私がいない方がよかった?」

「い、いや。そういうわけじゃ……」

「まぁ、出て行こうと思ったのは本当。私がいたら明彦くんに迷惑かかるのは確かだし。この国は人間関係的に住みづらいから、ちょっと……そう思ったんだけど」

 そのあとをニーアとマリアが引き取った。

「話を聞けば、彼女の居場所を狭めているのは『旧帝国軍』であること。それがいつ裏切って牙をむくかが一番の問題だったわけで。まぁ、もちろん遺恨はあるけどさ」

「そうなのじゃ。じゃからそれを和らげる手を打ったのじゃ。今回の功績。余を、そして皆を救ってくれたのは間違いなく姉さまなのじゃ! それを内外に知らしめて、表彰もすれば表立って言ってくる人はおらんじゃろう! というわけじゃ」

「お、お前らぁ~~!」

 なんだよそれ。
 そういうことなら早く言えよ!

 てかちょっと待て。
 俺はさっき何て言った?
 なんか里奈がいないと思って、結構ヤバいところまで踏み込んでなかったか!?

 それを思うと、急に恥ずかしくなって顔が赤くなるのを感じた。

 けど、里奈はそんな俺の様子に気づかず、

「もちろん、それで私のやった罪が消えるわけじゃないけど……それでもこの国のために働いていいなら、明彦くんのために戦っていいのなら。そして姉として、女王様のそばにいていいのなら。私はここにいたい。明彦くんたちの、そばにいたい」

 苦しそうに、だけれどもどこか優しく、嬉しそうに笑う里奈。
 その表情はどこか思い詰めていたこれまでと違って、少し憑き物が落ちたように見えて、どこかホッとした。
 俺の恥ずかしさなんて、彼女の前では無力だ。

 確かに里奈のやったことは、いつまでも付きまとうだろう。
 けど彼女には味方がいる。マリアが、ニーアが、竜胆が、愛良が、ミストが、リンが。
 少なくとも、彼女の心の支えになってくれている。

 そしてそれは俺にも言える。
 今回の遠征で、敵味方で万を超える人が俺のせいで死んだ。
 それでも俺が俺でいられるのは、ここにいる皆がいるから。
 俺を支えてくれるから、俺はまた皆を守るために戦える。

 俺の方がその人数が多いのは、ただ単にオムカという場所にいる時間が長かっただけ。
 だから里奈も時間をかければきっと、俺と同じかそれ以上の味方を作れるはずだ。

 だから早まらずに、ここにいてくれて、それを選んでくれて……こんなに嬉しいことはない。

 思わずうつむく。
 そうしないと、涙があふれるところを見られそうだったから。

「それはそうと、誕生日! 祝ってくれるんだよね? 誕プレ期待してるよ?」

「え?」

「余も祝ってもらってないのじゃ! プレゼントほしいのじゃー! ジャンヌで型を取った雪像でも問題ないぞ!」

「へ?」

「さすが女王様。それです。というわけであたしも誕生日ー! 半年くらい前だけど。えっとねー、じゃあここは大人のお姉さんらしく、あつーい口づけなんてど・う・か・な?」

「はぁ!?」

「あ! ずるいのじゃ! なら余もそれにするのじゃ!」

「あ、明彦くん! そんなプレイボーイなこと姉として許しません! 私も欲しい!」

 涙が一瞬で引いていく。
 おい、なんだこれ。
 俺の感動を返せ!

 誕生日プレゼントであーだこーだ言っている3人。
 どいつもこいつも似た者同士。

 ったく、どうして俺の周りにはこんなのしかいないんだ。
 まさか里奈までそっちの部類とは思わなかった。

 だから言ってやる。
 思い切って言ってやる。

「お前ら、いい加減にしろ!」

 それでもどこかにやけてしまう自分がいる。
 またこの日常が戻ってきた。

 失った者、去っていった者は多いけど、このひと時があるから耐えられる。前を向ける。
 だから俺は戦うんだ。
 この日常を守るためなら、誰とだって……女神とだって、戦ってやる。
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