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第5章 帝国決戦
閑話2 五十嵐央太(オムカ王国諜報部隊長)
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年も明け、北風の吹く王都は厚手のコートがないと過ごしづらいほど寒い。
ただ、自分の心の中は気温以上に寒風が吹いていた。
あの日、ジャンヌ隊長に報告してから、彼女の言葉が頭に残る。
『戦いは準備の段階ですべてが決まる』
そのために宰相を使って帝国に色々仕掛けているわけだけど、それは裏を返せば帝国もこちらにやってくるということ。
『なるほど。さすがですね。その防諜(敵国の諜報活動から国を守ること)の仕事、貴方にお任せしたいのですが』
ジーン総司令に聞いてみたらそんな返事が返ってきた。
まぁこういうことには自分が適任なのはわかっていたから、許可をもらったと思おう。
『ニーアにも話を通しておきましょう。彼女は、女王様を暗殺からお守りする仕事をしていますから』
ということで、ニーアさんとも共同で仕事をすることになった。
このことをジャンヌ隊長に言うべきかと思ったけど、それに対しニーアさんの答えはこれだった。
『甘ちゃんのジャンヌには任せられない仕事だからね。防諜って言っても、不審者の摘発、捕縛、拷問、果ては処断もあることよ。その覚悟がイッガガーにある?』
もちろんない。
だからそれを言うと、彼女は大いに肩を落として、
『ま、いいわ。そういうのがいたら、警吏に捕まえさるから。それであとは警吏と、あたしに任せればいいから。……ケリをつけないといけない相手もいるわけだし』
そう言った時の彼女は、背筋が凍ったと思うほど怖かった。
一応、ジャンヌ隊長には聞かされていた。
姿を変えて潜む暗殺者のプレイヤーのことを。
危険だから相手にするな、とはくぎを刺されていたけど、彼女の状況を思うとそれも難しそうだ。
正直、あの宰相の謀反については、個人的にはとても悔しかった。
任されたのに何を見ていたのだ、と思う。
だから挽回のため、暇があれば街を歩くことにしている。
そうすると時折、神経に引っかかる人が浮かび上がるのだ。
自分が目立たなかったから、目立とうとしない人間が分かるようになった。
違和感というか、無理やり目立とうとしない挙動が変な印象を与えるのだ。
だからそれを尾行すると、誰かと連絡を取っていたり、何人かが集まっていたりするのだ。
元の世界だったら、携帯で連絡を取り合って、気づかれないうちに計画が進んでいただろう。いまさらながら、犯罪者に対する警察の苦労が分かるような気がした。
けど今は今だ。
その日、ここ数日見張っていた人物の家に、旅装の人間が数人入り込んだのを見て、警吏(警察のようなもの)の出動を要請した。
そこら辺の権限は与えられていたので、やりやすかった。
ただ誤算だったのが、
「よくやった、山崎君」
「いや、自分はイッガーなんですけど」
「ふっ、さすが監察方というべきか。こういうことはお手の物だな」
「いや、だから話を……」
「だがあとは我々に任せたまえ、そう、この壬生の狼に!」
その男、新沢五郎と名乗った男は、和風な水色の羽織を羽織って自分の横にいる。
何かで見た覚えのあるその格好は、なんとも時代錯誤で地域錯誤で、この洋風な町並みにはまったく合わない。
「えっと、警吏が包囲にするまではもう少し時間が……」
「いかんぞ、山南さん! 会津を待つなど、そんな悠長なことを言っていては不逞浪士どもが逃げてしまう!」
「さっき山崎とか……言ってなかったっけ? てか会津って?」
「いかん! こうなっては我らだけで突入する! むぅぅぅ、今宵の虎徹は血に飢えておるわ……」
と、木刀を片手に何やら盛り上がる新沢。
……もう帰っていいかな。
とはいえ、この男。
自分が見つけたプレイヤーだから、そうも言ってられない。
今年の初め。喧嘩の情報が入って駆けつけたところ、この男が年配の男を叩きのめしていた。
すぐに警吏が飛んできて本部に運んだ。そこで彼がプレイヤーだというのが分かったのだが、その叩きのめした相手がなんと帝国の諜報部員だった。
なぜその男が、と問い詰めると、
『気に食わない顔をしていた』
と、とんでもないことを口走った。
その洞察力と勘、そして何よりプレイヤーということから保護することになった。
なぜか自分が教育係みたいなものになってしまったのだが……。
正直、こういう陽キャとは合わないんだけど。
「我が正義のため、いざゆかん!」
こいつをあの正義大好きっ子に会わせちゃいけない。とんでもないことになる。
そう直感が告げていた。
「スキル発動! 『不屈の漢』!」
そう新沢が告げると、彼の周囲に光が漂い、それが人の形を作っていく。
その数、10以上。しかもどれもが同じ水色の羽織を着ていて、ハチマキみたいなものを巻いている。さらに腰には資料で見たことしかないような、日本刀を差していた。
あぁ、この格好、そして名前。新選組ってやつだ。よく知らないけど。
「行くぞ、敵は池田屋にあり!」
自分は木刀を掲げ、十数人の男たちを指揮する。
この男たち、一度見せてもらったが、スキルだというのに人が触れるし、物体を壊すこともできる。
ジャンヌ隊長がビンゴ王国で出会ったという、ドッペルゲンガーを作成するスキルと似たようなものだろう。
そんな男たちを、もはや止めることもできず、ただ新沢の行動をはらはらしながら見守るしかない。
ジャンヌ隊長が女王の護衛で留守してるのに、あまり派手にしないでほしいんだけど……。
「山南さん、平助、左之、松原は裏口に回れ! 新八とハジメとミッキーは1階を制圧! 源さんとカンリューと谷さは出入り口を確保! 俺はトシと総司で2階へ上がる!」
「いや、2階ないですよね」
「不逞浪士は斬って捨てろ! 1人も逃すな!」
「斬って捨てられたら困るから、生け捕りにしてくれません?」
「山崎君。君はそこに隠れていたまえ」
「だから山崎じゃないって……」
「よし、行くぞトシ……御用改めである! 手向かい致すは容赦なく斬り捨てん! くぅぅ! このセリフが言いたかったぁぁ!」
「もうどうにでもして……」
ツッコむのも疲れた。
あーあ、斬り捨てられないかなぁ、この人。
そんな物騒なことを思ってしまう自分が嫌になる。
ただ困ったことに、この人はなんというか……隊長のお気に入りだったりするのだから。
『え? 新選組!? スキルで!? トシ、土方はいるの!?』
『お、わかるかちびっ子。けど土方推しか。ふっ、まだまだ子供だな』
『いや、しょうがないだろ。格好いいものは格好いい。好きなものは好きなんだから。だから維新を10年遅らせた馬鹿だと言われようが好きなんだよ。そもそも新選組がいなかったら、池田屋が起きなかったら、討幕の熱はあそこまで急速に高まらなかったし、慶喜公の勇退にも意味がなくなっていた。何より、土方が最後まで戦い抜いて、薩長の恨みを一身に受け続けたから、日本は分裂せずに列強の植民にならずに済んだんだ。つまり英雄だよ。土方歳三って男は』
『おぅ、お前、話が分かるなちびっ子! よし、お前は同志だ。俺たちで新選組だ。ちなみに俺は近藤さんが好きだ。やっぱ男は力と器よ。で、お前はトシが好きってことだから、お前はトシだ! 俺が局長、お前が副長だ!』
『武力最低のトシか……それもまたありだな!』
という、見たこともないテンションで語り合うジャンヌ隊長は、なんだか幸せそうだった。
そしてこの男が今や警察のポジションに身を置いているわけで。世も末だ。
新沢が建物に突入し、何やら叫び声と暴れる音が響く。
そして5分後。
「よし、山崎君。入ってきていいぞ」
物音が収まった家屋から、傷一つない新沢が建物から顔を出してそう言った。
まぁ強いは強いらしい。
てか、スキルが強いのだろう。
この男はただ叫んでるだけで、賊を制圧したのはスキルの面々だ。しかも刀は斬れるわけではないらしく、殴打されて気絶した男たちが土間に転がっていた。
「ふふふ、不逞浪士はこのざまだ。斬って捨てるまでもなかったな」
要はただのカッコつけしいなわけで。
まったく、どうして隊長はこんな奴を……。
「待て、トシ。この臭いはなんだ?」
「誰ですか、トシって。臭い?」
「……こっちだ」
「あ、ちょっと勝手に」
まだ調査班が到着してないのに。
勝手に動かれると困るのだ。
だが自分の制止など意に介さず、新沢は奥へと続く扉に手を賭けた。
開く。そこは何もない物置。
「行き止まり……」
「いや、違う。山崎君。これを見てくれ」
「だから山崎じゃ……ん、これって」
新沢が示したのは、木箱の下にある床。
そこにわずかな切れ込みがあり、
「さすが監察だ。すぐに分かったな」
「いやカンサツって何……。これは、扉?」
「そう、扉だ。そしてこの木箱。中身は空。重たいものの下に扉なんて作らない。心理を突いた見事な仕掛けだな、トシ」
なんと。驚きだ。
この男が心理とか考えるなんて。そっちね。
新沢が上の木箱をどける。
こうしてみれば隠し扉があるのが分かる。
逆に言うと、この物置を全部出してかなり調査しないと見つからない場所にあるもの。その中に何があるか、自分でも気になってきた。
「けど……どうするんです。取っ手もない」
「おいおい、総司。俺たちの腰にあるのは何だ?」
何って、何もないけど。
てか山崎なのか山南なのかトシなのか総司なのか統一してくれ。
自分がここまで人にいら立ちを覚えるなんて思いもしなかった。
「そう、武士の魂だろ!」
そう言って、新沢は武士の魂――木刀を高々と掲げると、それを両手で逆手にもって、
「はぁぁぁぁぁぁ!」
そのまま床に叩きつけた。
ガイイイイイン!
耳を打つ激しい激突音。
もちろん、床が抜ける音ではない。
新沢の足元には、少しへこんだだけの床が存在している。
「…………武士の魂だ!」
何事もなかったかのように、もう一突き。
ガイイイイイン!
「…………痛い」
ま、そりゃそうだろうねぇ。
「…………」
新沢がなぜかこっちを見てくる。
その何かを期待するような切なそうな視線を――黙殺した。
「不屈の漢って……名前でしょう。……そう簡単に諦めちゃ、ダメじゃないです?」
「と、当然だ! 今のは練習。これからが本番だ、行くぞ!」
だがそのあと。
何度叩いても扉は開く気配がない。
へこんだだけだ。
打撃の音が響くたびに、こちらを憐れな子牛のような視線を送ってくる新沢だが、むしろ、
「さぁさぁ、頑張って」
「もうちょっとだと思いますよ」
「諦めたらそれで終わりですよ」
と煽って、若干憂さを晴らした。
うーん、我ながら底意地が悪い。
あの宰相の近くにいたせいで、どうも性格が似てきてしまったのだろうか。最悪だなぁ。
それにしてもこんなところにある扉なのに、取っ手がないとかどうやってここの人は開けていたのだろう。
こんな毎回壊していたわけでもないだろうに、開くにしても上か下か――
「あ……」
まさかという思いと、いい加減、新沢の視線に飽きたこともあり、自分はしゃがんでその扉のところに手を当てる。
そして、
「やっぱり、これ引き戸だ」
「ぬおおおおおおおおお!」
ガラッと横にスライドした扉。ぽっかりと穴が開く。
それが、新沢が木刀を無茶苦茶に半泣きで叩きつけるのと同じタイミングだったので…………新沢の体は深淵の闇に呑みこまれていった。要は落ちた。
なんて間の悪い。
すぐにドスン、と地面を打つ音が聞こえてきたので、それほど深くないみたいだ。
「大丈夫ですかー?」
「う……な、なんじゃこりゃああああ!」
なんか殉職しそうな悲鳴だった。
扉から身を乗り出して下を見る。
3メートルほどの高さで、かなり広い空間が広がっているらしい。地下室だ。
暗いが、外から差し込む陽の光で、なんとか何があるのかは見えた。
近くに見えるだけで、陽の光を跳ね返す銀の塊、見覚えのある細長い筒、何が入っているのか分からないが厳重に密封されている箱。それらが無造作に箱に詰められて置かれている。
そう、剣と銃。そして箱は火薬と弾薬だろう。
武器庫だ。
もちろんオムカ軍の公式のものではない。
ちなみにあと半メートル横にずれていたら、新沢は串刺しだっただろう。惜しい。
いや、そんな冗談を言ってる場合じゃない。これはまさに瓢箪から駒。不審人物を追っていたらとんでもない事件に出会ってしまったようだ。
「は……はっはははは! 見つけたぞ、巨悪の根源! これは帝を京から連れ出す策謀に違いない! 長州め! この新選組がある限り、京の都はやらせはせんぞ!」
それを見つけたのが、こんなやつとは……正直頭が痛かった。
…………はぁ。
まったく、ジャンヌ隊長は留守だってのに。本当に疲れる。
ただ、自分の心の中は気温以上に寒風が吹いていた。
あの日、ジャンヌ隊長に報告してから、彼女の言葉が頭に残る。
『戦いは準備の段階ですべてが決まる』
そのために宰相を使って帝国に色々仕掛けているわけだけど、それは裏を返せば帝国もこちらにやってくるということ。
『なるほど。さすがですね。その防諜(敵国の諜報活動から国を守ること)の仕事、貴方にお任せしたいのですが』
ジーン総司令に聞いてみたらそんな返事が返ってきた。
まぁこういうことには自分が適任なのはわかっていたから、許可をもらったと思おう。
『ニーアにも話を通しておきましょう。彼女は、女王様を暗殺からお守りする仕事をしていますから』
ということで、ニーアさんとも共同で仕事をすることになった。
このことをジャンヌ隊長に言うべきかと思ったけど、それに対しニーアさんの答えはこれだった。
『甘ちゃんのジャンヌには任せられない仕事だからね。防諜って言っても、不審者の摘発、捕縛、拷問、果ては処断もあることよ。その覚悟がイッガガーにある?』
もちろんない。
だからそれを言うと、彼女は大いに肩を落として、
『ま、いいわ。そういうのがいたら、警吏に捕まえさるから。それであとは警吏と、あたしに任せればいいから。……ケリをつけないといけない相手もいるわけだし』
そう言った時の彼女は、背筋が凍ったと思うほど怖かった。
一応、ジャンヌ隊長には聞かされていた。
姿を変えて潜む暗殺者のプレイヤーのことを。
危険だから相手にするな、とはくぎを刺されていたけど、彼女の状況を思うとそれも難しそうだ。
正直、あの宰相の謀反については、個人的にはとても悔しかった。
任されたのに何を見ていたのだ、と思う。
だから挽回のため、暇があれば街を歩くことにしている。
そうすると時折、神経に引っかかる人が浮かび上がるのだ。
自分が目立たなかったから、目立とうとしない人間が分かるようになった。
違和感というか、無理やり目立とうとしない挙動が変な印象を与えるのだ。
だからそれを尾行すると、誰かと連絡を取っていたり、何人かが集まっていたりするのだ。
元の世界だったら、携帯で連絡を取り合って、気づかれないうちに計画が進んでいただろう。いまさらながら、犯罪者に対する警察の苦労が分かるような気がした。
けど今は今だ。
その日、ここ数日見張っていた人物の家に、旅装の人間が数人入り込んだのを見て、警吏(警察のようなもの)の出動を要請した。
そこら辺の権限は与えられていたので、やりやすかった。
ただ誤算だったのが、
「よくやった、山崎君」
「いや、自分はイッガーなんですけど」
「ふっ、さすが監察方というべきか。こういうことはお手の物だな」
「いや、だから話を……」
「だがあとは我々に任せたまえ、そう、この壬生の狼に!」
その男、新沢五郎と名乗った男は、和風な水色の羽織を羽織って自分の横にいる。
何かで見た覚えのあるその格好は、なんとも時代錯誤で地域錯誤で、この洋風な町並みにはまったく合わない。
「えっと、警吏が包囲にするまではもう少し時間が……」
「いかんぞ、山南さん! 会津を待つなど、そんな悠長なことを言っていては不逞浪士どもが逃げてしまう!」
「さっき山崎とか……言ってなかったっけ? てか会津って?」
「いかん! こうなっては我らだけで突入する! むぅぅぅ、今宵の虎徹は血に飢えておるわ……」
と、木刀を片手に何やら盛り上がる新沢。
……もう帰っていいかな。
とはいえ、この男。
自分が見つけたプレイヤーだから、そうも言ってられない。
今年の初め。喧嘩の情報が入って駆けつけたところ、この男が年配の男を叩きのめしていた。
すぐに警吏が飛んできて本部に運んだ。そこで彼がプレイヤーだというのが分かったのだが、その叩きのめした相手がなんと帝国の諜報部員だった。
なぜその男が、と問い詰めると、
『気に食わない顔をしていた』
と、とんでもないことを口走った。
その洞察力と勘、そして何よりプレイヤーということから保護することになった。
なぜか自分が教育係みたいなものになってしまったのだが……。
正直、こういう陽キャとは合わないんだけど。
「我が正義のため、いざゆかん!」
こいつをあの正義大好きっ子に会わせちゃいけない。とんでもないことになる。
そう直感が告げていた。
「スキル発動! 『不屈の漢』!」
そう新沢が告げると、彼の周囲に光が漂い、それが人の形を作っていく。
その数、10以上。しかもどれもが同じ水色の羽織を着ていて、ハチマキみたいなものを巻いている。さらに腰には資料で見たことしかないような、日本刀を差していた。
あぁ、この格好、そして名前。新選組ってやつだ。よく知らないけど。
「行くぞ、敵は池田屋にあり!」
自分は木刀を掲げ、十数人の男たちを指揮する。
この男たち、一度見せてもらったが、スキルだというのに人が触れるし、物体を壊すこともできる。
ジャンヌ隊長がビンゴ王国で出会ったという、ドッペルゲンガーを作成するスキルと似たようなものだろう。
そんな男たちを、もはや止めることもできず、ただ新沢の行動をはらはらしながら見守るしかない。
ジャンヌ隊長が女王の護衛で留守してるのに、あまり派手にしないでほしいんだけど……。
「山南さん、平助、左之、松原は裏口に回れ! 新八とハジメとミッキーは1階を制圧! 源さんとカンリューと谷さは出入り口を確保! 俺はトシと総司で2階へ上がる!」
「いや、2階ないですよね」
「不逞浪士は斬って捨てろ! 1人も逃すな!」
「斬って捨てられたら困るから、生け捕りにしてくれません?」
「山崎君。君はそこに隠れていたまえ」
「だから山崎じゃないって……」
「よし、行くぞトシ……御用改めである! 手向かい致すは容赦なく斬り捨てん! くぅぅ! このセリフが言いたかったぁぁ!」
「もうどうにでもして……」
ツッコむのも疲れた。
あーあ、斬り捨てられないかなぁ、この人。
そんな物騒なことを思ってしまう自分が嫌になる。
ただ困ったことに、この人はなんというか……隊長のお気に入りだったりするのだから。
『え? 新選組!? スキルで!? トシ、土方はいるの!?』
『お、わかるかちびっ子。けど土方推しか。ふっ、まだまだ子供だな』
『いや、しょうがないだろ。格好いいものは格好いい。好きなものは好きなんだから。だから維新を10年遅らせた馬鹿だと言われようが好きなんだよ。そもそも新選組がいなかったら、池田屋が起きなかったら、討幕の熱はあそこまで急速に高まらなかったし、慶喜公の勇退にも意味がなくなっていた。何より、土方が最後まで戦い抜いて、薩長の恨みを一身に受け続けたから、日本は分裂せずに列強の植民にならずに済んだんだ。つまり英雄だよ。土方歳三って男は』
『おぅ、お前、話が分かるなちびっ子! よし、お前は同志だ。俺たちで新選組だ。ちなみに俺は近藤さんが好きだ。やっぱ男は力と器よ。で、お前はトシが好きってことだから、お前はトシだ! 俺が局長、お前が副長だ!』
『武力最低のトシか……それもまたありだな!』
という、見たこともないテンションで語り合うジャンヌ隊長は、なんだか幸せそうだった。
そしてこの男が今や警察のポジションに身を置いているわけで。世も末だ。
新沢が建物に突入し、何やら叫び声と暴れる音が響く。
そして5分後。
「よし、山崎君。入ってきていいぞ」
物音が収まった家屋から、傷一つない新沢が建物から顔を出してそう言った。
まぁ強いは強いらしい。
てか、スキルが強いのだろう。
この男はただ叫んでるだけで、賊を制圧したのはスキルの面々だ。しかも刀は斬れるわけではないらしく、殴打されて気絶した男たちが土間に転がっていた。
「ふふふ、不逞浪士はこのざまだ。斬って捨てるまでもなかったな」
要はただのカッコつけしいなわけで。
まったく、どうして隊長はこんな奴を……。
「待て、トシ。この臭いはなんだ?」
「誰ですか、トシって。臭い?」
「……こっちだ」
「あ、ちょっと勝手に」
まだ調査班が到着してないのに。
勝手に動かれると困るのだ。
だが自分の制止など意に介さず、新沢は奥へと続く扉に手を賭けた。
開く。そこは何もない物置。
「行き止まり……」
「いや、違う。山崎君。これを見てくれ」
「だから山崎じゃ……ん、これって」
新沢が示したのは、木箱の下にある床。
そこにわずかな切れ込みがあり、
「さすが監察だ。すぐに分かったな」
「いやカンサツって何……。これは、扉?」
「そう、扉だ。そしてこの木箱。中身は空。重たいものの下に扉なんて作らない。心理を突いた見事な仕掛けだな、トシ」
なんと。驚きだ。
この男が心理とか考えるなんて。そっちね。
新沢が上の木箱をどける。
こうしてみれば隠し扉があるのが分かる。
逆に言うと、この物置を全部出してかなり調査しないと見つからない場所にあるもの。その中に何があるか、自分でも気になってきた。
「けど……どうするんです。取っ手もない」
「おいおい、総司。俺たちの腰にあるのは何だ?」
何って、何もないけど。
てか山崎なのか山南なのかトシなのか総司なのか統一してくれ。
自分がここまで人にいら立ちを覚えるなんて思いもしなかった。
「そう、武士の魂だろ!」
そう言って、新沢は武士の魂――木刀を高々と掲げると、それを両手で逆手にもって、
「はぁぁぁぁぁぁ!」
そのまま床に叩きつけた。
ガイイイイイン!
耳を打つ激しい激突音。
もちろん、床が抜ける音ではない。
新沢の足元には、少しへこんだだけの床が存在している。
「…………武士の魂だ!」
何事もなかったかのように、もう一突き。
ガイイイイイン!
「…………痛い」
ま、そりゃそうだろうねぇ。
「…………」
新沢がなぜかこっちを見てくる。
その何かを期待するような切なそうな視線を――黙殺した。
「不屈の漢って……名前でしょう。……そう簡単に諦めちゃ、ダメじゃないです?」
「と、当然だ! 今のは練習。これからが本番だ、行くぞ!」
だがそのあと。
何度叩いても扉は開く気配がない。
へこんだだけだ。
打撃の音が響くたびに、こちらを憐れな子牛のような視線を送ってくる新沢だが、むしろ、
「さぁさぁ、頑張って」
「もうちょっとだと思いますよ」
「諦めたらそれで終わりですよ」
と煽って、若干憂さを晴らした。
うーん、我ながら底意地が悪い。
あの宰相の近くにいたせいで、どうも性格が似てきてしまったのだろうか。最悪だなぁ。
それにしてもこんなところにある扉なのに、取っ手がないとかどうやってここの人は開けていたのだろう。
こんな毎回壊していたわけでもないだろうに、開くにしても上か下か――
「あ……」
まさかという思いと、いい加減、新沢の視線に飽きたこともあり、自分はしゃがんでその扉のところに手を当てる。
そして、
「やっぱり、これ引き戸だ」
「ぬおおおおおおおおお!」
ガラッと横にスライドした扉。ぽっかりと穴が開く。
それが、新沢が木刀を無茶苦茶に半泣きで叩きつけるのと同じタイミングだったので…………新沢の体は深淵の闇に呑みこまれていった。要は落ちた。
なんて間の悪い。
すぐにドスン、と地面を打つ音が聞こえてきたので、それほど深くないみたいだ。
「大丈夫ですかー?」
「う……な、なんじゃこりゃああああ!」
なんか殉職しそうな悲鳴だった。
扉から身を乗り出して下を見る。
3メートルほどの高さで、かなり広い空間が広がっているらしい。地下室だ。
暗いが、外から差し込む陽の光で、なんとか何があるのかは見えた。
近くに見えるだけで、陽の光を跳ね返す銀の塊、見覚えのある細長い筒、何が入っているのか分からないが厳重に密封されている箱。それらが無造作に箱に詰められて置かれている。
そう、剣と銃。そして箱は火薬と弾薬だろう。
武器庫だ。
もちろんオムカ軍の公式のものではない。
ちなみにあと半メートル横にずれていたら、新沢は串刺しだっただろう。惜しい。
いや、そんな冗談を言ってる場合じゃない。これはまさに瓢箪から駒。不審人物を追っていたらとんでもない事件に出会ってしまったようだ。
「は……はっはははは! 見つけたぞ、巨悪の根源! これは帝を京から連れ出す策謀に違いない! 長州め! この新選組がある限り、京の都はやらせはせんぞ!」
それを見つけたのが、こんなやつとは……正直頭が痛かった。
…………はぁ。
まったく、ジャンヌ隊長は留守だってのに。本当に疲れる。
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薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
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少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
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これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
無限に進化を続けて最強に至る
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突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった
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パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。
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