知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

第28話 ヨジョー地方防衛戦2日目・水際の判断

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 敵は日が昇り切ってから渡河を開始した。
 船が来たのを待ったようだ。

 大型船の数は去年より多く200艘ほどか。
 1艘に多くて300人乗れるとすれば、兵は6万。

 それだけでも大変なものだが、さらにそれを警護するかのような大量のいかだ
 1枚に5人ほどが乗って、それが――

「……数えらんねぇ、な」

 サカキがつぶやく。
 川を埋め尽くすようにしてこちらに来る筏を見ての感想だ。

 敵の渡河を迎え撃つつもりで川辺に陣を敷いていた。
 そして渡河の瞬間をサカキ、ニーア、クロエたちと共に見る。

「陣を作る柵を流用したのか……!」

 そんな筏をどこから、と思ったが、昨夜築いた陣に使った木材を流用したのだろう。
 あるいはこれを狙って多めに切り出していたに違いない。

「あ、ルックが戻ってきました」

 マールがこちらに声を上げる。
 ルックには敵の船団が見えた時に、ヨジョー城の城壁に登ってその数を計測しに行ってもらった。

 そのルックが馬の息を切らせながら走り込んでこう告げた。

「敵の船団はおよそ200、筏は……おそらく1万はくだらないかと」

 300人が乗る船が200で6万。
 さらに5人乗りの筏で5万。
 計11万。

 俺は作戦が半ば瓦解していくのを感じた。

 最初、敵は大型船を使うか小型船でピストン輸送するものだと思っていた。
 去年、帝国軍が使ったのと同じ戦法だ。

 そうなれば火矢や大砲、爆雷で船を燃やして少なくとも多少の被害を負わせることができると考えていた。

 だがこれはそういうレベルじゃない。

『半ば渡らしめてこれを撃つは利なり』

 敵が川を渡ってきたら、半分が渡った時に攻撃すると効果的という、孫子の兵法の基礎中の基礎だが、それが通用しない場面もあるのだと思い知らされた。
 こうも広域に展開され、しかも後から後から来られたら無理だ。
 敵に損害を与えることができるだろうが、次々に増援が来るからやがて兵力の少ないこちらが不利になる。

 しかし帝国のやり方はえげつない。
 筏に乗っているのは、盾もなく、鎧も革張りの粗末な兵。
 おそらく奴隷や平民を徴兵して最前線に立てているのだろう。

 この戦法が本当にいやらしい。
 身を隠す場所もなにもない筏の上。
 どうぞ撃つなら撃ってくださいと言わんばかり。
 それを狙えばこちらの弾薬や矢を消費できる。
 いわば命の盾としているのだ。

 そして自分たちは悠々と大型船で、いや、皇帝とその側近の貴族たちは渡河すらもしていないだろう。
 後方で高みの見物としているはずだ。

 これまで感じたことのない怒りが沸き上がる。
 同時に、ここまで追い詰められることはなかった。

「おい、どうするジャンヌ。水際で食い止めるでいいのか? それとも退くか?」

 サカキも同じことを考えたのだろう。

 そうだ。今も敵は川を渡ってきていて、あと十数分もしないうちに渡河を完了する。
 それまでにどう対応するか、そのあとにどう対応するかを緊急に決めなければならない。

「クルレーン、狙えるか?」

 ヨジョー城に待機してもらっていたクルレーンに聞く。
 鉄砲で撃退できるか、という意味で発した言葉。
 だが答えはある意味予想通りだった。

「無理だな。ああも散開されたら命中率は著しく落ちる。それに雑兵1人を倒したところで戦局は変わらないだろう」

 そう、ここで筏に乗る兵を倒しても大局に影響はない。
 指揮官らしき人間も見えるが、それでも歩兵たちのまとめ役レベルで倒してもすぐに代わりの者が出るだろう。

 なら大砲や爆雷、と考えるが、それも難しい。
 広がっているから多くを巻き込めないし、筏のない水面をたたくだけで終わる可能性もある。

 大型船を狙いたいが、筏の後ろに隠れるように動いているため、大型船を射程に入れた頃には筏の歩兵が上陸してくる。
 そうなればこちらは迎え撃つしかなく、犠牲が大きくなる。

 考えろ。
 考えれば……くそっ! 思考がまとまらない!

 落ち着け。
 いや、無理だ。
 同盟国を合わせて5万もの命。
 それがこの瞬間、俺の判断に天秤に乗せられる。

 俺が判断を間違えたら、それだけの命が失われる。
 それだけじゃない。

 俺たちの背後に広がる大地。それが30万に蹂躙される。
 もちろん、マリアも、里奈も、みんな。

 策はある。

 だが、その策のためにはもう少し時間が欲しい。
 本当だったらもう1、2日は稼ぎたかった。
 このまま退くのだと間に合わない恐れがある。

 それなら前もって準備しておけ、という話だが、それはできない。
 帝国軍には『敵があまりに強すぎて、急遽防備を固めました』と思ってもらわないと困る。
 前もって作って、もしそれを偵察にでも見つかれば、敵は策に乗ってこない可能性があるのだ。

 だからここで一戦もせずに退くのは、どうも勝手が良くない。
 俺の策が間に合わなくなってしまう可能性もあるし、あまりの逃げっぷりに罠を疑う可能性がある。

 だがここで時間を稼ごうと無理をして犠牲が増え、策を実行するための兵力を残せないかもしれない。
 そもそも時間稼ぎのために、あたら命を散らしていいわけがない。

 焦り。不安。心配。恐怖。焦燥。危惧。苦悶。絶望。
 負の感情がうずまき、頭をしめつける。
 酸素。酸素がない。頭に酸素が回らないと、考えられない。
 酸素を。空気を。呼吸を。

 だが吸えない。
 入ってこない。

 いくら息を吸おうと思っても、酸素を拒絶するかのように何も入ってこない。
 やばい、酸欠が……。

「ジャンヌ!」

 衝撃が来て、はっ、とした。
 殴られたのじゃない。
 両頬に手が当てられている。
 そして俺の目の前には顔が――

「ニーア……」

「あんたは大丈夫。大丈夫だから。自信を持ちなさい」

 ニーアの目が、射貫くような瞳が俺を捕らえて離さない。

「だからあんたが思うように動いて。あたしたちは、そのためにここにいるんだから」

 大真面目な顔で何を言い出すかと思えば、結局は丸投げだ。

 いや、違う。
 丸投げじゃない。
 信頼だ。

 ニーアは、いや、ここにいる誰もが俺のことを信じて命を預けている。
 俺ならばこの状況を打開できると信じて。

 ったく。本当に重すぎるんだよ、皆。

 ただパニック寸前だった脳は、ニーアの一撃で一瞬空白になったことでリセットされたらしい。

 考えるべきこと、やるべきこと、優先すべきこと、守るべきこと、それらがバラバラになって戻ってくる。

 そうだ。ここはもう負けだ。
 相手の物量に押し切られた敗北だ。

 けど決定的な敗北じゃない。
 ただの局地戦での敗北。
 この後に挽回の余地がある、意義のある敗北だ。

 となればそれは次に活かさないと意味がない。

「撤退する! クロエ、ヨジョー城にいるアークをはじめとする負傷兵をすぐに王都へ送り返せ! それからサカキは全軍で物資を運んで順次撤退! クルレーン、鉄砲隊と弓兵を率いて射程ギリギリのところで一斉射を2回! 敵をひるませるだけでいい。あとはひたすらに殿軍を追え! ブリーダは殿軍でクルレーンたちの撤退を援護! 敵が追ってきたら蹴散らすだけでいい! ここは犠牲ゼロで逃げ延びるぞ! ほら急ぐ!」

「分かりました!」「おぅ!」「承知」「了解っす!」

 俺の号令に諸将がわっと動き出す。

 そこでようやくため息。
 この判断が良かったかどうか。
 それはまだ分からない。

 けどこれが今の時点で最善。
 そう思う。

「そうそう、ジャンヌはそうやって怒鳴り散らしてた方がいいね」

 ニーアがそう笑みを浮かべてくる。
 俺ってそんな怒鳴り散らしてるか?

「ん。なんかいつもえらそーに命令してる感じ」

「そうだったのかよ……」

「ま、いいんじゃない? それがジャンヌっぽいし、みんな嬉しそうだし」

 嬉しそう?
 人に命令されて嬉しそうとかあるのか?

「はい、みんな嬉しそうに動いています」

 残っていたサールも同意してきた。
 そういうものなのか。よく分からん。

「それより早く逃げないと追いつかれませんか?」

「そうそう! ほら、じゃあお姉さんと一緒に逃げようか? なんかあれだね? 最初のブリーダと戦った時みたい。抱えて走ろうか?」

「あー、あったなぁ。いや、抱えなくていい。てか思い出した。あの時お前、無駄に触ってきたよな?」

「さー? なんのことかな? それにもう時効じゃない? ほら、それより逃げる逃げる」

「おい、ちょ、触るな! つか担ぐな! サール、助けて!」

「残念ながらわたしにはどうすることも……」

「諦めるなよ!」

 という感じで、なんだかんだごたごたしながらも、俺たちは無事に南下して撤退に成功した。
 これまで初戦以外は、まったくいいところがなく、ただただ相手の物量に押されて逃げるだけだった。

 だがそこに1つの吉事が起きた。

 ブリーダとクルレーンがやったのだ。
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