知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

閑話12 ブリーダ(オムカ王国騎馬隊隊長)

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 ヨジョー城から兵たちが吐き出されていくのを、少し離れた場所から馬上で見る。
 あれが最後の一団だろう。それを見届けて、あとはクルレーンの部隊が来れば全軍撤退完了だ。

 ヨジョー城は無傷で明け渡すことになる。

 そのことについて、一度話し合った。
 軍師殿はヨジョー城での防衛を考えていないと伝えられ、その際の城についてが問題に上がった。

 サカキやクロエが敵ごと燃やす案を提案した。
 これまでの軍師殿の戦術を考えると、それが妥当だと思ったが、意外にも本人は首を振った。

『どんな理由だろうと、そこに住む人の家を奪うようなことはできないよ。誰が支配者になろうと住民の生活は関係ないんだから』

 甘い、と思う。
 そんなことを考えていたら、帝国に勝てるはずもないと。

 だが、それでも自分が軍師殿を信じるのは、そのあとの言葉があったから。

『ま、それにもし城を焼いたら取り戻した時に、住民に恨まれるからな。そうしたら今後の統治にも影響出る。それに、ここは帝国に出るために通らないといけない重要な場所だ。恨まれて変な妨害を受けるなら、協力してもらった方が合理的だろ? 帝国が焼いたらそれを喧伝けんでんして悪役にすればいいし。まぁ帝国も橋頭保きょうとうほとして使うから無暗に焼かないと思うけど』

 それだけの分析があるだけじゃない。
 あぁも簡単に取り戻した時のことを言えるのは、すなわち勝つ前提でいるのだ。

 そういったことをこともなげに言うのだから、本当に敵わないと思う。
 そして頼もしいと思う。

 出会った時からその関係は変わらない。
 それでいいとも思っている。

 帝国の打倒。
 それを聞いた時に血が沸騰したのを覚えている。
 虐げられてきた自分たちにとっての悲願、そして親父やじいの夢を叶えることにもなる。

 その言葉を信じて、今まで戦ってきてここまで来た。
 エイン帝国皇帝の親征。

 攻め込む側じゃなかったのが残念だったけど、それでも相手は帝国の象徴。
 それを倒せばもはや帝国を打倒したと言っても過言ではない。

 だからいずれは勝つとしても、こうして一戦もせずに撤退というのは残念なところがあって。

「不満ですか?」

 アイザが無表情に聞いてくる。
 まるで心を読まれたかのような的確な質問に少し鼻白む。

「別に。まだ始まったばかりっすからね」

幼女趣味ロリコンが……」

「それ関係なくないっす!?」

「隊長は内心では不満。けどあの軍師を立てるために否定する。よって隊長は幼女趣味ロリコン。単純な三段論法ですが?」

「ちょっとその論法には異議ありっす!」

「隊長、いつまでも遊んでないで。クルレーン殿の部隊が来ましたよ」

 アイザとは一度、自分について白黒はっきりつけた方がよさそうっす。
 ……勝てる気しないっすけど。

「騎馬隊長、世話になる」

 鉄砲を肩に担いだクルレーンがやってきてそう告げた。
 部隊に犠牲はなし。
 引き際も見事なものだ。

「了解っす。それじゃあ先に追いかけるっす」

「ああ。そうさせてもらう……が、それでいいのか?」

「え?」

 ギクリ、とした。
 まさか知り合って年月の薄い彼にもそう言われると思ってなかったから。

 隣でアイザが笑いをかみ殺しているのが分かる。

「いや、こういう時に何もしないでいるのは辛かろうと思ってな」

「っすね。まぁでもそれが戦術として正しいのはしょうがないっす。それに一番戦いたがってるのは先鋒のあの男っすから」

「違いない。が、あいつは砦戦の時に戦ってるからな」

 そういえばそうだった。
 ヨジョー城に待機していた自分たちはその機会が得られなかったわけで、そして今、威嚇程度とはいえ敵と矛を交えたクルレーンを抜くと、自分だけがまだ帝国軍と戦っていないのだ。

 はやってるわけじゃない。
 それでもどこか取り残されたような、そんな寂しい気分がする。

「当たらずとも遠からずって感じだな。鉄砲撃ちとしては当たらなかったことは不本意だが」

「否定はしないっす。それに軍師殿と約束したっすからね。犠牲ゼロで退くって」

「そうだな。それはそうかもしれんが、敵さんはどう考えるかな」

「どういうことっす?」

 答えは言葉でなく、行動で来た。
 クルレーンが肩に担いだ鉄砲を、味方の背後、そちらへ向けたのだ。

「土煙……騎馬隊っすか?」

「そういうことだ。ちょっと色々挑発しすぎたかもな」

「一体、何を言ったんすか」

「別に何も言ってないさ。ただ敵の船が速度をあげてきたんでね。俺たちが逃げるものと思って追撃しようってことらしい。馬鹿らしいのが、そのせいで前を行く筏がいくつも転覆したわけだ」

「それは……なんとも」

「それで先頭の船に乗る馬鹿が1人。船首に全身をさらして何か吠えてたんでな。一発見舞ってやったのさ」

「殺したんすか」

「いや。何やら派手な兜をつけてたんでな。兜に鳥の羽みたいなのが一本伸びる感じで。だからそれを撃ちぬいてやった」

「あー、それ怒るやつっすね」

「ああ。だからさらに速度をあげて、俺らはその船に向かってわざと一斉射して、そのまま奴らの鼻先をかすめる感じで逃げてきたよ。そして、その結果があれだ」

 土煙の上がる方向。
 騎馬隊が見えてきた。
 その数、3千はくだらない。後続も含めると5千は超える。

「一戦、交えるっすか。そっちはどうするっすか? 騎馬だと追いつかれる可能性があるっすが……共に戦ってくれるとありがたいっす」

「世話になると言った。従うさ」

 静かに笑うクルレーンに、こっちも苦笑する。
 もしかしたら一番戦いたかったのは彼なのかもしれない。挑発方法も含めてそう思った。

「…………」

「おい、お前の副官? か? すごい勢いで睨んでくるんだが」

「アイザ、そんな睨んじゃだめっす!」

「…………」

「副官は言葉を知らないらしい」

「別に。ただ余計なことをしてくれた人に語り掛ける言葉を持たないだけ」

「嫌われた、かな?」

 苦笑するクルレーン。
 やれやれ、なんでアイザはこうも自由気ままっすかねぇ。

 と、のんびりもしてられない。

「まずは自分たちが敵を引き寄せるっす。その間にそっちはどこかに潜んで、隙を見たら撃ってほしいっす」

「それでいいだろう。敵がこっちに来たら……まぁその時はその時だ」

「軍師殿の約束、守るっすよ」

「当然だ」

 それからは一気に動きが早くなった。

 クルレーンが先に逃げている間に、こっちは敵の戦力を図る。
 少し近づく動きをすると、相手もこちらを認めたのか、やがて速度を落としだした。

 そして横に広がる様は、数で敵を圧倒しようというのか。
 数は、5千、いや、1万弱といったところか。

 その中央から一騎が進み出て、あろうことか口上を述べ始めた。

「我が名はアリエンシ・ナイモカン! 帝国に君臨する大皇帝陛下の忠実なるしもべにして、子爵の位を代々受け継ぐものである! そもそも、我がナイモカン家は、キッシュ地方に代々根付く由緒正しき貴族の家にて――」

 あ、なんか急に自慢が始まった。
 ああいうのを見ると、なんだかやるせなくなる。

 2年前、軍師殿に負けるまでは自分もあんな感じだったんだろうなぁ。そんな同族嫌悪の気持ちだ。

 本当にあの時はまだ子供だった。
 家系と血統に縛られた愚かな子供だった。
 家系も血統も何もない軍師殿はオムカをここまで大きくした。
 家系も血統も優れた女王様は、若いながらも国を安定して統治されている。
 家系や血統は大事だが、真実に重要なのはその人間が何をしたか。成しえたか。

 なら自分は?
 家系だ、血統だと騒いで何を成したか。

 何も成していない。
 心を入れ替えて軍師殿の手伝いはしているが、自らの手で成しえたことはないに等しい。

 ならばこそ、ここだ。
 ここで一気に自分というものを手に入れる。
 そのためには、戦うしかない。
 自分にはまだ、それしか道が見つかっていないから。

「――して、帝国を裏切り数多くの将兵をあたら死なせた卑劣漢の蛮族め! 我が正義の刃によって、貴様らの首を我が勲功とし、皇帝陛下へと献上させていただこう!」

 あ、終わったっすかね。
 長かったぁ。決心が鈍るところだったっす。
 けどその分、クルレーンたちの距離が稼げたのは良いこと。

「我が精兵らよ! ナイモカン家第23代当主であるアリエンシ・ナイモカンが命ずる! 我と共に、かの逆賊どもを討ち果たし、果てしない武勲と限りない名誉を得んと望むものは前へ出よ! この遼遠たる大地に、覇を唱えんとする者は我に続け!」

 あ、これまだ続くやつっす。

 内心、そろそろあきれ返ってきたところに、ナイザが馬を寄せてきた。

「あれ、弓なら届くでしょ? あいつをなんとか家の最後の当主にしてあげない?」

「まぁ、あれだけやってもまだ1万弱の騎馬隊が残るっすからね。できるだけ徹底してやってやるっす」

「ま、いいけど」

「だからとりあえずクルレーンのモノマネでもしてみるっすかね」

 弓を取り出す。
 そして矢をつがえる。

 弓矢の修練は嫌というほど積んだ。
 そしてできなかった騎射もひたすら練習した。
 今では馬上でぶれることはない。

 射た。

 敵の大将。なんとか子爵とかいう男の豪華な兜、その額の部分を射貫いた。
 カーンと金属の弾ける音。貫通はしない。だが衝撃はあった。
 だから子爵様は馬上でふらふらと頭を振る。

「お見事」

 アイザのつぶやきに、快心の笑みを見せてやる。
 するとアイザは慌てて首を振り、

「っ、ま、まだまだですから。ほら、怒った敵が来ますよ。さっさと逃げるんでしょう?」

「はいはいっす」

「はいは1回!」

 やれやれ、なんでいっつもそんな不機嫌なんすかねぇ。
 もっと肩の力を抜いてもいい感じなんすけど。

「もはや許せん! 私の美麗で独創的で後世に伝わるだろう修辞的な開戦の言葉を、矢で遮るとは無粋な!」

 いや、敵の言うことをいつまでも聞いてるってどんな馬鹿っすか。
 あっちももっと肩の力を抜いたほうがよさそうっす。

「全軍、突撃ぃ!」

 という美麗さも独創さないありきたりな号令で、敵が突っ込んでくる。
 そのひと呼吸前にこちらは馬を返して逃げている。

 それを敵が追ってくる。
 距離は相対していた時プラス1歩離れたまま変わらない。

 あっちも良い馬みたいだ。
 とはいえこっちは追いつけるように少しセーブしているから、本当のところはこちらの方が有利だ。

 さて、クルレーンとは特に決め事はしていなかったけど、どうするっすかね。
 彼と共闘なんてことはあまりない。

 それもそうだ。
 騎馬隊と鉄砲隊の使いどころはまったく別だから。

 けど少なからず同じ釜の飯を食った仲。
 何よりあの軍師殿の薫陶くんとうを受けた仲なら、言葉で言わずとも通じることもある。

 そう思った。
 そう信じた。

 およそ5分の追いかけっこ。
 そろそろ、か。

「っ!」

 馬を左に向けてそこから右にぐっと弧を描くように動かす。
 前方左手に茂みを見つけたからだ。

 敵も同じように追ってくる。
 本当、そういう素直な奴、好きっすよ。

 けど残念。
 これは戦争っす。
 だから手加減なんてしてやれないっす。

 手を挙げる。
 速度が緩んだ。

 敵が追いつけると踏んでかさにかかって突っ込んでくる。

 次の瞬間。

 砲声が鳴った。
 そして馬と人の悲鳴。

「な、なんだ!? 鉄砲!? 何が起きた!」

 子爵様の混乱した怒声が響く。
 そこに左の草むらからもう一斉射。

 やっぱりいたっすね。
 何も言わなくともいてくれた。そしてベストのタイミングでしかけてくれた。
 それだけで、何か嬉しい。

 だったらさらにその期待に応えてあげたくなるものだ。

「決めるっすよ」

 馬をぐるりと右回りに。
 さらにアイザに合図。アイザが2千を率いて別れた。

 そして弓を構える。
 騎射だ。

 馬上から混乱した敵の横っ面に矢をお見舞いする。

 悲鳴が響く。
 そして距離が詰まる。

 その時には弓はしまって、剣を抜いていた。

 1千を率いてそのまま敵の先頭に突っ込む。
 そこに一番きらびやかなあの男がいるのが見えたからだ。

「嘘だ、嘘だぁ!」

 子爵様が恐慌した様子で、涙と鼻水を垂らした汚い顔で何かをわめき散らかす。

 敵の顔が蒼白になる。
 まだ若い。一瞬のためらい。

「わ、私を守れー!」

 が、そのためらいが消えた。
 若いのは気の毒だが、もう遠慮はない。

「お断りっす」

 家系と血統に溺れ、自らを律するわけでもなく、無謀な追撃を行い、戦力を把握せずに部下を死なせ、挙句の果てに自分では剣も抜かずに何もしない愚か者。

 あるいはこうなっていただろう自分の別の未来を、斬って捨てた。

 大将がやられ、隊列をずたずたにされた上に、とどめの一斉射撃を受けた敵はほうほうのていで逃げ出した。
 クルレーン隊は攻撃を受けていないからもちろん犠牲はゼロ。
 そしてこっちの犠牲は――

「軽傷を負ったものは数名いますが、死亡者は……残念ですがゼロです」

 アイザの言葉に、ひそかにガッツポーズ。
 アイザは苦虫を100匹くらい噛み潰した顔をしていたけど、犠牲がなかったこともあり何も言ってこなかった。

 倍はいただろう敵に、この戦果は上々すぎて怖いくらいだ。
 一撃で決められたのが大きいだろう。

「完璧だな」

 鉄砲を担いだクルレーンが近づいてきた。
 だからこっちも馬から降りる。

 クルレーンが右手を挙げる。
 その手のひらに、自分も右手を挙げて、相手のそれに打ち付けた。

 乾いた音が、青空にこだました。
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