知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

第31話 ヨジョー地方防衛戦4日目・決戦へ

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 サカキたちを全軍撤退させ、俺たち500騎は再び敵の目の前に躍り出る。

 20万の軍勢。
 その圧を前にするだけで、窒息しそうになる。

 それでも腹に力を入れ、あらん限りの声で叫ぶ。

「我が名はジャンヌ・ダルク! オムカ王国軍師のジャンヌ・ダルクだ! ダメンダコラ卿は残念ながら異国の地にて果てた! 次に我が策謀の餌食になりたいものはかかってこい!」

 我ながら大言壮語を吐くものだ。
 ここで攻めてこられたら二度目はないというのに。

 それでも俺は、時として意にそわないことを、人でなしなことも言わなくてはいけない。
 それが軍師というものの辛さなのだろう。

 敵は何か色々とわめいていたが、やがて全軍を動かした。

 立て続けの二連敗から、慎重に全軍で進むことにしたらしい。
 これでまた一部隊が突出したらせん滅されると思ったのだろう。

 その選択は間違っていない。
 逆に言えば“それ以外できない”というのも確かなわけで。

「よし、退く」

 敵は歩兵を基準に行軍するから、こちらの馬の脚には追い付けない。
 だから速度を落とさなければならず、かといってそれだけだとあまりに不自然だ。左右に蛇行しながらジルたちのいる場所へと案内することにした。

 ただそれは相手にとってめざわりなハエが、目の前をブンブン飛んでいるように見えるのだろう。
 時折、騎馬隊が前に出てきてこちらを叩き潰そうとするが、その時はサッと距離を取ってしまう。

 そうすれば敵は突出することを恐れて、忌々しそうに戻っていくのだ。

 正直、敵の大軍を前にしたときの圧はすごい。
 大地を揺らすかのような振動。そして20万の明確な殺意。

 この人数相手だと500騎なんてあってないものだ。
 だからまるで1人で相手にしているように錯覚する。そう考えるともう、現実味がなくて恐怖とかも完全にマヒしてしまって、どこか開き直れた。

 やがて俺たちは頃合いを見て離脱する。
 例の地面の地割れ部分の北端にたどり着いた辺りだ。

 ここで地割れの東側を行かれては困る。
 俺たちが用意した柵の方へと誘導しなければならない。

 だからここで俺たちが地割れの西に行けば、敵はこっちにいるに違いないと進路を定めるはずだ。
 それが罠の入り口に当たるとも知らずに。

 敵が地割れのこちら側に完全に入り込むのを見て、俺たちは加速。敵の眼前を離脱した。

「わたしたちって親切ですよね、隊長殿」

「ん? 何がだ?」

「だって、帝国に道案内してあげてるんですよ。そっちじゃありません、こっちですよって」

「なるほど、そりゃそうだ」

 クロエの表現に思わず笑みがこぼれる。

 ここまで律儀にお膳立てしてあげて、その末にあるのが破滅だというのだから、とんだブラックジョークもいいところだ。

 それから10分ほど駆けると、前方に壁が見えた。
 いや、柵だ。

 行き止まりを示すように、大量の策が並べられている。
 横だけじゃない。
 縦にも何重にも柵が置かれて容易く突破できないものになっている。

 我ながらよくもまぁこんな作ったものだ。
 改めて外から見ると感心するしかない。

 俺たちを認めた誰かが、一部の柵を横にずらして入り口を作ってくれた。
 そのまま中に駆け込む。

 そこではジルが待っていて、

「どうだ?」

「問題ありません。完璧に作業は完了しました」

「よし」

「そちらは?」

「地割れのこっち側に来た。あと10分くらいで見えるだろう」

「さすがです」

「配置は?」

「はい、ご指示通り。さすがにここまで分散すると、心もとないですが」

 ジルの不安は分かる。
 兵力の少ない俺たちが兵を分散させたのだ。
 そしてこの地割れと森の間にある空間、1キロ弱に渡る柵を守るように兵を配置している。

 王都から戦える者は全て呼び出し、さらにクルレーンに頼んで本国の鉄砲使いもすべて動員した。
 今、王都はもぬけの殻も同然で、ここで負けようものならもう本当に抵抗する力はない。

 ここで負けたら終わり。
 背水の陣で事に当たることが誰にも分ってるから、普段の十二分の力を出してくれるはずだ。

 酷な話だが、そうしてもらわないと困る。

「それに、そのための柵だ。ここまでやれば、完全に乗り込まれるまで時間は稼げる」

「お、出ましたね。柵の策ですか。隊長殿は変わってないですねー」

「あの時の泣き虫はまだ治ってないってことだな、クロエ?」

「あ、あれは違います! 気分的に、こうぶわっってなっちゃったんです!」

 それ、弁解になってないぞ。
 とはいえ、そのクロエの必死さに、空気が弛緩する。

 そこへ、1つの声があがった。

「敵、見えました!」

 弛緩した空気が一気に引き締まる。

 ゴクリ、と唾をのむ音が聞こえる。
 誰もが一気に緊張感をみなぎらせて敵の方を見る。

「よし、配置につけ! ここが正念場だ! だが必ず勝つぞ!」

 想いだけで、気持ちだけで勝てるならどれだけ楽か。
 その中でも俺はやるだけやった。
 ただそれでもあきらめきれない思いがある。

 謀多きは勝ち、少なきは負ける。

 もっとああすればよかったんじゃないか。
 もっと考えられることがあったんじゃないか。

 そう思ってやまない。

 知力99あるとしても、すべてが完璧に物事を進められるわけじゃないのだ。
 ステータスだけで勝てるなら、諸葛亮は北伐を成功できたはずだ。

 けど諸葛亮は負けた。
 司馬懿しばいに負けたわけではないが、天命というべきか、運命というべきか。
 勝者となることができなかったのは確か。

 だから世界の行く末を決めるのはステータスじゃない。
 ここに生きる全ての人々。
 その1つ1つが、何かをして、そして決まるのだ。

 俺はその中の1つだ。
 少しだけ物事が考えられる、ただ1個の歯車でしかない。

 けど、どんな小さな機械だろうと、巨大な動力源だろうと、歯車が1つでも欠ければ動かないように、小さな歯車が大きな歯車を動かすことだってある。

 だから諦めない。
 たとえ血反吐を吐こうが、弱音を吐こうが、倒れようが、気を失おうが、最後の最期まで考えて抗い続ける。

 それが俺の生き方。
 それが俺の戦い方。
 俺ができる、たった1つの冴えないやり方だ。

 生きるだけ生きたのだから、後は死ぬだけだ。
 なんて前田慶次郎利益まえだけいじろうとしますみたいな達観はできない。

 帰ってきて欲しい、そう願った彼女のために。
 この世界が素晴らしい、そう語った彼女のために。
 命運すべてを俺なんかに預けた、彼らのために。

 生きてやる。
 まだまだ生きてやる。

 土下座してでも、命乞いしても、靴をなめても、泥水をすすってでも。
 人でなしと言われても、卑怯者だと後ろ指をさされても、非人道だと罵られても、殺人鬼と貶められても。

 何が何でも生きてやる。

 右手の指輪が陽光に照らされ、鈍く光る。

 いよいよ来る。
 帝国軍との決戦を目前に、俺は小さく深呼吸した。
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