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第5章 帝国決戦
第30話 ヨジョー地方防衛戦4日目・誘引の計
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準備を整えた各隊はすぐに予定の場所に進発した。
そして俺はクロエたち500騎を連れて北上。
斥候を前に伸ばし、敵に備えようとしたが、その前に1つの騎影を発見した。
敵かもしれない以上、1騎とはいえ油断はできない。
そう背後のクロエとウィットから殺気を感じる。
だがそれは杞憂に終わった。
「あ、隊長」
「イッガー!? どうした、こんなところで」
馬で駆けてきたのはイッガーだった。
走るのは早いが、疲労はどうしても出てしまう。だから乗馬の訓練をして、今では並みの騎兵レベルには馬を操るようになった。
時間が惜しかったため、俺はイッガーを隊に取り込んで、走りながらイッガーに状況を説明すると、
「なるほどです……じゃあもう意味ないですかね」
「何が起きたんだ?」
「シータからの援軍が近くまで来ています。船団にして200、4万ほどの兵が乗っています」
「そうか」
「それから、それに呼応して帝都から軍が出ました。赤地に金の縁取りの旗、元帥旗です」
「なんだって!?」
いや、それも当然か。
今、帝都は空に近い。その状況でウォンリバーを遡上され、途中で降りた軍が帝都を突けば一大事だ。
それに今、絶賛遠征中の皇帝の軍が孤立することになる。
それをさせないために、シータ軍のけん制として元帥が出てきたということか。
思った以上に厄介な展開になったな。
シータも4万という軍を出してきた以上、主力を割いてきたということか。
ヨジョー地方の周辺に各国の主力が勢ぞろいしている現状。
まさに俺たちの戦いが勝っても負けても大陸の趨勢を決するにたるものになってしまっている。
「分かった。それからここら辺に部下はどれくらいいるんだ?」
「隊長から以前に集めておけって言われましたから。20人はいます。前に言われていたとおり、そのうち半数は帝国軍で賦役の任務に当たってるかと」
ヨジョー城脱出のごたごたで、彼の部下はなんとか帝国軍にもぐりこんだらしい。
どんな軍でも、兵糧を運ぶのに兵士を運搬役に任命することはほとんどない。
単純に兵力の無駄だし、いざ襲われた時に疲れて戦えなくては護衛の任務として本末転倒だからだ。
だから兵糧を運ぶのは百姓や準軍役にある者だったり、その場で徴用した現地人だったりするわけで。
帝国軍という遠征軍であり、大軍であり、しかも百姓や奴隷が兵としている中、ばらばらになれば10人くらい賦役役としてもぐりこむのはわけないと思ったが、どうやらしっかりやってくれているようで一安心だ。
「よし、じゃああとは仕上げだ。お前は今すぐ陣に戻って……」
それからイッガーのやるべきことを彼だけに吹き込む。
いまさらこの部隊に内通者がいるとは思わないが、それでも用心を重ねるのにこしたことはない。
「……そんなことして、意味あるんですか?」
「ある。というよりそうする。だからその任務は重要で、かなり危険だ。嫌なら他の手を考えるけど――」
「いや、やります。……はい、やらせてください」
イッガーが食い気味に発言するなんて初めてだったから少し驚いた。
けどいつものぼーっとした感じからも、やる気が出ているようで、それは素直にうれしい。
「じゃあ、頼む。くれぐれも気を付けて」
「はい、隊長も。では」
そう言ってイッガーは離脱していった。
これから始まる戦いに、彼の馬術ではついてこれないだろう。
なんて偉そうなこと言ってるけど、俺もまだまだクロエたち並みに馬を扱いきれていないわけだけど。
「隊長殿」「隊長」
クロエとウィット、2人の声が同時だった。
「ああ、見えてる」
前方。土煙をあげて動く何か。
いや、ぼかしても仕方ない。
来た。
20万の大軍が横に広がって粛然と行軍してくる。
普通あそこまで広がれば厚みが減り、500騎でも突破は可能そうに見えるが、20万ともなれば厚みもかなりのものだろう。
もちろんそんな愚行はしない。
俺はこれからあの連中のどこかを動かして引き込まなければならないわけだが。
さてさて、どうしたものかな。
馬足を落としながら、『古の魔導書』を開く。
右からムノーン伯爵、ダメンダコラ侯爵、それにイキガイル子爵、で中央にミルグーシ公爵と皇帝陛下、と。
どれもこれも似たり寄ったりで甲乙つけがたい。
あえて指定するならダメンダコラかな。武力に自信をもってそうで、猪武者の気配もする。
「オムカのうじ虫ども! 貴様らはここに皇帝陛下がおわすのを知っての狼藉か!」
戦場に響き渡る大音声。
ミルグーシ公爵だ。
もちろん知っての狼藉で、恩も敬意もないから敵対するわけだけど。
それからもミルグーシ卿は何事かを叫んでいるが、こちらはもう聞く気はない。
「どうします? あれ、ルックにやらせます?」
「いや、あれを射たおしてもあまり意味はない。ここは少し距離を取ろうか」
と、ゆっくりと部隊を彼らの前を横に通り過ぎるようにして動く。
「あー、ミルグーシ卿。もういいよ。ダメンダコラ卿、あのザコどもを先陣の生贄にしちゃって!」
「御意!」
チャラ男皇帝の命令に勇躍して兵を前に出したのは、当たりをつけたダメンダコラだ。
歩兵を押しのけて騎兵が躍り出る。
その数、1万以上。
機先は制された形だが、もとよりこちらに本気で戦うつもりはない。
「よし、逃げるぞ」
馬首を返して走らせる。
「逃げるか、この臆病者!」
先頭を来る華美な軍装をまとったダメンダコラの怒声が響く。
クロエほか数名がそれに反応したみたいだが、俺が平然と馬を走らせているので何も言わずに従ってくる。
臆病者?
何が悪い。
猛然と突進して兵を死なせるのがそんなに偉いか?
勇敢に戦ったから敗北が許されると思ってるのか?
戦場に綺麗汚いもない。
勝ちがすべて。
勝たなければ守れない。
だから俺は戦う。
そして何と言われようと勝つ。
それが俺の理由。
ここにいる理由。
途中、追撃の手が鈍りそうになると、馬首を返して突っ込む構えを見せたり、ルックに弓を射させたりしてさらに引き込む。
1万以上の殺意を持った騎馬を背中に受けて、止まれば即破滅のプレッシャーがあったが、猪突な敵の様子を見ると罠を疑うそぶりもなくある意味安心した。
そして10分後。
地震により陥没した場所と森がある場所。
俺が兵を伏せた場所にたどり着くと、馬の速度を落とした。
「はっは! 観念したか! ならば死ね!」
背後から敵が猛進してくる。
それに対し、俺が馬に備えた旗を広げると、悠然と天に掲げた。
すると、森から弓と鉄砲による射撃が繰り返し行われ、背後の騎兵たちがバタバタと倒れる。
「は、謀ったなぁ! 卑怯者!」
テンプレ通りの返答ありがとうよ。
再び旗を振る。
それを見てアズ将軍は射撃をやめるはずだ。
もちろん敵を見逃してやるためじゃない。
「クロエ、ウィット!」
「了解です!」
俺を残して500騎が反転。
射撃で崩れた敵に猛然と突っ込む。
もちろんそれだけじゃない。
陥没した場所に潜ませたサカキたち歩兵、そして背後の退路を断つように北上したブリーダとグリードの騎馬隊が3方向から敵に突っ込む。
そうなればもう敵が1万いようが2万いようが敵わない。
ましてや足を止めた騎馬隊など、格好の的だ。
「あ、ありえん! ありえんありえんありえん! この武門の雄、ダメンダコラがこんなところでぇ!」
一番先頭にいた上に、その華美な鎧のため真っ先に狙われたダメンダコラは、クロエとウィットの連携で倒れた。
そして残った敵が次々と味方の手にかかる中、一部が北東へ逃走した。
完全包囲すると敵も必死になってこちらに犠牲が出る。だから逃げられる場所は用意しておいたわけで。
それでも逃げたのは1千いたかどうか。
他はみな大地に倒れ伏している。
またも俺を恨む未亡人や親子が出てくるわけで。
そう思うとこの現実から早く抜け出したいとも思う。
「勝ったぞぉ!」
サカキが鬨の声をあげる。
誰もが戦闘の興奮と勝利の歓喜に笑顔だ。
その中で1人、笑顔を浮かべられないのは、どこか場違いなようで、でもやっぱりそれが自然なのだろう。
そう思った。
そして俺はクロエたち500騎を連れて北上。
斥候を前に伸ばし、敵に備えようとしたが、その前に1つの騎影を発見した。
敵かもしれない以上、1騎とはいえ油断はできない。
そう背後のクロエとウィットから殺気を感じる。
だがそれは杞憂に終わった。
「あ、隊長」
「イッガー!? どうした、こんなところで」
馬で駆けてきたのはイッガーだった。
走るのは早いが、疲労はどうしても出てしまう。だから乗馬の訓練をして、今では並みの騎兵レベルには馬を操るようになった。
時間が惜しかったため、俺はイッガーを隊に取り込んで、走りながらイッガーに状況を説明すると、
「なるほどです……じゃあもう意味ないですかね」
「何が起きたんだ?」
「シータからの援軍が近くまで来ています。船団にして200、4万ほどの兵が乗っています」
「そうか」
「それから、それに呼応して帝都から軍が出ました。赤地に金の縁取りの旗、元帥旗です」
「なんだって!?」
いや、それも当然か。
今、帝都は空に近い。その状況でウォンリバーを遡上され、途中で降りた軍が帝都を突けば一大事だ。
それに今、絶賛遠征中の皇帝の軍が孤立することになる。
それをさせないために、シータ軍のけん制として元帥が出てきたということか。
思った以上に厄介な展開になったな。
シータも4万という軍を出してきた以上、主力を割いてきたということか。
ヨジョー地方の周辺に各国の主力が勢ぞろいしている現状。
まさに俺たちの戦いが勝っても負けても大陸の趨勢を決するにたるものになってしまっている。
「分かった。それからここら辺に部下はどれくらいいるんだ?」
「隊長から以前に集めておけって言われましたから。20人はいます。前に言われていたとおり、そのうち半数は帝国軍で賦役の任務に当たってるかと」
ヨジョー城脱出のごたごたで、彼の部下はなんとか帝国軍にもぐりこんだらしい。
どんな軍でも、兵糧を運ぶのに兵士を運搬役に任命することはほとんどない。
単純に兵力の無駄だし、いざ襲われた時に疲れて戦えなくては護衛の任務として本末転倒だからだ。
だから兵糧を運ぶのは百姓や準軍役にある者だったり、その場で徴用した現地人だったりするわけで。
帝国軍という遠征軍であり、大軍であり、しかも百姓や奴隷が兵としている中、ばらばらになれば10人くらい賦役役としてもぐりこむのはわけないと思ったが、どうやらしっかりやってくれているようで一安心だ。
「よし、じゃああとは仕上げだ。お前は今すぐ陣に戻って……」
それからイッガーのやるべきことを彼だけに吹き込む。
いまさらこの部隊に内通者がいるとは思わないが、それでも用心を重ねるのにこしたことはない。
「……そんなことして、意味あるんですか?」
「ある。というよりそうする。だからその任務は重要で、かなり危険だ。嫌なら他の手を考えるけど――」
「いや、やります。……はい、やらせてください」
イッガーが食い気味に発言するなんて初めてだったから少し驚いた。
けどいつものぼーっとした感じからも、やる気が出ているようで、それは素直にうれしい。
「じゃあ、頼む。くれぐれも気を付けて」
「はい、隊長も。では」
そう言ってイッガーは離脱していった。
これから始まる戦いに、彼の馬術ではついてこれないだろう。
なんて偉そうなこと言ってるけど、俺もまだまだクロエたち並みに馬を扱いきれていないわけだけど。
「隊長殿」「隊長」
クロエとウィット、2人の声が同時だった。
「ああ、見えてる」
前方。土煙をあげて動く何か。
いや、ぼかしても仕方ない。
来た。
20万の大軍が横に広がって粛然と行軍してくる。
普通あそこまで広がれば厚みが減り、500騎でも突破は可能そうに見えるが、20万ともなれば厚みもかなりのものだろう。
もちろんそんな愚行はしない。
俺はこれからあの連中のどこかを動かして引き込まなければならないわけだが。
さてさて、どうしたものかな。
馬足を落としながら、『古の魔導書』を開く。
右からムノーン伯爵、ダメンダコラ侯爵、それにイキガイル子爵、で中央にミルグーシ公爵と皇帝陛下、と。
どれもこれも似たり寄ったりで甲乙つけがたい。
あえて指定するならダメンダコラかな。武力に自信をもってそうで、猪武者の気配もする。
「オムカのうじ虫ども! 貴様らはここに皇帝陛下がおわすのを知っての狼藉か!」
戦場に響き渡る大音声。
ミルグーシ公爵だ。
もちろん知っての狼藉で、恩も敬意もないから敵対するわけだけど。
それからもミルグーシ卿は何事かを叫んでいるが、こちらはもう聞く気はない。
「どうします? あれ、ルックにやらせます?」
「いや、あれを射たおしてもあまり意味はない。ここは少し距離を取ろうか」
と、ゆっくりと部隊を彼らの前を横に通り過ぎるようにして動く。
「あー、ミルグーシ卿。もういいよ。ダメンダコラ卿、あのザコどもを先陣の生贄にしちゃって!」
「御意!」
チャラ男皇帝の命令に勇躍して兵を前に出したのは、当たりをつけたダメンダコラだ。
歩兵を押しのけて騎兵が躍り出る。
その数、1万以上。
機先は制された形だが、もとよりこちらに本気で戦うつもりはない。
「よし、逃げるぞ」
馬首を返して走らせる。
「逃げるか、この臆病者!」
先頭を来る華美な軍装をまとったダメンダコラの怒声が響く。
クロエほか数名がそれに反応したみたいだが、俺が平然と馬を走らせているので何も言わずに従ってくる。
臆病者?
何が悪い。
猛然と突進して兵を死なせるのがそんなに偉いか?
勇敢に戦ったから敗北が許されると思ってるのか?
戦場に綺麗汚いもない。
勝ちがすべて。
勝たなければ守れない。
だから俺は戦う。
そして何と言われようと勝つ。
それが俺の理由。
ここにいる理由。
途中、追撃の手が鈍りそうになると、馬首を返して突っ込む構えを見せたり、ルックに弓を射させたりしてさらに引き込む。
1万以上の殺意を持った騎馬を背中に受けて、止まれば即破滅のプレッシャーがあったが、猪突な敵の様子を見ると罠を疑うそぶりもなくある意味安心した。
そして10分後。
地震により陥没した場所と森がある場所。
俺が兵を伏せた場所にたどり着くと、馬の速度を落とした。
「はっは! 観念したか! ならば死ね!」
背後から敵が猛進してくる。
それに対し、俺が馬に備えた旗を広げると、悠然と天に掲げた。
すると、森から弓と鉄砲による射撃が繰り返し行われ、背後の騎兵たちがバタバタと倒れる。
「は、謀ったなぁ! 卑怯者!」
テンプレ通りの返答ありがとうよ。
再び旗を振る。
それを見てアズ将軍は射撃をやめるはずだ。
もちろん敵を見逃してやるためじゃない。
「クロエ、ウィット!」
「了解です!」
俺を残して500騎が反転。
射撃で崩れた敵に猛然と突っ込む。
もちろんそれだけじゃない。
陥没した場所に潜ませたサカキたち歩兵、そして背後の退路を断つように北上したブリーダとグリードの騎馬隊が3方向から敵に突っ込む。
そうなればもう敵が1万いようが2万いようが敵わない。
ましてや足を止めた騎馬隊など、格好の的だ。
「あ、ありえん! ありえんありえんありえん! この武門の雄、ダメンダコラがこんなところでぇ!」
一番先頭にいた上に、その華美な鎧のため真っ先に狙われたダメンダコラは、クロエとウィットの連携で倒れた。
そして残った敵が次々と味方の手にかかる中、一部が北東へ逃走した。
完全包囲すると敵も必死になってこちらに犠牲が出る。だから逃げられる場所は用意しておいたわけで。
それでも逃げたのは1千いたかどうか。
他はみな大地に倒れ伏している。
またも俺を恨む未亡人や親子が出てくるわけで。
そう思うとこの現実から早く抜け出したいとも思う。
「勝ったぞぉ!」
サカキが鬨の声をあげる。
誰もが戦闘の興奮と勝利の歓喜に笑顔だ。
その中で1人、笑顔を浮かべられないのは、どこか場違いなようで、でもやっぱりそれが自然なのだろう。
そう思った。
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