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第5章 帝国決戦
第39話 御前会議
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「なるほど、事情は理解できました」
謁見の間で、マツナガが鷹揚に頷く。
そのご苦労と言わんばかりのツラ、やめろ。
「女王様。このような最上の結果を持ち帰った我らが軍師殿に、是非ねぎらいの言葉をかけてあげてはどうでしょう」
「う、うむ。ジャンヌ、よくやったのじゃ。余は信じておったぞ」
「はっ……」
堅苦しい挨拶だが、ここは公式の場。
一応、他の廷臣がいる状態でおちゃらけるわけにはいかないから、しょうがないとはいえ、なんかマツナガに仕切られるのが癪だ。
いや、宰相だから仕事をしてるだけなんだけど、なんだろう、この恩着せがましいと言うか、納得いかない感は。
「では、この状況について。意見のある者はいらっしゃいますか?」
マツナガが他の廷臣に水を向けた。
この状況――皇帝の身柄を確保し、敵を退け、さらにシータから援軍が来ている状況で、オムカが取りうる戦略は何か。
それを受けた廷臣たちは、最初はぽつりぽつり、だが徐々にヒートアップして喧々諤々の議論が展開された。
「講和など生ぬるい! 我らの手にある憎き皇帝返す理由どない! 血祭りにあげて今こそ帝国を打倒すべきだ!」「待て待て、そんなことをして帝国を本気にさせたらどうする。悔しいが帝国の国力は我々の倍以上あるのだぞ」「だがここで和睦をしたとして、数年後にどうなる? その間に我々は力を蓄えられるとはいえ、帝国だって同じだ。いや、国力差からすれば我ら以上の早さで成長するに違いない!」「だがここで勝てる要素があるのか? ここで負ければ、今回の勝ちも帳消しとなり、即刻亡国への街道を一直線だぞ!」「なに、我らには『不敗のジャンヌ』がいるではないか。彼女ならば帝国を打倒してくれるはずだ!」「おお、そうだ! 我らには『不敗のジャンヌ』がいる!」「しかも5万で30万の軍勢を打ち破ったのだ! シータが合流したのだから、50万以上の敵だって敗れるだろう」「うむ、これでオムカが再び大陸の覇者となるのだ。オムカ王国万歳!」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってくれ!」
まさか自分に飛び火するとは思わなかった。
てか全力で俺への丸投げじゃないか。なんだこれ。
これ、あれだろ。
俺が負けたら『何が不敗のジャンヌだ、ふざけるな』とかって怒られるパターンだろ。
だから俺は一度もそんな名乗りしたことないってのに!
「正直、次に勝つ事は約束できない。今回は相手が皇帝だったからできたわけで、次に出てくるのは帝国最強の元帥だ。そうなったら兵の多寡なんて関係ない。俺が負ける可能性だって十分あるんだ」
俺は懇切丁寧に認識と現実の乖離についてを説明したつもりだった。
だが、返ってきた反応は、
「そのような弱腰では困るな、ジャンヌ殿」「そうだ。我らの命は貴君にかかっているのだぞ」「そもそも皇帝に勝てて、その部下に負ける道理がないだろう」「それとも勝つ自信がないとか?」「まさか皇帝と内通して、オムカを滅ぼす気か!?」
なんで俺がここまで言われなきゃいけないんだ。
マツナガがにやにやして見てくるのが鼻につくあいつ絶対後で殴る。
俺としても言いたいことは山ほどあるけど、これまでの経験上、ここで反論をすると火に油を注ぐ形になる。かといってこのまま口をつぐんでいるのは、廷臣に反論できない無能の証拠になる。
だからどうしようかと迷っていると、
「いい加減にせんか!」
雷が落ちた。
そう思ったほどの迫力ある怒声。
「なぜおぬしらはジャンヌばかりをあげつらうのじゃ。そもそも宰相はおぬしらに何を望んだ? これからオムカが取るべき道を考えることだろう! ジャンヌが勝つから自分たちには関係ないとはよく言ったものじゃ! 恥を知るがよい!」
マリアだった。
マリアが、俺のために――いや、国のために怒っている。
しかもそれがしっかりと現実に沿った理由で言葉になっている。
きっとマリアは俺だから庇ったわけじゃないだろう。
仮の俺が別の人間でも、彼女は今怒ったはずだ。そういう内容なのだ、これは。
それは王者として、上に立つものとして必要なものだ。
公正な立場に立ち、物事の理非を見極め、それでいて横暴な理論を押し付けるわけでもない。
正当なお叱りを受けたのが分かったのだろう、廷臣たちはしゅんとしてしまっている。
そんな彼女の成長を見れて、そして実体験出来て、これまで色々言ってきた身としては感無量と言ってもいい。
ニーアもマリアの横でほほ笑んで頷いている。
「今日はこれにて閉会とする。明日にまた招集するゆえ、しっかりまとめてくるのじゃ。以上!」
その視線を知ってか知らずか、マリアは毅然と言い放つ。
そして廷臣たちが去り、いわば身内だけになったころ、
「ジャンヌ、大丈夫だったのじゃ?」
マリアが玉座から飛び降りてこちらに飛び込んできた。
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう。だけど、俺だけ特別扱いするなよ」
「わかってるのじゃ。でも今のはひどいのじゃ。ジャンヌでなくても、今のは言うべきだと思ったのじゃ」
分かってる上でも言わずには言われない。
この答えが聞きたかったから。
「いやー、あそこまで物事を見極めぬ者たちとは、思いもよりませんでした」
そんな中、しらじらしい感じでうそぶくマツナガ。
「お前、やっぱり……」
「勘違いしないで欲しいですね。私はそこまで落ちぶれてはいませんよ。そして貴女が必ず勝つなどということを信じる夢想家でもない。戦場での貴女は見事ですが、それ以外のところでは振り回され時にポカをして感情に支配されるポンコツですから」
「……そりゃどうも」
こいつに『不敗のジャンヌ』って信じ崇められるのも嫌だけどな。
「てかお前、なんか生き生きしてるな」
「そうでしょうか? いえいえいえいえ、私はいたって普通ですとも。普通に、いたって凡庸な真人間です」
「どの口が言うかよ……」
外交や謀略といった政略的な方が得意だからな。
その機会が巡ってきて張り切っているようだ。
これが普通の人間だったら、頑張ってくれと素直に応援できるのだが、それがこいつだと……不安しかない。
「で、ジャンヌ? そろそろあんたの意見も聞かせて欲しいんだけど」
ニーアが話の本筋を戻すよう、俺を見据えながら聞いてくる。
「あんたのことだからもう決まってるんでしょう? 帝国とどうするか」
「ほぅ。そうなのですか。まさかあの優柔不断で情に流されてよく判断を間違うジャンヌ・ダルクが! この大事で決定的で後戻りできない判断に、もうすでにはっきりとそこはかとなく決断したというのですか!?」
「宰相、それは言いすぎなのじゃ……」
「失礼。これでも抑えていたのですが」
「あんたのジャンヌ評ってどうなのよ……」
本当、ひどい言われようだ。
けど、そうだな。
ここの人間には言っておくべきだろう。
これまで考えに考え続けて、誰にも言わなかったこの結論を。
俺と、マリアと、この世界にいるすべからくの人間の未来を左右する決断を。
言葉に、する。
「講和しよう」
謁見の間で、マツナガが鷹揚に頷く。
そのご苦労と言わんばかりのツラ、やめろ。
「女王様。このような最上の結果を持ち帰った我らが軍師殿に、是非ねぎらいの言葉をかけてあげてはどうでしょう」
「う、うむ。ジャンヌ、よくやったのじゃ。余は信じておったぞ」
「はっ……」
堅苦しい挨拶だが、ここは公式の場。
一応、他の廷臣がいる状態でおちゃらけるわけにはいかないから、しょうがないとはいえ、なんかマツナガに仕切られるのが癪だ。
いや、宰相だから仕事をしてるだけなんだけど、なんだろう、この恩着せがましいと言うか、納得いかない感は。
「では、この状況について。意見のある者はいらっしゃいますか?」
マツナガが他の廷臣に水を向けた。
この状況――皇帝の身柄を確保し、敵を退け、さらにシータから援軍が来ている状況で、オムカが取りうる戦略は何か。
それを受けた廷臣たちは、最初はぽつりぽつり、だが徐々にヒートアップして喧々諤々の議論が展開された。
「講和など生ぬるい! 我らの手にある憎き皇帝返す理由どない! 血祭りにあげて今こそ帝国を打倒すべきだ!」「待て待て、そんなことをして帝国を本気にさせたらどうする。悔しいが帝国の国力は我々の倍以上あるのだぞ」「だがここで和睦をしたとして、数年後にどうなる? その間に我々は力を蓄えられるとはいえ、帝国だって同じだ。いや、国力差からすれば我ら以上の早さで成長するに違いない!」「だがここで勝てる要素があるのか? ここで負ければ、今回の勝ちも帳消しとなり、即刻亡国への街道を一直線だぞ!」「なに、我らには『不敗のジャンヌ』がいるではないか。彼女ならば帝国を打倒してくれるはずだ!」「おお、そうだ! 我らには『不敗のジャンヌ』がいる!」「しかも5万で30万の軍勢を打ち破ったのだ! シータが合流したのだから、50万以上の敵だって敗れるだろう」「うむ、これでオムカが再び大陸の覇者となるのだ。オムカ王国万歳!」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってくれ!」
まさか自分に飛び火するとは思わなかった。
てか全力で俺への丸投げじゃないか。なんだこれ。
これ、あれだろ。
俺が負けたら『何が不敗のジャンヌだ、ふざけるな』とかって怒られるパターンだろ。
だから俺は一度もそんな名乗りしたことないってのに!
「正直、次に勝つ事は約束できない。今回は相手が皇帝だったからできたわけで、次に出てくるのは帝国最強の元帥だ。そうなったら兵の多寡なんて関係ない。俺が負ける可能性だって十分あるんだ」
俺は懇切丁寧に認識と現実の乖離についてを説明したつもりだった。
だが、返ってきた反応は、
「そのような弱腰では困るな、ジャンヌ殿」「そうだ。我らの命は貴君にかかっているのだぞ」「そもそも皇帝に勝てて、その部下に負ける道理がないだろう」「それとも勝つ自信がないとか?」「まさか皇帝と内通して、オムカを滅ぼす気か!?」
なんで俺がここまで言われなきゃいけないんだ。
マツナガがにやにやして見てくるのが鼻につくあいつ絶対後で殴る。
俺としても言いたいことは山ほどあるけど、これまでの経験上、ここで反論をすると火に油を注ぐ形になる。かといってこのまま口をつぐんでいるのは、廷臣に反論できない無能の証拠になる。
だからどうしようかと迷っていると、
「いい加減にせんか!」
雷が落ちた。
そう思ったほどの迫力ある怒声。
「なぜおぬしらはジャンヌばかりをあげつらうのじゃ。そもそも宰相はおぬしらに何を望んだ? これからオムカが取るべき道を考えることだろう! ジャンヌが勝つから自分たちには関係ないとはよく言ったものじゃ! 恥を知るがよい!」
マリアだった。
マリアが、俺のために――いや、国のために怒っている。
しかもそれがしっかりと現実に沿った理由で言葉になっている。
きっとマリアは俺だから庇ったわけじゃないだろう。
仮の俺が別の人間でも、彼女は今怒ったはずだ。そういう内容なのだ、これは。
それは王者として、上に立つものとして必要なものだ。
公正な立場に立ち、物事の理非を見極め、それでいて横暴な理論を押し付けるわけでもない。
正当なお叱りを受けたのが分かったのだろう、廷臣たちはしゅんとしてしまっている。
そんな彼女の成長を見れて、そして実体験出来て、これまで色々言ってきた身としては感無量と言ってもいい。
ニーアもマリアの横でほほ笑んで頷いている。
「今日はこれにて閉会とする。明日にまた招集するゆえ、しっかりまとめてくるのじゃ。以上!」
その視線を知ってか知らずか、マリアは毅然と言い放つ。
そして廷臣たちが去り、いわば身内だけになったころ、
「ジャンヌ、大丈夫だったのじゃ?」
マリアが玉座から飛び降りてこちらに飛び込んできた。
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう。だけど、俺だけ特別扱いするなよ」
「わかってるのじゃ。でも今のはひどいのじゃ。ジャンヌでなくても、今のは言うべきだと思ったのじゃ」
分かってる上でも言わずには言われない。
この答えが聞きたかったから。
「いやー、あそこまで物事を見極めぬ者たちとは、思いもよりませんでした」
そんな中、しらじらしい感じでうそぶくマツナガ。
「お前、やっぱり……」
「勘違いしないで欲しいですね。私はそこまで落ちぶれてはいませんよ。そして貴女が必ず勝つなどということを信じる夢想家でもない。戦場での貴女は見事ですが、それ以外のところでは振り回され時にポカをして感情に支配されるポンコツですから」
「……そりゃどうも」
こいつに『不敗のジャンヌ』って信じ崇められるのも嫌だけどな。
「てかお前、なんか生き生きしてるな」
「そうでしょうか? いえいえいえいえ、私はいたって普通ですとも。普通に、いたって凡庸な真人間です」
「どの口が言うかよ……」
外交や謀略といった政略的な方が得意だからな。
その機会が巡ってきて張り切っているようだ。
これが普通の人間だったら、頑張ってくれと素直に応援できるのだが、それがこいつだと……不安しかない。
「で、ジャンヌ? そろそろあんたの意見も聞かせて欲しいんだけど」
ニーアが話の本筋を戻すよう、俺を見据えながら聞いてくる。
「あんたのことだからもう決まってるんでしょう? 帝国とどうするか」
「ほぅ。そうなのですか。まさかあの優柔不断で情に流されてよく判断を間違うジャンヌ・ダルクが! この大事で決定的で後戻りできない判断に、もうすでにはっきりとそこはかとなく決断したというのですか!?」
「宰相、それは言いすぎなのじゃ……」
「失礼。これでも抑えていたのですが」
「あんたのジャンヌ評ってどうなのよ……」
本当、ひどい言われようだ。
けど、そうだな。
ここの人間には言っておくべきだろう。
これまで考えに考え続けて、誰にも言わなかったこの結論を。
俺と、マリアと、この世界にいるすべからくの人間の未来を左右する決断を。
言葉に、する。
「講和しよう」
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