知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
499 / 627
第5章 帝国決戦

閑話22 水鏡八重(シータ王国四峰)

しおりを挟む
 私はどうするべきなのだろう。

 その問いは、ここ十数日。
 私の心を悩ませ続けていた。

 アッキーから援軍の要請を得て、川を遡ってたどり着いて見れば、私は究極の選択を突き付けられることになった。

 講和か、徹底抗戦か。

 その判断のためアッキーが国に戻ると聞いて、私も、部隊は雫に任せて明のいる首都まで戻った。
 アッキーより先に戻れたのは、船での移動だったからと、今後の方針について議論が全くなかったからだ。

『判断は八重、君に任せるよ。君の判断なら、僕は何も言わない』

 思い出すと、怒りと安堵を覚える。
 丸投げされたことに怒りを、自分の意思を尊重してくれたことに安堵を。

 あまつ淡英たんえいにも会って話を聞いたけど、講和でも決戦でもどちらでも、という感じだった。
 正直、帝国との戦いは攻めあぐねているのもあり、残念なことながらシータ王国一国では帝国に抗いきれないという話もあった。

 それを自らの力不足と素直に認める天は、公平で視野が広いのだと思う。

 だからシータ王国の行先は、私の判断に任された形になる。
 いや、そう見える。

 けど違うのは自分がよくわかっている。
 明も天も淡英も分かってて言い出さないだけだろう。

 この講和について、私に決定権はない。
 あるのはアッキーだ。

 彼女が戦うとなれば、自分たちも戦わなければ帝国には勝てない。
 彼女が戦わないとなれば、自分たちだけでは勝てない。

 あまりに人任せだが、それが現実。

 だから一度アッキーと話し合って決めると言った時、明も天も淡英も何も言わずに送り出した。
 その間も考え続けた。

 アッキーの判断に従うか否か。
 問題はそれだ。

 先に考えた通り、オムカが協力しなければ帝国には勝てない。
 帝国に勝てなければ元の世界には戻れない。

 ならアッキーに徹底抗戦を説くべきなのだろう。
 だけどそれが叶うかは難しいところだ。

 彼女が即座に講和の話を蹴らなかった以上、国に戻った以上、講和は濃厚だとみている。

 そうなれば皆は元の世界に戻れない。
 いや、言いつくろっても仕方がない。

 私が、戻れない。
 家族の元へ。
 再び夢を見られない。

 それは、嫌だった。

 けどどうする?
 アッキーに講和はやめてと訴えるの?

 自分ひとりの願いのために、欲望のために。
 数多の人間を犠牲にして、私の願いを叶えるの?

 おそらくアッキーは、それが嫌だったんだろう。
 彼女は、なんだかんだで責任感が強く、優しい人間だ。だからこの世界の生きる人のために、自分を捨てて戦いをやめるくらいのことはする。
 だからたとえ私が訴えても、粛然としてそれを受け入れてなお意志は変えないだろう。
 彼女はあれで頑固だから。

 なら私はどうする?
 そんなアッキーをどう変える?
 それとも、私自身があきらめるのか。

 それでも、アッキーが戻ってくる段階になって、未だに答えはでない。

「ねぇ、雫はどうしたい?」

「……ん」

 一度、アッキーが来る前に雫と2人きりになって聞いたことがある。
 その時は、何を考えてるか分からない瞳を宙に投げて、しばらくしてから、

「戻りたい」

「! そうなの」

「この世界は、悲しい記憶が多いから」

 言われ、気づいた。
 彼女はまだ時雨のことを忘れられていないということに。そしてそれを考えずに指摘してしまった自分の迂闊さに。

「でも、この世界には優しい人が多いから、戻れなくても、いい」

「……そう、ごめんね」

「なんでミカが謝る?」

「……自分も、分からないわ」

 その時はそうやって彼女の追求から逃げるしかなかった。

 そして今。

「講和についてだけど」

 アッキーに連れられ、城の端にある一室に迎え入れられた。
 私とアッキー、それと雫だけの空間。アッキーの護衛とかいうサールと名乗った子は、部屋の外で見張りをしている。

 そこでアッキーがその思いを語る。

「俺は、いや、オムカは講和を受けることになる」

「理由を聞いていい?」

 私は努めて感情を外に出さないよう心掛けて、それは成功したと思う。
 逆に、感情のこもらない、平坦な声になったと思うけど。

「……言えない」

 アッキーがそう言った途端、椅子が激しく倒れる音がした。
 私じゃない。
 私はかろうじて制御した。

 だからその相手を呼ぶ。
 制止の意味を含めて。

「雫!」

「でも」

「いいから」

「…………」

 雫は不満そうな顔で、再び椅子に腰を下ろした。

「すまない」

「謝るの?」

「いや、雫を止めてくれたことにだよ。講和については、俺は謝るつもりはない」

「そう。それでいいわ。謝ってたら私がぶっとばしてた」

「…………」

 それでもしゅんと肩を落とすアッキー。
 はぁ、本当にまじめで頑固だわ。

 きっと言えない理由も、その生真面目さに根付いたものだろうから。
 だからなんとなく、アッキーのことも許せる自分がいた。

「そんな顔しないの。もともと、アッキーとは別の国の、本来は争う人同士なんだから」

「でも……」

 あぁ、もう。
 そんな顔しないでよ。

 決意が、鈍る。
 戻れなくてもいいと、言えなくなる。

 だから私は目を閉じ、一瞬アッキーの姿を視界から消す。
 そして落ち着きを取り戻して、そしてできるだけアッキーを視界に入れないようにして、言うことにした。

「私はすぐに戻れなくてもいい。家族は、きっとたくましく生活してるだろうし。少し遅れたところで、大丈夫だから」

「…………すま……いや、ありがとう」

 はにかむように笑うアッキー。
 あぁもう。お持ち帰りしたい。独占したい。

 けどもう無理しなくていいのかもしれない。
 アッキーとはしばらくこの世界で一緒にやっていくことになるのだから。

 だから……。

「じゃあ、私は先に戻るわね」

「ああ。明日、講和について詰めるから、人をやるよ」

「ん」

 それ以上は無理だった。

 駆け去るように部屋を出ると、そのまま走り出す。

 視界が歪んだ。
 なぜか目から水があふれて止まらない。

 視界がないから、何人かに当たって舌打ちされた。
 けどそれも見えないからどうでもいい。

 会えない。
 両親に。東馬とうま美玖みくに。

 アッキーには大丈夫と言った。
 けど、何年先になる? その時に本当に勝てる? それまでに自分が死ぬことだってあり得る。
 今、この時こそ元の世界に戻るチャンスなんじゃないか?

 そう思い始めたら止まらない。
 けど、アッキーの想いを邪魔するのも嫌。

 本当に、どうしようもなくわがままだ、私。
 その事実に今更ながら気づかされて、なんだか恥ずかしくなる。

「ミカ!」

 背後から雫の慌てた声が聞こえるけど、足は止まらない。
 この顔も、姿も、雫には見せたくなかった。

 だからその声から逃げるように、ただ猛然と走る。
 そして、

「あ、姐さん。どこに――っ!」

 見知った声が聞こえた。
 それが分かると、前も見ないまま突進して、そのままぶつかった。

「あ、あ、あああ、姐さん!?」

 もういい。
 アッキーの前でやらなかっただけ十分。
 こいつの前では、きっと大丈夫。

 だから私は、うろたえる良介の胸に思いっきりの泣き声をぶつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...