知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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間章 それぞれの決断

間章5 サカキ(オムカ王国軍先鋒隊長)

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 眼下の平原を地鳴りが駆け抜ける。
 土ぼこりを舞い上げ疾走するのは2つの騎馬隊だ。

 1千ずつ率いるというから、合計2千の騎馬が大地を駆ける。
 それでも少し離れたここまで振動が伝わってくるのだから、すさまじいものだ。

 ブリーダとグリードの騎馬隊の模擬戦。
 停戦が発表されてから、来るべき決戦に備えて残る時間をひたすら調練に当てることになった。

 一応まだ完治の宣言はされていないものの、馬に乗ってリハビリ段階の俺は調練には参加せずにこうして各地の調練を眺めることにしている。
 基本的に一人旅も同然のものだったが、今日は同行者がいた。

「相変わらず動きはいいな」

 クルレーンが騎馬隊の模擬戦を眺めながらそうつぶやく。

 今日は鉄砲隊の調練は休みらしい。
 俺が馬に乗って王都から出ようとしたところ、一緒に行こう、という話になったのだ。

「ま、当然だろ。うちの矛の二本柱だぜ」

 騎馬隊の突撃と鉄砲隊の斉射。
 その2つがオムカ軍随一の攻撃力を持つ部隊であることは疑いがない。

「ふっ、3本の間違いだろう? なぁ、先鋒隊長さん?」

「お世辞か?」

「いや、本音だよ。あんたの突撃は脅威を通り越して悪夢だ」

「ま、そりゃ鉄砲撃ちからすりゃそうだろうよ」

 鉄砲隊は遠距離からの射撃はそれこそ最強だが、近づかれると存外脆い。
 武器は鉄砲を除けば、護身用の小刀くらいなものだからだ。

 まぁお世辞とはいえ、味方にそう褒められるのは悪くない。

「お、ブリーダが仕掛けるぞ」

 クルレーンが眼下の戦場に注意を向ける。
 見ればブリーダの隊――青い布を肩に巻いている――が、相手のグリード隊――こちらは赤い布だ――の突撃に押されるようにして下がる。

 グリード隊の一直線の突撃に潰走かと思ったがそうではない。
 逃げながらもその隊列は乱れず、しっかりとまとまっている。

 それを、グリード隊は(おそらく勢いをつけるためだろう)少し回り込みながら一直線に突っ込んでいく。

「勝負あったな」

「ああ」

 クルレーンのつぶやきに同調する。
 これはブリーダの罠だ。

 一直線に来る騎馬隊。
 一応、味方なのだからある程度はその性質をつかんでいるため、グリードがそこから横へ動かないのを知っていれば、その対処の仕方は簡単だ。

 ブリーダは激突する直前に部隊を分け、相手の突撃をいなした。
 そして左右からグリードの隊に噛みつく。はらわたを食い破られたように、グリードの隊がのたうち回る。

 勝負あった。

 だがそこで予想外のことが起きた。
 グリード隊の先頭、おそらくグリード本人がいるところだろう。
 そこが急反転してブリーダの最後尾に食いついたのだ。

 そこかしこで乱戦となり、もはや部隊の勝負から個々の戦いになってしまった。
 そんな時に鉦が鳴った。

 戦闘終了の合図だ。

「ふっ……相変わらずあのビンゴの御仁はめちゃくちゃだ」

「だが、それが相手には脅威になるんじゃないか?」

「そうだな……ところで」

 と、クルレーンがこちらに視線を向ける。
 そこには少しいぶかしがるような、疑念の色があった。

「傷はどうなんだ?」

 突如言われて、少なからず動揺した。
 それでも表情に出さないようになったのは、我ながら成長したと思う。
 あるいは、ジャンヌあいつに聞かれた時のために心構えはしていたのかもしれない。

「問題ないさ。退院は医者のお墨付き。来月には間に合わせる」

「……そうか」

 嘘は言っていない。

 医者からはあと1年、少なくとも半年は療養に努めるように言われた。
 普通に生活する分には問題ないが――ここ最近いろいろと酷使したためだろう――体がボロボロで少なくとも軍人としては生活できないとも。

 けど決戦は来月だ。

 そんなときに、俺が、先鋒隊長の俺がベッドで寝ていていい理屈にはならない。
 だからこうしてリハビリをして、なんとか少しでも動けるように体を作る。

 辛いとか苦しいとか言ってられない。
 何よりも辛くて苦しいのは、ジャンヌの方なのだから。

 講和に失敗した。
 それすなわち、オムカ王国が危急存亡の危機を迎えていることに他ならない。
 それをあんな小さな体で受け止めようというのだから、俺がここで弱音を吐いてどうする。

 そう思えば、辛くも苦しくもない。
 そう、信じた。

「問題ないさ」

 もう一度、念を押すようにクルレーンに伝える。

 クルレーンから一瞬刺すような目つきになる。
 だがすぐに元の冷静沈着に戻ると、小さくため息をついてこう言った。

「わかった。ならばもう何も言わん」

「ああ。そうしてくれ」

 それきり視線を外してしまったクルレーン。
 もしかしたら俺が心配で、そのことを聞きに同行したのかもしれない。

 へっ、なんだよ。こいつもいいところあるじゃねぇか。
 あんまり交流がなかったから知らなかったけど、もう少し早く話でもすればよかった。

 ま、言ってもせん無いことだろうけどよ。

「だーかーらー! なんであのタイミングで突っ込んでくるんすか! あんな見え透いた誘いに乗るなっす! つかなんでそこまで一直線なんすか! 騎馬隊の真骨頂は機動力っす! 一直線に来る騎馬隊なんて良いまとっす、イノシシっす!」

「ふっ、あまいぞダメンダー。我が騎馬隊の真骨頂は突撃、突貫、突破だ!」

「誰がダメっすか! つか半分やられておいて何でそんな意気揚々なんすか!」

「だがお前の部隊にも被害は大きかったではないか?」

「そりゃあれだけ強引に来られたらそうなるっす! けどうちの軍師殿は、そういう犠牲が出るのは好まないっすよ」

「むむ、ジャンヌ殿か……だが我が信条を裏切るのは……はっ、そうか! 我らの被害を抑え、相手の被害を増やす――つまりもっと攻撃力を上げればよいのだな! 感謝するぞ、ダメンダー!」

「隊長、この脳筋、死なせても問題ないですよね」

「アイサ、ここはこらえてほしいっす……」

 どうやら模擬戦が終わったらしい。
 3頭が休憩に入った騎馬隊から離れこちらに向かってくる。

「やれやれうるさいのが来たな」

 クルレーンがそう苦笑する。

 確かにうるさい奴らだ。
 けど、その元気さが頼もしい。そして、羨ましい。

 きっと俺が働けるのも、あと少しだけだろうから。

「先鋒隊長、ちょっとなんとかしてくださいっす! この男、ひょっとしたらうち一番の愚か者ですよ。前進しか知らないっすから!」

「ダメンダー、ビンゴ王国にはこんなことわざがある。愚直なものこそ大功を成す、だ」

「知らないっす! てかあんたのは愚直じゃないっす! ただの自爆っす!」

「おお、よいではないか。我が王のため、ジャンヌ殿のため、わが身を捧げることこそ本望!」

「ああ、もう嫌っす……こいつ」

「まぁ、悪気があるわけじゃないだろ。使いどころを見極めればかなりの破壊力になるってことだからな」

 一応、というか下手にぎくしゃくされても困るので擁護してやる。

「それはそうっすけど……見極めるねぇ」

「それをやるのがうちの軍師様じゃないのかい?」

「ん……あぁ、それもそうっすね。とりあえず軍師殿には報告しておくっす」

「それはそうと、彼女はもう大丈夫なのか?」

 不意に差し込まれたクルレーンの問いに、俺とブリーダがぴくりと反応する。

「ん? なにかあったのか? ジャンヌ殿が?」

 事情を知らない、あるいは知っても何が問題かわかっていない様子でグリードが聞いてくるが無視。

「一応大丈夫だと、一緒に住んでるクロエからは聞いたよ。リナの嬢ちゃんがなんとかしてくれたってな」

「ああ、なんか付き合いが長いって言ってたっすからね」

 あの2人がどういう関係なのか。
 ジャンヌの言う前の世界というもの、そのことなのだろうか。

 いや、考えまい。
 今大事なのは、一応ジャンヌが立ち直ったということ。

 そしてきっと彼女は俺たちを導いてくれる。
 なんてったって彼女は旗を振る者ジャンヌ・ダルクなのだ。

 だからその時が来るまで、俺は俺でいろいろ準備しないといけない。

「ん、どうしたっすか?」

「いや、ジャンヌは可愛いなぁ、って思ってさ」

「時々、羨ましく思うっす。その、本能に忠実というか、なんというか」

「能天気と言うのだ」

「なっ、クルレーン! 俺のどこが能天気だ!」

「そこの顔と、手と胸と足と……うむ、全身だな」

「あー、それはなんかわかる気がするっす!」

「お前らな!」

「ジャンヌ殿への愛は私が一番だぞ、ダメンダー!」

部外者グリードは黙ってろっす!」

 口では言いあうものの、なんとなくこいつらとは気脈が通じる感じがする。
 そして彼らも分かって軽口を叩いているのだろう。

 来るべき決戦。
 おそらく、この中のいずれかが、あるいは全員が、二度とこうして笑いあえないことになると。

 だから今。
 こうやって、今を大切に生きている。

 そう感じれたこと。
 それはとても、素晴らしいことじゃないか?
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