知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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間章 それぞれの決断

間章4 澪標愛良(プレイヤー)

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 感情のままに行動する。
 それは正しいことだと言ったのは誰だったろうか。

 一時の感情に身を任せる。
 それは馬鹿なことだと言ったのは誰だったろうか。

 オレは、どちらかといえば感情のままに生きた。

 それで昔から喧嘩ばっかで、あまり友達もおらず、チームに入ってからは学校からも遠ざかり、ダメな男と一緒になって、そして事故死した。

 けど悪いことばかりじゃない。
 チームの連中はいいやつらばかりだったし、そこにオレは居場所を見いだせた。

 何より、亜里沙を授かった。

 目に入れても痛くない、なんて眉唾物だったけど、それを実感した。
 亜里沙のためなら、死んでもいいと思った。

 だから注文通り死んだ。
 けど違うのは亜里沙のためじゃない、ということ。

 なんでもないところでオレは死んで、亜里沙を独りぼっちにさせてしまった。

 だから元の世界に戻れるのならば、生きて再び亜里沙に会えるのならば、もうどうなろうといい。
 そう思った。

 だから感情のままに行動した。

 あの子のもとを飛び出した。
 いや、実際は年上だって言ってたっけか。

 ジャンヌ・ダルク。
 亜里沙とどこか似た彼女。

 心苦しくはある。

 おそらく亜里沙が成長したらあんな感じになるのかなと思ってしまった彼女に、何も告げずに去ったのだ。
 原因は確かに向こうにある。元の世界に戻れるようにするという誓いを、あろうことか反故にしてしまったのだ。

 だからオレは悪くない。
 きっとオレは間違ってない。
 だって悪いのは、裏切ったのはあっちだから。

 そう思い、ゆえに飛び出して、そして今、後悔している。

 その理由は3つだ。

 1つは、そもそも元の世界に戻る約束というが、それはオレのわがままじゃなかったか? そう思ったこと。

 彼女も年上とはいえ、まだ若いし、この世界に少し順応しているだけでただの人間だ。
 出会ってからずっと見てきたけど、彼女はどこか脆い。肉体的じゃなく、精神的に弱いところがある。

 そんな彼女に、オレは完全に丸投げしてなかったか?
 元の世界に戻るなんて大事業を、任せきりにしていなかったか?

 オレがやったことといえば、彼女を守ったことが1回、それと孤児院でアルバイトしていたくらい。
 何ら元の世界に戻ることに貢献できていないのだ。

 それなのに、元の世界に戻れないと知るや、不平不満を並べ立てるなんて……すっきりしない。
 オレが一番嫌いなタイプだ。

 2つ目は、現実的で切実。
 空腹だ。

 思い切って飛び出してみたけど、ここはどこか中世っぽいような感じで、街灯もなければ道路もろくに整備されてない。
 スーパーやコンビニなんてものもないし、電車なんてありえない。

 孤児院でのアルバイト代を持ってはいたが、はした金ですぐに底をついた。
 何よりお風呂に入れないのが痛い。やっぱり日本人はお風呂だ。体がさっぱりするだけじゃなく、心も洗濯できる。もう何日お風呂に入っていないか。

 そして最後の3つ目。

 まぁこれがオレの短絡的な、一時の感情に身を任せたツケとでもいうのか。

 神の声が、聞こえた。

 幻聴かと思ったけど、一時立ち寄った町ではその話題で持ち切りだった。
 だから本気なんだと思った。

 本気で、統一をやるというのだ。

 和睦が破談となれば、あとは戦うだけ。
 勝てば、元の世界に戻れるのだ。

 そうなると彼女のもとを飛び出さなければよかったと本気で後悔した。
 戻ろうかと思ったけど、どの面下げて戻れというのか

 これでもオレにはプライドがある。
 格好よく生きるというプライドだ。

 一度感情に任せて飛び出したところに、すごすごと帰っていくのはオレ的には美意識が許せない。

 だから帰れない。

 けど、もうそうなるとオレは行くところがない。

 もはやこのまま野垂れ死にする方がいいのか。
 この辺は治安が悪い。
 何回か盗賊みたいな連中に襲われそうになったのをスキルで切り抜けたけど、あるいはそこに身を投じるのも悪くないかもしれない。

 そんな益体のないことを考えていると、

「!?」

 ふと目の前が暗くなった。
 疲労か、空腹か、両方かでついに倒れたのかと思った。

 だが違った。

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! はい! というわけで女神ちゃんDEATH(です)!」

 目の前に現れたのは白い布状の服を着た女性。

 女神?

 そういえばこの世界に来た時、このふざけたテンションの女がいたけど……。
 それが女神?

 それにこの声は、あの神様とか言ってたのと同じ?

「そうそう、みんなのアイドルにして創世神の女神ちゃんだよー! アイラちゃん元気してるー? してないねー、死にそうだねー」

 …………。

「うん、声を出すのも億劫って感じ? まったく、もうしょうがないなぁアイラちゃんは。感情を処理できない人間はゴミだって教えたはずなんだけどなー。うん、まぁそれがだが逆に何より可愛いところなんだけどねー!」

 う、うるせ。

「いやーん、照れてるー、可愛いー」

 か、可愛いとか言うな……。

「あー、これあれだ。ひらひらのフリルとか着せたら、『オレなんかが着ても似合わないだろ』『いや、よく似合ってるよ』『うっ……ば、バカモノー!』ってデレるやつだ」

 意味が分からなかったけど、なんか屈辱だった。

「てゆうかアイラちゃんがここで野垂れ死にとかされたら、それはそれで困るんだよね。プレイヤーはちゃんとどこかに所属してもらわなきゃ!」

 所属とか言われても、あいつのところに戻れないオレに行き場所なんて……。

「ほい! そんなアイラちゃんにウルトラジャンピングチャーンス!」

 ウルトラ?

「そう、新しい所属先をこの女神ちゃんが斡旋してしんぜようっていうね。頑張れば元の世界に戻れるかもねー」

「!」

「お、目が本気マジになったねー。本気と書いてマジだねー。じゃあ教えよう。ここから北へ進みなさい。そこで新たな出会いがあるでしょう」

 北……。

「信じる信じないはアイラちゃんの自由。つまり信仰の自由に選択の自由。まさに民主主義万歳だね!? ま、元の世界に戻りたくないなら信じないでそこらへんで野垂れ時ぬしかないけど」

 そんなことない!
 元の世界に戻りたい!
 亜里沙とまた会いたい!

「うふふー、じゃあ信じてみるがよろし。信じる者は救われるのですー。というわけでわたしも忙しいからね、ここらへんでおさらばです。ばららーい」

 ふっと暗闇が晴れ、辺りは再び彩色を取り戻す。

 まるで今のが白昼夢だったかのような、あるいは悪夢だったのかのような感覚。

 なんら現状は変わってない。
 疲労も空腹も何も改善されていない。

 それでも、

「北……」

 目指すべき場所。
 それが分かっただけでも、気力が満ちる。足が前に出る。

 それから何分、いや何時間歩いただろう。
 頭上にあった太陽は、今や左手の山に沈みかけている。

 けど何かがある。
 そう信じて北へと向かう。

 だが、太陽が最後の残光を輝かせるころ。
 精魂尽き果て、まさかあの女神に担がれたのかという思いが、回らぬ頭をじわじわと浸食し始めたころ。

 何やら左の方から人の気配、ざわめきが聞こえた。

 もしかしてまた盗賊か。
 もうこの体の調子では戦うこともできない。逃げることもできない。
 そうなればもうなぶり殺しだ。
 いや、これまで彼らの態度を見ている限り、死ぬよりもっと辛いことをさせられるかもしれない。

 なら、死ぬか。

 いや、そんなの嫌だ。
 元の世界に戻るんだ。
 私は亜里沙の元に戻る。
 なんとしてでも。

 そんな決意を新たにしている間に、相手はすでに近づいていた。

 戦う。
 元の世界に戻る。
 そのために、今ここで戦ってやる。殺してもやる。

 だから戦うためにスキルを発動しようとして――

「おや、こんなところでどうしました?」

 飛び込んできたのは優しい、語りかえるような声。
 その声に、毒気を完全に抜かれた。

 そして続く言葉は、私の動きを止めるのに十分な威力を発揮する。

「その服……まさか、貴女はプレイヤーですか?」

 服?
 あぁ、そうだ。
 いつもの特攻服。

 お気に入りのやつなのに、もう旅でボロボロだ。
 けど、それが分かるということは、プレイヤーだということは、この男も――

「その姿。よほど辛い思いをしてきたのでしょう。どうですか、私と一緒に来ませんか? 少なくとも泊まる場所と暖かいスープくらいはお出しできますが」

 スープ、と聞いてゴクリとのどが鳴った。
 まだ唾液があることに驚いたし、それほど好きじゃないスープが、今では文字通り砂漠で与えられる一杯の水に感じた。
 そしてこの男を、まさに神の使途のように感じてしまった。

 彼が神父さんのような特殊な服を着ていたから、そう思ったのかもしれない。

 そして、その神父が、何かを思い出したかのようにして、言った。

「これはご紹介が遅れました。私は赤星煌夜あかぼしこうやと申す者。エイン帝国に所属しているパルルカ教の教皇をしております。貴女のお名前は?」
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