知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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間章 それぞれの決断

間章8 五十嵐央太(オムカ王国諜報部隊長)

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 ジャンヌ隊長が変だという話は耳にしていた。
 それは他人の心の機微に鈍い自分でも、なんとなくわかった。

 立花さんやクロエがいろいろやっているようだけど、その効果は表れていないように見える。

 講和の件は聞いた。
 この世界のルールの改変のことも聞いた。

 そのことにあの優しい彼女は責任を感じてしまっているに違いない。

 これでも自分は彼女に救われた身だ。
 生きる場所を与えてくれた恩人だ。

 だからこそ、彼女の――もちろん、自分なんて彼女にとってはその他大勢の1人なんだろうけど――何か役に立ちたいと思うのは当然のことであって。

 とはいえどうするべきかわからないから、数少ないコミュニケーションのとれる相手に相談することにした。

「トシが変? 何を言ってる、山崎君。トシはいつも通りじゃないか」

 新沢が変なものを見るような視線を向けてきた。

 聞いた相手がまずかったかな。
 てゆうかこの男くらいしかまともに話せる相手プレイヤーがいないって……自分のコミュ能力の低さに呆れるしかない。

 ちなみに最近、ようやく呼称が定まってきた。
 隊長がトシ、玖門くかどさんが総司、自分が山崎君だ。
 意味は分かってないけど、なんとなく自分より隊長や玖門さんに友好的なのは分かる。

 そうか、彼女がいたか。

 玖門竜胆。

 あの隊長にほど近く、あのテンションの持ち主なら、隊長を元気づけられるのではないか。

 そう思って、彼女の元を訪れた。

 彼女は孤児院にいた。
 失踪した澪標さんに代わって、今では彼女がここで働いているというのは知っていたから。

「およ、イッガーさん、お久しぶりです!」

「おや、イッガーの旦那。こんなところに珍しいさ」

 珍しいメンツだった。
 玖門さんとは、帝都潜入の時に一緒だったけど、以降はそこまで綿密なかかわりがあるわけじゃない。
 対して同じく帝都で一緒だったミストとは旅程が一緒だったこともあり、その後に情報交換とか各国の店を隠れ家に使わせてもらったりと、いろいろと仕事面での付き合いがあった。

 そしてもう1人が――

「あ、初めまし、て? じゃないけど、確か話すのは初めてだよね。私は林田林檎。歌うたいやってます! よろしくね!」

「えっと……はぁ……五十嵐……イッガーです」

 なんかぐいぐい来るこの感じ。
 しかもリア充っぽい陽キャ。苦手だ。

 というより、何より問題なのが――

「あっははー、似てるだろうさ? アヤ・クレインに?」

「だから、その似てるのってやめてくれません? 私は私なんで!」

「でも双子の妹ってことで受けてるじゃないさ?」

「うぅ、それはそうですけど……」

「大丈夫です! 林檎さんはお姉さんの遺志を継いで歌手を続ける、これこそ正義ジャスティスです!」

「えっと……そういうわけじゃないんだけど……」

 そう。似ているのだ。
 というか本人かと思った。

 帝都に潜入した時に出会った、彼女アヤに。

 初めて彼女の歌を聞いた時、芸能に疎い自分でもこれは本物だと思った。
 なぜか自然と涙がこぼれた。自分が歌で泣ける人間なのだと感じて、少し新鮮だった。

 だから正直、いまだに信じられない。

 彼女が死んだ、という情報を真っ先に得たのは自分だ。
 それを隊長へと申し送った。

 ショックだった。
 それほど親しい間柄ではなかったけど、感動したのは間違いないことだし。なにより認知されたいという欲がこれほどまでに大きい人を初めて見た。

 憧れ、という感情だったのかもしれない。
 ひたすらに日陰者だった自分からすれば、まぶしい太陽みたいな存在だったのかもしれない。

 それでも時間がこの傷心を癒してくれると思った矢先の林田林檎だったのだ。
 だからなんとなく気まずくて、特にこちらから話しかけることもなく、今に至るわけで。

「イッガーさん? よろしく! てか聞いてるよ、忍者なんでしょ!?」

「え、いや……その、それは……」

「ね、火って吹ける? 水の上を走るって本当? ちょっとカエル呼んでみて? てかござるって言わないの?」

 矢継ぎ早の質問に、目を白黒させてしまう。
 てゆうか忍者じゃないし。

 どう答えようか言葉に詰まっていると、助け船が出された。

「その辺にしとくさ、林檎。イッガーの旦那が困ってるさ」

「あ、ごめんね。最近、いろんなことを知りたくなってさ。それで色々聞いちゃうの。そうやって人生経験豊かにしてかないと、歌詞なんて書けないから。へへ、シンガーソングライターってやつ? 目指してるから」

「はぁ……」

 正直、まだ圧倒されている気分だったから、黙っていると、

「それで、どうしたさ。イッガーの旦那がこんなところに来るなんて珍しい」

「え、いや……」

 そうやって改めて来意を問いただされると困ってしまう。
 若干、恥ずかしい気分だ。

 けどそれは杞憂だった。

「実は今、先輩をどうやって元気づけようかって相談してまして」

「え!?」

「んん? もしかしてイッガーさんもその件ですか!? それはもう正義ジャスティスですね!」

「ははは、なんだかんだイッガーの旦那はアッキーと長いさね。彼女が心配になって、でも相談できる相手があまりいなくてここに来たって感じさ?」

 心が読まれたってくらいビンゴだった。
 前から思ってたけど、この人、謎だよな。

「へぇ、優しいんですね、イッガーさんって」

 そう林檎――さんに言われてドキリとする。
 ……どうも、調子が狂う。

「ふむ、しかしこれは難問さ。里奈さんでもダメ、クロエでもダメってことだからさね」

「実は竜胆もダメでした! 素振り千本でもすれば気合はいりますよ、って勧めたんですが、2回でぶっ倒れました! 虚弱すぎですね!」

「ちなみに私もダメだったよ。一緒に歌えば気も晴れると思ったんだけどねー」

「ふーん、全滅、さね。あ、わたしも言ったさね。結果は言わなくても分かるさ?」

 なんだ、もうみんな試してるんじゃないか。
 これじゃあどうしようとか相談しに来たのが馬鹿らしい。

 この人たちでダメなら、自分が行ったところでどうにもならないだろう。
 それが分かったことが収穫と言えば収穫だけど。

 というわけで彼女たちに聞くことがなくなってしまった。

 けど、そうかな。
 1つだけ、ちょっと気になっていたことを聞いてみよう。自分から話を振るなんて、物珍しいとは思うけど、やはりどこかで気になっていたこと。

「それはそうと――皆さんは……もう、どこに所属するか……決めたんですか?」

 隊長から――正直半死人みたいな感じの隊長から、おおよそのことは聞いていた。
 今度の戦いにはそれこそ全プレイヤーの命がかかっていると。
 各国の代表が死ぬことで、負けた所属プレイヤーは女神に殺されるという。

 正直ふざけないでほしいと思う。
 けど、講和会議の後に聞こえた神を名乗る声。
 それで自分はその話は本当だと思った。

 思ったら怖くなった。
 けど、何より怖いのは、ここから逃げ出して隊長から見捨てられることだと、数日して気づいた。

 だから自分は逃げない。
 もはや自分は隊長と一蓮托生。
 それに、勝てば問題はない。

 そんなこともあって聞いてみたかった。
 ほかの人が、それぞれどうその事実を受け止めているのかを。

 そして、その問いに、3人は3人とも同じ反応を示した。
 一瞬、目を丸くして、そして大小はあれど――笑ったのだ。

「先輩と一緒に戦う、それが正義ジャスティスです!」

「ま、これも腐れ縁さ。ここまで投資したんだから、ちゃんと回収しないと商人の名折れってものさ」

「私は、よくわからないけど、なんとなくこの国が気に入ったから。それに、ジャンヌも。確かに怖いよ。でもどこ行ってもそれは同じだと思うから。なら、ここがいい」

 いや、まぁそうか。
 この時期にまだこの場所にいるってことは、もうそういう覚悟を決めたってことなのだろう。我ながら愚問だった。

「それでイッガーさんはどうなんです? 正義ジャスティスです!?」

「まぁ……そう、かな。これでも隊長には恩があるから……できれば役に立ちたい」

 自分という存在を見出してくれたこと。
 この狂った世界で、生きる道を示してくれたこと。
 少しでも自分の価値を認めてくれたこと。

 本当に、彼女がいなかったらどうなっていたか。
 部隊の足手まといになって、すぐに死んでいただろう。

 だからこれは恩返しだ。
 彼女のため、それがひるがえって自分のためになる恩返し。

 そう考えれば、最強の帝国軍が来ることも、まぁ怖くは……なくはない。

「じゃあみんなで頑張る感じですね! とっても正義ジャスティスなので、イッガーさんもお食事食べていきません? 今日はこの2人が来るから、ちょっと豪勢にしたんですよ!」

「え、いや……自分は」

「まぁまぁ、いいじゃん。私ももうちょっとお話聞きたいし。忍者のこととか!」

「え……だから」

「まぁまぁ、イッガーの旦那。これも何かの縁だと思って、諦めるさ?」

 正直、この感じ。苦手なんだけど。

 でもこういう機会でもなければ、女子と普通に話すことも今までの人生でそうなかったわけだし。
 そう考えてしまうのは、この世界に来て、彼女と出会って、自分が変わったということなのだろうか。

 そう思うと、感謝もひとしおなわけで。
 やっぱりその彼女が落ち込んでいるのは、なんとかしたいと思うわけで。

 いや、人にはそれぞれの分限があるんだ。
 ここまで心配する人がいて、それで元気づけようとしてダメだった。
 自分もやってはみるけど、きっとダメだろう。

 そして隊長のことを考えたとき、きっと彼女を立ち直らせるのは、あの子しかいない。

 なんとなくそう思った。
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