知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

第16話 そしてまた1つ後悔を……

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「先鋒隊長殿と、騎兵隊長殿が帰還なされました!」

 報告に顔を上げた俺は、ジルと視線を交わすと、そのまま馬を北へと走らせた。

 策はこれ以上なくうまくいった。

 誘引と伏兵による挟撃。
 基本的な策の組み合わせだが、効果があるからこそ基本となっているのだ。

 敗走した敵の追撃は、敵城へのつけ入り(敵が拠点に逃げ込むのに合わせて、自軍を拠点に乱入させる方法)が不可能と分かった瞬間に中止させた。
 無理に敵城に近づいて、城からの弓鉄砲による反撃をくらってもばかばかしい。

 だから敵城から1キロほど離れた場所で部隊を集結させていたが、そこでサカキが敵の大将を追って行ったこと、ブリーダがそれを救出するために敵を深く追っていったことが報告された。

「ったく、困ったものだよ。勝手なことしやがって」

「軍律違反ですから。たとえサカキでも許されることではないですが……いかがします?」

「……とりあえず言い訳を聞こうか」

 口ではそう言うものの、無事2人が帰ってきたということで、明らかに胸を撫でおろしている自分がいた。

 いかんいかん。
 ここは泣いて馬謖ばしょくを斬るじゃないけど、心を鬼にして処罰しないと。

 サカキが部隊を率いていけばつけ入りが成功していたかもしれないし、下手したらブリーダの部隊も壊滅していたかもしれない。
 だから命令に反して部隊を離脱したサカキは、こっぴどく叱ってやらないといけないわけで。

 やがて前の方から土ぼこりがあがるのが見えた。
 馬群が姿を現し、その先頭にサカキとブリーダが並ぶのを認めた。

 その時、不思議な感覚を抱いた。

 サカキの姿が大きくなっているような、かすんでいるような、そんな感覚。

 目をこすってもう一度見ると、普通だ。
 きっと目が疲れてたんだろう。

「よぅ、ジャンヌ。出迎えご苦労」

 ニヒルな笑みを浮かべ、そう言い放つサカキ。
 反省の色が見えないことに、若干イラっと来る。

「はん、単騎で敵に突っ込んで作戦を台無しにし損ねた馬鹿を見に来たんだよ」

「あれ……ジャンヌ、怒ってる……? ごめんよぅ」

 くそ、情けない声出すなよ。
 怒る気も失せる。

「一応、弁解を聞こうか?」

「あー、えっと、敵の大将? ちっこい女だったんだけどよ。背中からぶった切ってやったよ。残念なことに、首はつながってるから死んだかどうか分からねーけど。少なくとも再起不能だろ」

「つまり敵の大将を見つけたから追ってったってこと?」

「ん、まぁそうだな」

「ちっ、あいつは自分がぶっ倒したかったっすけどね」

 ブリーダが悔しそうにつぶやく。

 敵の大将。というとあの長浜とかいう大将軍のプレイヤーか。
 一度、会談でしか会っていなかったが、同じ国から来たプレイヤーだ。それが斬られた。そのことに少し胸が痛む。

「ったく、怒るべきなのか、誉めるべきなのか」

「いえ、ジャンヌ様。ここは徹底的に叱り飛ばしてやってください。功績と罪を相殺するだなんてことをしたら、こいつはつけあがって何度でも同じことを繰り返しますよ。ですから罰しましょう。今すぐに」

 ジルがここぞとばかりにサカキを懲らしめる方向にもっていこうとする。

「ジーン、お前なぁ。もうちょっと言葉選べよ」

「これでも選んでいるのですよ。まったく。あなたは一兵卒ではないのですから」

「へーへー、いつまでたってもうるせーやつだ。分かったよ」

「何?」

「ここは総司令殿の顔を立ててやろうってやつさ」

「お前な……」

 ジルが呆れたように肩をすくめる。

「ま、とりあえず処分は後回しだ。とりあえず今は陣を下げよう」

「ジャンヌ」

「なんだ、サカキ?」

「ちょっと、話いいか?」

「急ぎか?」

「ああ」

 苦笑というか苦笑いというか、だがどこか口調に真剣さがある。

「分かった。ジル、先に部隊をまとめてデンダ砦まで下げてくれ」

「わかりました」

「感謝するぜ。じゃあな、ジーン」

「ふん、さっさと済ませてこい」

 ジルたちと別れ、馬を並べて西の方へと進路を取る。
 敵の城から離れているのだ。ここらは安全だろう。

「で、話ってなんだよ」

 それほど離れたわけではないが、周囲には人っ子一人いないのでここぞとばかりに切り出す。

「んーーー」

 サカキはのほほんとした様子で馬を歩かせている。
 見ればところどころ鎧が欠け落ち、服が破れて血がにじんでいる。激闘を物語るその姿が、対して俺はずっと本陣にいて戦っていないことに若干の後ろめたさを感じた。

「実はよ――」

 不意にサカキが馬を寄せてきた。
 真剣なまなざしでこちらを見つめてくる。

 あぁ、これはあれだ。
 どうせまた告白じみたことを言って甘えてくるんだろ。

 そう高をくくっていると、予想外のサカキの動作に対応が遅れた。

「よっ!」

「わっ!!」

 体が一瞬浮き、ぐるりと横に回転するとそのままおしりから着地する。
 目の前にサカキ。お尻から伝わる振動は馬の上だと伝えてくる。

「軽いなぁ、ジャンヌは」

「なんだよ、いきなり」

 狭い馬の背で向かい合うようにして座るのだ。
 2人の距離が圧倒的に近いことが、少し恥ずかしい。

「へへっ、つくづくイイ女だな、って思ってよ」

「馬鹿、からかうなよ。そんなことのために呼んだのかよ」

「まさか。ちゃんと目に焼き付けておきたかったんだよ」

「え?」

 言われ、サカキの先ほどのように姿が大きくなったり、おぼろげに見えた。

 それが隙になった。

 唇に、何かが当たった。
 弾力のある、冷えた何か。

 目の前にサカキの顔。
 髪と同じ黄金色の瞳がきれいだ。
 あぁ、こいつの瞳の色ってこんな色だったっけか。なんてどうでもいいことを考えた。

 何をされたのか分からなかった。
 いや、理解はしている。
 理解はしたうえで、何も言えなかった。

 唇が離れ、冷ややかな感触が消える。
 そして――


 ――血の味がした。


「へへ、隙あり、だぜ」

 そう言って、子供のように笑うサカキ。

「お、まえ……」

 嫌な予感がよぎる。
 取り返しのつかない、それでいてどうしようもない何か。

「わぷっ!」

 サカキの腕が俺の背に回される。包み込んでくる。
 温か――くない、冷たい。
 身も心も、凍るような冷たさ。

 キスされたこと、抱きしめられたこと。
 そしてこれから起こるだろうこと。

 それらで頭はパニックになり、心臓が激しく波打つ。

「まったく、大変な数年だったよな。最初はなんだこのちっこいのは、って思ったけどよ。あれよあれよと功績をあげて、独立、領土拡大、さらには帝国を撃退するところまで来たもんだ。同時に、俺の中での存在も、どんどんでっかくなっていきやがった。……って、これ前にもいったか」

 そうだったかもしれない。
 そうでなかったかもしれない。
 頭が、働かない。

「俺は、お前に命をもらったんだ。帝国の下っ端として、どっかのどうでもいい戦場で果てただろう未来から、お前と、ジーンと一緒に帝国相手に一戦ぶちかますことができる未来を。だからよ、ありがとな」

「それなら、俺も……もらった。ビンゴで、お前に助けられた。ありがとう」

 素直に言葉が出た。

 ビンゴで撃たれた時、俺を背負って助けてくれたのはこいつだ。
 こいつがいなければ、あの時俺は死んでいた。

「ジャンヌからもらったものを返しただけだ。ほんの一部、な。あー、全部完済できなかったのは、まぁ、あれだ。許してくれや」

「……」

 何も言えなかった。
 自分の鼓動がうるさくて、何も。

「楽しかったよなぁ。辛かったり。悲しかったこともあったけど。お前に出会えた俺は救われた。お前を好きになった俺は幸せ者だ。お前を愛することができた俺は、本当に充実していた」

「…………」

 俺は何も口に出せなかった。
 口を開くと、すべてが流れ出てしまう気がして。

「ジャンヌよぅ。俺は幸せだった。間違いなく、誰がなんて言おうと幸せだった。だから気にするな。俺は、俺のままなんだ」

「……………………」

 俺は何も答えなかった。
 答えれば、終わってしまう気がして。

「本当に……愛してるぜ、ジャンヌ」

「…………………………………………」

 俺は何も返さなかった。
 返したら、戻ってこない気がして。

「……………………………………………………………………………………」

 沈黙が降りる。

 やはり何か答えた方がいいのか。
 何か話しかけた方がいいのか。

 でも迷い、惑い、悩み、苦しみ、困り。

 そしてようやく気持ちも整理できて、ようやく口を開く。

「あのさ、サカキ――」

「……………………」

 その時、気づいた。

 高鳴る胸の鼓動。
 それが1人分しかないこと。

 何かを感じ取ったのだろうか、馬は止まっていた。
 そのうえで、俺はサカキの体に手を伸ばした。
 肩に手をかけ、ゆっくりと体をはがす。

 ぬちゃっと粘着性のある何か音がした。
 俺の体の前面が、真っ赤に濡れていた。

 こんな体で……よくも。

 文句の1つでも言ってやろうと、サカキの顔を見れば、もう何も言えなくなった。

 笑っていた。

 心底嬉しそうに、満足そうに。
 笑みを浮かべたまま、死んでいた。

「馬鹿……やろう」

 自然、憎まれ口が出た。

「そんな顔で……逝くなんて……くそ……」

 それ以上は声にならない。

 こんなことならもっと早く答えてやればよかった。
 声を聞かせてやればよかった。

 また後悔だ。
 俺はいったい、いつまで後悔すれば気が済むんだ。
 知力がいくつあっても、後悔しない時は来ないのだろうか。

 視界がぶれて、サカキの顔も満足に見えない。
 泣いていた。
 サカキの首に腕を回し、離れないよう、確かめるよう、強く抱きしめて、泣いた。

 二度と動かない。
 二度と喋らない。
 二度と――愛してると言ってくれない。

 俺は女だった。
 ジルとサカキの前で、俺は女だった。

 最初はそれが嫌で嫌で仕方なかった。

 でも今は、ここまで文字通り命をかけて想ってくれる人を前にして、そんなことは口が裂けても言えなかった。

 空に向かって大きく口を開けて叫ぶ。
 その唇には、彼の血の味がいつまでたっても残っていた。
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