知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

第20話 見えない勝ち筋

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 その日は朝から雨だった。
 風も強く、ちょっとした台風みたいな天気。しかも時間が経つに雨足が強くなり、外に出るのもおっくうなほど。

 さすがにこんな日に攻め寄せるはずの馬鹿はいない。
 見張りは厳重にしながらも、なるだけ兵は休ませることにした。

 そんな日に俺は『古の魔導書エンシェントマジックブック』を広げながらデンダ砦にある自室で策を練っていた。

 里奈が近くにいるが、邪魔しないよう黙っている。
 たまに思い出したようにお茶を入れてくれるのがとても嬉しかった。

 そんな中、1つ、気になる情報を見つけた。
 これもまた、帝国元帥の副将ボージャンを読んだ結果のこと。

 なんでも、あの元帥が怒りたくっているという。

 ビンゴ王国での会見で直接会ったものの、怒り狂うとは正反対の冷静で冷酷で冷淡といった印象の彼女が、だ。

 それほどあの大将軍の死は大きかったのだろう。
 同じプレイヤーとして心苦しいところはある。

 けどこちらもサカキとグリードを失っているのだ。
 気の毒だとは思うが、同情はしてられない。

 あぁ、こうやって恨み憎しみの連鎖がつながっていくから、争いはなくならないのか。
 正直、言葉では分かっていても、自分がそういう状況に陥るとは思ってもみなかった。

 憎しみの連鎖を断ち切るとかいうけど、それも綺麗事だと分かる。
 当事者となればそうそう割り切れるものじゃない。だからこそ人の争いは古代から続き、異世界であってもそれは変わらないのか。

 けど、それはとても悲しいことだ。
 戦いがなければ一緒に協力して大きな事業ができたかもしれないし、生きてさえいればもっとその才能を別のことに使えたかもしれない。
 戦いによって発達するものはあるとはいえ、戦いがないことによって発達するものも間違いなくあるはずだ。

 いわば感情と理想の相克。
 どちらが良いかなんてものに答えはない。

 けど、間違いなく戦争は良いはずがない。

 1人を失っただけでこんなに悲しいのに。
 それが何千、何万と失われていくのであれば、いったいどれだけの悲しみが生まれることか。

 だから俺たちは今すぐ矛を収めるべきだ。
 なのにそれができない。

 俺が収めようにも、他のみんなが納得しないだろう。
 それに相手だ。
 戦いをやめると宣言したものの、やはり死ぬのが怖くてこちらに攻め入ってくる可能性はある。

 この世界の人間なら『古の魔導書エンシェントマジックブック』で俺は分かる。
 けど、同じプレイヤーの場合はその限りではない。

 今、激情に駆られている元帥のことを考えると、その危険性を排除して停戦することは不可能に近い。

 だからこそ。
 愚かと分かっても、良くないと分かっていても、俺たちは争いをやめることができない。

 ……よそう。
 人類の争いについて答えを出すには、今の俺には荷が重すぎる。

 知力がどれだけあろうと関係ない。
 偉人と言われた人も、天才と言われた人も、これまで『戦争』という言葉を歴史上から消すことができなかったのだ。

 だからひとまずは、そちらの思考を、今は停止しよう。

 巡らせるべきは、やはり一貫してオムカを守ること。

 それはつまり、あの元帥に勝つこと。
 ビンゴ王国をほぼ独力で滅ぼし、各地を転戦し負け知らず、淡英を一刀の元に下して、あの状態の里奈と互角に打ち合う化け物。

 項羽こううの再来と勝手に思っているが、過大評価ではないだろう。

 そんな相手にどう勝つか。

 正攻法では無理だ。
 あの張良ちょうりょうも、韓信かんしんも正攻法では項羽に勝てなかった。
 勝てたかもしれないが賭けに近く、敗けの可能性が大いにあったからそちらに踏み切れなかった。

 だから俺もそれに倣って、正攻法でなく、正面からでなく、使うのは搦め手。
 そこで話を戻すと、そこに、元帥が怒り狂っているという要素を取り込めば、勝機が見えてくるはずだ。

 怒り。
 それは感情の中で、最も強く、そして弱いもの。

 怒りによるアドレナリンは苦痛を和らげ、普段ある以上の力を引き出すことができる。
 だが逆に思考については極端に低下し、極端に視野が狭まる。頭に血が上った状態だからだ。

 要は攻撃力が上がって、防御力が下がった状態。バーサクだ。

 それを最大限に活かす攻撃方法と言えば正面突破だろう。
 大軍をまっすぐに進め、正面衝突により力でねじ伏せる策。

 ただの猪突猛進かと思うが、正面突破も1つの立派な策だ。
 単純であるがゆえに、はまれば強い。中途半端な策は食い破るし、一度突破されればもう立て直しも効かないほど圧倒できるからだ。

 だから用いるのは中途半端じゃない振り切った策。

 そして正面突破を見事に返り討ちにした例が歴史にはある。

 史上、最も美しい策と言われた包囲殲滅戦。
 紀元前、ハンニバル・バルカによるカンナエの戦いだ。

 第二次ポエニ戦争における、ハンニバルの属するカルタゴと共和政ローマの戦いで、ローマ軍7万のうち6万が死傷したというのだから、圧倒的な勝利と言っていい。

 簡単に言えば、敵主力である重装歩兵を味方の中央歩兵が受け止めているうちに、左右の騎馬隊が前進。
 敵の右翼を撃破した騎兵隊が、そのまま反対側の敵左翼へ援護へ向かい撃破。左右を失ったローマ軍の中央本隊は、弓なりになった中央歩兵に囲まれて包囲されたという。

 包囲なんて縦深は浅いのだから、一点突破で潜り抜けられるだろうと思っていた。
 だが急に左右に敵が現れれば、少なくとも怖気づく。
 そうなれば一歩、後ろに下がる。
 それが全方位で行われるとどうなるか。

 軍が、つぶれるのだ。

 数万の人間がそれぞれ内側に一歩進めば、中心にいる人物はまさにおしくらまんじゅう。カンナエの戦いでは、圧死した人間も多かったというのだから。
 それを知ったから、あの元帥の動きをこれなら抑えられると思ったわけで。

 とはいえ言葉で言うほどに簡単な話ではない。
 相手の突破をいなす方法だったり、凸陣形による戦端の時間差を作ったり、騎馬隊の優位性とか、それまでの戦いで古参兵を減らしたため戦意の乏しい新兵が多い状況を作り出したとか、様々な要因を組み合わせた結果ではあるのだ。

 包囲殲滅戦の手本のような戦いだが、後にハンニバルに勝つプブリウス・コルネリウス・スピキオだって完全には真似できなかったし、近代でも真似は行われているがほとんどが失敗し、逆に負けている。
 包囲するということはそれだけ陣の厚みがなくなるということであり、相手に力があればあっさりと包囲を突破されて各個撃破される羽目になるからだ。

 それを、俺ができるのか?

 確かに状況としては似たようなもので、対応は可能に思える。
 それにあの元帥の騎馬隊を封じ込める意味でも、この作戦は理にかなっている。

 だがそう簡単にいくか。
 敵はあの元帥。それに尾田張人に、達臣もいる。

 気づかれたら、手薄なところに集中されて各個撃破される。
 それにこちらは混成軍だ。

 ハンニバルも様々な部族を率いての混成軍だったと言われるが、それでも手足のごとく動かしてこその勝利だ。
 シータ王国は友好国とはいえ相手にも立場があるから、おいそれと俺の命令に手足の如く従うかは別だ。南群は、言うことは聞くかもしれないが、どちらかといえば力不足の方が目立つ。包囲殲滅に必要な早さが足りない。

 いや、そもそもが無理な話なのだ。
 混成軍であることや、兵の練度が足りないとか、兵数が足りないとか、そういう問題じゃない。

 包囲殲滅。

 殲滅するのだ。

 退路を断ち、弓で射て槍で突き圧死させる。
 一人残らず、殺すのだ。

 5万もの人間を、すべて。

 そんな悪魔のような所業に踏み切れるわけがない。

 無理なのは俺の精神。
 だから俺は包囲殲滅の作戦をあっさりと捨てた。

 あるいは、後方を開けての囲師必闕いしひっけつくらいは考えてもいいか。

 なんてとりとめのないことを考えていると、ふと気づいた。

 地図替わりに見ていた、『古の魔導書エンシェントマジックブック』。
 俺たちのいる砦の近く、そこに赤い光点が動いているのを。
 それはまっすぐにこちらを目指していて、その光点が意味するものは――

「っ!」

「明彦くん?」

 突然立ち上がった俺に心配そうな視線を向けてくる里奈。
 だが彼女に構ってる暇はない。

 まさか。この天候で? ありえない。いや、でも相手はあの元帥。だけど。いや、今は防備を整えるのが先決!

「敵襲に備えろ! 他の砦にも伝令!」

 俺は外に飛び出しながら、雨に打たれながら叫ぶ。
 それでもすべてが遅かったのだった。
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