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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた
閑話39 赤星煌夜(エイン帝国パルルカ教皇)
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最終セットが始まった。
おそらくこれが、この世界でできる最後の勝負。
ジャンヌ・ダルクとの一騎討ち。
思えばこの人物とは、浅からぬ因縁があったわけで。
もう少しまで来ていたエイン帝国による大陸制覇。
それがオムカの独立という一手によってひっくり返された。
そこからひたすら快進撃を続ける彼と、対する帝国軍は一進一退の攻防を続ける。
いや、一進一退ではない。
負けていた。
ひたすらに、堂島元帥や長浜大将軍の力をもってしても負け続けたのだ。
来るべきあの女神との決戦のための貴重な手駒が次々と失われていった。
何より痛かったのが尾田張人、そして立花里奈さんの離脱。
彼と直接出会ったのは、1年前が最初だけど、それ以前からの因縁ある相手に思えてならない。
だから当初は憎んだ。
自分の帰還を阻む巨悪。
麗明に悪影響を与える邪魔者。
だが同時に、その能力が欲しくなった。
彼ほどの才覚があれば、女神に対抗できると思った。
だから誘った。
そして断られた。
そのことにもう心残りはない。
ならあとは潰して、女神への復讐を済ませるだけだった。
そもそも、元の世界に戻りたかったのも、麗明から声を奪った世界への復讐のためだった。
だがそれは麗明の声が戻らないこと、そして知ってしまったこの世界のことで、意味を失った。
そしてその怒りは、女神に向いた。
元の世界であったことを知ったうえで、なおも麗明を辱めた許されざる罪人。
麗明を餌に、自分を手玉に取った老獪な悪魔。
絶対に許さない。
そのためにエイン帝国という大国のやりたくもない教皇役というのを勤め続けたのだ。それがあの女神をあがめる宗教だと知った時の絶望、そしてあの女神の笑み。本当に、殺してやりたい。
けど、それももうできなくなった。
帝国はオムカに敗れた。
女神を倒すべく集めた将兵も失った。
達臣に語ったように、麗明を連れて逃げるのはもはや愚策以外の何物でもない。
一番守りたい人と、一番復讐したい相手と一緒に逃げるなんて、どこの喜劇だ。
それに、そのまま時間切れというのが、一番あってはならない。それは自分たち人類の敗北で、あの女神の独り勝ちということだから。たとえ自分の命を失ってでも、それは避けなければならなかった。
だからジャンヌ・ダルクだ。
彼にこの志を託す。
これまでの話で、彼自身の女神に対する不信もあることが分かった。その土壌があるなら、そこに種を植えても問題ないはず。
だが最後に試したかった。
本当にその志を託すべき相手かどうか。
いや、それ以上に自分がこのジャンヌ・ダルクと戦いたかったのかもしれない。
もはや軍もなく、時間もなく、場所もない自分には、こういった場所でしかなかったけど。
いや、これでいいのかもしれない。
最後の最後にポーカーによる頭脳勝負。
それこそが、自分にとってふさわしい最後の勝負なのかと思う。
けど、やるからには全力で行く。
そして負けるにせよ、全力で負けたかった。
だが、その相手が、若干腑抜けだった。
こんなに腹立たしいことはない。
だから勝負に出たふりして、おちょくった。
彼の精神を揺さぶってやった。
それに普段なら絶対に吐かない毒舌をやってみた。
長浜大将軍と尾田張人、その2人を真似てみたが合っていただろうか。
少し心苦しい気がしたけど、里奈くんには悪いことを言ったと思うけど、その成果はあった。
ジャンヌ・ダルクの顔つきが変わった。
こちらを意識しながらも、勝負に集中している。
それでいい。
あとはもう、この勝負を楽しんでやろう。
チップの比率は11対9。
こちらが上回っているが……。
手札はワンペアが1つ、他はばらばら。
これならよくてフルハウスくらいか。
つくづく、自分というのは賭け事に弱いらしい。
堅実に、徐々にやっていくのが自分らしいといえばらしいのか。
ふむ……とはいえこのまま終わらせてしまうのも何かもったいない。
そもそも1対1のポーカー。
弱い手だからといって無謀な勝負に出ても興ざめなだけだ。
だから揺さぶりをしつつ、少し知恵比べの余地を作ろうか。
「1つ、提案があります。このままただ手役を比べるのはつまりません。ルールを追加しませんか?」
「こちらは依存ありませんよ、煌夜さん。そちらのジャンヌ・ダルクが飲めば、ですが」
「…………聞こう」
乗ってきた。
ならば、
「簡単です。フォールドした場合もオープンにして必ず勝負を決める。それだけですよ」
「なるほど。コール対コールはそのままですが、フォールド対フォールドやコール対フォールドでも勝負をつけると」
「ええ。フォールド対フォールドでは役が弱い方の勝ち。コール対フォールドでは、フォールドが読み切ったということでフォールドの勝ちという形でどうでしょう?」
自分の頭の中で整合性を取りながら口を動かす。
大丈夫だ。間違ってない。
「グッド! 面白い。勝てると信じてコールするか、負けると信じてフォールドするか。その二択を選ぶってことですね」
仁藤がすぐさま理解を示した。
あとは彼がどう出るか。
「俺も異存はない」
「グッド!」
仁藤が指を鳴らす。
よし、ならあとはどう来るか。
だがその前にジャンヌ・ダルクが口を開く。
「ただし2つ条件がある」
2つ。
その内容で彼の目論見が分かるというもの。
「なんでしょう?」
「この勝負を最後にしたい。必ず全賭けでの勝負にしよう」
「いいでしょう」
想定通りだ。
それはむしろ自分から切り出そうと思っていたことだ。
だから否やはない。
問題はもう1つ。
「もう1つは、コール対フォールドになった場合だ。さっきの条件だとフォールド側が圧倒的に有利になる、フォールドした側がコールした側より強い役だったら、コール側の勝ちにしたい」
「それは――」
どうだ。
考える。
いや、簡単だ。
「分かりました、問題ありません」
うなずく。
これもある意味想定通り。
あえて触れなかった部分。
確かに今のままではコールした方が不利になった。
強い手を作っても、相手がフォールドしたらそれで終わりだから。
今の彼のルール追加は、コールの不利を潰したというよりは、フォールドの有利を潰した、つまりフォールド側にもリスクを背負わせてフォールド一択にならないよう仕向けたのだ。
あるいはフォールド押しにしようと思っていた自分の目論見を外されたわけだが、これくらい気づいてもらわないと困る。
「では決まりましたね。お互いオールインで、フォールドでも勝負を行うこと。フォールド対フォールドは弱い方の勝ち。コール対フォールドは、コール側が強ければフォールドの勝ち、フォールド側が強ければコール側の勝ち。それで問題ありませんね」
「ああ」
「はい」
「それでは開始します。チェンジしますか?」
「チェンジ、2枚」
間を置かず、ジャンヌ・ダルクがチェンジを申し入れた。
なるほど、相手も揺さぶりをかけてきた。
まったくチェンジしないのは、それはそれで怪しいところだが、かといって3枚や4枚といった数ではなく2枚という数。
勝負しに行っているともとれるし、わざと役を崩しに行っているとも言える。
なんとも微妙な枚数だ。
そもそも、先ほどのジャンヌ・ダルクのルール追加には微妙な罠があった。
自分のルール追加は、“強い手を作ること”を潰すためのもの。
対してジャンヌ・ダルクはコールの生きる道を作ったと同時、強い役の生きる道も作った。
最強の手でコールすれば、相手がコールして来れば勝てるが、フォールドしてきた時に負ける。
最強の手でフォールドすれば、相手がコールして来た時に負け、フォールドしてきた時にも負ける。
最弱の手でコールすれば、相手がフォールドしてきたときに勝ち、コールしてきた時に負ける。
最弱の手でフォールドすれば、相手がフォールドしてきたときに勝ち、コールしてきた時も勝つ。
この中で最悪の選択肢は最強の手でフォールド。
勝ちがない。
つまり強い手が来た場合は、間違いなくコールするしかない。
だがそれは相手がフォールドした瞬間に負ける。
ならやることは1つ。
最弱の手でフォールドする。
つまり無理に役を作る必要はない。
最弱の手を作り、フォールドした方が勝つ。
最弱の手を両者が目指した時点で、宣言するのはフォールド一択だ。
だから最弱の手を作る。
それが正解。
「では私は3枚を」
自分は3枚変えた。
ペアのうち1枚を含んで、だ。
さすがにペア2枚をチェンジに出せば、相手はこちらが弱い手を作っているのを見破られる。
その情報を相手に与えるのはまずい。
そもそも、2枚所在がはっきりしている中で、3枚を引いてもう1枚同じ数字を引く確率は、2枚同じ数字を捨てて別の数字のペアを引いてくる確率より低い。
なら1枚出すのがベスト。
そう信じて受け取ったのは……ワンペア。
残したもう1枚のジャックがダブった。
ペアができるのは仕方ない。
ブタじゃなかったのは痛いが。
十分に勝負できる役だ。
と、その時だ。
「明彦くん、これって……」
「里奈!」
「あっ」
ジャンヌ・ダルクにたしなめられた里奈さんがごめんなさい、というような表情を浮かべる。
今のは……もしや。
と、こちらの視線に気づいたようにジャンヌ・ダルクが顔を上げる。
そして何かに気づいたように、私の顔を見て、次いで愛想笑いを浮かべて声をかけてきた。
「なぁ、もう1回チェンジしないか?」
どういう意味だ。
探りを入れに来たのか。
なら迂闊に返答はできない。
「なぜです?」
「いや、そのせっかく最後だからさ。もうちょっと駆け引きをしたいと思ってさ」
自分でオールインを提案しておいてぬけぬけと。
だが、どう見る。
いやこれは……もしや。
「どうでしょう、煌夜さん。あなたが受ければチェンジをもう1回――」
「いや、それは認めません」
「っ!」
焦ったようなこの反応。
疑惑が確信に変わっていく。
「仁藤さん、ショウダウンと参りましょう」
「え、あぁ。はいはい」
「ちょっと待て。頼む、もう1回チェンジを!」
必死にジャンヌ・ダルクが要求してくる。
演技か?
いや、そうではない。
やはり気づいたのだ。
この勝負のカギに。
弱い手を作る、その真理に。
――今更。
落胆が心を支配する。
遅すぎる。
自分で提案しておきながら、この可能性に気づかないとは。
「それでは、ショウダウン。手札を出すと同時に、コールをお願いします!」
フォールドだ。
これなら十二分に勝つ。
だからフォールド。
いい勝負だった。
相手の最後の見苦しさが悲しいが、それでも勝ちは勝ちだ。
あのジャンヌ・ダルクに勝った。
その結果を胸に、麗明と共に行ける。
それだけで、十分だった。
――本当にそうか?
疑念が渦巻く。
あのジャンヌ・ダルクが、自分で言っておきながら、自分で墓穴を掘るか?
コール対フォールド。
普通ならフォールドの勝ち。
だが、フォールドした側が相手より強ければ敗け。
この追加ルール。
それをわざわざ追加したのは、コール側にも勝ち目を残すため。
そう思っていた。
だが、もし。
私が弱い手を作ってフォールドすることを見越して、それより弱い手を作ってコールで勝とうとしているからでは?
ジャンヌ・ダルクが不敵に笑っていた。
まさか、演技。
いや、それ以前にジャンヌ・ダルクは……。
「それではショウダウンしてください!」
仁藤に促される。
どうする。
思考の迷宮に捕らわれた。
「煌夜はまだ迷ってるようだ。しょうがない、ここは俺から行こう。コールだ」
ジャンヌ・ダルクがそう宣言した。
コール。
やはりそうだ。彼はすべてを分かっている。
私より弱い手を使ってのコール。
そして私がフォールドすれば、強い私がフォールドしたということで負ける。
その罠。
読んだ。読み切った。
つまりここで行うべき選択は1つ。
だから口にする。
「コール」
おそらくこれが、この世界でできる最後の勝負。
ジャンヌ・ダルクとの一騎討ち。
思えばこの人物とは、浅からぬ因縁があったわけで。
もう少しまで来ていたエイン帝国による大陸制覇。
それがオムカの独立という一手によってひっくり返された。
そこからひたすら快進撃を続ける彼と、対する帝国軍は一進一退の攻防を続ける。
いや、一進一退ではない。
負けていた。
ひたすらに、堂島元帥や長浜大将軍の力をもってしても負け続けたのだ。
来るべきあの女神との決戦のための貴重な手駒が次々と失われていった。
何より痛かったのが尾田張人、そして立花里奈さんの離脱。
彼と直接出会ったのは、1年前が最初だけど、それ以前からの因縁ある相手に思えてならない。
だから当初は憎んだ。
自分の帰還を阻む巨悪。
麗明に悪影響を与える邪魔者。
だが同時に、その能力が欲しくなった。
彼ほどの才覚があれば、女神に対抗できると思った。
だから誘った。
そして断られた。
そのことにもう心残りはない。
ならあとは潰して、女神への復讐を済ませるだけだった。
そもそも、元の世界に戻りたかったのも、麗明から声を奪った世界への復讐のためだった。
だがそれは麗明の声が戻らないこと、そして知ってしまったこの世界のことで、意味を失った。
そしてその怒りは、女神に向いた。
元の世界であったことを知ったうえで、なおも麗明を辱めた許されざる罪人。
麗明を餌に、自分を手玉に取った老獪な悪魔。
絶対に許さない。
そのためにエイン帝国という大国のやりたくもない教皇役というのを勤め続けたのだ。それがあの女神をあがめる宗教だと知った時の絶望、そしてあの女神の笑み。本当に、殺してやりたい。
けど、それももうできなくなった。
帝国はオムカに敗れた。
女神を倒すべく集めた将兵も失った。
達臣に語ったように、麗明を連れて逃げるのはもはや愚策以外の何物でもない。
一番守りたい人と、一番復讐したい相手と一緒に逃げるなんて、どこの喜劇だ。
それに、そのまま時間切れというのが、一番あってはならない。それは自分たち人類の敗北で、あの女神の独り勝ちということだから。たとえ自分の命を失ってでも、それは避けなければならなかった。
だからジャンヌ・ダルクだ。
彼にこの志を託す。
これまでの話で、彼自身の女神に対する不信もあることが分かった。その土壌があるなら、そこに種を植えても問題ないはず。
だが最後に試したかった。
本当にその志を託すべき相手かどうか。
いや、それ以上に自分がこのジャンヌ・ダルクと戦いたかったのかもしれない。
もはや軍もなく、時間もなく、場所もない自分には、こういった場所でしかなかったけど。
いや、これでいいのかもしれない。
最後の最後にポーカーによる頭脳勝負。
それこそが、自分にとってふさわしい最後の勝負なのかと思う。
けど、やるからには全力で行く。
そして負けるにせよ、全力で負けたかった。
だが、その相手が、若干腑抜けだった。
こんなに腹立たしいことはない。
だから勝負に出たふりして、おちょくった。
彼の精神を揺さぶってやった。
それに普段なら絶対に吐かない毒舌をやってみた。
長浜大将軍と尾田張人、その2人を真似てみたが合っていただろうか。
少し心苦しい気がしたけど、里奈くんには悪いことを言ったと思うけど、その成果はあった。
ジャンヌ・ダルクの顔つきが変わった。
こちらを意識しながらも、勝負に集中している。
それでいい。
あとはもう、この勝負を楽しんでやろう。
チップの比率は11対9。
こちらが上回っているが……。
手札はワンペアが1つ、他はばらばら。
これならよくてフルハウスくらいか。
つくづく、自分というのは賭け事に弱いらしい。
堅実に、徐々にやっていくのが自分らしいといえばらしいのか。
ふむ……とはいえこのまま終わらせてしまうのも何かもったいない。
そもそも1対1のポーカー。
弱い手だからといって無謀な勝負に出ても興ざめなだけだ。
だから揺さぶりをしつつ、少し知恵比べの余地を作ろうか。
「1つ、提案があります。このままただ手役を比べるのはつまりません。ルールを追加しませんか?」
「こちらは依存ありませんよ、煌夜さん。そちらのジャンヌ・ダルクが飲めば、ですが」
「…………聞こう」
乗ってきた。
ならば、
「簡単です。フォールドした場合もオープンにして必ず勝負を決める。それだけですよ」
「なるほど。コール対コールはそのままですが、フォールド対フォールドやコール対フォールドでも勝負をつけると」
「ええ。フォールド対フォールドでは役が弱い方の勝ち。コール対フォールドでは、フォールドが読み切ったということでフォールドの勝ちという形でどうでしょう?」
自分の頭の中で整合性を取りながら口を動かす。
大丈夫だ。間違ってない。
「グッド! 面白い。勝てると信じてコールするか、負けると信じてフォールドするか。その二択を選ぶってことですね」
仁藤がすぐさま理解を示した。
あとは彼がどう出るか。
「俺も異存はない」
「グッド!」
仁藤が指を鳴らす。
よし、ならあとはどう来るか。
だがその前にジャンヌ・ダルクが口を開く。
「ただし2つ条件がある」
2つ。
その内容で彼の目論見が分かるというもの。
「なんでしょう?」
「この勝負を最後にしたい。必ず全賭けでの勝負にしよう」
「いいでしょう」
想定通りだ。
それはむしろ自分から切り出そうと思っていたことだ。
だから否やはない。
問題はもう1つ。
「もう1つは、コール対フォールドになった場合だ。さっきの条件だとフォールド側が圧倒的に有利になる、フォールドした側がコールした側より強い役だったら、コール側の勝ちにしたい」
「それは――」
どうだ。
考える。
いや、簡単だ。
「分かりました、問題ありません」
うなずく。
これもある意味想定通り。
あえて触れなかった部分。
確かに今のままではコールした方が不利になった。
強い手を作っても、相手がフォールドしたらそれで終わりだから。
今の彼のルール追加は、コールの不利を潰したというよりは、フォールドの有利を潰した、つまりフォールド側にもリスクを背負わせてフォールド一択にならないよう仕向けたのだ。
あるいはフォールド押しにしようと思っていた自分の目論見を外されたわけだが、これくらい気づいてもらわないと困る。
「では決まりましたね。お互いオールインで、フォールドでも勝負を行うこと。フォールド対フォールドは弱い方の勝ち。コール対フォールドは、コール側が強ければフォールドの勝ち、フォールド側が強ければコール側の勝ち。それで問題ありませんね」
「ああ」
「はい」
「それでは開始します。チェンジしますか?」
「チェンジ、2枚」
間を置かず、ジャンヌ・ダルクがチェンジを申し入れた。
なるほど、相手も揺さぶりをかけてきた。
まったくチェンジしないのは、それはそれで怪しいところだが、かといって3枚や4枚といった数ではなく2枚という数。
勝負しに行っているともとれるし、わざと役を崩しに行っているとも言える。
なんとも微妙な枚数だ。
そもそも、先ほどのジャンヌ・ダルクのルール追加には微妙な罠があった。
自分のルール追加は、“強い手を作ること”を潰すためのもの。
対してジャンヌ・ダルクはコールの生きる道を作ったと同時、強い役の生きる道も作った。
最強の手でコールすれば、相手がコールして来れば勝てるが、フォールドしてきた時に負ける。
最強の手でフォールドすれば、相手がコールして来た時に負け、フォールドしてきた時にも負ける。
最弱の手でコールすれば、相手がフォールドしてきたときに勝ち、コールしてきた時に負ける。
最弱の手でフォールドすれば、相手がフォールドしてきたときに勝ち、コールしてきた時も勝つ。
この中で最悪の選択肢は最強の手でフォールド。
勝ちがない。
つまり強い手が来た場合は、間違いなくコールするしかない。
だがそれは相手がフォールドした瞬間に負ける。
ならやることは1つ。
最弱の手でフォールドする。
つまり無理に役を作る必要はない。
最弱の手を作り、フォールドした方が勝つ。
最弱の手を両者が目指した時点で、宣言するのはフォールド一択だ。
だから最弱の手を作る。
それが正解。
「では私は3枚を」
自分は3枚変えた。
ペアのうち1枚を含んで、だ。
さすがにペア2枚をチェンジに出せば、相手はこちらが弱い手を作っているのを見破られる。
その情報を相手に与えるのはまずい。
そもそも、2枚所在がはっきりしている中で、3枚を引いてもう1枚同じ数字を引く確率は、2枚同じ数字を捨てて別の数字のペアを引いてくる確率より低い。
なら1枚出すのがベスト。
そう信じて受け取ったのは……ワンペア。
残したもう1枚のジャックがダブった。
ペアができるのは仕方ない。
ブタじゃなかったのは痛いが。
十分に勝負できる役だ。
と、その時だ。
「明彦くん、これって……」
「里奈!」
「あっ」
ジャンヌ・ダルクにたしなめられた里奈さんがごめんなさい、というような表情を浮かべる。
今のは……もしや。
と、こちらの視線に気づいたようにジャンヌ・ダルクが顔を上げる。
そして何かに気づいたように、私の顔を見て、次いで愛想笑いを浮かべて声をかけてきた。
「なぁ、もう1回チェンジしないか?」
どういう意味だ。
探りを入れに来たのか。
なら迂闊に返答はできない。
「なぜです?」
「いや、そのせっかく最後だからさ。もうちょっと駆け引きをしたいと思ってさ」
自分でオールインを提案しておいてぬけぬけと。
だが、どう見る。
いやこれは……もしや。
「どうでしょう、煌夜さん。あなたが受ければチェンジをもう1回――」
「いや、それは認めません」
「っ!」
焦ったようなこの反応。
疑惑が確信に変わっていく。
「仁藤さん、ショウダウンと参りましょう」
「え、あぁ。はいはい」
「ちょっと待て。頼む、もう1回チェンジを!」
必死にジャンヌ・ダルクが要求してくる。
演技か?
いや、そうではない。
やはり気づいたのだ。
この勝負のカギに。
弱い手を作る、その真理に。
――今更。
落胆が心を支配する。
遅すぎる。
自分で提案しておきながら、この可能性に気づかないとは。
「それでは、ショウダウン。手札を出すと同時に、コールをお願いします!」
フォールドだ。
これなら十二分に勝つ。
だからフォールド。
いい勝負だった。
相手の最後の見苦しさが悲しいが、それでも勝ちは勝ちだ。
あのジャンヌ・ダルクに勝った。
その結果を胸に、麗明と共に行ける。
それだけで、十分だった。
――本当にそうか?
疑念が渦巻く。
あのジャンヌ・ダルクが、自分で言っておきながら、自分で墓穴を掘るか?
コール対フォールド。
普通ならフォールドの勝ち。
だが、フォールドした側が相手より強ければ敗け。
この追加ルール。
それをわざわざ追加したのは、コール側にも勝ち目を残すため。
そう思っていた。
だが、もし。
私が弱い手を作ってフォールドすることを見越して、それより弱い手を作ってコールで勝とうとしているからでは?
ジャンヌ・ダルクが不敵に笑っていた。
まさか、演技。
いや、それ以前にジャンヌ・ダルクは……。
「それではショウダウンしてください!」
仁藤に促される。
どうする。
思考の迷宮に捕らわれた。
「煌夜はまだ迷ってるようだ。しょうがない、ここは俺から行こう。コールだ」
ジャンヌ・ダルクがそう宣言した。
コール。
やはりそうだ。彼はすべてを分かっている。
私より弱い手を使ってのコール。
そして私がフォールドすれば、強い私がフォールドしたということで負ける。
その罠。
読んだ。読み切った。
つまりここで行うべき選択は1つ。
だから口にする。
「コール」
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しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
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