知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
593 / 627
第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

第32話 ショウダウン

しおりを挟む
「コール」

 相手が手札をさらして言う。
 ジャックのワンペア。

 当然、俺も手札をさらす。
 クイーンのスリーカード。

 ほっと体から力が抜ける。

 勝った。
 俺の、勝ちだ。

「ジャックのワンペア対クイーンのスリーカード。この勝負、ジャンヌ・ダルクの勝ちです!」

 仁藤が高らかに宣言すると、その背後でパンっと破裂音が響き、金の紙吹雪が舞う。
 こんなもの仕込んでたのか。

「やったやった! 明彦くんが勝った!」

 里奈が俺の肩をつかんで、揺さぶってきた。

「うぷっ、里奈……ちょっと気持ち悪い」

「え? 気持ち悪い? 私が……?」

「いや、そうじゃなくて揺らされると……」

「分かってますー、なんてったって妻ですから!」

 いや、それは違うだろ。

「なぜ、ですか」

 と、俺たちの喜びに対し地の底から湧き出すような暗い声が響く。

「なぜ、最弱を目指さなかったのです?」

 煌夜が理解できないというような、困惑した表情でこちらを睨む。

 はっ、まぁそうだよな。
 あの場面では最弱を目指すのが最善手。

 けど、俺も予想できなかったものはあるもので。

「簡単だよ――来なかったんだ」

「え?」

「最弱の手を目指して役を崩したんだけど、なんとまぁ引いたのがクイーン2枚だなんてな。ブタを目指したはずがスリーカードなんてやってられないな」

「なんて……こと」

 そう、完璧に偶然だった。
 まさか4枚同じ数字のカードが手札に来るなんて。

「では先ほどの里奈さんからのくだりは……」

「演技、というかまぁ本心だったよ。なんてったって、強い手は敗けやすいからな。けどその時だよ。逆にこのままがいいと思ったのは」

「それは……私が深読みすると?」

「まぁ賭けだったけどな。それでもあんたなら弱い手で来る。そして俺の狼狽を不審に思う。それなら弱い手でフォールドという最善手を逆手にとって、コールで普通に勝つっていうことをするだろうってね」

 これまで、スキルで色んな人の行動を見てきた。
 それを元に策を立てるというのは、その相手を敵であれ見方であれ相手を信じて行動するということ。

 それがなければ、どう動くなんてことを視野に入れられないわけで。

 もちろん中には想定外の行動をする人もいる。
 時には道理を捻じ曲げて、理解しがたい行動をする人もいる。

 それは頭がいいとか悪いとか、そういうことは関係ない。
 それが人間。

 けど、そんな人間を信じて動かなければ、俺なんて何もできない非力な人間なのだ。

「あんたはどうやらそれなりに俺のことを買ってくれてるようだからな。俺の見苦しい行動に、何か裏を感じてくれれば深読みしてくれるかな、と思ってさ。ま、一種の悪あがきだよ」

 まぁ正直に言えば、これもすべて煌夜の頭の回転の良さがなければ勝てなかったわけで。
 これもある意味、煌夜を信じたからこその策。
 最後の最後は敵を信じたってことになるけど。

 まぁいいさ。
 そっちの方が俺っぽい。

「なるほど、発端の里奈さんも演技ですか。さすがですね。そこら辺の呼吸というのは」

「え? あ、はい! なんてったって妻ですから!」

 だからそれは違うっちゅーに。

 ちなみに多分里奈が声を上げたのはまた別の理由からだろう。
 里奈が声を上げたのは俺がチェンジのカードを見てから。

 つまり、クイーンが2枚、合わせて4枚も来ていたことに驚いた。
 ただそれだけだろう。今の反応、めっちゃどもってたしな。

「良いように手玉に取ったつもりが、逆に手玉に取られましたか。やはり天才は違う」

 そんなこと言うけど、別に何かしたつもりはないんだけどね。
 ただ意味深な行動をしただけで。
 それに1、2セットはいいように転がされたわけだし。

「2セット目の毒舌。あれも俺を、そして里奈を揺さぶって勝負を有利にしようって腹だろ」

「ええ、そういうことにしておいてください」

「ふん」

「なーんだ、そうだったんですね。なんか変だなーって思ったんですよね」

 里奈。お前がそれでいいなら俺は何も言わないよ。

 とはいえ勝ちは勝ちだ。

「じゃあ、教えてもらおうか。この世界の真実とやらを」

 それをなぜ煌夜が知っていて、俺に伝えようとしているのか。
 それは謎だけど、聞いてから判断すればいい。

「…………わかりました」

 そう少し重く言葉を吐くと、たたずまいを正して煌夜は語りだす。

「以前、お話ししましたね。パルルカ教。その神とあがめられているのがあの女神だと」

 ああ、あの和平交渉の時か。
 あの時は驚いたけど、信じられなかった。
 だって、あの女神だぜ?

「そしてその女神がこの世界に降臨する時。それはこの世の終わりだと」

「ああ。聞いた。けど、それって今の状況はどうなんだ? その、彼女の体を使って降臨ってことにはならないのか?」

「あれは人の体を依り代としただけのことです。本人曰く、ラジオと同じだということです。業腹ですが。本体は別のところにいる」

 それを本人が言ったのかよ。

「あの女神は異界から来た神官――我々の勝者を生贄にして蘇る。そしてこの世界を滅ぼす。これは先に言った通りです」

「でも、その後の話で勝者はもとの世界に戻れるって話になったじゃないか。あの女神の言っていることを真実だとすれば。真実ってのはそのことか?」

「いえ、それは少し違います。いや、正直言うと、もはやこの状況に陥った時点でそれほど意味のある真実ではないのですが……」

 なんだよ、それ。

「ただおそらく。おそらく、あの女神は得意満面であなたに語ることでしょう。『どうだ、驚いたかー、にゃははー』とか言って」

 うっ、なんか容易に想像がつく。
 てか煌夜、モノマネうまいな。

「だからこれから話すのは、それを防ぐため。そして……あなたなら、それに対する有効な対応が考えつくと思ったからです」

「光栄だね。まぁほぼ丸投げ感ばっちりなのは置いておくとして」

「申し訳ありませんね。これでも考えつくしたのですが」

「ま、いいさ。丸投げには慣れてる」

 本当、この世界に来てから丸投げされまくりだったからなぁ。
 最後の最後まで丸投げかぁ。

「じゃあ聞こうか。その女神が語るだろう、この世界の真実を」

「ええ……その前に1ついいでしょうか? 里奈さんも含めて」

「ん?」

「あなたたちに、元の世界の記憶はどこまでありますか?」

「それは……そりゃ物心がついたときに」

「その証拠は?」

「証拠って言われてもなぁ。俺がそう思って、そう覚えてる。それ以上のものはないだろ」

 われ思うゆえにわれあり。
 それ以上でもそれ以下でもない。

「そう、ですよね」

 少し肩を落としたように煌夜がつぶやく。

 なんなんだ?
 それが一体どうしたっていうんだ。

「もう1つ。この世界に来て、夢を見ませんでしたか? あなたなら、小さい女の子の夢とか」

「なんで、それを」

 何度か見た。
 暗い闇の中で、女の子が泣いているのを。
 そして思い切り人殺しと罵倒されたのを。

 なんだったのか分からない。
 けど、それが関係するというのか?

「そういえば私も」

「里奈も?」

 前に里奈は見たことがないと言ったのに。

「う、うん。最近ね。どこかで見たことがあるような女の子なんだけど、ただ優しく笑っただけでちょっと怖かったかな。あっ、今思えば見覚えあるのはあれかな。マリアに似てるかも。ちょっと成長した姿」

「マリアと?」

「そのマリアというのは、マリアンヌ・オムルカ。現オムカ王国の国王ですね?」

「あ、はい」

 里奈が首肯する。

「やはり、そうですか」

 煌夜は1人、納得したようにうなずく。

「なんだよ、はっきり言えよ」

「いえ、結論は簡単です。ですが、改めて考えると……空恐ろしい」

「恐ろしい?」

「……はい。こんな事象が起きていいのか、という想いと。何より、あの女神がここまでするか、ということに」

「女神が?」

「順を追って、というより少しゲーム風に話しましょうか」

「いや、結論を言えよ」

「嫌です。というより、正直、認めたくないのですよ。ですから、あなたにもしっかりと考えてほしいのです」

 煌夜は諭す、というより懇願するようにそう言ってきた。
 うぅん、こいつがここまで言うとは。仕方ない。

「ヒントは3つ。あなたたちが見たという夢。アヤさんと林檎さん。そして、あの女神の性格」

 いや、分かるかよ。

 てかそのまますぎるだろ。

 俺たちが見た夢は分からないし、
 なんでここでアヤと林檎が出てくるのかも分からないし、
 あの女神の性格なんてもっと、というか違った意味で分からない。

 こんなのヒントと呼べるかどうかすら怪しい。

「もう1つ、というか最後の女神について、もう少し深堀しましょうか。あの女神の性格、というより性質。転生の女神が、キーとなると考えています」

 そういえば最初はそう言ってたっけ。

 転生。
 異世界に行く、のは本質ではない。

 転生。
 生まれ変わる。
 死んで、生き返る。

 俺は死んで、生き返った。
 里奈も、煌夜も、ここにいる仁藤もそうだろう。

 けど、ここで死んだ連中は生き返らない。
 サカキも、淡英も。

 若干不平等に思える。
 だって、死んで生き返るなんて、そんな反則なこと――

 死んで……生き返る?

 そこで何かが閃いた。
 閃いたら、止まらない。

 夢。アヤ。女神。
 死。転生。男。女。姉妹。里奈。マリア。達臣。

「まさか――」

 俺の反応に、煌夜は何かを感じたらしい。

「やはり、そうなのですね。できれば当たっていてほしくなかった」

 煌夜は残念そうに、しかしはっきりとした口調で断定する。

「それが、世界の真実です」

 それは、この期に及んで俺を絶望に叩き落すには十分すぎる真実だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...