知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
594 / 627
第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

第33話 受け継がれる意死

しおりを挟む
「明彦くん、大丈夫?」

 しばらく放心していた俺を里奈が心配して声をかけてくれた。

「……ああ」

 だがそれ以上に声が出ない。
 言っていいことなのか。
 頭が固まる。

「何があったの? 教えて」

 里奈に求められるが、それでも戸惑う。
 あるいは里奈なら。
 そう思って口を開きかけるが、

「さて、会見はこれで終わりですね」

 煌夜に邪魔された。
 振り向いて改めて煌夜を見るが、小さく首を振るだけだ。

 話すなってことか。

 なるほど。
 こいつは全部1人で抱えてきたってことか。
 おそらく相方にも伝えていないだろう。

 なら、俺もそれに倣うべきだ。
 無理に心配させる必要はない。

「いや、ちょっとこいつの妄言を検討してただけだ。その結果、こいつは新興宗教の教祖様だよ。怪しいことこの上ない。とんだ電波だって分かって愕然としたんだ」

「心外ですね、それに教祖ではなく教皇です」

「どっちも同じだろ」

「違います。私はすたれた教義を復活させただけです」

「中興の祖ってことだろ。それでも十分、教祖の立場だ。ま、それもあの女神に騙されてたってことだろうけど」

「本気で怒りますよ、ジャンヌ・ダルク?」

「どうぞ、天罰をくだしてみやがれ、教祖様?」

 もちろん本気で口論しているつもりはない。
 里奈から話をそらすためにやっているだけにすぎない。
 相手もそれを分かっている。

 そこら辺の息の合い方に、どこかホッとしている自分がいる。

 あるいは。
 本当にあるいは。

 俺が帝国側に転生していたら……こいつとも仲良くできたのではないか。
 達臣も、堂島元帥も、長浜大将軍も。

 いや、そんなもしも、考えるだけでもむなしい。
 というより恐ろしい。

 それはつまり、敵対していたということだから。
 ジル、サカキ、ニーア、クロエ、そして……マリア。
 彼ら彼女らを、俺の采配で命を散らしていたかもしれないなんて、考えたくもない。

 だからこの出会いは必然で、この別れは運命だ。
 もはや時計は逆に戻ることもない。
 ここからさらに転生することもない。

 なら、ここまでだ。

 俺と彼の関係性の物語は。

「あー、なんか盛り上がってるとこ悪いけど。ボクはどうすればいいかな?」

 仁藤が心細そうに声をあげる。

 あぁ、そういえばそうか。
 このまま帝国に残れば、女神に殺される。
 それは心苦しい。

「うちに来るか?」

「いいのかい? ああ、けど煌夜さん」

「遠慮することはない。君は生きたまえ」

「……お世話になりました」

「うん」

 それで別れは終わった。

 が、そういえばと煌夜が思い出したように、

「1つだけ、お願いしてもいいですか?」

「負けたのに、図々しいな」

「そうでなくては、1つの宗教の教主にはなれませんよ」

 やれやれ、仕方ない。

 俺はうなずいて相手の言葉を待つ。
 そして、

「あの女神を、倒してください」

「っ!」

 まさか、という想いと、やはり、という想いが胸を駆け巡る。

 思い出すのは尾田張人の言葉。

『煌夜をあまり舐めない方がいい』

 舐めない方がいいのは、彼の執念。

 彼にとって自分の命はどうでもいいらしい。
 必要なのは、女神への復讐。

 いや、そんな浅いものじゃない。
 きっとこれは――

「世界への、抵抗か」

「そんな格好いいものではないですよ。ただ、自分がやり残した仕事を、頼もしい同志に託した。それだけのことです」

 …………同志、ね。
 都合のいい言葉だ。

「なんで俺なんだ。勝ったけど、俺は力は貧弱。武器も持てない。あの女神を倒そうと思っても、無理だって分かるだろ」

「それは、私がやろうとしたやり方ができるのは、この大陸広しといえどあなたしかいないからです。本当は、もっと仲間を集めて決戦に挑みたかったのですが、もはやそれも叶いません。ですから、あなたにしか託せない」

「…………」

「それに倒すといっても、あの女神を引きずり出さなければならない。それができるのは、これまで女神に繋がりを持った者、あなたしかいない。そしてその後、女神を倒すための環境を整えること、それもあなたしかいない」

「環境?」

「そう、女神を引きずり出し、戦いを挑む環境づくり。それは、知力に突出した私かあなたしかできなかった」

「それなら達臣にもできるだろ」

「彼も優秀ですが、それほどの執念はない。それに、どちらかというと、政治家ですよ、彼」

 そういうものか……。
 けど、まぁそうだな。
 これは彼の遺言みたいなもの。

 きっと、俺が恐れていた共倒れという線がないという告白だ。

 その覚悟に対し、応えるのはそれを受け入れるしかないのなら。
 俺は感謝の言葉を込めてうなずく。

「確約はできない。けど、善処しよう。俺も、あの女神には相当いらついてるし」

「それで構いません。それで、私と麗明は救われる」

「お前たちは――」

 その後に、何を言おうとしたのだろう。
 分からない。

 だからそれ以上、何も言えなくなって、口をつぐんだ。

「それでは、これにてお別れです」

 そんな俺を元気づけるためか、大仰に頭を下げる煌夜。

「……ああ」

 俺はそれしか言えなかった。

「さようなら、煌夜さん」

「ええ、さようなら、里奈さん。お元気で」

 里奈はお辞儀をして、仁藤は軽く会釈をした。

 そのまま煌夜はカジノを――いや、つぶれた教会から出ていく。

 その背には、覚悟を決めた男の力がみなぎっている。
 そんな風に思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...