知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

閑話44 椎葉達臣(エイン帝国軍師)

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 ひたすらに待った。

 オムカ王国王都バーベルの北西5キロの地点にある窪地。
 そこに兵3千を伏せている。

 さらに少し離れた林の近くに、3千と4千がそれぞれ分かれて伏せてある。

 総勢1万の伏兵。

 それで明彦を待ち受けて殺す。

 恨みというのではない。
 里奈のこと、帝国のこと、堂島さんのこと、煌夜のこと。
 それらの要素が渦巻き、確かに明彦が憎いと思ったのは一切ではない。

 けど、もはやそういった次元の話ではなくなっている。

 明彦を殺す。

 そうすることで、俺はこの世界に踏ん切りがつけられる。

 そう感じている。
 そう信じている。

 それが、俺を親しい友と呼んでくれた明彦に対する礼儀だと。

 屈折しているのは分かっている。
 バカなことを言っているのも分かっている。

 それでも。
 それでも、だ。

「隊長、アスマ将軍がいらっしゃいました」

「そうか」

 タニアの報告に目を開ける。

 くだらないことを考えていたと思う。
 けど大事なことを決めたんだと思う。

 やがて、飛鳥馬さんがやってきた。

「いや、手ごわい。あれは落ちんな」

 飛鳥馬岳人はそう呑気に告げた。
 王都バーベルが落ちないとはいうが、帝国軍の総大将がこんなところにいるのだから、帝国兵は士気が下がるんじゃないだろうか?

「いんですか? こんなところにいて」

「ああ。あれはよくできた城だ。昔はもっと落としやすいと聞いたが、なかなかどうして。堀が何重にもなっていて、城門付近にも防衛施設みたいのができていて、そこがうっとおしい。あれは完全に誰かがここ数年で作り変えたな。何より主力兵が1万以上いるのはさすがに辛いな。鉄砲もバンバン撃たれて、即席の罠もいっぱいあって。まぁ、これが噂に聞く軍師様の仕業なんだろう」

「明彦……」

「知り合いだったと聞いた。やりづらくはないか?」

りづらくないです。ちゃんとりますよ。だからここにいる」

「……ま、俺があれこれ言う立場じゃないが。あまり気負うなよ」

「ええ。分かってます」

 本当に分かっているのか、分からないけどそう答えていた。

「ま、どのみち王都を落とすのは一両日中には無理だ。だったら援軍として来る、そのジャンヌ・ダルクとやらをぶち殺した方が色々やりやすくなるだろう」

「ええ」

 明彦は必ず来る。
 そこをこの1万の伏兵で襲う。

 だが、そこに一抹の不安を感じる。

「くれぐれも油断はしないでください。相手は普通じゃない」

「煌夜たちがやられたと聞けば気を付けるさ。けど、チャンスと見たら行く。そうしないと、今度こそ本当に負ける。これまでだらだらと東部戦線で戦い続けてきたツケが回ってきたな」

「…………」

 確かに、この人が東部戦線でシータ王国を押し返し、あるいは堂島さんのようにシータ王国を攻略してさえいれば。
 煌夜も、堂島さんも、長浜大将軍も、明彦にやられることはなかったのかもしれない。

 だがそれは言っても栓のないこと。
 今更それを言ったところで死者がよみがえるわけでもない。

 だから気持ちは切り替える。

 それからはただ待つだけの時間。
 やがて、偵察に出ていた騎兵が戻って報告する。

「敵、動き始めました」

「よし」

 明彦は最後の休憩をしていたようだ。
 陽は中天から少し動いた程度。
 陽が落ちる前に王都にたどり着くだろう。

 だからそこを襲う。
 それで、この戦いは終わりだ。

「それじゃあ、行こうか」

「はい」

 とは言っても、もう自分がすることはほとんどない。
 自分の部隊はもうないのだから、指揮することもない。
 この伏兵を置いた時点で、軍略としての出番も終わった。

 あとは、自分のスキルで相手をかく乱するくらいか。

 だから指揮は飛鳥馬さんに任せて待つ。
 待つ。
 待つ。

 左前方から地鳴りが聞こえてくる。

 騎馬隊。
 明彦。

 こちらに気づかず、通り過ぎようとする。

「やるか?」

「はい、出ましょう」

「では、行こうか」

 まるで散歩にいくような呑気さで、飛鳥馬さんが部隊を動かす。
 他の2つの伏兵にも伝令が出ている。

 時間差で明彦たち援軍を襲う。
 それで勝てるはずだ。

「全軍、かかれー!」

 飛鳥馬さんの号令を元に、窪地から3千の兵がわっと飛び出す。

 そのまま草原を走り、目の前を横切ろうとする敵の騎馬隊に襲い掛かった。

 敵は一瞬、こちらの動きにひるんだように速度を落とす。
 だがさすがは明彦。逃げられないと悟ると、こちらに向かって突撃を始めた。

「槍、出せ!」

 飛鳥馬さんの号令。
 歩兵が槍を出して、敵の騎馬の動きをけん制する。

 さらに自分も援護とばかりに、『罪を清める浄化の炎バーン・マイ・クライム』で敵の突撃を妨害する。

 敵はこちらに突撃できず、かといって突破もできずに、くっついたり離れたりする。

 その間に、二陣の伏兵が騎馬隊を襲う。

 相手がさらに動揺したのが目に見えた。
 行ける。
 いや、まだだ。
 相手は騎馬隊。
 なんとか距離を離そうと、必死に動く。

 その動きになかなか歩兵ではついていけない。

 だからこその最後の三陣。
 それはこちらも騎馬隊で構成された部隊。

 それが逃げ出す相手の背後を襲うようにして攻撃を開始する。
 逃げる相手を討つほど簡単なことはない。
 それで終わりになるはずだ。

「今だ全軍で潰せ!」

 敵の動きが鈍る。
 そこを狙うように、飛鳥馬さんが全軍突撃の号令を下す。

 逃げる敵。
 追う味方。

 さすがに敵は速いか。
 いや、追いつく。
 こちらの騎馬隊が噛みつくと、それに対抗して相手も速度を落とす。
 その隙に歩兵隊がどんどんと距離を詰める。

 あと少しで完全に取り込める。

 そうすればあとはなぶり殺しだ。

 明彦も、きらめく刀槍の中で朽ち果てるだろう。

 それを考えると、血がたぎり、どこかむなしく思えた。

「行ける。あのジャンヌ・ダルクを討つぞ!」

 飛鳥馬さんが前のめりになったように、興奮して叫び、走る。
 敵の騎馬隊を次々と突き落とし、あとは包囲してしまえば終わり。

 そこで――

「あっ」

 明彦だ。
 金色の髪。小さな体。透き通るような白い肌。
 美しい。
 けど、それがあの明彦だと考えると、どこかおかしく感じる。

 その少女が、明彦が。
 こちらを見た。

 間違いなく、目が合った。

 その顔に、ゾクリ、とした。

 笑ったのだ。

 僕を見て、はっきりと認識して、そのうえで笑った。
 いや、嗤った。

 カッとなった。

 絶体絶命の危地にも関わらず、なぜ笑う。なぜ嗤う。

 だが、今にして思えばあまりにも簡単に行き過ぎていた。
 誰にも及ぶことのない自分が立てた策で、今や百戦錬磨の軍師の明彦に敵うわけないのに。

 なぜ、勝てると思ってしまったのか。

 その自分の絶望を示すように、彼女は――明彦はその青く染め抜かれた小さな旗を、高々と掲げ、こう言い放った。

「これぞジャンヌ・ダルクの真骨頂、釣り野伏! 全軍、かかれっ!」

 途端、周囲から喚声が上がった。
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