知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

第38話 最後の釣り野伏せ

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 仲間が死んでいく。

 それは耐えられないことだ。

 けど、ここで勝つには必要な犠牲。
 敵を釣り出すには、ある程度本気で戦わないといけない。

 そのために、ある一定の犠牲は許容しなければならないなんて。
 本当に、軍師なんてものは人の命を駒のように捨てる、ろくでなしで人でなしで甲斐性なしの最低な人種だ。

 けど、

『すまないけど、みんなの命をくれ』

 合流したウィットたちを含め、部隊の全員を前にして、俺はそう言った。

『当然です! 隊長殿のためなら、命の1つや2つは簡単に差し上げます!』

『なら貴様は3回くらい死んでこい。そうすれば初めて隊長の役に立ったと言えるだろ』

『にゃにおー! ウィットのくせにー!』

『はいはい、そこまで。本当にあんたたちは元気ね』

『まーまー、ウィットはクロエを心配してるんだろうし』

『断じてない!』

 こいつらのこのやり取りを見るのはあと何回あるだろうか。
 あるいはこのうちの誰かが命を落として、二度と見られないかもしれない。

 誰がいつどこで死ぬか。
 そんなこと、神様じゃない俺たちには分かるはずもない。

 なのに、彼らはそんな気配すらにおわせず、誰もが覚悟を決めた様子でいる。

『命はすべて貴女に預けています。命令を、隊長』

『ちょ、ウィット! 隊長はわたし!』

 本当に……頼もしいというか、もっと自分を大事にしろというか。
 こんな俺のために。

 ……いや、それは驕りだ。

 こいつらはこいつら自身のために生きている。
 生きて、命をかけている。

 なら俺は、それを最大限に活かしてみせる。
 そう決めた。

 そして、戦闘が始まった。

 一進一退の攻防は、敵の増援が来るにつれて不利になっていく。
 敵はどうやら1万ほどを投入してきたらしい。

 3千しかいないこちらが勝てる道理はない。

 だから逃げた。
 ひたすらに逃げた。

 その最中、達臣を見つけた。

 最初に突撃した時に、地面から湧き出た炎でその存在は分かっていたけど。まさかここにいるとは。

 いや、帝国軍の残党と聞いてまっすぐに思いついたのが達臣だ。
 だからまさか、という想いと同時に、やはり、という想いが沸き起こる。

 そして戦いながらもひたすらに逃げて、逃げて、逃げまくった末。

 ようやくアークたちの軍が伏せる場所まで来て、ふと振り返った。
 達臣がいた。

 達臣が、見たことのない般若のような表情を浮かべ、だがどこか不安げな表情を見せていた。

 思わず、笑ってしまった。
 声をあげて大声ではないけど、なんだかこの境遇がおかしくなって失笑してしまった。

 本当に。
 こんなところで何をやってるんだろうな、俺たち。

 平和な世界。
 平和な学校。
 平和な生活。

 今日の授業を憂鬱に思い、ただ語らうだけでも心安らぎ、時には対立するけど、いつかは分かり合える。
 バカな話をして、バカなことをやって、そしてバカみたいにまた明日が来るのを当然のごとく思っている。

 それが、こんな騒乱と死が隣り合わせの世界に来て。
 敵と味方に別れて殺し合っている。

 本当に、滑稽だ。

 こんな運命。誰が予想した。
 こんな運命にした、あの女神は、本当に尋常な精神がねじ切れている。

 本当に、最低の神様だ。

「明彦くん!」

 里奈が俺に向かって来た敵兵を斬り落とす。

 俺はもう迷わない。
 達臣だろうと、水鏡だろうと。

 立ちふさがるなら、マリアを殺そうと言うのなら蹴散らす。

 そしてあの女神に対する。
 これ以上ないほど叩きのめしてぎゃふんと言わせて、この世界をありのままの状態に戻して返す。

 そのためにここで死ぬわけにはいかない。

 それが、俺が奪ってきた命に対する贖罪しょくざい
 さんざん振り回されてきた、神に対する人類の抵抗。

 使い古された言い回しをするならこうだ。

「人類を、舐めるなよ」

 俺は旗を取り出すと、それを立て、大きく振り、叫ぶ。

「これぞジャンヌ・ダルクの真骨頂、釣り野伏! 全軍、かかれっ!」

 俺たちの後方、左右から湧き出たように現れたアークの兵が俺たちを狙う達臣たち帝国軍残党へと襲い掛かる。

 それだけで、一気に形勢は逆転した。

 人間、うまく行ってるときは疲れを忘れるものだ。
 けど一度でもつまづいて、立ち止まってしまったら、疲れは一気に噴き出す。

 これまで有利に戦ってもう少しで勝てる。
 その刹那、敵の増援が来る。

 また戦わなくてはいけない。
 まだ戦わなくてはいけない。

 そう思ったらもう負けだ。
 上り調子から一気にフォールダウン。気持ちのジェットコースター、普通の人間ならやる気を阻喪そそうする。

 そして一部が背を見せてしまえば、取り残されるのを恐れて、逃げ遅れるのを怖れて、全体が逃げ出す。
 背中を見せた敵ほど討ちやすいものはない。

 剣にせよ槍にせよ、前に踏み出す力が重要なのに、逃げているのだからその運動エネルギーはまったく逆。
 対してこちらは前に出ながら得物を振るのだから、運動エネルギーがよく乗る。

 また、兵の防具はたいてい前を重点的に厚くしている。
 敵と戦う時は向き合ってるから、前面の防御を厚くするのは当然のこと。
 背中まで覆うには、金銭的な余裕もない。

 だから逃げる敵の背中は無防備でもある。
 それらが合わさって、追撃は断然優位になるのだ。

「隊長殿! 大勝利ですね!」

 クロエが顔を輝かせて馬を寄せて来る。

 だがそれを俺は一喝した。

「まだだ! このまま敵を追い立て、北門に陣取る敵を蹴散らす! その混乱に乗じて北門から王都に入るぞ!」

「あ、はい!」

 クロエが慌てて気を引き締めて敵を追う。

 敗走する敵勢。
 達臣の姿は見えない。

 達臣。

 心の中で呼びかける。

 頼むからもう出てくるな。

 もうこの世界は終わる。
 悪いけど、俺が勝たせてもらう。

 だからもう邪魔しないでくれ。
 そして戻れるなら一緒に戻ろう。

 俺はもう、知っている人が死ぬのは見たくない。
 だから、頼む。

 もう、俺の前に来るな。
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