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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた
閑話45 椎葉達臣(エイン帝国軍師)
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やはり、勝てなかった。
明彦はこちらの伏兵を読み切って、逆にあちらの伏兵の居場所まで誘導した。
さらにそこからが激しかった。
背中を見せて逃げる味方をひたすらに追い立て、王都を包囲する帝国軍の陣へと突入。
そのまま北門から王都へと入城したのだ。
それもこれも、敗走する僕たちのせいで陣は大いに崩れたのが大きい。
「はっ……しまらない終わりだな」
その中で、そう言って飛鳥馬さんは死んだ。
背中を数カ所斬られ、矢が肩やわき腹に刺さった満身創痍の姿で、そう自嘲して落馬したのだ。
帝国軍を率いる大将だ。
それが死亡したとなれば、軍勢は瓦解する。
それをまとめるのが、軍師でもある僕の役目だっただろう。
だが、そもそもが全然交流のない部隊なのだ。
飛鳥馬さんと親しかったわけでもないし、その部下に面通ししたわけでもない。
だから何を言おうと、部外者の僕がまとめられるはずもなく、その気概もなかった。
そして、それなりに飛鳥馬さんは有能だったのだろう。
それが今は逆に仇となった。直属の部下たちが、自主的に動こうとしなかったのだ。
完全なトップダウンが出来上がっていたから、まとまった組織となっていたのだが、トップがいなくなった途端、どうすればよいか判断する人間がいなくなった。
そうして、3万もいた軍勢は消滅した。
そもそもが他国の戦なのだから、戦意に乏しかったのもある。
けど、まさか一瞬にして3万もの軍勢がなくなるとは思わなかった。
まるで魔法を見せられたようだ。
そこではっきりと自覚した。
明彦には勝てない。
もはや、戦うことすら愚かしい。
無駄を通り越して、圧倒的なマイナスでしかない。
損得で戦ってわけでもないけど、ここまでやられればもう心が折られた。
元々、嫌いな奴じゃなかった。
たまたま状況があいつへの憎しみを育てたけど、それがなければ、それなりに仲の良い友人にはなれていた。
その憎しみが、もはや苦しみでしかない。
「隊長……」
タニアがやってきた。
混乱の中ではぐれてしまったものの、どうやら無事だったようだ。
そのことが、何よりも嬉しかった。
「無事、か」
「はい……ですが」
悲しいような、疲れ切ったような表情をするタニア。
飛鳥馬さんは死に、3万の帝国軍は消滅した。
もはや、帝国に未来はない。
そのことが、彼女に分かったのだろう。
「もう、帝国は終わりなのですね」
「ああ。煌夜と元帥が亡くなった時点で終わっていた。これはそう……亡国への鎮魂歌みたいなものだ」
「……隊長は」
「ん」
「隊長は、もう戦わないのですか」
たった今、心に決めたことだ。
それでもすぐに返答するのは躊躇われた。
本当に、どうしようもない。
ここに至って他人の目を気にしてもしょうがないだろうに。
「ああ、しない。僕は、敗けたんだよ」
「そう、ですか……」
あぁ、本当に心苦しい。
彼女のこんな顔は見たくない。
けど、それも仕方ないんだ。
だってこれ以上戦っても、勝ち目は薄い。
それでただ負けるだけならいい。
自分が死ぬだけならいい。
そのことで彼女が、タニアがその命を失うかもしれない。
そう考えると、どうしてももう一度という気分にはなれない。
とはいえ、それを言葉にもできない。
彼女が重荷だと知れば、それは彼女を深く傷つけるだろうからだ。
色恋に疎い自分にも、それくらいは分かる。
「失望したかな?」
「……いえ」
その言葉のニュアンス。
失望していたのだろう。
僕自身もそうだ。
僕が、僕自身に失望した。
だからもう隠遁する。
堂島さんに引っ張り出される前の状態に戻る。
それほどまでに、自分の無力さに失望していた。
「僕は地位もすべて捨てて、どこか田舎に引っ込もうと思う。タニアは……」
どうする?
そう聞こうとして、彼女がじっとこちらを見ているのに気づく。
そしてそれだけで、彼女が何を言いたいのかが分かった。
おいおい、本気か。
こんな頼りないろくでもない情けない男について、何をしようっていうんだ。
けどそれでも。
やっぱり心のどこかであるいはと思っていた自分がいて。
なんだかそれが、涙が出るくらいに嬉しかった。
「僕と、一緒に来てくれるか」
「あなたとならどこまででも」
間髪要らず返答が来た。
覚悟を決めるまでもない。
彼女にはある程度、この戦いの先を話してはある。
敗けたからには、女神に殺される可能性があるとも。
それでも、彼女はうなずいてくれたのだ。
僕と一緒にいてくれるというのだ。
そんな人を振り払う手を、僕は持っていない。
女神のことは明彦がなんとかするだろう。
だからその時が来るまで、あるいは一生になるかもしれないが、その時まではもうこの世界に埋もれて生きよう。
さようなら明彦。
さようなら里奈。
僕はここで降りる。
あとはせいぜい、頑張ってくれ。
それが一時は友人としていた僕の、最後の願いだ。
明彦はこちらの伏兵を読み切って、逆にあちらの伏兵の居場所まで誘導した。
さらにそこからが激しかった。
背中を見せて逃げる味方をひたすらに追い立て、王都を包囲する帝国軍の陣へと突入。
そのまま北門から王都へと入城したのだ。
それもこれも、敗走する僕たちのせいで陣は大いに崩れたのが大きい。
「はっ……しまらない終わりだな」
その中で、そう言って飛鳥馬さんは死んだ。
背中を数カ所斬られ、矢が肩やわき腹に刺さった満身創痍の姿で、そう自嘲して落馬したのだ。
帝国軍を率いる大将だ。
それが死亡したとなれば、軍勢は瓦解する。
それをまとめるのが、軍師でもある僕の役目だっただろう。
だが、そもそもが全然交流のない部隊なのだ。
飛鳥馬さんと親しかったわけでもないし、その部下に面通ししたわけでもない。
だから何を言おうと、部外者の僕がまとめられるはずもなく、その気概もなかった。
そして、それなりに飛鳥馬さんは有能だったのだろう。
それが今は逆に仇となった。直属の部下たちが、自主的に動こうとしなかったのだ。
完全なトップダウンが出来上がっていたから、まとまった組織となっていたのだが、トップがいなくなった途端、どうすればよいか判断する人間がいなくなった。
そうして、3万もいた軍勢は消滅した。
そもそもが他国の戦なのだから、戦意に乏しかったのもある。
けど、まさか一瞬にして3万もの軍勢がなくなるとは思わなかった。
まるで魔法を見せられたようだ。
そこではっきりと自覚した。
明彦には勝てない。
もはや、戦うことすら愚かしい。
無駄を通り越して、圧倒的なマイナスでしかない。
損得で戦ってわけでもないけど、ここまでやられればもう心が折られた。
元々、嫌いな奴じゃなかった。
たまたま状況があいつへの憎しみを育てたけど、それがなければ、それなりに仲の良い友人にはなれていた。
その憎しみが、もはや苦しみでしかない。
「隊長……」
タニアがやってきた。
混乱の中ではぐれてしまったものの、どうやら無事だったようだ。
そのことが、何よりも嬉しかった。
「無事、か」
「はい……ですが」
悲しいような、疲れ切ったような表情をするタニア。
飛鳥馬さんは死に、3万の帝国軍は消滅した。
もはや、帝国に未来はない。
そのことが、彼女に分かったのだろう。
「もう、帝国は終わりなのですね」
「ああ。煌夜と元帥が亡くなった時点で終わっていた。これはそう……亡国への鎮魂歌みたいなものだ」
「……隊長は」
「ん」
「隊長は、もう戦わないのですか」
たった今、心に決めたことだ。
それでもすぐに返答するのは躊躇われた。
本当に、どうしようもない。
ここに至って他人の目を気にしてもしょうがないだろうに。
「ああ、しない。僕は、敗けたんだよ」
「そう、ですか……」
あぁ、本当に心苦しい。
彼女のこんな顔は見たくない。
けど、それも仕方ないんだ。
だってこれ以上戦っても、勝ち目は薄い。
それでただ負けるだけならいい。
自分が死ぬだけならいい。
そのことで彼女が、タニアがその命を失うかもしれない。
そう考えると、どうしてももう一度という気分にはなれない。
とはいえ、それを言葉にもできない。
彼女が重荷だと知れば、それは彼女を深く傷つけるだろうからだ。
色恋に疎い自分にも、それくらいは分かる。
「失望したかな?」
「……いえ」
その言葉のニュアンス。
失望していたのだろう。
僕自身もそうだ。
僕が、僕自身に失望した。
だからもう隠遁する。
堂島さんに引っ張り出される前の状態に戻る。
それほどまでに、自分の無力さに失望していた。
「僕は地位もすべて捨てて、どこか田舎に引っ込もうと思う。タニアは……」
どうする?
そう聞こうとして、彼女がじっとこちらを見ているのに気づく。
そしてそれだけで、彼女が何を言いたいのかが分かった。
おいおい、本気か。
こんな頼りないろくでもない情けない男について、何をしようっていうんだ。
けどそれでも。
やっぱり心のどこかであるいはと思っていた自分がいて。
なんだかそれが、涙が出るくらいに嬉しかった。
「僕と、一緒に来てくれるか」
「あなたとならどこまででも」
間髪要らず返答が来た。
覚悟を決めるまでもない。
彼女にはある程度、この戦いの先を話してはある。
敗けたからには、女神に殺される可能性があるとも。
それでも、彼女はうなずいてくれたのだ。
僕と一緒にいてくれるというのだ。
そんな人を振り払う手を、僕は持っていない。
女神のことは明彦がなんとかするだろう。
だからその時が来るまで、あるいは一生になるかもしれないが、その時まではもうこの世界に埋もれて生きよう。
さようなら明彦。
さようなら里奈。
僕はここで降りる。
あとはせいぜい、頑張ってくれ。
それが一時は友人としていた僕の、最後の願いだ。
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