知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第1章 オムカ王国独立戦記

第4話 戦場の空気

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 そこは森の中だった。
 風の音が木々を揺らし、鳥の鳴き声が聞こえるどこにでもありそうな森。木々の切れ間から見える陽光は中天から少し傾いている。周囲に人気はなく、やかましいくらいの野鳥の鳴き声が響く中。その中を俺は1人、ぽつんと突っ立っていた。

「なんで俺、こんなところにいるんだっけ……?」

 直前の記憶がまったくない。
 なんとなくぼぅっとした気分だ。どこか浮ついたような、現実味のない浮遊感といったらいいのか。

 何か大切なことがあったようだけど、それが何か思い出せない。喉の奥に小骨が刺さったかのような、とても不快で深刻な違和感。

「なんだったっけな……」

 分からない。けど、今も現在進行形でとてつもない違和感が自身を襲っているのは確かで。
 頭を掻く。頭頂部を刺激することで、何か閃きが起きるんじゃないかと期待したけど、もちろんそんな都合の良いことはなく。

 ただ、別の違和感の正体にその時気づいた。

 ごわごわしている。
 それは腕を動かした時の感覚で、それが自分の着ている服によるものだと判明する。いつものTシャツ――某安売り量販店で大量に仕入れた化学繊維のものじゃない。布は布でも荒い布で、それほどしっとりと肌に合う感じじゃなく、ごわごわ――というよりがりがりと肌に触れ合うのはとてつもなく不愉快。

 さらに下を見る。
 グレーのロングパンツを履いているけどこれも俺のじゃない。麻布の野暮ったい感じで通気性が果てしなく悪い。いつものスリムジーンズなら冬でも夏でもやっていけるけど、今のこれだと夏は普通に暑く、冬は一度でも寒風に入られでもすれば足が凍えるような機能性のかけらもないものだった。

 足先を包むのはいつものシューズじゃなく、皮の靴――もちろんフェラガモみたいなできる男の革靴なんかじゃなく、もっとこう……中世ヨーロッパの農民が履くようなただ動物の皮を履物にしただけのような靴だ。

 そう、まさに中世ヨーロッパの農民みたいないで立ち。ただの村人A。
 何も思い出せなくてもそれはピンチな気がして、どうも心が落ち着かない。やっぱりこの記憶の欠落は辛いぞ。どうにかして思い出さないと……。

 と、その時。風に運ばれて何かが聞こえてきた。
 怒声か喚声か、それは人の声。

 近くに人がいる。それがこの状況ではなんともありがたいことか。
 このどことも知れない謎の森の中に放り出された現状を把握するには誰か教えてくれるのが一番。もしかしたら何かの事件に巻き込まれているかもしれないと思うと、いてもたってもいられない。あるいは里奈も、と思ってしまうわけで。
 サバイバルの知識なんてないインドアな俺だし、何より財布もスマホもなにもない。とにかく誰かに助けてもらわないと。この森の中にいつまでもいたら命に関わるだろう。

 というわけでさっそく足を歓声のした方へ向ける。
 だが少し駆けて息があがった。

「はぁ……はぁ……いや、運動はしてなかったけど、ここまでか……? まじか……」

 それ以上に何か大切な原因がありそうだったけど、今はとにかく誰かと出会うのが先決と、動かない体に鞭打って山道を登る。
 5分ほど小走りで歩いたところで森が切れた。

 そして圧巻された。

 そこは大地だった。
 森が切れたのも崖になって続くべき道がなかったため。
 そしてその下に広がる大地は、今や阿鼻叫喚の地獄となっていた。

 そこら中に何か物体が転がり、その上で別の人の形をしたものが踊り狂っているように見える。ただその間にも地面にはその物体が量産され、そのたびに耳をうつような悲鳴が響く。

 そしてそれを彩るのは、ところどころで噴き出る赤だ。
 赤が舞うたび、人の形をしたものが地面に転がり、彫像のように動かなくなる。その彫像の製作者も、数秒後には別の製作者の手によって物言わぬ彫像にされてしまう。

「うっ……」

 声が出ない。
 少し離れたここにでも、その血の匂いが届いてきそうで、腹の底から何かがこみあげて来るのを必死で耐える。

 戦争だ。
 しかも近現代以前、銃が開発される前の人と人による白兵戦が展開されていた。
 数千、いや万を超える人間が広くもない大地にひしめき合って殺しあっている。帽子型のヘルメットに鎖帷子、胸当て、肩あて、籠手、脛あてといった防具に身を固めた戦士たちが、剣や槍を手に敵を屠る。

 どこか時代劇の撮影か何か、みたいなこと思ったけど、それにしては武士とか侍という雰囲気ではなく、甲冑というイメージがぴったりと合って何かが違うと訴えかけている。そもそもこんな開けた大地が日本にあったかと思う。

 そんなことを考えつつも、思考はこの戦場を現実のものと見つつ、別のことを考えていた。

 どうやらこの戦闘。誰が敵で誰が味方か分からなかったけど、次第にその軍が持つ旗の色、そして兵たちのインナーの色で見分けるのだと気づく。
 赤の軍と青の軍。数量的には赤が多く、押しているように見える。というのも青の方は戦っているのが一部で、戦場の後ろに陣取ったまま動かない軍があるのだ。

「あの軍……何のつもりだ。味方が受け止めているところを迂回して挟撃? いや、あれはダメだ。あの軍は動く気がない。さっさと退かないと全滅するぞ」

 頭では危険信号が逃亡を訴えかけているのに、やはり俺は学者だった。歴史上の本当の戦争を前にして、その知的好奇心が何にも勝ってしまうのだ。
 人が死んでいるというのに。不謹慎だと言われても反論できない。それが俺という人間だった。

 だが、この場ではその好奇心が仇となった。

「おい、お前何してる」

 野太い声に緊張が走った。

 背後。振り向くとそこには3人の男がいた。
 今、眼下で殺し合いをしている赤の軍装を着た男たちだ。正直、こんな人間がいたのかと思うほど醜悪な顔をしている。

「ほぅ、こりゃ上玉なんだな」

 とはダルマ鼻の太った男。

「きへへへへ、斥候ついでの略奪ができりゃ御の字と思ったが、こりゃ役得だな」

 これは俺より小柄の小男。

「な、俺の言ったとおりだろ。俺についてくりゃ間違いないってよ」

 などと自慢げに言うのはひょろりとして無駄に鼻の長いキザな男。
 同じ男の俺からしても嫌悪感を誘う3人の言動だった。あからさまに非友好的な視線を向けてくるあたり、平和的な交渉は不可能そうだった。

「よぅ嬢ちゃん。おとなしく俺たちに捕まれば痛い目見ないですむぜぇ。ぐへへ、ま、違う意味の痛い目を見てもらうかもしれないけどよぉ!」

 ゾッとした。悪寒が背筋を駆け抜ける。
 こ、こいつ……男相手に、そういう趣味があるのか。

 今すぐこいつらをぶん殴りたい衝動が湧いてくるが、なんとか抑える。
 なぜなら勝ち目がないから。

 第一に1対3という単純戦力差。
 第二に相手は武装している点。
 第三にここまでの移動で体が疲れ切ってしまっている点。

 勝てる要素が一個もない。
 だから打つ手は1つだ。

「悪いけど、趣味じゃないんでね」

 言うが早いが横に走り出す。

「てめぇ、待ちやがれ!」

 待てと言われて待つ人間はいない、これは金言だ。
 だから走る。

 森の中、舗装されていない道はひどく走りづらい。しかも、やはりというかすぐさま息があがり、どんどんとペースが落ちていく。そして背後からはげひた笑い声がどんどん近づいてくる。

「ほーら、とうせんぼだな!」

 いち早く俺の前に出たのは、意外にもダルマ鼻の太った男。

 だがここで止まったら確実に後ろから捕まる。
 だから俺は速度を落とさず、ダルマ鼻の男に突っ込んだ。体重は違えど、こちらは少しは速度が乗ってる。だから体当たりをかませば、少なからず相手は態勢が崩れる。そこを一気に抜く。

 ――そう思っていた。

「うわっ!」

「へーん、なにかしたんだな?」

 全身全霊の体当たりが、いとも簡単に弾き飛ばされた。そりゃフィールドワークと読書ばかりで全然筋トレとかスポーツとかしてこなかった自分だけど、まさかここまで歯が立たないなんて……。

 無様にも地面に転がった俺は、すぐさま起き上がろうとするが――

「へっへっへー、つーかーまーえーた」

 キザ男が気色の悪い猫なで声で俺の腕を取ると、そのまま俺を地面に押し倒す。背中を打ち付けて一瞬、息が詰まる。その間にマウントポジションを取られた。

「放せっ!」

 必至にもがくものの、ぴくりとも動かない。
 なんで? こんなガリヒョロ野郎にここまでいいようにされるのか、全く相手にならないほど弱っているのか。

 それでもこいつらに掴まったら、俺もあの大地を埋め尽くす赤い血に塗りたくられた彫像と同じ目に遭う。だから渾身の力で男を振り払おうと腕をばたつかせる。その決死の抵抗の末に俺の左手が、男の顔面に直撃した。

「……てめぇ、なにしやがる!」

 キザ男の顔面が醜く歪み、そして顔面に衝撃が来た。
 殴られた。そう思ったのは、星が回る視界が明滅して見えてのことで。目がちかちかするし、おそらく鼻血が出ているのか、鼻で呼吸ができない。

 けどそれ以上に重要なことが起きた。

 思い出した。
 俺は死んだんだ。あの日。夜中。大学のゼミ室。炎に呑まれて死んだ。そして出会った。あのクソ女神。それで異世界に転生するとかなんとかで、死にたくないなら異世界を天下統一しろとかって無茶ぶりを出された。
 さらにこの世界での俺のステータスを勝手に決められて、知力99だけど筋力1の超ひ弱体質にされたってこと。この男たちに歯が立たないのも、山道をあるいてすぐばてるのも、そのせいに違いない。

 すべて、思い出した。

「おい、顔はやめろよ」

「ダイジョーブだって。ほら、手加減してるからよ。さて、んじゃあいただきますか」

 キザ男が俺の体を撫でるように手を這わせると、そのままロングパンツに手をかけて脱がそうとしてくる。

 くっ。思い出したからめでたしめでたしじゃないんだ。この状況……うわあああああああああ、キモいキモいキモいキモい! やめろ。俺は男だぞ。お前も男で……いや、マジでそういうやつ!? やめてくれ! 俺はノーマルだから! 一応彼女持ちだから! くそ、なんでこんな目に遭わなきゃいけない! それもこれもこのパラメータをランダムで決めたあの女神のせいだ。あのクソ女神、今度会ったら絶対泣かす!
 せめてスキルだけでも選べてれば――

 スキル!

 そうだ、それを忘れていた。いや、今まで何もかも忘れてたわけだけど。
 あのクソ女神にランダムで付与されたもので、それが何かまだ調べてなかった。これぞ起死回生の強力スキルであれば、いやあってくれと願わずにはいられない。

「出ろ、スキル!」

 何が設定されたか分からないから、こう叫ぶしかない。
 それでも何かが体の奥から湧き上がってくる気がする。
 そして、光と共にそれが来た。

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読んでいただき、大変ありがとうございます。
まだ冒険は始まったばかりですが、いいねやお気に入りをいただけると励みになります。軽い気持ちでもいただけると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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