知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
37 / 627
第1章 オムカ王国独立戦記

閑話3 クロエ・ハミニス(オムカ王国ジャンヌ隊)

しおりを挟む
 最近隊長殿が変だ。
 部屋に引きこもってぶつぶついっている。

 あのシータ軍が攻めてきて以来。
 あれは完勝だったのに、どうして隊長殿は暗い顔をしていたのだろう。それが気になってしかたなかった。

 ただ最初の数日は良かった。

「その……教えてくれないか…………えっと……その、字……を」

 そういってくれた時の隊長殿は顔を朱に染めてモジモジしていてなんだかとっても可愛らしかった。
 教官殿に持たされたカメラというものがあれば間違いなく使っていただろう。使い方がわからず荷物の底になっているが。

 それからの時間は幸福だった。
 隊長殿と2人きりの時間。しかも席を横に並べてのワンツーマンというのだからまさにこの世の春がきたッって感じ。

 あの可愛らしいお顔がすぐそこにあって、サラサラなお御髪みぐしがふわりとして、赤く蠱惑的な唇が美しい音色を弾き、細く白い御手がペンを指揮棒のように舞わせる。

「で、このアーとカーが別で……ん? どうした、ボゥっとして。ちょっと疲れたか?」

「い、いえ! 全然疲れませんとも! むしろやる気が有り余って爆発しそうですとも!」

「そ、そうか……」

 ええもう。あの隊長殿に必要とされるなんて、あの教官殿よりそばにいられるなんて。まるで夢のようで、本当、自分なんかにはもったいない厚遇だ。

 自分にはそんな資格がない。そうずっと思っていた。
 だって自分は宰相のスパイ。隊長殿の敵の手のものだ。
 それに任命された時は辛かった。隊長殿についてじゃない。サリナたちが国のために頑張ってるのに、自分は正反対のことをしようとしている。それが辛かった。

 だから隊長殿に辛く当たったし、正直その時の自分がここにいたらボコボコにしてる、隊長殿の勇姿に衝撃を受けて憧れたのだ。

 全てが終わった時。私はその場を去った。いや、逃げ出したのだ。
 山賊を討伐せず味方に引き入れる。そんな大スキャンダル、宰相に報告すれば報酬は間違いなし。田舎の母も喜ぶだろう。

 けどみんなの喜ぶ姿を見て、何より隊長殿の気高き想いを知ってその場にいられなくなった。
 だから逃げた。
 逃げたけど行く場所はなかった。宰相の使命を裏切り、仲間たちの信頼を裏切り、隊長殿の期待を裏切った自分に居場所などなかった。
 他国に逃げようとも思ったけど母をおいてはいけなかった。

 それで隊長殿に見つかった時は死のうと思った。
 けど許されなかった。いや、許されたのだ。隊長殿に。何より隊のみんなに。

 その時の感動と隊長殿の優しさは今でも覚えている。
 だから隊長殿のためならなんでもするし、命も要らなかった。死ねと言われれば潔く死ぬつもりだ。そんなことあのお優しい隊長殿が言うはずもないけど。

 だから隊長殿の役に立つのはこれ以上ない喜びで、2人きりでいられるのはこの上ない幸福なんだけど。

「ん、だいたいわかった。ありがとうクロエ。つまり英語に近しい。いやギリシャ? ラテン系か……」

 幸福の時間は前触れなく終わりを告げた。
 隊長殿の家庭教師は、隊長殿の天才的な飲み込みの速さに僅か3日で終了した。

 それから隊長殿はずっと書庫に篭っている。
 一度外出するからとついて外に出たけど、隊長殿は上の空か本を片手にぶつぶつするだけ。ちょっと怖いと思ったのは内緒です。

 外に出たのはそれだけ。あとはおトイレくらいで、食事は私が運んだのを書庫で食べる。お風呂は入らないという徹底ぶりだった。
 ああ。もう一度隊長殿とお風呂に入りたかった……。

 そんな隊長殿がどこか痛々しく、かといって真面目に取り組んでいる神々しいお姿を思えば、やめてとは言えずに日にちが経つ。

 その間自分はーー

「ぬぉりゃ!!」

「おおっ!」

 歓声が上がる。
 突き出された相手の拳を無理やりかわして体勢が崩れた。相手にとっては好機。だからそこからさらに体を捻って振り回した足が相手の顔面を捉えたのだ。

「っしゃあ次ぃ!」
 
「ガルム、行け!」

「おおぅ!」

 次の対戦者が気合と共に向かってくる。

 ここ、要塞の練兵場ではいつ敵が来ても負けないよう、日々訓練が行われていた。
 手持ち無沙汰な自分はそこに混ぜてもらって、いろいろなことを学んだ。体の鍛え方、新しく来た人に対する対応。
 今までは教官殿にしごかれたくらいで、周囲にいたのは自分と同じ新兵。そこでトップにいたから自分が抜擢されたのもあったけど、それで少し増長してたみたい。
 最前線で戦うみなさんを相手にしてまだまだだと思い知らされた。

 だから隊長殿が書庫から出るまでの間、自分を鍛え直す意味で練兵に加わった。
 最初は足手まといに見ていたみなさんも今では気軽に話してくれる。
 それにこうやって一対一の格闘戦に付き合ってくれて、多分今私は強くなってるのを実感している。

「いやークロエは強くなったなー」

「ほんと。ほんの数日前ゲロ吐いてた人と大違い」

「は、吐いてないです! ただその件は隊長殿には内密に…」

「はっは隊長殿か。クロエは本当にそればっかだな」

「ハワード様のお気に入りみたいだけど……ね」

 その後に続く言葉は言われなくてもわかった。
 まだ隊長殿のことを認めていない空気は自分にも察せられたから。それに異議を唱えたいけど、だからって命を預けるまでに説得できる自信はない。
 私は私だったからそれはできるけど、この人たちの気持ちを動かすにはまだ自分も精進が足りないと思うと悲しかった。

「どうだい、クロエさえ良ければこっちに転属願いを出すこともできるが」

 そう部隊の隊長さんが言ってくれたのはとても嬉しかった。
 しがない田舎の農民が、国を守る最前線の人に認められたなんて一生の自慢になる。

 けどーー

「すみません、私は隊長殿の副官なので」

 そう。それでも命を救ってくれた隊長殿には敵わない。たとえ宰相から隊長殿を裏切れという指令が来ても今は握り潰す以外の選択肢はない。いやむしろそんな指令を出す宰相と差し違えるつもりだ。それほどに今の私にとって隊長殿は絶対だ。

「ま、クロエならそう言うと思った」

 隊長さんはやっぱりと言った様子で、すっぱり諦めてくれた。

「けどまだ信じらんないね。あんな女の子がなんでかねぇ。山賊討伐したとかって話だけど」

「それならクロエが何時間でもお話しします! まずですね、隊長殿との出会いはーー」

「あ、いやクロエ今日はもう終わりにしよう。うんそろそろ飯の時間だなー」

 何かそそくさと逃げるように隊長さんが行っってしまった。
 ぬぅ残念です。少しでも隊長殿の凄さがわかってくれれば、きっとこの人たちも感動するのに。
 こないだなんか3時間ぶっ続けで語ってまだ足りないってのに。

 そうだ。それだ。
 それこそが私の使命。
 天より与えられたやるべきこと。

 隊長殿をお守りし、どれだけ素晴らしい人かをみんなに伝える。それが私の人生を賭けてやるべきことだ。
 うんそれだ。まずはこの要塞の人に分かってもらおう、そうしよう!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...