知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第1話 ジャンヌの川下り

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 見渡す限りの青。そして緑。
 青い空、青い水面、緑の草原だけで構成された景色は、これまで見たことのないくらい壮観だった。しかもそれがパノラマで高速で後ろに流れていくのだから、そのダイナミックさに驚くばかりだ。

 風が気持ち良い。
 潮風ではないから、肌に触れる風はこれまでのごたごたを全て拭い去ってくれるかのようだ。

 これなら船の先端に立って両手を広げたくなる気持ちも分からなくない。てか実際した。超気持ちよかった。相方はいないけど。ヨーヒー。

 そう、今俺は船に乗って川を下っている。

 船なんて日本ではそう乗る機会もなかった。
 そういった趣味もないし、船旅ができるほどに生活に余裕があったわけじゃない。
 だから子供のように心が浮き立つのはしょうがないと弁解したい。船ではしゃいでも怒られない。こんな爽快な体験、そうそうできないからね。

 船酔いで船室に転がっているニーアを思うと可哀そうに思えてくるが、船酔いするかは人それぞれのようなので致し方なし。
 船酔いの薬とかあればいいのに。科学技術がそこまで進歩していないこの世界、そういうところは不便だ。

「我が軍の快速船、いかがでしょう」

 背後から声をかけられた。

 振り返ると長身の男がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。
 絹で作られたであろう上質な布地の長袖のワンピース型に、ズボンを合わせたような服装。オリエンタルな感じとスタイリッシュを合わせたイケメンならではのコーディネートだ。

「とても楽しい。感謝するよ、時雨しぐれ

「それはよかった。お連れの方が船酔いということなので、金輪際船旅は嫌と言われたらどうしようと思っていました」

 そう言って、時雨は優しく笑う。

 彼はシータ国陸軍都督でありながら、今回のオムカ王国使者団に対し全権を担う存在である。
 言ってしまえば国王の次の次くらいに偉いのだが、そんな素振りを全く見せない腰の低い男だった。

 というかまだ20代の中頃だろう。
 それでここまでの地位にあるのだから、相当に優秀でかつ政治力もあるのだろう。ここ数カ月で自分の政治力のなさを痛感したので、それはとても羨ましかった。

 むしろ同盟相手とはいえ、弱小国で、ただの軍師格で、年下で、女で、しかも初対面の相手にこうもざっくばらんに呼び捨てされているにも関わらず、顔色1つ変えないのだからある意味凄い。『いつもと同じようにどうぞ』なんて言われたから普通に接したけど、今さら変えるのもなんか負けたようで(何に?)嫌だったからそのまま喋る。

「彼女のことは放っておいてくれ。別に船酔いで死ぬことはないだろうし」

「よくご存じで。船酔いはとても辛いですが、それで死んだ者はおりません。陸に上がればすぐにケロッと治ってしまう不思議な病気でして。もしかして過去に船酔いしたことが?」

 船酔いは乗り物の揺れにより脳が混乱して自律神経が不安定になる状態を指す。だから病気ではないのだが、医学が発達していないこの世界ではそう思われているのだろう。
 ちなみに死者が全く出たことはないというわけでもないらしいが、船酔い自体で死ぬわけじゃなく、複合的な要因が重なって死亡する場合があるだけだ。

「いや、船は初めてだよ。ただ知識として知っているだけで」

「そうなんですね。ならば存分に楽しんでいってください。シータ王国は水の国。赤子の頃から水に慣れ、船がなければ何も始まらないのですから」

「ああ、ありがとう」

 相手が丁寧だからこちらも愛想よく返す。
 実際、ほぼ初対面の人とこうまで会話を交える自分にびっくりしている。船旅のテンションが影響しているのだろうか。ましてや、一度干戈かんかを交えた相手となってはなおさらだ。

 約半年前、カルゥム城塞で戦ったシータ軍を率いていたのはこの時雨という指揮官だった。
 城の防御と誘引の策と奇襲でさんざんに打ち破ったのだから、悪感情を持っているに違いないと思ったのだ。

 だが初めて会った時雨は、笑顔で握手を求めてきた。

『戦場のことは戦場のこと。あれほど見事に負けたのです。脱帽しますよ。だから変に気遣わないでください……まぁ一部例外もいますが』

 その例外が誰かというのは聞けなかったが、3日目になるこの旅で誰のことか分かった。
 今は姿を見せないが、この軍船を統括するシータ国水軍都督の淡英たんえいという男。

 噂に聞く限り、淡英はもともとエインに属する小国の将軍で、ある戦いで時雨の父を討ったらしい。その後、淡英はシータに亡命し将軍に任じられたものの、時雨はそれを不服としているらしい。
 三国志の呉の将、甘寧かんねい凌統りょうとうみたいな関係と思うのが一番理解しやすいのかもしれない。そういう話はどこにでもあるんだな……。

「そうそう。あと3時間ほどで港に着きます。そこで一泊し、あとは馬車で王都までお送りいたします。今しばらく難儀な旅が続くかと思いますが、どうかご辛抱のほどよろしくお願いいたします」

「うん、問題ないよ、ありがとう。大丈夫、俺は十分楽しんでるから」

 去り際にさりげない優しさを見せるところもポイント高いよなぁ。
 あー、ヤバいな。最近、こういうイケメンが多すぎて自分の心がどんどん女子に傾いているような気がする。
 いや、頑張れ。俺は男だ。日本でも格好いいと憧れた男の俳優とかいた。それと一緒。だからセーフ。問題ない。まだやれる。

 そうやって自分を鼓舞(?)しているところに、冷めた声が響く。

「けっ、小娘に水軍の何が分かるってんだ」

 例の淡英だ。

 船尾のほうからやってきたところで、俺と時雨に聞こえるほどの舌打ちをして毒づく。

 水軍を統括する男だからどんな偉丈夫かと思えば、見た目はただのヤンキーだ。
 そして言動も性格もヤンキーだった。
 毒づいてメンチをきるあたりもヤンキーだった。
 つまりヤンキーの中のヤンキーなのだった。ヤンキーゴーホーム。

 年齢は時雨より少し上か? 20代後半といった雰囲気。
 だがこの男を語る上で一番なのがその服装だ。

 普通、こういった水軍の兵は水に落ちても重さで溺れないよう、上着は薄く、または脱ぎやすいようにしている。実際、彼の部下たちは上半身裸という男も珍しくない。
 だが彼はだぶだぶの上着やらズボンを身に着けている。
 この世界のB系ファッションと言えばいいのか。

 しかも着飾るように指輪やらネックレスやらをじゃらじゃらつけているから、それだけでも水に落ちたら溺れるだろう。
 まるで『水には絶対落ちない』というのをポリシーとしているようで『鈴の甘寧かんねい』ならぬ、『宝石の淡英たんえい』だと思った。

 そんなヤンキーでB系できらびやかな男は、どうやら俺を蛇蝎だかつのごとく嫌っているらしく、これまで目も合わせたこともない。
 だが視界に入ればこうやって何かにつけて悪口を言ってくるのだ。

「淡英、ご使者殿に失礼だぞ」

「はっ、お付き1人の小娘の何が使者だ。オムカも人手不足なんだな。総帥のお気に入りだかなんだか知らねーが、こんな戦も知らないような奴が使者だなんて。はっ、俺たちも舐められたもんだな! しかもなんだ、そのひょろい体は。俺なら瞬きする前に斬り殺してるぜ」

「淡英!」

 時雨は淡英を叱り飛ばし、くるりとこちらに向くと勢いよく頭を下げてきた。

「ご使者殿。申し訳ありません。即座にこの男の口を永久に閉じさせていただきますので、ご寛恕ください。この通りです」

 サラッと怖い事言ったこの人!

「いや、いいよ。慣れてるから。というかそういう感情の方が普通だと思うし」

「いえ、国の代表に向かって暴言を吐くなど許されることではありません。すなわち我が国王に唾吐くのと同じです。この件はしっかりと報告させていただき、奴にはしかるべき罰を与えますので平にご容赦願いたい!」

「へっ、お高くとまりやがって」

「淡英!」

 だが淡英は聞く耳を持たず、こちらを一瞥もせずにじゃらじゃらと金属音を鳴らして歩き去って行った。
 その後ろ姿を殺意をもって時雨が睨みつける。

「ま、まことに申し訳――」

「あー、いいから。いいから」

 これ以上、彼に頭を下げさせると気の毒になってくる。
 だから会話を打ち切るつもりで、話を変えた。

「そんなことよりあまつ宰相は怒ってたかな? 数か月も期限をぶっち……あ、いや遅くなって」

 本当はオムカ独立の翌月にはシータに行くつもりだったのだが、つもりに積った雑務でここまでずれこんでしまったのだ。

「まさか。であれば私を遣わせたりしません。こうみえても私はシータ王国の四峰しほうですから」

「四峰?」

「4色の色を旗に使うことを許されたシータ軍の将軍のことです。青旗兵、白旗兵、赤旗兵、黒旗兵とあり、私は黒旗を預かっております。黒旗は玄武の黒。堅牢な守りは歩兵部隊の証なのです」

 あぁ、なるほど。
 元ネタは中国神話に出てくる四獣しじゅうだ。
 青龍、白虎、朱雀、玄武ってあれ。それぞれ東西南北を守護し、それぞれ青、城、赤、黒の色を持つという。それにちなんだ名づけになっているのだろう。
 安直に四天王とか言われるよりは格好いいかも。漢名だし合っているとも思う。

 そう考えるとシータだけ毛色が違うよな。
 エイン帝国はバリバリの中世ヨーロッパの貴族主義って感じ。ビンゴはよく分からない。
 この1つの大陸に複数の文化圏が集まっているというのは、なかなか奇妙で興味深いことだと今さら思う。

「そういうわけで実は攻城戦はそこまで得意ではないのです。あれを私の実力と思わないでいただきたい、という弁解も含めての自己紹介でした」

「いや、あれはうちの爺さんが失礼を……。というかもう味方だから戦うこともないだろうし」

「…………そうですね。では共に戦う時に我らの本当の力をお見せしましょう」

「楽しみにしてるよ」

 それはお世辞でもなく本心だった。
 エイン帝国やビンゴ王国と戦うにあたって、同盟国として彼らに期待したい。

 ただ、さっきは戦う事なんかないとは言ったが、エイン帝国とビンゴ王国が滅亡した後は彼らと再び干戈を交えることになる可能性は大いにある。
 俺の所属するオムカ王国がこの大陸を統一しなければ俺は元の世界には戻れないのだから、いずれは必然的にシータ王国とも敵対することになるだろう。

 別に俺がそうしたいわけじゃない。
 あの転生の女神とかいうクソッたれが、そうしないと元の世界に戻さないというのだから仕方ない。

 14歳の女の子で知力ばっかで筋力がからっきしな超偏重パラメータにされた挙句、武器を使えないという呪いまで受けた身としては、あの女神の言う通りになるのはしゃくでしかない。

 だが俺には元の世界に帰る必要がある。
 帰らなければならない理由がある。

 立花里奈たちばなりな

 大学で出会った同学年の少女。
 勉強と書物が青春だった俺に、初めて現れた異性の話し相手。
 正直、意識しなかったと言えば嘘になる。
 むしろ彼女との距離が縮まるのを期待していたところもある。

 けど、その結果を見る前に俺は死んで、この世界に来ている。

 だから戻らなければ。
 戻って、もう一度会って、謝って、そしてこれからのことを話したい。いや、今まで通りでもいい。とにかく、彼女と会って話をしたかった。

 そのためには、こうして今は手を結んでいる相手を倒さなければならない。
 因果な世の中だ。悪意が胞子をばらまいて繁殖したような最悪の世界だ。

 ま、そもそもこのシータ王国行きが、王都防衛戦で援軍としてエイン帝国を追っ払ってくれたシータ王国への返礼として行くのだからそうそう浮かれていられないわけなんだけど。
 ただそれに加えて、国境の話、貿易の話、エイン帝国南部自治領の話、商人の話、援助の話、ビンゴ王国に対する話などなどを詰めないといけないのだから正直目の回るような忙しい旅になるだろう。

 てかなんで全部俺にやらせんだよ。
 俺の政治力39だぞ。歴史シミュレーションゲームでこんな奴に外交を任せても、時間はかかるわ金は搾り取られるわで全く良いところのない無駄遣いにしかならないわけで。

 帝国の統治によって政治力の高い人材がいないこともあり、随行員は政治力のかけらもないニーアになった時点で俺の命運は決まったわけだが。

 そう、話は3カ月前にさかのぼる。


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読んでいただきありがとうございます。2章開始となります。
ただ、次話より少し時系列が戻りますので、ご理解のうえ読んでいただけると幸いです。
またいいねやお気に入りをいただけると励みになります。軽い気持ちでもいただけると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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