知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第4話 シータ王国について

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「いやー、お前――じゃなかったジャンヌ殿はやるな! 総帥殿と一緒に戦ってるような気分だったぜ!」

 海賊を追っ払った翌朝、見送りに来た淡英の第一声がそれだった。
 しかもバシバシと背中を叩くのだから一瞬絶息する。

「げほっ、げほっ! た、淡英。痛いんだけど」

「っと、すまねぇすまねぇ。いやー、最初はただのちんちくりんだと思ったけど、なかなかやるじゃねぇか。見直したぜ」

「はぁ……」

 昨日までとは打って変わっての態度に動揺を隠し切れない。
 てゆうかこんなキャラだったのか。

 昨夜、海賊を追っ払った後。淡英たちは後始末、俺は一応客分という立場上、さっさと宿に引き払ってしまったから話すのはそれ以来だ。

「それにあのニーアとかいうの。酔っぱらいながらも右に左に剣を振る様はかなりの使い手だったな。どうよ今度、いっちょ真剣でやり合おうぜ」

「あはは……そんな機会があれば……」

 ちなみにニーアは馬車の荷台で寝ている。
 船酔いに二日酔いのダブルパンチで今もうんうん唸っているのだ。

「淡英。ご使者殿はそろそろ発たなければならない。これくらいにしてもらおう」

「おう、じゃあなジャンヌ殿。帰りも船乗ってくだろ? 最大船速で送ってってやるぜ」

 いかにもさわやかという陽キャな見送りを受けて、俺とニーア、そして時雨を乗せた馬車は出発した。

 出発して数分。
 沈黙が少し嫌だったので、俺は時雨に聞いてみた。

「ここから主都までどれくらいかかるのかな?」

「…………」

「……時雨?」

「…………」

「こ、この国ってこんなに暑いんだな。さっきのシソウにいた人たちも薄着が基本だったし」

「…………」

 完全沈黙。
 え、なにこれ。シカト? てゆうかいじめ?

 淡英といい、時雨といい一晩で態度が逆転してるんだけど。

「あのー?」

「あ、失礼しました」

 ようやく反応した時雨だが、それきりまた押し黙ってしまう。

「えっと、俺何かした?」

「…………」

「聞いてます?」

「…………」

「一応俺、国を代表とした外交官なんだけど。それをないがしろにするのはいかがなものかなーって」

「……………………失礼しました」

「いや、別に謝ってくれってわけじゃなく。いきなり態度が変わったように思えたから、何かしたのかなって」

 人づきあいの経験値が足りない俺のことだ。
 俺の何かが相手を不快にさせてしまったのだろうと思うと落ち着かない。
 しかもその相手とずっと旅をしないといけないなんて、拷問以外の何物でもない。

「何かした、ですか。そうですね。大変なことをしてしまいました」

 え、俺やっぱり何かしたのか?
 知らずに地雷を踏み抜いたのだろうか。
 でも時雨とはそこまで知り合って日が長いわけじゃないから、そこくらいは大目に見て欲しいんだが。

「いえ……そうですね。これ以上黙っては失礼にあたります。恥を承知で言いましょう。昨夜の海賊討伐の件です」

「昨日?」

「あの時、貴女はこう言った。水戦は初めてだと。にもかかわらずああも的確に指揮をとり、完全なる勝利を収めた。しかもあの淡英の変わりように加え、兵たちも噂していました。オムカ王国のジャンヌという軍師は凄いと」

「あ、はぁ……」

 確かに他国の人間が軍事に色々介入したのはまずかったかもしれない。
 けど時雨もそれを認めてくれていたからこそ、昨日の作戦は成功したわけだし。

「軍事介入がどうとかそういうわけではないのです。ただ単純に…………恐ろしいと思ったのです。貴女が」

「へ?」

 この世界に来て色んな評価を受けてきたが、そんな評価を得たのは初めてで思わず首をひねってしまう。

「初の水戦であれほどならば、経験を積めばどうなるのか。カルゥム城塞では確かに陸戦で後れを取りましたが、水戦には我らに一日の長があります。ですが、次に貴女を相手にした時に自分が勝てるのか、それがとても不安になったのです。私ほどの地位にいるものが、素直に負けを認めるなどあってはならないこと。故に黙っておりましたが……」

「お、大げさでしょ。オムカとシータは同盟したんだ。俺と戦う事なんて……」

「この同盟がいつまでも続くとでも?」

「それは……」

 確かに今は乱世。
 そんな時の口約束なんて、紙切れ以下の価値でしかない。

「仇敵と言われていたシータとオムカが結ぶくらいです。しかもビンゴとも停戦したとか。そんなありえないことが起きるのが今の実情であるならば、シータとオムカの同盟が破綻したとしても誰も不思議とは思わないでしょう」

「…………」

 浮かれ気分に水を差される気分だった。

 自分では有頂天になったつもりも天狗になったつもりもない。
 だがそれを相手がどう思うかは、俺のあずかり知らないところだ。

 『古の魔導書エンシェントマジックブック』も、その一時一時の感情まで読み取ってはくれない。

 だからこそ、人の感情の機微きびには注意しなければならない。
 軍を動かすのも、国を動かすのも、結局は人がすることだ。そこを怠っては、誰も俺の命令など聞かなくなる。

 難しいことだ。
 だがやらないといけない。
 それを改めて諭されたような気分だった。

「ありがとう、時雨」

「お礼を言われる筋合いはありません。こちらが謝るべきです。不快な気分にしてしまったのでしたら申し訳ありません。ましてや他国の者に言われて余計なお世話とお思いでしょうし。むしろ国を代表する方に無礼な口をきいてしまったこと、極刑に値すると言われても仕方ありません」

「いや、そんなことはない。むしろそれなのにそこまで言ってくれるのはありがたいよ」

 それは本心だった。
 だからすんなり言葉が出る。
 それを理解してなのか、時雨は少し困ったように視線を外す。

「そうですか……」

 だが再び視線を戻すと、困惑の色は消えていた。

「そう言われるのは嬉しい。しかし私とて国の軍を預かる身。将来を憂慮ゆうりょすべきであれば、今ここで貴女の命を奪った方が得だとも考えてしまうわけです。私の命と引き換えにしてもね」

 刺すような視線。いや、殺気。
 こんな狭いところで武力行使されたら、筋力1とかそういう以前にあっさり殺されるだろう。

「ジャンヌを……傷つけたら……殺す」

 俺の背後からそんな呻きが聞こえる。
 荷台に寝かされたニーアだ。

 酔いにうなされながらも、こういう勘所は頼もしい。

「もちろんしませんよ。ここで貴女をだまし討ちすれば、我が王に迷惑がかかります」

 時雨の目から殺気が消える。
 だが警戒の色は消えない。そうか、昨日のこの警戒心はそこから生まれたのか。

「俺としては、何がなんでも半永久的な同盟になるよう努力するとしか言えないよ」

「それで構いません。できれば、貴女とはもう矛を構えたくはありませんゆえ」

「……俺もだよ」

 この数日間の旅で、時雨も淡英も憎からず思っている自分がいる。
 そんな相手と戦争なんてしたくない。

「ちなみにこのままであれば、日没前には首都に着けるでしょう。それまでお休みになっても構いませんよ。昨夜もお疲れでしょう」

「……いや、遠慮しておく。時雨を信頼してないとかじゃなく、せっかくだから色々話を聞きたい。この国のこととか、これから会う王のこととか」

「そうですか。しかし、中には機密情報もありますので」

「そんな形式ばったものじゃなくて。雑談でいいんだ。例えば時雨が軍に入った理由とか」

「理由、ですか。特にありませんね。この国では成人したら男も女も商人となって働くか軍に入るかの二択しかありませんから。私に商才はないのは知っていたので、軍に入ったのです」

「へぇ。それはまた……凄いな。それで軍の5本の指に入るまでになったんだから」

「そうでしょうか。ご使者殿も身一つでオムカに入り、今や国政を預かる軍師の身とか。それと比べるとまだまだです」

「そこまで知られてるんだ……。まぁ、正直いろいろな幸運が重なっただけだよ」

 今思い返せば、どこで死んでもおかしくない半年を過ごしてきた気がする。
 こうして少なからずの安定を得られたのは、本当に運が良かったと思う。

「ですがその軍略は素晴らしいものですね。どこで学ばれたのですか」

「どこっていうか……本かな。歴史の」

 あと漫画とかゲームとかって言っても分からないだろうな。

「その若さで書物に精通されているとは。素晴らしい。さぞや勉学に励まれたのでしょう」

「まぁ、たぶん」

「我が国には過去の歴史を知る者は少ないのです。かくいう今の王も、かなり勉学に精通されています。算術はもちろんのこと、読み書きも出来るので、これまでにないほど英邁さを誇っていると言われています」

 読み書きができるくらいでなんで賢いんだと一瞬思ったが、なるほど。この世界が中世ごろの時代背景を考えると、識字率しきじりつは著しく低いとみていいだろう。だから読み書きができるだけでも立派な教養人になれるのだ。

「その王様って、若いんです?」

「20歳前後ではないでしょうか。おそらく」

「え、自分の国の王様なのに年齢を知らない? 誕生日とか祝う記念日とかは?」

 オムカではきたる12月にマリアの誕生日兼戴冠式があるため、それに向けて準備が進められている。
 聞くところによると、エイン帝国の支配下にあった時期でも、マリアの誕生日には王都ではちょっとした催し物があるというし、彼女が何歳かというのは王宮に勤める人はもちろん、王都にいる人なら常識だった。

 だから王の年齢が分からないというのは、しかも軍の5本の指に入る人物がとはあまりにおかしいと思ったのだ。

「しかし、本当に分からないのです。王は自分のことを話したがらないので」

「いや、話したがらないとかじゃなく、王宮で育ったなら誰か知ってるんじゃない?」

「……? あぁ、なるほど。ご使者殿の勘違いが分かりました」

「勘違い?」

「はい、我が国は王国と名乗っておりますが、実質的には商人たちの連合体のような形態となっております。つまり、傑出した人物が王に推戴され、その庇護の下で国民は生活を保障されているのです」

「つまり王位に正統性はなく、力がある人が誰でも王になれるってことか。選挙みたいなことで決めるのかな?」

「せんきょ……? あぁ、入れ札のことでしょうか。はい、立候補者に対し、商人連合や住民が投票して選ばれた者が王となるのです」

 なんてこった。要は近現代の選挙制度が導入されているわけだ。
 しかも直接選挙となっている。

 王制はその君主が立派であれば、君臣一体となってかなりの力を発揮する。
 だがトップが愚鈍であったり、周囲が腐敗していると一気に衰亡の道を突き進むことになる。
 さらに富が上層に集中しやすく、貧富の差が激しくなるため、常に革命の陰に怯えることになるのだ。

 対してこのような選挙制度が確立した国家は、血統やしきたりといったものより個々人の力がものを言う。だから上が腐敗すれば、それを挿げ替えて新しい血を入れて強くなることができる。
 もちろん、選挙制度を利用して、旧来の勢力が力を保持し続けることもできるわけだが。

 現状、シータの国王が民衆に人気を得て、彼らの生活を保障しているのであれば、それはなかなか強力な国に仕上がっているだろう……なんて考えるのも、先ほどシータとは戦いたくないと言っておきながら、いずれは対峙する相手として意識してしまっているらしい。

「どうかされましたか?」

 時雨が心配そうに聞いてくる。
 さすがに今の想いは口に出せない。だから飲み込んでごまかした。

「いや、オムカとは全然違うと驚いていた」

「あぁ、そうですよね。オムカともエインともビンゴとも全く違う政治体制になっています。あまつ総帥殿が宰相の地位を兼任しているのも、国王と天総帥殿が国民の人気を得ているからなんですね」

 なるほど、あの美男子だ。さぞかし人気は高いだろう。

「国王に会う前に聞けて良かった。ありがとう」

「いえいえ、こんなお話でよければいくつでも」

 そのあとはとりとめのない話に終始した。
 シータ国の名産はなにかとか、何が美味しいかとか、景勝地はあるかとか、海に出たことがあるか、とか。

 そんなこんなしているうちに、疲れていたのだろう。
 途中の村で馬を変える際に昼食を取り、満腹感と馬車の揺れる振動が心地よく、俺は瞳を閉じるとそのまま寝入ってしまった。
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