知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第5話 シータ王国首都ケイン・ウギ

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 時雨の言葉通り、陽が沈む前にシータ王国の首都ケイン・ウギに到着した。

 最初に見えたのは、高さ5メートル強の城壁だ。

「あれ首都? 随分横に長いけど……城壁としては低い気がする」

 王都バーベルを見た後だとどうも圧倒される感が少ない。

「ふふ、首都の防壁は石造ではありませんよ」

 時雨の意味深な言葉は、すぐに証明された。

 俺が見た城壁は、首都を守る城壁ではなかった。
 その後ろには街並みがあったが、首都の街があるのはその奥だということ。

「これは……」

 城壁と街並みを抜けると、青に染まった景色が一望できる場所に出た。

 馬車を降りて唖然とする。
 確かに首都は囲まれていたのだ。
 岩や土といったものではなく、水という壁に。

 海だ。
 内海という大きな水たまりに突き出した島、それが首都ケイン・ウギだった。イメージとしてはモンサンミッシェルを想像してもらえれば一番わかりやすいだろう。

 俺は『古の魔導書エンシェントマジックブック』で地図を見て、この首都を落とすのが不可能だと思った。

 落とすには海から攻めるのが簡単だが、そのためには外海から水軍で細い水路を通ってここまで来なければならない。
 もちろんそのためには外海でシータの水軍を破り、さらに水路を無事に通過できたうえでのことだから、その時点での難度はケタ違いだ。

 では陸地から攻めるとなると、今俺が通り抜けた城壁を突破しなければならないし、さらに島に渡るには狭い1本の道を通らなければならない。
 しかもその一本道が曲者で、狭いから大軍は通れず、1キロほどある道が直線ではなく若干うねるように曲がっているのだから敵からの妨害を受け易い。

 島自体はおよそ2キロ四方というからかなり小さい。江ノ島の20倍以上はある計算だが大軍は常駐はできないだろう。
 それでもこの島を攻め落とすには10万の兵では足りないと思わせる難攻不落さがあった。

 まさに天然の要害。
 ひとまず、俺たちがここを攻めるなんてことがないことを祈ろう。

 そんなわけで首都を眺めながら、内陸にある城壁の街で一泊し、翌日の朝にその一本道を時雨が用意した馬車で進むことになった。

「実際に見るとすごいな……」

 馬車から外を見れば、海の上を走っているように思える。
 背後を見ればさっきまでいた街が岸に沿って広がっていて、炊飯の煙や人のざわめきが風に乗って運ばれてくる。

「浅瀬や突き出た岩が100か所はあるので、熟練した船乗りでも水路が分からなければ途中で座礁します。そしてこの全長1キロの道がうねるように曲がってるのが分かりますか? これは容易に距離を詰めさせないためで、敵が大きく回り込むところを鉄砲や矢で狙い撃ちができるという代物です。この守りであればたとえ十万の敵に侵攻されたとしても、1千もあれば防衛は可能だと自負しています」

 時雨が自信満々に言い放つ。
 確かに水路が分からないことには攻めようがないし、このカーブは遠距離武器で防衛するに最適だ。一直線なら鉄砲の弾を込めている間に接近されてしまう。だがこれなら迂回していかなければならないので、2発目が間に合うのだ。

 この防備を考えた奴はよほど性格がねじ曲がっているのだろう。この道のように。

「いいの? そんな情報を他国の俺に流して」

「それを知れば首都を攻めるのは不可能と考え同盟を長く続けてくれると思いましてね」

「……違いない」

 今の情報だけで俺はこの島を攻める気がなくなった。
 いや搦め手ならばもちろん落とせる。出入口は1つだからそこを封鎖して兵糧攻めにしてやればいい。
 ただそれも周囲地域と内海を制圧した上での話になるので、正直現状では落とすのは不可能だろう。

「ジャンヌならここを落とす策なんて思いつくでしょ。そん時はこの道攻めさせて。なんか面白そう」」

 ニーアはようやく復調したみたいだが、この空気の読めなさは復調しないでほしかった。

「ニーア、お前なぁ……もっと時と場所を考えて発言しろよ」

「? してるけど?」

 あ、ダメだ。これ分かってないやつだ。
 さすがに気分を害したのかと時雨の方を見ると、

「ははは、その折りは是非ご使者殿の戦いぶりを拝見いたしましょう」

 ほっ、良かった。
 昨日の今日だからちょっと不安だったけど。時雨が大人でよかった。

 俺は時雨に気づかれないように、ニーアのお尻をつねりあげた。
 ニーアは変な声をあげて、馬車の天井に頭をぶつけた。馬鹿。

「さて、そろそろ見えてきましたね」

 時雨がのぞき窓から前方を見ながら言う。
 街を出てかれこれ30分近く走っていたことになる。一直線ならその半分以下の時間で着くはずだが、予想以上にこの道は難路になりそうだ。

 しばらくして馬車が止まる。

「今、門を開けていますので。少々お待ちください」

 そう言って時雨はのぞき窓から顔を出し、何事かを叫ぶ。
 前方で大きな金属音がする。それに合わせて再び馬車が動き出した。
 大きな金属製の鉄門が左右に開いたらしい。それが窓の外から見えた。

 途端、歓声が聞こえた。いや、活気の声だ。
 そこはオムカとは違った活気に満ちた場所だった。オムカは市場や食品街といった形だったが、ここはそこかしこで大声の言い合いが聞こえたり、金属の音が響いたりしている。

「ケイン・ウギの城下町です。人口はおよそ2万。軍人は少なく、どちらかというと商人や職人などの商工業者が多いですね。ここで作られたものが内海や陸を通って外に出ていくのです」

 なるほど、ここが商業の中心となっているわけだ。
 内海の水路を知っていれば、この首都は東西南北色んな所に行ける運輸の中心地となる。西から来たものが東へ行き、東から来たものが北へ行き、北から来たものがまた西に行くといったように、物流のハブとなっているのだ。

 軍事的な意味でも経済的な意味でもこの場所である意味は大きい。

「さ、つきましたよ」

 馬車が止まり、時雨が先にドアを開けて降りた。
 俺、そしてニーアが地面に降り立つ。

 そこはさながら戦争のような場所だった。
 見えるだけでも数百人を超える人間が慌ただしく動き回り、言い合い、殴り合いの一歩手前のつかみ合いをしているのもいる。奥では競売をしているようだ。とんでもない金額が飛び交っているのがかすかに聞こえた。

 これほどの人口密度、都心の朝のラッシュを思わせる盛況ぶりだ。

 そんな中、馬車から降りた俺たちには誰も一切注意を払わない。

「王に会いに来る人間はひっきりなしにいますから。そうそう構っていられないのでしょう。それに商売をしていれば他国人を見てもそう騒ぎ立てません」

「そういうものなんだ」

「そういうものです。さ、ではこちらへ」

 時雨に案内されたのは背後の巨大な建物。
 これもオムカの縦に高い城といった風情の建物ではなく、どちらかというとインドの宮殿とかアンコールワットといった背の低い平屋の巨大な建物といった趣が近い。

 温暖、というより夏のこの季節はからっからの太陽が暑く、この国の服装が基本上半身裸か薄着でそこにショールや布をあてがった、まるでアラジンに出てきそうな服装というのもその想像に拍車をかける。

 シータ国の知り合った人たちが漢名であることも含めて、1つの大陸でここまで文化圏が違うのだと思うと少し不思議な感じがする。
 まぁ今それを考えたところで答えが出るわけじゃないんだけど。

 俺たちは時雨の後を追って王宮へ入る。
 時雨はさすがというべきか、ほぼすべての場所が顔パスで、それについていく俺にも警備の人は敬礼してくれるのだから少しむずかゆい。

 さすがに入口のところで武器は没収されたけど。
 もちろん俺は何も持って来ていないが、ニーアは剣を預けることになった。普段は槍使いだが、護衛として持ち運びの悪い槍より剣を持ってきていたのだ。もちろんニーアは抵抗したが、俺が言う事を聞かないなら送り返す、と釘を刺したことでなんとか解決した。それ以降、若干ニーアのテンションが低いが。仕方ない。

 さてその王宮、大きいとはいえ、元が2キロ四方の島だ。
 城の奥にある大きな扉に来るまでほんの1分だった。

 最深部の大きな扉の前で時雨が立ち止まり、

「こちらで我が国の王がお待ちです」

 ごくりと唾を飲み込み、ようやくシータ国王とご対面というところで――

「それじゃ、ジャンヌ。あたしはどっか適当にぶらついてるわー」

 ニーアがとんでもないこと言い始めた。

 は!? いきなり何言い出すの、この子?
 いや、どこまでフリーダムだよ。勝手知ったる我が家じゃないんだからさ。

「えー、でもあたしの任務はジャンヌをここまで連れて来ることだよ。それは成功したんだから。後は帰りだけだよね。だから難しい政治の話とか知りませーん」

「知りませんじゃないだろ。忘れたのか、俺の命令を聞かないなら――」

「残念ながら今のあたしは王宮調査隊なのだ。だからこの王宮の隅々まで調べるまで帰りません!」

「帰りませんじゃない!」

 こいつどうしてくれようか、と脳の半分が熱を帯びる反面、残り半分の冷静な部分が疑念を抱く。

 いくら好き勝手して生きてるニーアでも、さすがにこの場所はわきまえているはず。わきまえてて欲しい。それに俺の帰国命令にも反する、ということは……何か意味があるのか?

 ニーアをじっと見る。
 何を企んでるのか、それを見極めるために。

「やん、ジャンヌったら。そんな情熱的に見られちゃ困っちゃう」

 ……やっぱ気のせいかもな。

 こいつの行動を真剣に考えるのも馬鹿らしい。
 とはいえさすがに他国の王宮で野放しにできるはずもないわけだが。

「それでは私が責任をもって彼女を客間に案内しましょう」

「本当にすみません。うちの馬鹿が」

「いえ、どのみち私はここで下がるところでしたので。丁重にもてなさせていただきます」

 はぁ、なんでこんな恥ずかしい思いをしなくちゃいけないんだ。
 俺はニーアをキッと睨むと、

「迷惑かけずに大人しく待ってること。いいな」

「はいはいー。王宮調査隊は、隠し通路もばっちり見つけておくであります!」

 すっげぇ疑わしい。
 けどもうここまで来ているのだ。あとは時雨に任せるしかない。

「それではご使者殿。どうぞ中へ」

 扉が開かれた。
 歩を進める。
 広い。オムカの謁見の間とはまた趣の違う感じで、形式ばった重さがなく、どこかさっぱりした感じだ。

 中にいる人間は3人。
 立ってこちらを待っていたのは絹の白いコートのような礼装を着た天(あまつ)と、見知らぬ女性。
 20歳前後といったところか。シルクのワンピースを着てマリンブルーの髪をウェーブにさせた眼鏡の少女は、フレームを通して興味なさそうに俺を眺めてくる。

 そして最後の1人が……その、なんだ。正直驚いた。
 見間違いだと思って二度見までした。

 スーツ姿の男がいた。

 中世風のスーツじゃない。
 21世紀における、ビジネススーツと呼ばれるあのスーツだ。

 しかもその男が玉座に足を組んで座っているのだから悪夢としか言いようがない。

 あぁ、そういうことか。
 どこまで運命の女神は底意地が悪いんだ。

 シータとは戦いたくない。
 同盟がいつまでも続けばよい。

 はっ、そんな希望など幻想にすぎないとたった今証明されたも同然だ。

 だって、この玉座の主がプレイヤーなのだから。

 この世界から元の世界に戻れるプレイヤーは1国の勝者のみ。
 俺とこの男が同時に勝者になることはない。

 つまり、そういうこと。

 王が組んだ足をほどいて立ち上がり、言った。

「よく来たね、オムカの使者さん。遠路はるばるご苦労様」

 良く通る、男性にしては高い声。中性的とも言える。

「僕がシータ王国第37代国王の九神くしんだ。こちらはもうご存じ、国軍総帥兼宰相を務めるあまつ。そしてこちらが僕の相談役の水鏡みかがみ

 天がにこやかに手を振る。
 対する水鏡と呼ばれた少女は、ふんっとそっぽを向かれた。なんか嫌われてる?

「すまないね、彼女は感情表現が苦手で。ところで天、そろそろ君も忙しいだろう。顔見せは終わったから職務に戻るといいよ」

「そうですね。ではこれにて失礼します。ジャンヌさん。また会えて嬉しいです。どれくらい滞在されますか? どうでしょう、今夜あたり貴女を食事に誘いたいのですが。とびっきりの夜を提供しましょう」

「天、ナンパなら後でやって」

「はっ、失礼しました。それではまた」

 天は俺にウィンクするとあっさりと部屋を出て行ってしまった。相変わらずキザな奴。

 天が出ていくと扉が完全に閉まった。
 後に残ったのは、俺とシータ国王の九神、そして水鏡という女性。
 沈黙が間を支配する。

「さて、腹の探り合いはなしにして、単刀直入に言おうか」

 九神の目が細くなる。
 そこに確信の光が見えて、どこか落ち着かない。
 だから、

「きみ、プレイヤーだろ?」

 駆け引きのかけらもない言葉の切り込みに、一瞬動揺が走る。顔に出ていないかを必死に探りながら慎重に答える。

「何の話でしょうか?」

「探り合いはなしだって言ったろ? いや、その反応で分かった。きみの嘘が。きみは間違いなくプレイヤーだ。僕たちと同じ、ね」

「何を根拠にそんなことを――」

「ふふ、エイン帝国10万を撃退した知者だと聞いたけどそうでもないのかな。そういう返しをしている時点で認めているようなものだよ。この世界の人間ならこう答える。『何を言っているのか分からない』と。だが君はそれを受け止めたうえで聞いたよね、根拠は何かって」

「……」

 くそ、失策だ。
 やはりどこか動揺があったみたいだ。こんな簡単なミスをするなんて。

「ちっ、分かったよ。ああ、そうだ。俺はプレイヤーだ」

「そうそう、腹の探り合いは僕にとっては無意味だからね。はっきりすっきりくっきりどっかりと真心で話せればそれに勝る時間短縮はないよ。商売に一番大切なのは真心で、次に大切なのは時間だからね。ま、今の質問は初めて会った人には全員言ってるわけだけど」

 くそ、そんなカマに簡単に引っかかってしまった自分が恨めしい。

「待て、それより今『僕たち』と言ったな。ということは、いや、そもそも天を追い出したのはそのためか。宰相のあいつを追い出して政治の話をするわけないもんな。そしてそこの水鏡とやらは追い出さなかったってことは、お前ら2人がプレイヤーってことか?」

「うんうん、いいね。さすがにそれくらいは気づいてくれないと。そう、その通りだ。僕も水鏡もプレイヤーだ。日本で死んで、転生の女神とかいうよく分からない存在にこの世界に連れてこられた人間さ。いやいや、そもそも王って器じゃないんだよね。こうやって偉そうに話すのも実は苦手さ。むしろ同じ世界出身の相手にふんぞり返るのも寒いって言うか、なんか落ち着かないんだよね。僕はそういう人間なんだ。だから単刀直入にぶっちゃけさせてもらったわけで」

 よく回る舌で九神は一気に喋ってから、

「少し別室で話そうか」

 そう言ってにやりと笑った。
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