知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第15話 軍師の帰還

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 俺たちなんかのために送迎会のようなお祭りを開いたところで誰が集まるんだ、しかも当日の話なのにもかかわらず、なんて思った。

 だが実際に九神が声をかけると、万を超える人が集まった。

 それもこれもあの試合の効果だろう。
 もちろんただ騒ぎたいという人たちもいたかもしれないが、それでも色んな人に声をかけてもらった。ただそれが意味することは、女としての俺が見られていたわけで、複雑な気分だったけど。

 ニーアは子供にも人気で、格闘のまねごとをしてじゃれあっていた。
 俺もそこに水を差すような無粋な真似はできず、愛想笑いで過ごしたわけだけど。

 そんなこんなで大盛り上がりのお祭りは夜更けまで続き、翌朝は寝不足のまま起きてた。
 儀礼としての九神への挨拶を終えるとさっそく帰国の船に乗ることになった。天と淡英は最前線にいるから、九神からよろしく言ってもらうように伝えることも忘れない。

 そして船着き場には水鏡が見送りに来てくれて、

『鉄砲と火薬のお土産。持ってきなさい』

『助かる。特に火薬は生産できないし。というかすまないな。本来ならこっちも色々送るべきだったんだけど』

『ほんとそれ。ま、明は気にしてないし、そもそも期待してなかったから。てかそっちの国は復興が先だから余裕もないでしょ』

『そう言ってくれると助かる。お礼はいずれ』

『はいはい。あ、それと明から伝言。オムカがやばくなったらこっちに来い、だって』

『大丈夫。そうしないように俺がいる』

『……期待してる』

 何を、とは言わなかった。きっと色々なことだろう。
 だから俺も何が、とは聞かなかった。

 それから船に乗り込んだわけだが、行きと同様、時雨が色々世話を焼いてくれた。

『いつかまた、共に戦えることを祈ります』

 王都バーベル近くの船着き場で俺たちを降ろした時雨は、そう言って別れた。

 船酔いでダウンしたニーアを付近の街で看病しつつ、俺はお土産に持たされた火薬と鉄砲を運ぶための荷台を手配するなどしながら、船旅の疲れを癒した。

 そして2日後、久しぶりの王都バーベルに戻って来た。
 特に今日帰ると伝えてなかったから、こっそりと自分たちの足で戻って来たことになる。

「んんー、この空気久しぶりー。シータほど暑くもない、このぬめっとした感覚。やっぱり我が国が一番よねー」

 南門の前に立ち、ニーアが伸びをしながら感慨深げに言い放つ。

 考えてみれば1カ月以上も滞在していたことになるのだ。
 城壁も城門も見た目はほぼ修復された形で、ようやく王都の守りは目途がついたということだろう。

 となると復興の次の段階に進んでいるはずで、みんながどうしているか、期待半分、不安半分で足を王宮へと向けた。

 だが通りを歩くにつれ、どこか雰囲気が違うのに気づく。
 昼過ぎだというのに、人通りはまばらで活気が薄い。

 独立後、数か月もすると北から流れて来る人が急激に増大した。
 エイン帝国に駆り出されていたオムカ王国の兵たちが、脱走して帰って来たのだ。

 その数2万。
 もちろん兵士だけじゃなく、その家族や奴隷として連れていかれた人数も含む。
 それだけの人が一気に増えたのだから、住む場所も食べるものも一気に不足した。

 一応、独立の過程で減った人口と、復興に向けての人手不足でほぼプラマイゼロになったわけだが、それは数字面での話。
 誰をどこに住まわせて、物流はどうするなどといった話を、カルキュールに対してあーだこーだ言い合いをしたのは良い思い出。てゆうか数字に強いメルがいなかったら絶対収まらなかっただろう。

 だからシータに行く前は復興に向けての熱量があり、通りや城門の辺りはいつも人でいっぱいだったのだが、今はその半分にも満たないのが不思議だだった。

 そんな王都の変わりように驚きながら歩いていると、懐かしい声が響いた。

「あ、おねえちゃん!」

 この声は、と振り向く。
 そこに小さな影がいた。

「リン! 元気にしてたか!」

 思わずほっと顔がほころぶ。
 服装はボロのようなものからそこら辺の子と大差ない布の服に変わっていたし、薄汚れた肌も今では綺麗になり元気そうだ。

「うん! 元気!」

「そうか、それは良かった。今は何してるんだ?」

「うん! おはなさんでね、はたらいてるの!」

 なるほど。見ればそこはお花屋さんらしく、建物の中には色とりどりの花が所狭しと並んでいる。

 先の帰還兵対策と併せた復興計画の1つとして、スラムの解体があった。

 人口が一気に増えたこともあり、住む場所をすぐに確保できない状態になっていた。
 だからこそスラムを解体し、そこを人がちゃんと住める区画に整理しなおすことにしたのだ。それはスラムの人たちを雇うことで、労働力の確保に加え、風紀の是正を試みるためでもある。

 その施策はまだ始まったばかりだからリンと会えるのはいつになるかと思っていたが、こうして元気な姿を見るとどこかホッとした。

「ジャンヌ、その子……まさか!」

 ニーアがわなわなと体を震わせて俺とリンを交互に見てくる。

「隠し子とかじゃないからな」

「む、あたしの思考を先読むとはできるようになったわね、ジャンヌ」

 それは誉め言葉なのか?

「おねえちゃん、この人は?」

「はいはーい、いつも元気満点のニーアちゃんでーす! ジャンヌとは夫婦でーす! リンちゃんっていうのかなーよろしくねー」

 誰が夫婦だ!
 と突っ込みたかったが、リンの手前大声を出すのがはばかられたので、ブーツの踵でニーアの足を踏みつけようとした。避けられた。くそ。

「わぁ、いいなぁ。“ふうふ”ってお父さんお母さんってことだよね。ニーアおねえちゃんは、おねえちゃんとなかよしなんだね!」

 ほら見ろ。純粋なリンは信じちゃったじゃないか。

 当のニーアは、リンの純朴な視線にさらされ怯んだようで、

「ジャンヌ、どうしよう! この子めっちゃいい子!」

 うんうん、分かる。だからこそお前の毒牙にかけたくないんだけど。

「よし、この子をうちの子供にしよう! 養おう! いいでしょ、お母さん!」

「誰がお母さんだ!」

 我慢できずに突っ込んでしまった。

「おねえちゃんはおねえちゃんでおかあさんなの!? いいなぁ」

「大丈夫よ、リンちゃん。リンちゃんもいつかお姉ちゃんになってお母さんになるのよ」

「ちょっとお前黙ってろ」

 リンの教育によくない。

「なんだい、店先でうるさいね。営業妨害だよ」

 なんてぐだぐだやっていると、店の人らしいおばさんが出てきた。

「ん、誰だいあんたら? 外から来たの? 客?」

 おばさんが俺とニーアを交互に睨みつける。
 花屋という客商売にも関わらず、愛想のないおばさんだ。

 2人とも使者としての服は脱いでしまっているので、薄汚れた旅人と思われているのかもしれない。
 ただの通りがかりと判断したらしい、おばさんはリンに向かって怒鳴る。

「ほらリン! 表の掃除が終わったら裏のゴミ捨てっていっただろう! ったく。国の政策だかなんだか知らないが、困ったもんだよ」

「ごめんなさい……すぐにやります」

 リンがしょぼんとしてうなだれる。

 なんてことだ。良かれと思ってやった政策が、迷惑がられているということが胸に突き刺さった。
 何より、それの被害を受けるのがリンで、そのうなだれて謝る姿を見ると胸が締め付けられる。

「リン、大丈夫なのか?」

「うん、おふとんでねれるし、ごはんもおいしいし、おはな好きだし、みんなともあえるし、リンしあわせだよ!」

「そう、か……」

 リンの笑顔からは一片の辛さも見えない。本心だろう。
 だから俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

「ん、なんだい。まだいたのかい。リンと知り合い? 生憎今は仕事中でね、邪魔しないでもらえるかな?」

 つっけんどんなおばさんの言い様に、俺は少なからず腹が立った。
 そもそもリンに対する態度も気に食わない。
 だから俺は口を開き、

「……俺はこの国の――」

「いや、旅の商人なんです。この子とは前に会った時に仲良くなったんで、懐かしさにちょっとお話してました、ごめんなさいねー」

 ニーアが俺の肩に手を置いて言葉を遮った。その肩に置かれた手に力が入る。痛い。
 そしてニーアが俺の耳元に顔を寄せると、

「今ジャンヌはきっと良くないことを言おうとした。だから落ち着いて」

「……っ!」

 そうだ。俺は今何を言おうとした。

『俺は国の偉い人だぞ。だからリンをいじめるな』

 とでも言おうとしたのか。

 それは良くない。
 権威を振りかざしたとか、格好悪いとか、あくどいとかそういうことじゃない。
 俺がどう思われようとそんなことはどうでもいい。

 問題はリンだ。
 俺がそれを言えば、確かにこの花屋のおばさんには黙って従うかもしれない。
 そうなればリンは確かに安全だ。

 一時は。

 そうやって抑圧された人間は、いつどこで暴発するか分からない。
 あるいはその抑圧を、小出しにしてストレスを発散するかもしれない。その爆発先や発散先がリンに向かないとは言い切れないのだ。

「そうだな、分かった。悪かった」

 俺は止めてくれたニーアに謝罪する。
 肩から力が抜けると同時、ニーアの腕の力も和らぐ。

「なんだい、いったい」

「あ、いえ。この国は久しぶりなんですが。人が減ったな、って思って」

 先ほどの発言をごまかしつつ、話を別の方向に切り替えた。
 それはどうやら上手くいったようだ。

「ああ、そうだよ。復興計画とか言ってトンカントンカンやったと思ったら、軍はどっかいっちゃうし」

「軍が?」

 ニーアに視線を送る。
 眉をひそめただけで小さく首を振った。

「すみません、私たち商用で2カ月ほど外に出てたので。何が起きたか教えてくれませんか?」

「ふぅん? そうさね。この花束を買ってくれるなら教えてあげてもいいよ」

「買います。なんなら10束買います」

「おや、どうやらたくさん儲けてきたようだね。もっとふっかければよかったよ。ほらリン! お客さんだよ! 花束10、適当に見繕いな」

「は、はい!」

 リンが慌てて店に入っていく。
 それを見ておばさんは深くため息。

 俺はリンについて口出ししたくなるのを堪えて、おばさんに先を促した。

「あの、それで?」

「ああ、なんだっけ。そう、軍だよ。1週間くらい前だったかね、早馬が来たと思ったら次の日にはみぃんな出ていっちまったよ。北から戻って来た連中も含めてね。だからこんながらんとしてるのさ。それっきり何の音沙汰もないから生きてるんだか死んでるんだか」

「1週間……」

「あ、でも一応。日に1度は西門から輸送部隊が出ていってるから生きてんのかね」

 西門。
 ということはビンゴか?

 出発前のエインとの戦いで、双方とも痛手を負っていた。
 だからどちらもしばらくは動かないだろうと思ってシータに向かったのだが、当てが外れたようだ。

 ここで道草を食っている場合じゃないらしい。
 いや、リンが道草ってわけじゃないけど。

「はい、おねえちゃん」

 リンが色とりどりの花束を3つ、両手に抱えて持ってきた。
 リンにはまだ重いらしくふらふらとしながら、でもしっかりとした力強さで運ぶ姿を見てまた熱い想いがこみ上げてくる。

 それを3往復している間に、ニーアがおばさんに代金を払っていた。
 おばさんは上機嫌で店の中に入って行ってしまう。リンの手伝いもせずに、どうやら俺たちとはもう話す気はないらしい。

 ちょっと小言でも言いたかったが、必死に頑張っているリンを見るとそれも言えない。

 最後に4束を必死に持ってきたリンに対し、ポンッと頭を軽く撫でた。

「ありがとうリン。じゃあ、また来るよ」

「うん、おねえちゃんがんばってね!」

 リンの明るい笑顔に見送られ、俺とニーアは王宮へと急いだ。
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