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第2章 南郡平定戦
第16話 風雲急告
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城門で衛兵に帰国を告げると、すぐに謁見の間に通された。
マリアとハワード、そしてカルキュールら馴染みの顔が並ぶのを見て、帰って来たという実感が湧く。ジル、サカキ、ブリーダがいないのは軍が出ていったということと関係があるのだろう。
「シータ王国への使者を果たし戻りました。またお借りしていた護衛のニーアをお返しします」
俺とニーアが跪いてマリアに報告する。
「うむ、大義であった。疲れておるじゃろ。話は後で聞くのじゃ」
「いえ、聞き捨てならない風聞を聞いたので、とりもなおさず駆け付けました。汚い格好でお目にかかる無礼お許しを」
「う、うむ。そうか。聞いたのじゃな」
「はい。それで一体何が起こったのでしょうか。なんでも軍が西に行ったとしか情報がないので」
「う、うむ……それがじゃな……」
「それはわしから話そうか」
言いよどんだマリアに、ハワードが声を大にして口を挟んできた。
俺はハワードに視線を移すと小さく頷いた。
「事の始まりはまたビンゴからの使者じゃ。8日は前になるかの。なんでもエイン帝国が攻めて来たから援軍を出してほしいと」
「エインが!?」
まさか、どこにそんな軍がいたんだ?
「援軍が来たようじゃの。その数4万。ビンゴは先日の戦いで減らして2万弱。フシン砦に籠っているとはいえ、楽観はできない兵力差じゃて」
「フシン砦はここから西に30キロの地点にある砦。ジャンヌが来たくらいの時期にビンゴ軍に奪われた場所だよ」
ニーアが補足してくれた。
そういえばあの戦いはビンゴがうちらの領土に橋頭保を築くための戦いってジルが言ってたな。
「そこで我々は軍を出した。元の正規軍1万に、帰還兵7千の計1万7千だ。ジルとサカキ、それにブリーダが指揮を取っておる。それでずっと膠着してるらしいの」
オムカとビンゴの合計4万弱とエインの4万。確かに数字上は膠着している。
ただそれが10日近くも続くとは異常事態だ。
何せどこかに拠点があるわけでもないだろう。ずっと野営しているということなのか?
それだと兵の士気もさることながら、どんどん弱っていく一方だ。
「王都の守りは?」
「一応防備は整ったからの。先の籠城戦での志願兵2千と、今はクロエがしごいておる新兵500。あとはほれ、お前さんの兵が200くらいだったか。残ってるだけじゃ」
「ほぼ全兵力を出したのか」
「それも仕方あるまい。今、フシン砦を帝国に奪われては困るし、何よりビンゴ軍の動きがきな臭い」
「というと?」
「ビンゴは表裏定まらぬ相手じゃ。だまし討ちしても勝てば良いと考えているふしがある」
「ああ分かってるよ。こないだので身に染みた」
道を借りて草を枯らすなんて策を実行する相手だ。油断できないのは当然。
「いや分かってはおらん。今、この状況で我らにとって最悪の事態とはなんじゃ?」
「それは……エイン帝国に負けること」
「違う。一番最悪なのは、ビンゴとエインが手を結んで我らを攻めて来ることじゃ」
「っ!」
言われ、言葉に詰まる。
正直に言えば考えもしなかった可能性。
だからその可能性を、頭の中でくみ上げて、そしてやはり否定する。
「それは……いや、ないだろ。こないだまで戦争してた相手だぞ!? 第一、ビンゴに旨味がない。オムカを分割支配しようとでも言うのか? そんなことできるわけがない。オムカが滅べばビンゴ王国が次の帝国の獲物だ」
「さぁのぅ。凡庸なわしには想像もつかぬ。じゃが何かしらビンゴに旨味があると感じたなら、奴らはそれをやる。それだけじゃ」
「…………いや、ない。ないけど……」
確かに言い切れない。
知力100の俺がないと言い切っても、絶対がないわけじゃない。
それが勘違いでも、悪手であっても、それが良いと思ったら実行に移されるのだ。
人の心なんてそうそう数字で割り切れないのだ。
実際に俺が愚策と切り捨てた道を借りての計を実行されたり、俺の活躍で時雨が疑心暗鬼に囚われたりと俺が予想しえないことばかりが起きている。
「ま、ビンゴの奴らは旨味がなくてもやるから表裏定まらぬということなんじゃが」
「そんな……無茶苦茶だ」
「戦争なんてもともと無茶苦茶の極みよ。だがこの戦いはギリギリのところで均衡を保っておる。それが崩れた時、奴らは何をするか分からん。じゃから可能な限り早く兵を退く事が重要じゃ。頼んだぞ」
「頼んだって……ああ、そうだな。俺がやるしかない、か」
今、軍事で動けるのは俺かハワードしかここには残っていない。
有事の時に王都全体を見れるのはハワードだから、必然的に俺が動くしかないわけで。
「そうだ。さっさと行ってなんとかしろ。こうしている間にもどんどん金が消えていくのだぞ! まったく、戦争ほど非効率なことをしてる場合じゃないというのに」
あぁもう。カルキュールのおっさんはほんといつも通りの定常運転でいいなぁ。
ただ意外と真実を突いているのだからたちが悪い。
戦争が非効率。
それは経済の本質だ。
10日にらみ合っているが、その分の人手を開墾に当てられたらどれだけ国益になるか。
しかもその間、何もせずに食料を浪費するだけなのだ。
ましてや戦争だから人が死ぬ。そうすると人手が減るし、慰問金を出さなければならないとなると、国にとって大きなマイナスだ。
だからカルキュールの言は的を得てるのだ。
もちろんこれは一面の話ではあるわけだし、戦争によって経済が回る例もあるわけだが。
ま、そこまで考えて言っているのか知らないけど。
「じゃああたしも行く!道中危険かもだし。いいですよね、女王様」
「うむ、頼むのじゃニーア。ジャンヌを守ってやってくれ」
あぁこっちも定常運転だよ。頭が痛い。
ただ、確かに道中は危険だ。背後に回って輸送部隊を襲おうとする敵がいるかもしれない。
筋力1で武器を持てない俺には、身を護る術がないのだから護衛は必須だ。
「とりあえず状況は理解した。何をすべきかも」
今となってはあの怠惰の極みにあった5日間が痛い。
あんな落ち込んでないでさっさと帰っていればまだ打つ手はあったのに。
いや、今は今だ。
この状況を見極めて対処しないと、ハワードの言う通り最悪の事態を招きかねない。
「すぐに発ちます。替え馬を含めて馬を4頭いただきたい」
「良いのか。無理せず、少し休んでから行った方が良いと思うのじゃ」
「そうだぞ、ジャンヌ・ダルク! 女王様の好意をありがたく受けるがいい」
「いえ、こうしている間にも状況が動くかもしれません。すぐに発ちます」
「そうか……そうじゃの」
「そうだぞ、ジャンヌ・ダルク! 今は無駄な戦争をさっさと終わらせるのが先決だ!」
カルキュールのおっさん、うるさい!
言葉をころころ変えやがって……。
「それでは、行きます。あ、爺さん。周囲の警戒は密にお願い。今ここを攻められるとかなりキツイ」
「うむ。一応、東西南北に斥候を出しておるが、もう少し足を延ばしてみるかの。どれだけ敵が来ても3日は持たせてみせるから安心せい」
「3日以内に戻って来いってか。幸いシータからの手土産で鉄砲と火薬がある。鉄砲で戦うか、爆雷を作るかは任せた」
「ほっ、それはいいのぅ。相手が律儀に攻めて来れば、じゃが」
さすがハワード。
相手が前回みたいに愚直に攻めてくるとは思っていないようだ。
「じゃが主らにも必要じゃろう。半分だけもらうことにするかの。では気をつけてな」
「ええい、さっさと行ってこい、ジャンヌ・ダルク」
ハワードとカルキュールの言葉を受け、部屋から出ようとする。
「あ、ジャンヌ……」
と、マリアが呼び止めた。
その声に少しの悲痛の色が見えた。
振り向く。
悲しそうな、寂しそうな瞳をする里奈がいた。違う、マリアだ。なぜ間違う。
マリアは何かを言おうとして、やや躊躇って俯く。
そして絞り出すように言った。
「その……早く帰ってくるのじゃ。みんなと一緒に」
ただの激励、いや違う。
それだけでああも悲しそうな顔をするわけがない。躊躇うはずがない。
なら、と思う。
彼女の立場からすれば、ここ最近に起こった事件を振り返ればなるほどと思う。
寂しかったのだろう。
一国の王が寂しいとは何事か、と思うだろうが、彼女もまだ13歳の子供なのだ。
しかも独立を果たしたとはいえ、今にも踏みつぶされそうなほど国も幼い。それで不安を抱くなと言っても無理のないことだろう。
そんな時に俺とニーアが1か月もいなかったのだから心細さもひとしおだ。
マリアの信認を得ている人間。ニーアを除けば、手前みそだがそれは俺だと自負している。見た目の歳も近いし、裸の付き合いもしたわけだし、彼女が兄(姉?)のような感情を抱いていることもなんとなく察した。
だからマリアとしては、ようやく帰ってきた俺とニーアには傍にいて欲しいと思うのは仕方のないことだ。
だがそれは私人としての想い。彼女は公人としてはオムカ王国の女王として数万の人間の命を背負っている。
女王が手本となること。
公平さを大事とすること。
依怙贔屓してはいけないこと。
感情を無闇に出さないこと。
俺が語った帝王としての心構え。あの時マリアはよく分からないと言っていたが、必死に覚えようとしていたのだろう。
覚えるだけなら誰でもできる。だがそれを実行しようというのはまた別の話だ。
マリアはそれを早速実行したのだ。
その努力、実行力、決断力。まるでひな鳥の成長を見るようで、微笑ましさと嬉しさがこみ上げてくる。
だから俺はつい口元が緩んで、こう言っていた。
「すぐに片づけて帰ってきます。そうしたらシータの土産話をしましょう」
「そ、そうか。そうじゃな!」
パッと花が咲いたように笑顔を見せるマリア。
それを見るだけで、戦場へ向かう苦労が若干和らぐようだ。
「ということはジャンヌ、戻ってきたら余の部屋に寝泊まりするのじゃ!」
「あ、じゃああたしもー!」
ぐっ……まさかこの展開になるとは。
策士、情に溺れるとはこのことか。
くそ、もう安易に構ってやらねーぞ!
などと、実現不可能な決意を胸に抱いて、俺は再び王都を離れた。
マリアとハワード、そしてカルキュールら馴染みの顔が並ぶのを見て、帰って来たという実感が湧く。ジル、サカキ、ブリーダがいないのは軍が出ていったということと関係があるのだろう。
「シータ王国への使者を果たし戻りました。またお借りしていた護衛のニーアをお返しします」
俺とニーアが跪いてマリアに報告する。
「うむ、大義であった。疲れておるじゃろ。話は後で聞くのじゃ」
「いえ、聞き捨てならない風聞を聞いたので、とりもなおさず駆け付けました。汚い格好でお目にかかる無礼お許しを」
「う、うむ。そうか。聞いたのじゃな」
「はい。それで一体何が起こったのでしょうか。なんでも軍が西に行ったとしか情報がないので」
「う、うむ……それがじゃな……」
「それはわしから話そうか」
言いよどんだマリアに、ハワードが声を大にして口を挟んできた。
俺はハワードに視線を移すと小さく頷いた。
「事の始まりはまたビンゴからの使者じゃ。8日は前になるかの。なんでもエイン帝国が攻めて来たから援軍を出してほしいと」
「エインが!?」
まさか、どこにそんな軍がいたんだ?
「援軍が来たようじゃの。その数4万。ビンゴは先日の戦いで減らして2万弱。フシン砦に籠っているとはいえ、楽観はできない兵力差じゃて」
「フシン砦はここから西に30キロの地点にある砦。ジャンヌが来たくらいの時期にビンゴ軍に奪われた場所だよ」
ニーアが補足してくれた。
そういえばあの戦いはビンゴがうちらの領土に橋頭保を築くための戦いってジルが言ってたな。
「そこで我々は軍を出した。元の正規軍1万に、帰還兵7千の計1万7千だ。ジルとサカキ、それにブリーダが指揮を取っておる。それでずっと膠着してるらしいの」
オムカとビンゴの合計4万弱とエインの4万。確かに数字上は膠着している。
ただそれが10日近くも続くとは異常事態だ。
何せどこかに拠点があるわけでもないだろう。ずっと野営しているということなのか?
それだと兵の士気もさることながら、どんどん弱っていく一方だ。
「王都の守りは?」
「一応防備は整ったからの。先の籠城戦での志願兵2千と、今はクロエがしごいておる新兵500。あとはほれ、お前さんの兵が200くらいだったか。残ってるだけじゃ」
「ほぼ全兵力を出したのか」
「それも仕方あるまい。今、フシン砦を帝国に奪われては困るし、何よりビンゴ軍の動きがきな臭い」
「というと?」
「ビンゴは表裏定まらぬ相手じゃ。だまし討ちしても勝てば良いと考えているふしがある」
「ああ分かってるよ。こないだので身に染みた」
道を借りて草を枯らすなんて策を実行する相手だ。油断できないのは当然。
「いや分かってはおらん。今、この状況で我らにとって最悪の事態とはなんじゃ?」
「それは……エイン帝国に負けること」
「違う。一番最悪なのは、ビンゴとエインが手を結んで我らを攻めて来ることじゃ」
「っ!」
言われ、言葉に詰まる。
正直に言えば考えもしなかった可能性。
だからその可能性を、頭の中でくみ上げて、そしてやはり否定する。
「それは……いや、ないだろ。こないだまで戦争してた相手だぞ!? 第一、ビンゴに旨味がない。オムカを分割支配しようとでも言うのか? そんなことできるわけがない。オムカが滅べばビンゴ王国が次の帝国の獲物だ」
「さぁのぅ。凡庸なわしには想像もつかぬ。じゃが何かしらビンゴに旨味があると感じたなら、奴らはそれをやる。それだけじゃ」
「…………いや、ない。ないけど……」
確かに言い切れない。
知力100の俺がないと言い切っても、絶対がないわけじゃない。
それが勘違いでも、悪手であっても、それが良いと思ったら実行に移されるのだ。
人の心なんてそうそう数字で割り切れないのだ。
実際に俺が愚策と切り捨てた道を借りての計を実行されたり、俺の活躍で時雨が疑心暗鬼に囚われたりと俺が予想しえないことばかりが起きている。
「ま、ビンゴの奴らは旨味がなくてもやるから表裏定まらぬということなんじゃが」
「そんな……無茶苦茶だ」
「戦争なんてもともと無茶苦茶の極みよ。だがこの戦いはギリギリのところで均衡を保っておる。それが崩れた時、奴らは何をするか分からん。じゃから可能な限り早く兵を退く事が重要じゃ。頼んだぞ」
「頼んだって……ああ、そうだな。俺がやるしかない、か」
今、軍事で動けるのは俺かハワードしかここには残っていない。
有事の時に王都全体を見れるのはハワードだから、必然的に俺が動くしかないわけで。
「そうだ。さっさと行ってなんとかしろ。こうしている間にもどんどん金が消えていくのだぞ! まったく、戦争ほど非効率なことをしてる場合じゃないというのに」
あぁもう。カルキュールのおっさんはほんといつも通りの定常運転でいいなぁ。
ただ意外と真実を突いているのだからたちが悪い。
戦争が非効率。
それは経済の本質だ。
10日にらみ合っているが、その分の人手を開墾に当てられたらどれだけ国益になるか。
しかもその間、何もせずに食料を浪費するだけなのだ。
ましてや戦争だから人が死ぬ。そうすると人手が減るし、慰問金を出さなければならないとなると、国にとって大きなマイナスだ。
だからカルキュールの言は的を得てるのだ。
もちろんこれは一面の話ではあるわけだし、戦争によって経済が回る例もあるわけだが。
ま、そこまで考えて言っているのか知らないけど。
「じゃああたしも行く!道中危険かもだし。いいですよね、女王様」
「うむ、頼むのじゃニーア。ジャンヌを守ってやってくれ」
あぁこっちも定常運転だよ。頭が痛い。
ただ、確かに道中は危険だ。背後に回って輸送部隊を襲おうとする敵がいるかもしれない。
筋力1で武器を持てない俺には、身を護る術がないのだから護衛は必須だ。
「とりあえず状況は理解した。何をすべきかも」
今となってはあの怠惰の極みにあった5日間が痛い。
あんな落ち込んでないでさっさと帰っていればまだ打つ手はあったのに。
いや、今は今だ。
この状況を見極めて対処しないと、ハワードの言う通り最悪の事態を招きかねない。
「すぐに発ちます。替え馬を含めて馬を4頭いただきたい」
「良いのか。無理せず、少し休んでから行った方が良いと思うのじゃ」
「そうだぞ、ジャンヌ・ダルク! 女王様の好意をありがたく受けるがいい」
「いえ、こうしている間にも状況が動くかもしれません。すぐに発ちます」
「そうか……そうじゃの」
「そうだぞ、ジャンヌ・ダルク! 今は無駄な戦争をさっさと終わらせるのが先決だ!」
カルキュールのおっさん、うるさい!
言葉をころころ変えやがって……。
「それでは、行きます。あ、爺さん。周囲の警戒は密にお願い。今ここを攻められるとかなりキツイ」
「うむ。一応、東西南北に斥候を出しておるが、もう少し足を延ばしてみるかの。どれだけ敵が来ても3日は持たせてみせるから安心せい」
「3日以内に戻って来いってか。幸いシータからの手土産で鉄砲と火薬がある。鉄砲で戦うか、爆雷を作るかは任せた」
「ほっ、それはいいのぅ。相手が律儀に攻めて来れば、じゃが」
さすがハワード。
相手が前回みたいに愚直に攻めてくるとは思っていないようだ。
「じゃが主らにも必要じゃろう。半分だけもらうことにするかの。では気をつけてな」
「ええい、さっさと行ってこい、ジャンヌ・ダルク」
ハワードとカルキュールの言葉を受け、部屋から出ようとする。
「あ、ジャンヌ……」
と、マリアが呼び止めた。
その声に少しの悲痛の色が見えた。
振り向く。
悲しそうな、寂しそうな瞳をする里奈がいた。違う、マリアだ。なぜ間違う。
マリアは何かを言おうとして、やや躊躇って俯く。
そして絞り出すように言った。
「その……早く帰ってくるのじゃ。みんなと一緒に」
ただの激励、いや違う。
それだけでああも悲しそうな顔をするわけがない。躊躇うはずがない。
なら、と思う。
彼女の立場からすれば、ここ最近に起こった事件を振り返ればなるほどと思う。
寂しかったのだろう。
一国の王が寂しいとは何事か、と思うだろうが、彼女もまだ13歳の子供なのだ。
しかも独立を果たしたとはいえ、今にも踏みつぶされそうなほど国も幼い。それで不安を抱くなと言っても無理のないことだろう。
そんな時に俺とニーアが1か月もいなかったのだから心細さもひとしおだ。
マリアの信認を得ている人間。ニーアを除けば、手前みそだがそれは俺だと自負している。見た目の歳も近いし、裸の付き合いもしたわけだし、彼女が兄(姉?)のような感情を抱いていることもなんとなく察した。
だからマリアとしては、ようやく帰ってきた俺とニーアには傍にいて欲しいと思うのは仕方のないことだ。
だがそれは私人としての想い。彼女は公人としてはオムカ王国の女王として数万の人間の命を背負っている。
女王が手本となること。
公平さを大事とすること。
依怙贔屓してはいけないこと。
感情を無闇に出さないこと。
俺が語った帝王としての心構え。あの時マリアはよく分からないと言っていたが、必死に覚えようとしていたのだろう。
覚えるだけなら誰でもできる。だがそれを実行しようというのはまた別の話だ。
マリアはそれを早速実行したのだ。
その努力、実行力、決断力。まるでひな鳥の成長を見るようで、微笑ましさと嬉しさがこみ上げてくる。
だから俺はつい口元が緩んで、こう言っていた。
「すぐに片づけて帰ってきます。そうしたらシータの土産話をしましょう」
「そ、そうか。そうじゃな!」
パッと花が咲いたように笑顔を見せるマリア。
それを見るだけで、戦場へ向かう苦労が若干和らぐようだ。
「ということはジャンヌ、戻ってきたら余の部屋に寝泊まりするのじゃ!」
「あ、じゃああたしもー!」
ぐっ……まさかこの展開になるとは。
策士、情に溺れるとはこのことか。
くそ、もう安易に構ってやらねーぞ!
などと、実現不可能な決意を胸に抱いて、俺は再び王都を離れた。
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