知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
116 / 627
第2章 南郡平定戦

閑話9 マリアンヌ・オムルカ(オムカ王国 第1王女) 後

しおりを挟む
「ジャーンヌ! 何かあったかの!」

 勢いよく飛び込んだ執務室。

 そこにはジャンヌがいて暖かく迎えてくれる。
 そんな幻想を抱いていた。

 だが―― 

「戴冠式の巡幸じゅんこうパレードのスケジュール、どうなってるの!? そこが決まらなきゃ、軍の護衛もままならないでしょ! 女王様を危険にさらす気!?」

「これ、出丸でまるの設計図。この通りに組めば問題ないから。宰相の許可? そんなもんいらないって! 土を掘って土を盛る、木を切って組み立てる、それだけ。費用は掛かってないから軍部が勝手にやる! ハワードの爺さんから許可はもらってるんだからそっちでいい!」

「各国の情報、まとめろって言ったでしょ! これじゃどこを見ていいか分からない! 国ごとに部類分けして、もっと見やすくできる!」

 慌ただしく人々が行きかう嵐のような場所で、ジャンヌの声がひときわ大きく響いている。

 そのジャンヌから指令を受けた廷臣が慌ただしく部屋から出ていく。
 自分に気づかないほど、切羽詰まった表情だ。

 そして部屋の中心には、見たこともないような恐ろしい顔をしたジャンヌがいる。
 そのジャンヌを見て、はからずとも体が硬直してしまった。ものすごい圧を感じたと言ってもいい。

 ふとジャンヌが顔をあげた。
 そこでようやく自分に気づいたようで、

「ん……あぁ、女王様。申し訳ありません。こんなバタバタとした場所で」

「あ、いや……いいのじゃ」

 どこか他人行儀なジャンヌの態度。
 いや、ここは公の場だから、部下たちの手前、余を立ててくれているのだろう。きっと。

「それより用があるとニーアに聞いたのじゃが?」

「あー…………はい。えっと、その頼みと言うか…………くそ、ニーアのやつ……たいした用事でもないから後でこっちから行くって言ったのに」

 ぶつぶつとニーアに文句を言うジャンヌ。

 うーん、こんな真剣な顔のジャンヌも美しいのぅ。

「いえ、たいした用事ではないのです。戴冠式のスケジュールがまだ決まらないので、女王様との打ち合わせはもう少し時間がかかる、そうお伝えしたいだけでしたので、お越しいただくことはなかったのですが……」

 おおぅ、本当にたいした用事じゃないのぅ。

 けどそれを理由にしてでも、助け船を出してくれたニーアには感謝しかない。

「なんの。自分の足で回ることも上に立つ者としては当然のことじゃからの」

「立派な心掛けです――が、学ぶことも大事ですよ。女王様は今は勉強の時間ではなかったですか?」

 ぐっ、さすがはジャンヌ。
 だがここで負けるわけにはいかぬ。

「そ、それがの。おばばが体調不良での。自習となったのじゃ」

「そうでしたか。朝に会った時は元気そうでしたが」

「お、お昼に当たったそうなのじゃ! もうお腹ごろごろなのじゃ!」

「それは大変ですね。あとでお見舞いに行くとしましょう。女王様に歴史学を教えるよう頼んだのは自分なので」

「い、いや! ジャンヌも忙しいだろうし、余がちゃんと伝えて看病するから大丈夫じゃ!」

「…………分かりました。それでは自分は仕事がありますので」

 え……これだけなのか。
 もっとジャンヌとお話したい。
 シータでのことも教えてもらってないし。
 何より勉強に戻るのが嫌じゃ!

「え、えっとじゃなジャンヌ。この後なんじゃが」

「すみませんが人を待たせているので」

「人?」

 部屋の中を見てみるが、先ほど追い出された人たち以外、誰もいない。

「誰もおらんぞ?」

「いますよ、そこに」

「あ、はい」

 急に左隣で男性の声がした。
 振り返る。今まで誰もいなかった場所に、痩身の見るからに不健康そうな男性が立っていた。

「のじゃ!? い、いつの間に余の横に!?」

「最初からいましたよ」

 なんと……ここまで気配を感じさせないのはすさまじい。
 今もいるのかいないのか凄い曖昧じゃ。

「紹介します、イッガーです。元は志願兵にいましたが、別の仕事を手伝ってもらうために呼びました」

「別の仕事……?」

「諜報です。他国の情勢を掴んでおかないとこの国もあっという間に滅びますからね。さすがに自分だけじゃ手が回らなくなってきたので、専門の部隊を作ろうと思いまして」

「なるほどのぅ……」

 正直良く分からなかったけど、ジャンヌが必要と思うならそうすればいいと思う。

「というわけでここに来てくれたってことは、やってくれるってことだな?」

 ジャンヌが真剣なまなざしを男、イッガーに向ける。

 あふぅ、その視線。余が受けたいのじゃ。

「あー、はい。そんな感じで。お願いします」

 なんかやる気のなさそうなやつじゃのぅ。大丈夫なのか。

「分かった。それじゃあよろしく頼む。さっそく顔合わせをしようか。正直エインに支配されてこういったことをやれる人間がほとんどいないんだ。それでも軍に向かないけど、こういった仕事ができそうなやつを爺さんたちが選んでくれてる」

「はぁ……でもその前に。これ見てもらっていいですか」

 イッガーがジャンヌに手にした書類を手渡す。

「ん……これは」

「南郡の調査結果です。クロエ教官に許可をもらって、1カ月ほど旅してみました」

「なんだって……!? ちょっと待て。読む。いや、説明してくれ。見たこと聞いたこと、全部聞きたい」

「あ、はいー了解です」

 やる気があるのかないのか、のんびりした返事をするイッガーだが、それに対するジャンヌの食いつきは半端ない。

 ふとジャンヌがこっちを見た。
 その顔には申し訳なさが際立っているが、不審の色もあった。まだいたのか、という邪魔者を見る目だ。

「すみませんが女王様。用事は済みましたので、お引き取りを」

「う、うむ……しかし、シータの話を……」

「申し訳ありません。今は女王様の戴冠式のことで自分には時間が取れないのです。先日のように遊んでいる時間も今はありません。……ですが必ず時間を取りますので、今は」

「そ、そうか……ジャンヌも忙しいのだろうし。分かった、のじゃ……」

 ジャンヌの視線に押し出されるように後ずさりして、そのまま執務室から出る。
 背後でジャンヌとあのイッガーとかいう男の声がしたが、耳には入ってこなかった。

 この気持ち、なんだろう。

 そうだ、悔しいだ。
 ジャンヌを取られたみたいで、ジャンヌにないがしろにされたみたいで、何よりそんなことを考えてしまう自分が嫌で。

 半年前。
 あの頃は色々大変だったけど、ジャンヌが傍にいて頑張る姿を見せてくれたから楽しかった。嬉しかった。心強かった。

 けど独立を果たして、軍師として国政に携わる身となって、ジャンヌは変わった気がする。

 違う、自分が遠いところに行ってしまうのだ。
 女王という、この国の一番偉い場所に。

 きっとこの変化はそのせい。
 だからジャンヌは悪くない。
 むしろ自分のわがままがいけない。

 だから寂しくない。
 だから悔しくない。
 だから悲しくない。

 王になるのだから、そんな感情に負けてはいけないのだ。
 それはジャンヌに教わったこと。

 だからやらなければ。
 だから守らなければ。
 だから耐えなければ。

 だけど――
 だけど――

「胸が……痛い……のじゃ」

「女王様? どうかされましたか?」

 声をかけられた。
 ニーアだ。

 その顔を見た途端、何と言ったらいいか分からず、何が嫌なのかもわからず、それでもあふれ出て来る思いを抑えきれずに、目から水がこぼれ出た。

 ニーアが目を見開く。

「今は、とりあえずお部屋に参りましょう」

 どこをどう行ったか分からない。
 だがいつの間にか、自分の部屋に戻って、そこはニーアと二人きりの場所だった。

 そこで語った。
 ジャンヌのやってること。
 ジャンヌとの会話。
 自分の想い。

 それらをすべてぶちまけて、ニーアは無表情にそれを聞いてくれた。
 そしてすべてを語り合った後、残ったのは徒労感。

「そうですか……あの馬鹿」

「ニーア……怒っておるのかの?」

「失礼しました。いえ、女王様に怒るなんて不遜なことはいたしません。むしろあの頭でっかちに対してです。ご安心ください。私はどこに行っても女王様の味方ですから」

「そうか……でも余のせいでニーアとジャンヌが喧嘩するのは嫌なのじゃ」

「お優しい女王様。大丈夫です。そのようなことにはなりませんから。また、みんなでお風呂に入りましょう」

「そ、そうじゃな!その時はジャンヌを隅々まで堪能すればいいんじゃな!」

「ええ、その通りです」

 ニーアが優しく微笑む。

 その笑顔に、その言葉に、これまでどれだけ救われてきたか。

 だがその中に、どこか陰りがあるのをその時は感じてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
剣と魔法が交差する世界——。 ある男女のもとに、一人の赤子が生まれた。 その名は、アスフィ・シーネット。 魔法の才能を持たなければ、生き残ることすら厳しい世界。 彼は運よく、その力を授かった。 だが、それは 攻撃魔法ではなく、回復魔法のみだった。 戦場では、剣を振るうことも、敵を討つこともできない。 ただ味方の傷を癒やし、戦いを見届けるだけの存在。 ——けれど、彼は知っている。 この世界が、どこへ向かうのかを。 いや、正しくは——「思い出しつつある」。 彼は今日も、傷を癒やす。 それが”何度目の選択”なのかを、知ることもなく。 ※これは第一部完結版です。

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

勇者をしている者なんですけど、キモデブ装甲のモブAにチェンジ魔法を使われて、身体が入れ替わった!? ありがとうモブA!やっと解放された!

くらげさん
ファンタジー
 雑草のように湧いてくる魔王の討伐を1000年のあいだ勇者としてこなしてきたら、キモデブ装甲のモブAに身体を取られてしまった。  モブAは「チェンジ魔法」のユニークスキル持ちだった。  勇者は勇者を辞めたかったから丁度良かったと、モブAに変わり、この姿でのんびり平和に暮らして行こうと思った。  さっそく家に帰り、妹に理由を話すと、あっさりと信じて、勇者は妹が見たかった景色を見せてやりたいと、1000年を取り戻すような旅に出掛けた。  勇者は勇者の名前を捨てて、モブオと名乗った。  最初の街で、一人のエルフに出会う。  そしてモブオはエルフが街の人たちを殺そうとしていると気付いた。  もう勇者じゃないモブオは気付いても、止めはしなかった。  モブオは自分たちに関係がないならどうでもいいと言って、エルフの魔王から二週間の猶予を貰った。  モブオは妹以外には興味なかったのである。  それから妹はエルフの魔王と仲良くなり、エルフと別れる夜には泣き止むのに一晩かかった。  魔王は勇者に殺される。それは確定している。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

処理中です...