知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第28話 南郡救援1日目・逆落とし

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 ワーンス王国の王都が包囲されている様を見た後、再び時間をかけて関所に戻った。
 すると待ち構えていたのか、すぐにジルとサカキがすぐに俺の傍に寄って来た。

「お帰りなさいませ。いかがでしたか」

「すぐに出よう。あれは明日までもたない」

「分かりました」

「それからタキ隊長に1つお願いが」

「なんでしょう」

 タキ隊長が少し警戒心を出して答える。

「これから敵に奇襲をかけます。それで首尾よく敵を追い払ったら……我らをなんとか城に入れさせてもらえませんか。敵に間違われないよう。さすがに一週間に及ぶ強行軍で兵たちは疲れています。この状況でさらに野営などするのはさすがに厳しい」

 俺の要求が比較的軽いものだったのだろう。
 タキ隊長は表情を和らげて優しく答えた。

「その程度でしたら。私が身命を賭して叶えましょう」

 ワーンス王国とすれば、それだけで敵を追い払ってくれるのだから万々歳だろう。
 安い報酬だと思うが、正直、俺も兵も限界のところに来ているから仕方ない。

「ジャンヌ様、準備が出来ました。いつでも行けます」

「では出発する。なるだけ物音を立てるな」

 そして暗闇の中、タキ隊長の案内を受けながら1万の軍を動かす。

 小一時間ほどで先ほどの丘のふもとに到着した。
 丘を越えればすぐにワーンス王国の王都で、戦闘の真っ只中だ。

「よし、出撃の前に全軍を小さく集めてくれ」

「お、ジャンヌちゃんの演説か? 珍しい。今まであれほど嫌がってたのに、どんな風の吹きまわしだ?」

 サカキうるさい。
 俺だって本当は嫌だ。

 けど、疲労がたまった状態で、しかも他国の戦だ。命を賭けてまで戦うという気迫が出ない人もいるだろう。それだと必要のない犠牲が出る。
 それは極力避けたかった。

 だが、思ってしまう。
 そのためには相手を殺さなければならない。味方を生かすために敵を殺す方法を考える。
 軍師とは矛盾した因果な職業だな、と。

「ジャンヌ様、どうぞ」

 ジルの言葉に我に返る。

 1万の人間が綺麗に並んでいる。
 そして2万の瞳が俺に向いている。
 興味や好奇心ではない、だがどこか信仰を思わすような視線。

 苦手だ。あぁ苦手だ。けどこれをやらないと勝てるものも勝てない。俺の目的が大きく遠のく。
 だから歯を食いしばって、吐き気を胃の奥底に封じ込めて言う。

「これより我々はワーンス王国を包囲する敵軍に突撃をかける」

 ざわっと緊張が満ちる。
 まだ戦場まで距離はある。静かだ。だから声を張らなくとも全体に行き渡る。
 さすがにこの時間だ。誰もが戦闘は明日以降だと思っていたのだろう。何より他国の戦争だ。そこに気のゆるみが出るのは否めない。

 だが――

「もし今、ワーンス王国のために命なんか賭けられるか、そう思った者は心を入れ替えて欲しい。これは我々オムカ王国の存亡がかかった大事な戦いだ。ここで負けること、それすなわちオムカ王国の滅亡と思ってもらいたい」

 ざわめきが増す。
 誰もこの戦争が自分たちの国に関わるとは思っていないのだろう。
 それも仕方ない。彼らの仕事は戦術レベルで戦うことで、戦略レベルの思考を持てという方がおかしいのだ。

 けれど今は戦略レベルの考えを持って欲しいと思う。
 それが彼らのモチベーションに、そして命に直接かかわることなのだから。

「もしここでワーンス王国が滅亡すれば、ドスガ王国は南郡を制圧したこととなる。その兵力は今はオムカ王国と同等だが、その支配地域の差は歴然としている。すぐに我々より兵を集めるぞ。ドスガ王は貪欲な男と聞く。そうなったら次の目標はオムカ王国だ」

 そこは伝え聞くドスガ王の気質からみて、そうする確率がかなり高い。

「一度はエイン帝国を撃退した我々なら勝てる。そう思う者もいるだろう。だがそうなった時に、果たして攻めて来るのはドスガのみだろうか? エイン帝国はもちろんこの時とばかりに兵を出すだろう。ビンゴ王国も漁夫の利を狙ってくるかもしれないし、シータ王国も他に占領されるならと同盟を破棄して攻めて来るかもしれない。四方から攻められれば、オムカ王国は滅亡するしかない。我々の国はそんな状況にあるのだということを、兵士の諸君らには改めて認識してもらいたい」

 一気にしんとした空気になる。
 国の存亡を賭けて戦ったのが半年前。そして見事生き延びて独立を果たしたのだ。
 だが、その時と状況はなんら変わっていない。むしろ悪化している。
 なら何のための独立だったのか、ということになる。

 だから今だ。ここなのだ。

「分かっただろう。この戦いはワーンス王国を助けるだけではない。同時に自分たちを、国を、家族を、友を守る戦いだということなのだ! 今は辛いだろう、苦しいだろう。だがここでもう1つ頑張ってほしい! 私と共に、旗を振る者ジャンヌ・ダルクと共に凶賊ドスガ王の野望を打ち砕く、その手助けをしてほしい!」

 もはや恒例かつ唯一の装備であるオムカの旗を掲げる。
 夕闇に紛れ、青の旗はもはや識別できない。

 だが、その旗を見る兵たちの気配が変わったような気がした。

 我ながら道化だと思う。
 こうして彼らを死地に向かわせるのだから。罪深いにもほどがある。
 だが俺が言ったことはほぼ真実だ。ここで勝たなければ、彼らも、国も、家族も守れない。生き残れないのだ。

 それが伝わったのだろう。
 兵たちの中にある炎。戦闘へと駆り立てる火が、ここで一気に燃え上がる。

 一瞬の静寂の後、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 人間の口から出たのかと疑うレベルの咆哮。
 声だけで大地を揺らし、崩すのではないかと思うほどの大音声(だいおんじょう)。

 もはや解き放たれるのを待つ、獣の群れ。
 だから俺はそれを解き放つ。

「全軍、突撃!」

 1万の兵が丘を登り、頂上に着くと同時攻めかかる。
 逆落としの形になった。勢いよく駆け下りた勢いを殺さず、東門を固めていた一番兵力の多い敵に襲い掛かる。

 背後からの奇襲かつ逆落としという一撃を受けながらも、霧散しなかったのはそれだけで優秀な軍だと分かった。
 同時に、城から打って出てきてくれたら完璧だったが仕方ない。

 敵は背後からの攻撃を受け止め、なんとか耐えながら陣形を整えていく。
 こうなるとこっちが不利だ。最初は奇襲と逆落としという勢いに乗れたが、やはりそこは7日近くひたすら強行軍に耐えてきた軍だ。すぐに疲れが出てしまう。そうなるとこちらが一方的に負ける展開になるが……。

 タキ隊長と共に、丘の上から戦況を見る。
 さすがに剣も握れない雑魚が突撃など笑止千万。俺も分はわきまえてるつもりで、戦況を眺める。

 激戦地の東門。
 だがそれ以外の門にいる敵も異変に気付いたらしい。兵を退いてこちらに加勢しようとする動きが見える。

 その軍がこちらにくると非常にマズい。
 こちらは3方向から敵を迎え撃つ形となり、戦況ははなはだ不利となる。

 と、その時だ。
 オムカ軍の右翼が動いて、敵の側面に回った。とはいえ兵力は少ない。100人程度だ。
 だがその100は獅子奮迅の働きをして、敵軍左翼をぐいぐいと押し込んでいく。
 敵がそちらに気を取られた。そこを本隊のジルとサカキが一気に突き崩す。

 だが相手は崩されたものの、潰走かいそうには至らなかった。
 数百メートル先で態勢を整えると、なんとか陣形を保ったままゆっくりと退いていく。
 その動きを見てか、南北に展開していた軍も王都から離れて退却していった。

「…………ふぅ」

 体から力が抜けたように、緊張が解けた。
 隣にタキ隊長がいなければ、馬の背に寝そべっていただろう。

「勝ちましたな」

「辛勝ですが」

 本当に危ないところだった。
 あの100が無茶ともとれる突撃をしなければ、勝ちはしたかもしれないが被害が大きくなっていただろう。

「ともあれこれで王都は救われました。感謝いたします」

 まだ終わってないだろうけど。
 とはいえ、希望を持ったタキ隊長にそれを突きつけるのは酷というもの。

「行きましょう」

 俺はそれに応えず、丘を降りるようタキ隊長を誘う。

 ジルたちの軍は王都の城門前500メートルほどのところに規律よく並び、去っていった敵に対して備えている。
 見事な陣形。美しい限りだ。

 先頭に立つジルが俺に馬を寄せて来る。

「ジャンヌ様。敵は撃退しましたが……」

「何かあったのか?」

「クロエが少し無茶をして負傷しました」

「そう、か。あいつが……」

 ということはあの100はジャンヌ隊か。
 いや、100という数字からしてそうだろうとは思っていたけど、まさか本当だとは。

「お会いになりますか」

「……いや、今は軍の方が大事だ。タキ隊長、よろしくお願いします」

「はっ! しばしお待ちを」

 そう言ってタキ隊長は門へと馬を走らせる。

 本当はクロエのことがかなり心配だった。
 相当な激戦だったはずだ。クロエだけじゃない。ジャンヌ隊の中で、俺の知っている人間がどれくらいの人間が傷つき、死んでいったのだろう。だから生き延びた者には感謝を、死んだ者には哀悼あいとうを示したい。

 でも今は無理だ。
 俺は軍師という立場にいる。
 この後にワーンス王国との交渉もあるはずなのに、私情を優先できない。

 数分待つ。
 城門がゆっくりと開いた。
 その門の奥に、いくつかの人影が見える。

 軍はサカキに任せ敵への警戒をさせつつ、俺とジルが門の方へと馬を進める。
 門のところにいる人影は、俺たちの姿に気づき、拱手の礼と共に深く頭を下げた。

「え、遠路はるばるお越しいただき、また……ドスガの連中を追い払っていただき感謝いたす! こ、このワーンス王マカ・ワーンス。感謝を伝えますぞ!」

 まさか、国王か。
 どもりながらの言葉は、威厳ある王のものとは思えなかったが、確かにそう言った。

 慌てて俺とジルは馬を降りて礼をする。

「こちらこそ王直々のお出ましとは知らず失礼しました。追い払ったとはいえ一時のこと。明日よりまた戦いが続くでしょう。しかし今は、こうして門を開いていただいたということは、我々は中に入って休息を取らせていただいても構わないと受け取ってよろしいでしょうか」

「は、はい。我が国は貴国の来訪を心より歓迎いたします」

 ワーンス王はそう言って、深々と頭を下げた。
 その王らしくないふるまいに、俺とジルは視線を合わせ、苦笑した。

 王でありながら不安そうで一生懸命な姿が、俺たちの良く知る国王の姿に似ていたからだった。
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