知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第30話 南郡救援4日目・お手紙作戦と内乱の芽と

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 2日が過ぎた。

 朝に出て鉄砲で敵陣を襲い、それから平地でにらみ合っては撤退するの繰り返し。たまに行われるのも小競り合い程度で、戦況は膠着している。
 相手が攻めてこないのは何かの策か、あるいは裏切りを警戒してか。

 一度だけ相手が大砲を出してきたが、敵軍の連携が取れておらず防備が手薄。
 サカキが一軍を率いて強襲したところ、大砲を捨てて逃げ去る始末。さすがに城に持ち帰りはできなかったので、サカキは大砲を数門、叩き壊して帰ってきた。

 それで相手は更に慎重になった。
 だが膠着の時間は、こちらにとって好都合だった。

 だから次の一手を打つために王宮に向かったのだが、ちょうど頼みごとをしたいと思っていた人物が向こうから近づいてきた。
 それは青白い顔で、瞳をきょろきょろと動かしているワーンス王で、

「ジャ、ジャンヌ殿? この小競り合いはいつまで続くのか。あ、いや。急かしているとかではなくてだな。少し不安になったというか、野戦で決着をつけるというのが本当なのかと……」

 この人、素直だな。腹芸が苦手というか、嘘が下手というか。
 隠しておく必要もないし、安心させるために現状を説明することにした。

「ええ。決着は野戦でつけます。ですがまだ時ではないのです。今は種を撒いている時間です。それが実れば、確実に勝利出来ましょう」

「そ、そうなのか。う、うむ。私はちゃんと信じていたぞ。だが少し口さがない部下がいたものでな。言って安心させてやろう」

 まぁ一番安心したいのは本人なんだろうな。
 青白かった顔色が、少し紅潮したようになっている。

「ではその部下を安心させるための手立てを1つお教えしましょう」

「む、そ、そうなのか!? そんなものがあるのか!?」

 すごい食いつきようだ。
 そこまでして安心したいか……。

「恐れ入りますが代筆をお願いできますでしょうか」

「代筆? 何を書くのだ?」

「離間の策――裏切りの誘いを」

「そ、それは構わんのだが……応じるのか? 聞けば、四天王が軍監をしているとか」

「それはそれで好都合なんですよ。手紙がバレれば疑いを生む。バレなければ裏切りの芽があるということ。どちらに転んでもこちらに損はありません」

「う、うむ……なんというか、恐ろしいな」

「ええ、ですので王もお気を付けを。こちらがそうするということは、相手もそうしてくるということですから」

「な、な、なんだと!? そ、そそそそれではすでに! ここにも裏切り者が……!?」

 あ、しくじったかな。
 こういうのを真に受けられると、嘘から出たまことになってしまう。
 上に立つ人間が疑心暗鬼になって部下を疑いだすと、その部下は自分が疑われたと知り、殺されるよりは、と裏切るつもりがないのに裏切ってしまうことが往々にして歴史にはある。

 だから俺は必死にワーンス王の誤解を解く羽目になった。

「それはあり得ません。王の部下は皆、必死に戦っているでしょう。それはドスガ王が冷酷非情と信じているからです。たとえ降伏しても身の安全は保障されない。だから裏切ったとしても許されるかは分からないのです。だからそんな人間はおりません」

「う、うむ……」

「それに我々も同じこと。ここで貴国を裏切ったところで、ドスガの脅威は変わらない。ならば協力してドスガを打ち破り、南郡は安定していてくれた方がオムカにとって得なのです。だから信じろとは言いませんが、共に巨悪と戦う同志として認めていただければと存じます」

「う、うむ! そうだな。わが軍に裏切りものなどおらんし、オムカは我が同志だ。そうだ。そうだな!」

 急に笑顔になって何度も頷くワーンス王。
 はぁ……単純――いや、純粋でよかった。

「それで、手紙というのはどういうものなのだ? こっちに味方してほしいと頼めば良いのか?」

「いや、そこまで直接的には。ただ領土を隣にするだけで敵対する理由はなく遺恨もないこと。ドスガ王国は貴国を先兵に使い潰すだろうこと。裏切らずとも戦闘に参加しないだけでも良いこと。そこら辺を含んで書いてもらえれば」

「な、なるほど。うむ……それなら、できるかも。いや、やってみよう」

「書き終えたら、それを矢で陣地に射こんでください。できればそれは貴国の軍隊に。我々からの言葉より、同じ立場の者からの言葉の方が聞くでしょうし」

「分かった。そうだな。これはあれだな! 私が私の手で国を守るのだな!」

「はぁ、まぁそうですね」

「うむ! うむ! ならばさっそくしたためるぞ! 我が筆で世界を救うのだ!」

 ワーンス王は子供のように目を輝かせると、意気揚々と奥へと向かって行った。
 やれやれ……。

 ともかくこれで一応打てる手は打った。
 もう1つの手が到着するにはあと2,3日かかるだろう。
 その間にこの手紙の効果が現れれば良いのだけど、それは相手次第というところだから何とも言えない。

 やることをやった俺は王宮を出ると、王都の中を歩いて見て回る。

 オムカの王都バーベルと比べるとかなり小さい。これはあくまで王宮を守るための都市であり、バーベルのように都市として機能させるものではないからだ。
 つまり王宮と軍の詰所といった性格が近い。

 だから街並みも最低限の居住区と店しかなく、農地などのスペースはない。
 では国民はどこに住んでいるかというと、王都の周囲にそれぞれ別の城壁を構えて暮らしているらしい。敵が来たらそれぞれの街で防備を固め、王都から軍隊が来るのを待つといったやり方で国を守っているのだろう。

 正直非効率この上ないが、北は関所を守る最低限の兵力がいればいいし、西は山岳地帯になっていて攻めるには適さない。つまり東と南からしか侵攻ルートがないと考えれば、こういったやり方でも十分なのだろう。もともと兵力が少ないというのも理由にあるのかもしれない。
 だから街ゆく人々もほとんどが軍人だし、今やここで寝起きしているからオムカの軍も多い。

 それゆえに心配も多い。

 1つの国家の都市に、2つの軍が駐留しているのもまた異様な光景だ。
 かつてのオムカのように征服者と被征服者ならまだ話は早いが、オムカとワーンスは同盟関係も敵対関係も何もないただの他国だった。ただの利害関係でこの成り行きになっているのだから、どこかで軋轢あつれきが生まれても不思議ではない。

「てめぇ、ふざけてんじゃねぇぞ!」

 そうそう、このような……って、えっ!?

 声のする方を見れば、兵が通りの左右に分かれてにらみ合っている。
 言うまでもなく同じ軍同士ではない。右にオムカ、左にワーンスで数も20程度のほぼ同数。

 それだけでも頭が痛いのに、オムカ側の先頭に立っているのはあのサカキだ。

「もう一度言ってみろ。俺らがなんだって?」

「女にこき使われて情けないっつったんだよ。しかもありゃただのガキじゃねーか。おたくらプライドないのか?」

「俺らはまだしも、ジャンヌちゃんを馬鹿にするとは許せねぇよなぁ」

「ひゃはは! ジャンヌちゃーんってか? 女々しいやつらだなぁ!」

 ワーンスの兵の嘲笑ちょうしょうに、サカキが明らかに顔を真っ赤にして歯ぎしりする。
 握りこぶしに力が入りすぎて血が出るんじゃないかと思うほどだが、なんとか自制して無理やり笑みを浮かべて反論する。

「そんならてめぇらはその女々しい奴らに守られてる情けない奴らだなぁ。俺らが来なかったら死んでたぞ、てめぇら。しかもそれっきり戦闘は全部俺ら任せ。その間にずっと城に籠りっぱなしって。情けないのはどっちだってんだよ」

「あぁ!? 俺らは命令で出るなっつわれてんだよ! 命令がありゃ、すぐに出てってドスガの連中を追い払ってやらぁ!」

「はっはーん、できんのかよ。俺らが来るまで縮こまって守るだけの戦いをしてた野郎がよぉ」

「あ、あれは……そういう戦いだからな」

「おめでたい奴だな。そうやって命令、命令って言われたままやるだけでいいのかよ。いいか、軍ってのはな、命令なんかなくったっていい感じにバシッと敵をやっつけりゃ、それでいい――」

「わけないだろ!」

 体が勝手に動いていた。
 走り出してノーブレーキからのドロップキックが、サカキのわき腹に突き刺さる。

「ぐぼぉ!」

 筋力のない俺の攻撃でも、加速が加わった攻撃かつ、ブーツのかかとで防御力の低いわき腹を攻めたことで多少なりとも効果はあったみたいだ。

「ジャ、ジャンヌちゃん!? 何を……」

 わき腹を押さえてうずくまるサカキに対し、更に頭をはたく。

「味方と争ってんじゃないっての! 援軍として呼ばれたのは確かだけど、ここ数日の食事、寝床、諸々を用意してもらってるのはワーンス側だぞ! それをお前は、何を偉そうに!」

「あたっ! ジャンヌちゃん、やめて……そんな頭叩いたら元からない脳みそが消える! てか部下の手前、俺の威厳がた落ちなんだけど!」

「威厳なんて犬にでも食わせとけ!」

「ひ、ひでぇ……」

 ったく。頼むから厄介ごと引き起こさないでくれよ。これが俺たちの生きる瀬戸際なんだからさ。
 今は我慢の時だ。
 だから俺はワーンスの兵に向き直る。

「な、なんだよ……てめぇがやんのかよ!」

 一番前にいた恰幅の良い兵が凄む。狂暴な体格と顔をしている。あまり知恵が回るタイプには見えない。こいつもサカキと同類か。

 だから俺は一歩前に出ると、その兵に向かって、

「我が軍の非礼を詫びる」

 頭を下げた。

「我々は非道なるドスガ王国に対し、義侠ぎきょうの心でこの国を救いに来た。その誠意が伝わらなかったこと、すべての兵にその思いを浸透で来ていなかったこと。共に戦う仲間としてまことに申し訳ない」

「ちょ、ジャンヌちゃん」

 サカキが何か言ってくるが無視。
 ただただ、この場を抑えるために頭を下げ続ける。

 やがてぷっと誰かが噴き出した音がして、

「かはっ! そうかよ、そう来るかよ。お前がジャンヌ・ダルクだな。聞いた通りガキじゃねぇか。しかも立派な腰抜けと来た!」

 あぁ、駄目か。
 ここで退くなら、こちらの謝罪で終わるはずだったのに。花を持たせてあげたというのに。

 それなら少し脅してやらないと。

「そんなもんじゃあ俺たちの受けた心の傷ってのは癒えねぇ、なぁ皆! だからよ、もっと誠心誠意をもって慰めてもらわないとなぁ。ちびっちいが、お前も女なら――」

「――ただし!」

 少しだけ顔をあげて上目でワーンスの兵を睨みつける。
 突如として強い言葉をぶつけられた男たちが、びくっと体を震わせたのが見えた。

「これ以上騒ぎを大きくするようならば、ワーンス王に奏上そうじょうし、利敵行為による内乱罪により相応の処罰を与えるよう申し出る。相応の処罰、すなわち死刑だ」

「――っ!」

 一番前にいた男が顔面蒼白になって一歩後ずさる。
 それでも追及の手は緩めない。

「それでもオムカを侮辱するのなら! その覚悟をもって非難するのなら! オムカ国軍師ジャンヌ・ダルクが誠心誠意をもって話を聞こう! さぁ、どうする!?」

「…………」

 ワーンスの兵が言葉に詰まる。
 それは何も反論ができなくなって、呆然としているのだと思った。

「お、俺は……俺は、悪く、ねぇ……」

 だが何かおかしい。
 血走った眼を見開き、口を大きく開けて咆哮する男は、どこか異常。
 その突然の変化に俺だけじゃない、サカキも、オムカの兵も、ワーンスの他の兵や野次馬さえもが唖然として男をみるだけだ。

「俺は、俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 突如、男が駆けだす。俺の方へ。

 あまりに突然のことに思考が止まる。その視界に何かを見た。光。剣だ。抜き身の剣が襲い掛かってくる。
 逃げろ。危険だ。動け。

「みんな死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

 ――動けない!
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