知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第55話 オムカ王国の使者

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 夕食を終え、王宮を出たのは夜が更けてからだった。

 ちなみに夕食は王宮の最上部にあるホールで行われた。
 絨毯敷きの大広間に、窓際にポツンとテーブルが置かれた。そこが夕食の会場。

 元々山の中腹に作られた王宮だ。
 窓から見える光景は、はるか下の地上に見える街の灯りでライトアップされ、幻想的とも思えた。

 わずかに聞こえてくるピアノの音も美しく、豪華なホテルのディナーに招かれたようだ。
 運ばれてくる料理も、贅を尽くしたフルコース。ここが敵地でなければ、相手があの王でなければ、さらにこの格好でなければ存分に楽しめただろう。

「はぁ……」

 馬車に揺られ、定められた宿舎へと向かいながら考える。
 あのドスガ王という男。
 どこまで本気なのか。
 そう思ってしまうほど、正体が分からない。

 あんな状態でよくこれまで国が回っていたと思うほど。

「どうかされましたか?」

 考え事に熱中するあまり、難しい顔をしていたようだ。
 馬車の対面に座る初老の男が聞いてくる。執事みたいな恰好で、言動も執事だ。

「いえ、あまりこんな服着たことがなくて……ちょっと靴ずれしたかもしれなくて」

 こんな服、というのはイブニングドレスというか、ノースリーブの紫のドレスのことだ。
 肩を露出したままでなんとも落ち着かないが、それに拍車をかけたのがドスガ王の視線だった。食事の最中にじろじろと見られてあまり気分の良いものではないし、何より消えたくなるほど恥ずかしかった。

 視線から解放された後も、歩くのにかなり四苦八苦した。
 こんなヒールの高い靴で歩くなんて、女の人はよくもまぁこんなので歩けるもんだ。

「それはいけません。今回は急場のことでしたから。後日、正式に職人を呼び寄せて採寸いたしますので、ご容赦ください」

「い、いや。そこまでしなくても……」

「いいえ。大王様の細君さいくん(夫人)となるべきお方に恥をかかせるなどもってのほか。なんでもこのわたくしにお申し付けください」

 参ったなぁ。
 気に入られているのはいいけど、ここまでがんじがらめにされると動きにくくてしょうがない。

 さっきも夕食の席で、

『あるいは貴様こそが私が探し求めていた人物かもしれない。貴様を手に入れられれば私は更に飛翔できる。この眼下に移る世界だけではない。すべての天下をわがものにすることだって可能だ!』

 野望、欲望、展望。おおいに結構だ。
 けど俺とは別のところでやってほしい。

「着きました。ここがジャンヌ様の宿舎となります」

 そんなことを考えていると馬車が止まった。
 窓から覗けば、二階建ての大きな白亜の建造物。
 ここが宿舎だというのなら、貴人を遇するレベルの建物だ。

「お手をどうぞ」

 ドアを開け、俺が降りやすいように手を差し伸べてくる執事。
 そういえば名前をまだ聞いていない。

「わたくしの名前などただのバトラーとでもおっしゃってくだされば結構でございます」

 やれやれ、これは筋金入りだ。

 執事、もといバトラーは玄関から先には入ってこず、案内は宿舎の管理人と紹介された壮年の男に引き継がれた。

 外観も大概だが、中もこれまた豪華。
 どこかの高級ホテル並みの広さと、調度品に溢れていた。
 あるいは国賓を招くための外交施設も兼ねているのかもしれない。

 管理人に部屋へと案内される途中だったが、俺は少し足を止めてこの屋敷の美麗さに見入ってしまっていた。

 そこへ雰囲気を台無しにする怒鳴り声が聞こえてきた。

「ええい! ドスガ王は何をしているのだ! 急用で会見を先延ばしにするといきなり言われてこれでは、どうにもならんではないか!」

「わたしに当たらないで。迷惑」

 聞き覚えのある声。
 廊下の奥を見れば、さらに見覚えのある二人組がいた。
 ただ、その組み合わせが意外といえば意外だった。

「はぁ。なんでわたしがこんな……」

「聞いておられるか、水鏡殿! そもそもだな。あのジャンヌ・ダルクが勝手に飛び出したのがいかんのだ! なぜわしがこんなところまで――」

「どうも、そのジャンヌ・ダルクですが」

 ぶつくさと文句を言って廊下を歩いてくる男女――オムカ国宰相カルキュールとシータ国の水鏡のペアという、異色の組み合わせの前に躍り出た。

「…………き、き、き――」

 壊れたラジオように、短音を繰り返すカルキュール。
 ようやく言葉がまとまったのか、唾を飛ばしてわめき散らしてきた。

「貴様、ジャンヌ・ダルクか! そのような女子おなごのような格好をしてたから気づかなかったぞ!」

「よし、喧嘩売ってるんだな? そうなんだな?」

 別に女に見られたいわけじゃないけど、なんかこいつに言われると腹立つ。

「て、水鏡? 王都にいてくれたんじゃなかったのか?」

「…………」

 視線を水鏡に向けるが、こっちを見たままフリーズ。

 俺何かしたか?

 よく見てみると、何やらその口元が小さく動いている。

「アッキー可愛いアッキー可愛いアッキー可愛いでもあれ男でも可愛いは正義可愛いは万能てか反則だよねこんなドレスとかシータで着せた時とはまた違うじゃんヤバいどうしようニヤニヤが止まらないてか持ち帰りたい明にも見せたい見せたくない自慢したいドヤりたい語りたい永久保存いえ永久凍結今のこの一瞬を脳内に永久に凍結するべき」

 駄目だよく聞こえないけど、何も聞こえてなさそうだ。

「――ということなわけで、ええい、聞いてるのかジャンヌ・ダルク!」

 まだカルキュールは何かぶつくさ言っていたらしい。
 そんなカルキュールを宥め、水鏡の復活を待ってようやく話が聞けるになったのは10分後、それも何故か俺の部屋でだった。

「で、では貴様はこう言うのか? ドスガ王に見初められたと。そして女王様と共にドスガの毒牙にかかると……」

「まぁそうなるな。毒牙ってのは言い過ぎ……じゃないか」

「おのれぇ! ドスガ王め! ジャンヌ・ダルクはともかく、女王様を政治の道具に仕立て上げるとは!」

 おっさん。ともかくってなんだ、ともかくって。

「おい、水鏡どうにか――」

 水鏡になだめてもらおうと視線を向けたが、水鏡は黙って席を立つと、

「ちょっと用事を思い出したから帰る。あきらを焚きつけてドスガに宣戦布告するから」

「どこをどうしたら、その結論になるんだよ!」

「可愛いを独り占めするなんて許せない」

「意味が分からないんだが!?」

 こいつらなんなんだよ。
 2人とも暴走の度合いがいつもと違って、俺がなだめる側に回んなきゃいけないじゃないか。

「で? そっちは何しに来たんだよ」

「ん、おおそうだ! まったく、貴様が変なことを言うから話がそれたではないか!」

 俺のせいかよ。
 まぁいいや。とにかく情報をまとめるのが先決だ。

 先に俺が経緯を話した。
 ワーンス王国の妨害、そして和睦。
 マリアが囚われの身となり、一時的に降伏したこと。
 ドスガ王に気に入られたっぽいこと。
 宰相のマツナガとの接点を持ったこと。
 ニーアを助け出したこと。

「ふむ。相手の宰相とつながりを持ったこと、近衛騎士団長を救出したことは評価しようではないか」

 なんでこいつはいつも偉そうなんだよ。

 対するカルキュールの内容は簡潔だった。

「貴様が出発して2日後、ドスガ王国から使者が来たのだ。女王を保護した。お返ししたいのでジャンヌ・ダルクを遣わされたし、とな。それで貴様はもういないと答えると、ならば宰相殿が。ということになってこんなところまで来たのだ! 感謝するのだな!」

 いや、感謝要素がゼロなんだが……。
 どういう思考回路ならそういう結論になるんだ。

「それで水鏡はなんで?」

「この人が独りで心細いとかって駄々こねてたから、仕方なくわたしが。さすがにシータ王国を敵に回すほど馬鹿じゃないでしょ」

「なるほど、充分に理解できた」

「ち、違うぞ! わしは臆病心にかられたわけでも命を惜しんだわけでは全くないぞ! わしに万が一があれば、女王様を救出する人間がいなくなってしまうからな!」

「なるほど、本当に十二分にしっかりはっきり理解できた」

「貴様とて捕まっているようなものではないか!」

「お、俺はその、あれだ! これから助けるんだよ!」

「ドスガ王の妻となってか!?」

「ならねーよ!」

「はいはい。少し静かにしなさい。貴方たち、大の大人が恥ずかしくないの?」

 水鏡に言われ、急に恥ずかしくなった。
 しょうもない口喧嘩しているところを親に見られた気分だ。

「むむ、申し訳ない水鏡殿。しかし、大の大人といっても、こやつはまだ子供ですぞ?」

「あら、そうでした」

 白々しくうそぶく水鏡。
 その態度が落ち着かなければ秘密をばらすと無言で語っている。

「……はぁ。とりあえず状況は分かった。それで、交渉はいつなんだ?」

「うむ。それがドスガ王の都合がつかないと言ってまだ会っておらん。どうやら今日は貴様のせいのようだがな」

「んなこと言われても」

「もしかしたらこのまま会う気はないのかもしれん」

「国王に続いて宰相も捕虜にってか? さすがにそこまでしたら馬鹿だろ。世論を考えなさすぎる」

「しかしな……もはやドスガがどんな手を打ってきても、わしはもう驚かんぞ」

 本当にそうなのか……?
 いや、でも確かにあの王ならしかねない、か?

「それは確かに……厄介か」

「ふん、厄介な性格をした連中と付き合うのはもう慣れたわ」

 それで何で俺の方を見て来るのかなー?

「やれやれ、わし最後の仕事もなかなか難しいことになりそうだ」

「最後?」

「あぁ。この一件、そして戴冠式が終わったらわしは引退する」

「はぁ!?」

 突然すぎる発表に、俺は呆気に取られてしまった。

「馬鹿どもの相手をしていい加減疲れたからな。ここらが潮時だろう」

「いやいやいやいや、ありえない。オムカの状況見てよ。宰相が務まるやつなんて誰もいないぞ!」

「ふん、宰相などなくとも貴様らが国を回しているではないか。老人にもう出る幕はない」

「いや、ハワードよりは若いだろ」

「あれと比べても仕方あるまいて……」

 苦笑いするカルキュール。
 その笑みに、疲労のようなものが映っているのを初めて知った。

「ま、とはいえすぐではない。後継者も……まぁいないことはないがまだまだ鼻垂れよ。水鏡殿。そういうわけだ。わしがいなくともオムカが弱体するわけではない。今後も同盟国としてよしなに頼みたい」

「ええ。そう言っとく」

 すげない水鏡の返事にも苦笑してカルキュールは頷く。

 マジか。
 そんなあっさりと。

 思い出せば、あまりいい思い出はない。
 いっつも喧嘩腰の言い合いだった。
 けどそれがなくなるとなると、少し寂しいと思ってしまうのだ。

「ええい、だからといってもう引退しているわけではないからな! ドスガ王との会見を取り付ける方策を考えねばならんのだぞ!」

 本人はさっさと切り替えているらしい。
 勝手に不安を煽っておいて。小憎らしい。

「はぁ、分かったよ。とはいえどうしたものかな……」

「ドスガ王に頼んでみたら? アッキー、お気に入りでしょう?」

「俺が?」

 水鏡に言われ、首をかしげる。
 お気に入り、なのかもしれないけど公私はさすがにつけるだろうし。

「とりあえず言ってみたら? 別に損になることはないし。ただでさえ宰相さんが煙たがられてるから、会見の日程がどんどんずれてるっぽいのに」

「そ、そういうことなのか、水鏡殿……」

 カルキュールは割とショックそうだった。
 原因お前じゃねぇか。

「けど今はそれしか打つ手がないんじゃない? さすがにわたしもずっといられないから、途中で帰るかもよ」

「う、うむむ……」

 まぁ確かに。
 水鏡は何のメリットもないのにわざわざ同行してくれたのだ。途中で帰ったとしても文句は言えない。

「…………ええい仕方ない、ジャンヌ・ダルク! 貴様に任務を与える! ドスガ王と交渉してわしとの会見を設定するのだ!」

 いや、だからなんでそんな偉そうなんだよ。

 ま、言うだけタダなら言ってみるか。

隔日かくじつで食事に招かれてるから。次は明後日の昼、それでいいなら言っとく」

「そ。じゃあ決まりね。それじゃあ今日は解散。はい、おやすみ」

 最後は水鏡が締めたが、実はもう眠かったからかも早く終わらせたかったのかもしれない。
 マイペースだなぁと思いながらも、やはり文句は言えないので黙っているしかなかった。
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