知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

閑話4 尾田張人(エイン帝国軍将軍)

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 対岸がぎりぎり見えるほどの大河に、初夏の太陽が降りそそぐ。
 だが今はそれを遮るものが川岸を埋めていた。

 軍船だ。

 木造とはいえ、かなりの大型でちょっとしたフェリーぐらいの積載量はある。
 動きは重いが、300人は乗れるので兵の輸送はかなりのものになる。

 俺はその光景を、川岸に張った陣幕の中から腕を組んで眺めていた。

「さてさて、ジャンヌなんとかはどうするかなぁ」

「ジャンヌ・ダルクでいいじゃんか。なんでわざわざ文字数増やすのかな?」

 横から声。
 子供のような高い声で、舌足らずな感じがなんともうざったい。

「はぁ……てかなんでお前なの?」

 じろりと横目で見る。
 身長は俺より低い。150くらいだろう。年齢は15歳前後の少女。空や川に似た青い髪の毛をツインテールにしている。それだけ見れば、そこらにいそうなただのケツの青い子供にしか見えない。だが有無を言わさず人目を惹く存在感は、他に類するものはない。
 白を基調にした軍服は俺と同じだが、その装飾は派手で何より目立つのが赤地に金色に縁取ったマントだ。ミニスカート丈の軍服を少女が着ているだけでも物珍しいのに、背丈ギリギリの豪奢なマントを羽織っているのだから違和感が半端じゃない。

 そしてそのマントの意味を知っている者からすれば、その違和感はさらに助長されるだろう。
 赤地に金の縁取り。それは帝国元帥府が掲げる旗の模様で、この帝国最強の軍隊に所属していることを示す。さらにマントが許されるのは、さらにその一部の上級将校なのだからこの少女の特異性が分かるものだろう。

 名前は確か……そう、長浜杏ながはまあん

 まぁ、今は俺の副官っていう立場なんだけど。
 どうも部下たちがきびきび動かないのはこのおっさん少女のせいのようだ。殺してやろうかな。

「えー、僕様じゃダメー? 張人きゅん」

「え、うわ。マジやめて。ゾッとした。なにそのきゅんって。うわー、ないわー。全っ然ダメ。なんでリーナちゃん来ないの? こんなガキで、ちっちゃくておっさんな奴見ててつまんないし」

「僕様はおっさんじゃない! まだにじゅ――じゃない! てか、ちゃんと見てよ、この僕様の美少女っぷりをさ」

「そういうとこがおっさんなんだよ。あんた、あれだろ。元は男で、この世界のアバター製作ってので女選んだタマだろ。ネカマってやつだな」

「ぐ、ぐぐぐ! 張人きゅん、君、生意気だぞ! 僕様は帝国の元帥府直轄の大将軍だぞ。ただの将軍の張人きゅんより偉いんだからね!」

 ん? 否定しなかったってことは本当なのか? やべー、こんなやついるんだ。超やべー。面白すぎ。てかまじできゅんってやめて。殺したくなる。

「はいはい、でも今は俺の副官だろ。しかも元帥直々に命令された、ですよねぇ大将軍どのぉ?」

「ぐ、ぐぎぎぎぎ! 君は、年上に対する言葉遣いがなってないんじゃないかな?」

「あれ? 今はあんたの方が年下だろ? 軍に登録されてる年齢じゃ、確か15とかじゃなかったか?」

「ぐにゃにゃにゃにゃ!」

 こいつ、面白。てかこのセリフをおっさんが言ってると思うと、さらに面白い。きゅん呼ばわりするおぞましさも、少しは溜飲が下がるというもの。

「ふん! こうなったら君1人でどう勝つか見極めさせてもらおうか! 僕様のスキルを使わないでね!」

「へぇ、ちなみにどんなスキルなんだよ?」

「それはだね――って教えるわけないだろ!」

「えー、でも副官の能力はちゃんと把握しておかなきゃ。それに俺たち仲間じゃないのかなー」

「……いやいや、これだけ敵意向けられて仲間はないわー。張人きゅん、もうちょっと空気読もう?」

 お前に言われたくないんだけど。
 いや、我慢だ。こういう奴は本当は喋りたいけど、変なプライドが邪魔してできないだけ。ならそのプライドをくすぐってやればすぐに吐く。

「ふん、そんなこと言って。俺がそんな酷い事する人間に見えるのかい? でもそんだけ自信あるってことは凄いスキルなんだろ? それに北じゃあ50戦無敗との噂じゃないか。長浜杏の凄いスキル、オムカ王国の奴ら、いや、大陸全員に見せつけてやったどうだ? エイン帝国に凄いやつがいるってさ。大陸全土にあんたの名前が響くんだぜ?」

「むむむ……むむ。大陸に、僕様の名前が……」

「ここでオムカを徹底的に叩きゃ、一気に情勢は帝国有利になる。そうなったらあんたの名前は永遠に残るぜ。俺たちはこの世界から去るかもしんねーけど、この世界にも自分の名前が響くと考えりゃ、そりゃすげぇことじゃないか? いよ、天下統一の大英雄」

「……よーし、分かった! 僕様の超強大なスキルをとくと見るがいいさ!」

 はっ、ちょっろー。
 中身までお子様かよ。

「僕様のスキルは『神算鬼謀しんさんきぼう』。戦の流れを10手先まで完璧に読み切ることができるスキルさ!」

 …………え? それだけ? うーん、なんかちょっと微妙くね?

「あ! その目は微妙とか思ってるでしょ!」

「思ってない思ってない。ちょっとわかりにくかっただけ」

 本当は思ったけど。

「ふん、じゃあ簡単に説明しよう。たとえばこの戦場、先手は帝国でしょ。あっちに川を渡る船はないからね。だからこっちが初手を切る。すなわち船団による渡河さ」

 それは当然だろう。

「それに対するオムカの手、2手目としては、オムカが迎撃の陣を敷くこと。こちらの渡河を防ぐ形だね」

「ま、だろうな」

「そうなると、おそらく戦況は膠着状態になる。いくらこっちが多いと言ってもやっぱり敵前渡河は難しいからね。去年、シータ王国が攻めてきた時、炮烙火矢ほうらくびやで陣形を乱して渡河したって話は聞いているだろう? その装備もないわけだから」

 あぁ、そういえばそんな話を聞いた。
 その戦いで、よく知んないプレイヤーが死んだってのも。

「だからこっちとしては次の手を打たなくちゃいけない。それが3手目。少数で別の地点からの渡河による横撃。上流に渡河地点があるんじゃないかな」

「……っ!」

 まさかそれを知っているのか?
 いや、この状況。そうするしかない状況というのは少し考えればわかる。だから俺は内心の動揺を隠すように言い放つ。

「そんくらい考えれば誰でも分かるだろうね」

「まぁね。だから相手も当然読んでくる。4手目。相手はそれに対して部隊を割く。渡河地点を絞って、上陸したところを鉄砲隊で狙い撃ちさ。こないだの戦いでそこそこの鉄砲隊がいることは分かったからね」

 大いにありうる。あのジャンヌなんとかならそれくらいは対処する。
 俺はいつの間にか、おっさん少女の言葉に聞き入っていた。

「というわけでこちらの5手目。さらに上流から別動隊を渡河させてその鉄砲隊を強襲。相手の6手目。鉄砲隊の護衛の部隊をその別動隊にぶつける。こちらの7手目。艦隊を進軍させて敵本陣を釘付けにする。相手の8手目。本陣を固めて迎撃。こちらの9手目。船団を分けて上流に移動。相手の10手目。部隊を分けてその上流に布陣」

 ははっ、これは愉快だ。
 こちらの思惑を全部読み切ってるってわけか。
 だがまだ甘い。

「とまぁこんな感じだけど、どうだい? 間違ってるかな」

「…………」

 さて、どう答えてやろうか。
 はいそうです、と答えるのもなんだか嫌だし、間違ってると言ってその通りにするのもしゃくだ。

「ふん。じゃあもう1手サービスしようじゃないか。次の君の手。僕様には張人きゅんの考えが分かるよ。いや、見たというのが正しいからあまり自慢できることじゃないけどね」

「ほぉ、そうかよ」

「君の11手目。ここに来る前に降ろした歩兵2千による下流からの横槍。上流からの渡河、それに合わせた正面攻撃。それらはすべて囮で、予想外のところから放たれる最後の一撃。それが君の本当の策だろう?」

「…………」

 そこまで読み切るかよ。
 なるほど。あの軍神とも言われる元帥野郎のお気に入りで、北で無敗というのも頷ける。

「おや? 顔色が変わったかな? ふっふっふ。これでも僕様は元帥直轄の大将軍だからね! 悲嘆することはないよ。相手が天才か、いや、それを超えた神がかりでもない限り、張人きゅんの策は破られることはない。君の勝ちだよ。オムカ王国は今日で滅亡さ」

 ふん。だけど気に入らない。
 こいつの言いなりになるというか、調子に乗らせるというか。
 策の練り直しじゃないか。

 てかやっぱきゅんはキモい。
 というわけでこいつは死地に送ってやろう。俺の『天士無双てんしむそう』で強化した味方部隊と一緒に。

「残念でした。大外れだ。けど惜しいところまではいってたから、君には特別な任務を与えようじゃないか。大将軍でしか務まらない、極上の任務を」

 生き残るかどうかは、このおっさん少女の運ということで。
 というわけで頑張ってねー。
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