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第3章 帝都潜入作戦
第22話 帝都・アルパルーデ
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伝え聞いていたミストの店はすぐに見つかった。
そして案内されたのは、ミストの店の従業員用の宿舎という建物。ほぼ使われていないところらしく、俺たち9人以外住んでいる人はいないという。
放置していたとはいえ敵国の主都だから、こじんまりとした郊外の店だろうと思っていたが、まさかど真ん中でこれほどの大きさとは思わなかった。
『まあ、ぶっちゃけアッキーが来るより3、4年前にはこっちに来てたさ。各地で行商して、その間に拠点を設けるほどに儲かったのさ。帝都にも作っておいたけど、政情の混乱で来れてなかったさ』
不思議に思っているとそう説明してくれた。
ミスト、俺より先輩だったんだなぁ。
というわけで、なんとかセーフティーハウスを手に入れた俺たちは、強行軍で疲れ切った体を休めることができた。
そして明くる朝。目が覚めた俺は、寝間着のまま外に出た。朝日はまだ昇ったばかりで、周囲の様子はまだ眠りの神に誘われていてか静か。
個室だったから誰にも遠慮せず寝たのは久しぶりで、解放感もあって良い寝覚めだった。
宿舎の裏手に出る。
そこに行ったのは声が聞こえたからだ。
いや、声ではない。
歌だ。
「アヤ」
「ん、おはようジャンヌ」
アヤがにっこりとほほ笑みこちらを向く。
俺と違ってすでに着替えていて、化粧こそしていないが白のワンピース姿で、どことなく気品があるように見える。
「おはよう。早いんだな」
「ええ。ここが帝都かって思うと、もういても立ってもいられなくて」
「そっか」
「ジャンヌには申し訳ないけど、わたしにとって人は人でしかないわ。わたしの歌を聞いてくれるお客。オムカの人もシータの人もエインの人もどれも同じ。国境とか主義主張も何もない。ただの人なの」
「…………いや、分かるよ。それが本当は正しいんだって」
俺もオムカの人間である前に、そして日本人である前にただの人だ。
歌や芸術の前には、国とか生まれとかそんなもの関係なくて、本当は地球に住む一人の人間でしかない。
「アヤは」
「ん?」
「歌で世界が救えると思う?」
それはある意味、永遠の命題。
ある人は救えると言い、ある人は救えないと言う。
俺は後者だ。
歌に力はない。
感情を揺り動かすことはできても、人の想いは変えられない。
そう信じていた。
けど彼女の歌を聞いてそれは変わった。
いや、もともと救えるとも思っていたのだろう。
救えるはずだ、と信じたかったのかもしれない。
歌は人間が持つ原初の楽器だ。
それは国が違えど、時代が違えど変わらない普遍のもの。
だからこそ、その根底にあるものは一緒で、言語が通じないとかそういうものは実は関係ないのでは。
アヤの歌を聞いて、そう思わないでもなかった。
だからこそ聞いてみたかった。
その当の本人であるアヤが、どう思っているのか。
「わたしは――」
「うん」
「救えないと思う」
「そう、か」
その言葉に、俺は少なからずがっかりしたんだと思う。
けど、その話にはまだ続きがあった。
「でもね。それはわたしが考える歌であって、もしかしたら救えるのかもしれない。わたしはただ歌うのが好きなだけの、素人に毛が生えたようなものだからね。技術とかも学んだことがないから」
「世界を救える歌はある?」
「うーん、そういうものかは分からないけど。でもね。こんなわたしの歌でも、わたしの歌を聞いてくれる人のほんの何人かは救えると思うの。その一瞬は救えていたと思いたいの。この半年、色んな国で歌った。そこでは皆笑顔でいてくれた。戴冠式の時も、戦乱から復興したばかりの南郡の人たちも、文化も違う海の向こうから来た人たちも。皆、笑顔でいてくれた。だから少なからず、こんなわたしの歌でも、あの時、あの一瞬は、救えたと思う」
それは歌うたいだからこそ感じる想い。
それでも、歌以外のものにも通じると感じるのだ。
「だからね。ほんの何人かだけど、それがどんどん増えれていけば、いつかは全員になるんじゃないかな。その一瞬が積み重なれば、それは永遠にもなるってことじゃないかな。そうなれば、それはもう、世界が救えるってことだと思う。もちろん、そんなこと原理的に無理だし、わたしにはそんなことは無理だから。だから現実的には無理だと思うの。けど、いつかは――」
いつかは。そんな歌が現れるというのか。
いつかは。そんな瞬間を持つというのか。
いつかは。そんな世界になるというのか。
夢。理想。妄想。願望。希望。
そうやって切り捨てるのはたやすい。
けど、叶わないからといって諦めるのは愚の骨頂だ。
夢はいつかは叶う。
昔の人間は月に行くなんてそれこそ夢だ妄想だと思っていたに違いない。
でも人間は月に行ったのだ。妄想を実現にしたのだ。
もちろん極論だ。
けど、そう願わなければ誰もそうしなかったわけだし、動かなければ何も始まらなかったわけで。
「だからわたしは歌うの。わたしの歌が無理でも、わたしの歌を聞いて救える少しの人がいるから。そしてその中の誰かが、そんな歌をうたえる人になればいいと思うから。だからわたしは歌い続ける。死ぬときは前のめりってね」
「……死んでもらっちゃ困るけどね」
「ふふっ、そうね。死にたくないわ。生きていれば、その瞬間が見れるかもしれないから」
「違いない」
何か収穫があったわけじゃない。
それを求めて話したわけじゃない。
それでも、今こうして彼女と話せてよかった。
そう思った気がした。
少し時間が経って、街が起きだし始めた頃。
俺たちは宿舎の食堂で朝ごはんを食べていた。
メンバーは俺、クロエ、ウィット、ザイン、マール、ルック、アヤ、ホーマ、竜胆、そしてミストとイッガーも合流した。
朝食は宿舎の人が作ったもので、サラダにパンとベーコンといった簡素なもの。
クロエを筆頭に、ウィット、ザイン、ルック、さらにはマールや竜胆までは物足りなそうにしていたが、俺にはこれで十分。
「さて、これからの方針だが、とりあえず帝都には潜入できた。これからはそれぞれで情報収集に当たりたい」
「あ、その前にいいさ?」
「ああ、ミスト頼む」
「ほいほい。えっと、とりあえず昨日の事件、関所破りだけどもうすでに話題になってたさ」
「覚悟してたけど早いな」
「ま、半日もない距離だからさ。それに帝都の人たちはそういう噂に敏感なのさ」
そういうものなのか。
「というわけで、皆の顔は手配されてる可能性はあるさ。写真は撮られなかっただろうから人相書きだろうさけどね」
「そっか。それはある意味不幸中の幸いか。ただ、9人で動くとかは無理だな」
「そう。だからこそ皆には2つのことを徹底してほしいさ。まず2人1組で動く事。1人で動くと危険だし、何か起きた時どうしようもなくなるさね。それから出かける前に変装すること」
「でも、変装と言っても怪しまれねーかな? そういったことに俺たち不慣れだし」
ザインが代表して聞く。
「ふっふっふ、ザインは知らないのですね。このミストさんは変装の超達人ということを! あぁ、前に隊長殿になった時はそれはもう……至福でした」
「クロエ、そこはとりあえず忘れろ。けど俺もその変装の腕は保証する。一時とはいえドスガ王を騙したし、最近それを悪用した奴に騙されかけたこともあったからな」
2月のニーアの件だ。
後で聞いたらやはりミストが手伝っていたらしい。もっとも、何のためかは聞いていなかったそうだが。
「あー、ごめんさアッキー。今回はそれは手伝えそうにないさ」
「なんだって?」
「わたしのスキル『怪人百面相』は、実在する人物に成りすます変装スキル。だからその成りすまし先が必要なのさ。クロエちゃんをアッキーにしたようにね。だからもしやるとするなら、この帝都にいる誰かに成りすますってことだけど……」
「それは危険、か」
「そうさ。誰かその人物を知ってる人に見られたらおしまいさ。1人か2人なら他人の空似で押し通せるかもしれないけど、さすがにこの人数は難しいさ」
なるほど、確かにそれはそうだ。9人ものドッペルゲンガーが現れたら話題になってバレる可能性がある。
「ま、写真がないならなんとかなるさ。化粧するとか、髪の色変えるとかね。一応、人相書きが出たら見に行くから動くのはそれからさね」
「分かった。そこらへんは任せる。それで肝心の組み分けだが――」
「あの、よろしいでしょうか」
手を挙げたのはホーマだった。
「どうぞ」
「私たちは別行動でもよろしいでしょうか」
「あ、そうですね、それは構いません。むしろここまで付き合ってくれて感謝します。そして迷惑をかけました」
「いえ。幸い、アヤは昨日馬車にいたので顔は見られていないと思います。私が少し変装すればバレないでしょう」
「ごめんね、肝心な時に手伝えなくて」
アヤが申し訳なさそうに言うが、それこそ過度な申し出というものだ。
「いや、アヤは本分をしっかり果たしてくれ」
「うん、そっちも頑張って」
というわけでアヤとホーマを抜いた残り9人。
いや、ミストは店のことがあるだろうし、イッガーは単独行動の方が向いているだろうから除いて残り7人だ。
というわけで組み分けになるのだが――
「はいはーい! 私はたいちょ――」
「クロエ、貴様は黙ってろ。もう聞き飽きたぞ」
「うぐぐー、ウィットのくせに生意気!」
はぁ……相変わらず、か。
「お前ら、いい加減にしないと組ませるぞ」
「はい! いい加減にします! こんな奴と一緒にいたら折角の帝都見物を隊長殿と一緒にできないですから!」
「ふん、こっちこそ願い下げだ! 隊長、こんなやつとではなく俺とどうですか。俺なら身辺警護、いざという時の対応はもちろん、豊富な知識と巧みな話術で退屈させませんよ?」
「あ、抜け駆けですか! それは正義じゃないです! ここは私がジャンヌ先輩と一緒が正義でしょう!」
「ちょっと、机に足を乗せないの、リンドー! あぁ、もう。それより隊長。ここは女の子2人の方が怪しくないと思います。しかもちょっと大人しめで、隊長をリード出来て、かつ腕の立つ」
「マール、まさかお前もか……」
「残念だったねー、ザイン」
はぁ……相変わらずうるさい奴ら。
「もういい。俺が決める。クロエとザイン、ウィットとルック、竜胆はマールと。それぞれ2人一組で行け!」
「ええー!」
各所で不満が上がる。
だがそれに取り合ってたら陽が暮れる。
「うるさい、お前らちょっとは連携を大事にしろ! これは命令! 以上!」
「あれー隊長はどうするんですーー?」
唯一不満らしい不満もなさそうなルックが聞いてきた。
「俺はちょっと思う事があって1人で動く」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってください隊長! そりゃなんでもヤバイすよ!」
「そうです。たった今、ミスト殿が危険だと言ったばかりではないですか」
ザインとウィットが真っ先に反対してきた。
周囲もその通りだとばかりに頷いてくる。
「大丈夫だ、俺にはイッガーがつく」
嘘を言った。
当の何も聞かされてないイッガーは目を丸く見開いたが、俺がじっと見つめると慌てたようにコクコク頷いた。
それでとりあえずその場は収まった。
正直、なんでここまで1人で動きたいのかは分からない。
けど、何か運命的なものを感じている。
例の司教。
それがプレイヤーだとしたら、俺のこの世界における最大の敵になるかもしれない。
そんな予感があったからだろうか。
いや、今はもう考える時じゃない。
多少の問題はあれど、帝都まで無事に来れたんだ。
後は動くだけだ。
「では昼まではここで待機。ミストが手配書を確認した後、昼過ぎにここを出発し各地で情報収集。陽が落ちるまでにはここに必ず戻ってくるように、以上、解散!」
そして案内されたのは、ミストの店の従業員用の宿舎という建物。ほぼ使われていないところらしく、俺たち9人以外住んでいる人はいないという。
放置していたとはいえ敵国の主都だから、こじんまりとした郊外の店だろうと思っていたが、まさかど真ん中でこれほどの大きさとは思わなかった。
『まあ、ぶっちゃけアッキーが来るより3、4年前にはこっちに来てたさ。各地で行商して、その間に拠点を設けるほどに儲かったのさ。帝都にも作っておいたけど、政情の混乱で来れてなかったさ』
不思議に思っているとそう説明してくれた。
ミスト、俺より先輩だったんだなぁ。
というわけで、なんとかセーフティーハウスを手に入れた俺たちは、強行軍で疲れ切った体を休めることができた。
そして明くる朝。目が覚めた俺は、寝間着のまま外に出た。朝日はまだ昇ったばかりで、周囲の様子はまだ眠りの神に誘われていてか静か。
個室だったから誰にも遠慮せず寝たのは久しぶりで、解放感もあって良い寝覚めだった。
宿舎の裏手に出る。
そこに行ったのは声が聞こえたからだ。
いや、声ではない。
歌だ。
「アヤ」
「ん、おはようジャンヌ」
アヤがにっこりとほほ笑みこちらを向く。
俺と違ってすでに着替えていて、化粧こそしていないが白のワンピース姿で、どことなく気品があるように見える。
「おはよう。早いんだな」
「ええ。ここが帝都かって思うと、もういても立ってもいられなくて」
「そっか」
「ジャンヌには申し訳ないけど、わたしにとって人は人でしかないわ。わたしの歌を聞いてくれるお客。オムカの人もシータの人もエインの人もどれも同じ。国境とか主義主張も何もない。ただの人なの」
「…………いや、分かるよ。それが本当は正しいんだって」
俺もオムカの人間である前に、そして日本人である前にただの人だ。
歌や芸術の前には、国とか生まれとかそんなもの関係なくて、本当は地球に住む一人の人間でしかない。
「アヤは」
「ん?」
「歌で世界が救えると思う?」
それはある意味、永遠の命題。
ある人は救えると言い、ある人は救えないと言う。
俺は後者だ。
歌に力はない。
感情を揺り動かすことはできても、人の想いは変えられない。
そう信じていた。
けど彼女の歌を聞いてそれは変わった。
いや、もともと救えるとも思っていたのだろう。
救えるはずだ、と信じたかったのかもしれない。
歌は人間が持つ原初の楽器だ。
それは国が違えど、時代が違えど変わらない普遍のもの。
だからこそ、その根底にあるものは一緒で、言語が通じないとかそういうものは実は関係ないのでは。
アヤの歌を聞いて、そう思わないでもなかった。
だからこそ聞いてみたかった。
その当の本人であるアヤが、どう思っているのか。
「わたしは――」
「うん」
「救えないと思う」
「そう、か」
その言葉に、俺は少なからずがっかりしたんだと思う。
けど、その話にはまだ続きがあった。
「でもね。それはわたしが考える歌であって、もしかしたら救えるのかもしれない。わたしはただ歌うのが好きなだけの、素人に毛が生えたようなものだからね。技術とかも学んだことがないから」
「世界を救える歌はある?」
「うーん、そういうものかは分からないけど。でもね。こんなわたしの歌でも、わたしの歌を聞いてくれる人のほんの何人かは救えると思うの。その一瞬は救えていたと思いたいの。この半年、色んな国で歌った。そこでは皆笑顔でいてくれた。戴冠式の時も、戦乱から復興したばかりの南郡の人たちも、文化も違う海の向こうから来た人たちも。皆、笑顔でいてくれた。だから少なからず、こんなわたしの歌でも、あの時、あの一瞬は、救えたと思う」
それは歌うたいだからこそ感じる想い。
それでも、歌以外のものにも通じると感じるのだ。
「だからね。ほんの何人かだけど、それがどんどん増えれていけば、いつかは全員になるんじゃないかな。その一瞬が積み重なれば、それは永遠にもなるってことじゃないかな。そうなれば、それはもう、世界が救えるってことだと思う。もちろん、そんなこと原理的に無理だし、わたしにはそんなことは無理だから。だから現実的には無理だと思うの。けど、いつかは――」
いつかは。そんな歌が現れるというのか。
いつかは。そんな瞬間を持つというのか。
いつかは。そんな世界になるというのか。
夢。理想。妄想。願望。希望。
そうやって切り捨てるのはたやすい。
けど、叶わないからといって諦めるのは愚の骨頂だ。
夢はいつかは叶う。
昔の人間は月に行くなんてそれこそ夢だ妄想だと思っていたに違いない。
でも人間は月に行ったのだ。妄想を実現にしたのだ。
もちろん極論だ。
けど、そう願わなければ誰もそうしなかったわけだし、動かなければ何も始まらなかったわけで。
「だからわたしは歌うの。わたしの歌が無理でも、わたしの歌を聞いて救える少しの人がいるから。そしてその中の誰かが、そんな歌をうたえる人になればいいと思うから。だからわたしは歌い続ける。死ぬときは前のめりってね」
「……死んでもらっちゃ困るけどね」
「ふふっ、そうね。死にたくないわ。生きていれば、その瞬間が見れるかもしれないから」
「違いない」
何か収穫があったわけじゃない。
それを求めて話したわけじゃない。
それでも、今こうして彼女と話せてよかった。
そう思った気がした。
少し時間が経って、街が起きだし始めた頃。
俺たちは宿舎の食堂で朝ごはんを食べていた。
メンバーは俺、クロエ、ウィット、ザイン、マール、ルック、アヤ、ホーマ、竜胆、そしてミストとイッガーも合流した。
朝食は宿舎の人が作ったもので、サラダにパンとベーコンといった簡素なもの。
クロエを筆頭に、ウィット、ザイン、ルック、さらにはマールや竜胆までは物足りなそうにしていたが、俺にはこれで十分。
「さて、これからの方針だが、とりあえず帝都には潜入できた。これからはそれぞれで情報収集に当たりたい」
「あ、その前にいいさ?」
「ああ、ミスト頼む」
「ほいほい。えっと、とりあえず昨日の事件、関所破りだけどもうすでに話題になってたさ」
「覚悟してたけど早いな」
「ま、半日もない距離だからさ。それに帝都の人たちはそういう噂に敏感なのさ」
そういうものなのか。
「というわけで、皆の顔は手配されてる可能性はあるさ。写真は撮られなかっただろうから人相書きだろうさけどね」
「そっか。それはある意味不幸中の幸いか。ただ、9人で動くとかは無理だな」
「そう。だからこそ皆には2つのことを徹底してほしいさ。まず2人1組で動く事。1人で動くと危険だし、何か起きた時どうしようもなくなるさね。それから出かける前に変装すること」
「でも、変装と言っても怪しまれねーかな? そういったことに俺たち不慣れだし」
ザインが代表して聞く。
「ふっふっふ、ザインは知らないのですね。このミストさんは変装の超達人ということを! あぁ、前に隊長殿になった時はそれはもう……至福でした」
「クロエ、そこはとりあえず忘れろ。けど俺もその変装の腕は保証する。一時とはいえドスガ王を騙したし、最近それを悪用した奴に騙されかけたこともあったからな」
2月のニーアの件だ。
後で聞いたらやはりミストが手伝っていたらしい。もっとも、何のためかは聞いていなかったそうだが。
「あー、ごめんさアッキー。今回はそれは手伝えそうにないさ」
「なんだって?」
「わたしのスキル『怪人百面相』は、実在する人物に成りすます変装スキル。だからその成りすまし先が必要なのさ。クロエちゃんをアッキーにしたようにね。だからもしやるとするなら、この帝都にいる誰かに成りすますってことだけど……」
「それは危険、か」
「そうさ。誰かその人物を知ってる人に見られたらおしまいさ。1人か2人なら他人の空似で押し通せるかもしれないけど、さすがにこの人数は難しいさ」
なるほど、確かにそれはそうだ。9人ものドッペルゲンガーが現れたら話題になってバレる可能性がある。
「ま、写真がないならなんとかなるさ。化粧するとか、髪の色変えるとかね。一応、人相書きが出たら見に行くから動くのはそれからさね」
「分かった。そこらへんは任せる。それで肝心の組み分けだが――」
「あの、よろしいでしょうか」
手を挙げたのはホーマだった。
「どうぞ」
「私たちは別行動でもよろしいでしょうか」
「あ、そうですね、それは構いません。むしろここまで付き合ってくれて感謝します。そして迷惑をかけました」
「いえ。幸い、アヤは昨日馬車にいたので顔は見られていないと思います。私が少し変装すればバレないでしょう」
「ごめんね、肝心な時に手伝えなくて」
アヤが申し訳なさそうに言うが、それこそ過度な申し出というものだ。
「いや、アヤは本分をしっかり果たしてくれ」
「うん、そっちも頑張って」
というわけでアヤとホーマを抜いた残り9人。
いや、ミストは店のことがあるだろうし、イッガーは単独行動の方が向いているだろうから除いて残り7人だ。
というわけで組み分けになるのだが――
「はいはーい! 私はたいちょ――」
「クロエ、貴様は黙ってろ。もう聞き飽きたぞ」
「うぐぐー、ウィットのくせに生意気!」
はぁ……相変わらず、か。
「お前ら、いい加減にしないと組ませるぞ」
「はい! いい加減にします! こんな奴と一緒にいたら折角の帝都見物を隊長殿と一緒にできないですから!」
「ふん、こっちこそ願い下げだ! 隊長、こんなやつとではなく俺とどうですか。俺なら身辺警護、いざという時の対応はもちろん、豊富な知識と巧みな話術で退屈させませんよ?」
「あ、抜け駆けですか! それは正義じゃないです! ここは私がジャンヌ先輩と一緒が正義でしょう!」
「ちょっと、机に足を乗せないの、リンドー! あぁ、もう。それより隊長。ここは女の子2人の方が怪しくないと思います。しかもちょっと大人しめで、隊長をリード出来て、かつ腕の立つ」
「マール、まさかお前もか……」
「残念だったねー、ザイン」
はぁ……相変わらずうるさい奴ら。
「もういい。俺が決める。クロエとザイン、ウィットとルック、竜胆はマールと。それぞれ2人一組で行け!」
「ええー!」
各所で不満が上がる。
だがそれに取り合ってたら陽が暮れる。
「うるさい、お前らちょっとは連携を大事にしろ! これは命令! 以上!」
「あれー隊長はどうするんですーー?」
唯一不満らしい不満もなさそうなルックが聞いてきた。
「俺はちょっと思う事があって1人で動く」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってください隊長! そりゃなんでもヤバイすよ!」
「そうです。たった今、ミスト殿が危険だと言ったばかりではないですか」
ザインとウィットが真っ先に反対してきた。
周囲もその通りだとばかりに頷いてくる。
「大丈夫だ、俺にはイッガーがつく」
嘘を言った。
当の何も聞かされてないイッガーは目を丸く見開いたが、俺がじっと見つめると慌てたようにコクコク頷いた。
それでとりあえずその場は収まった。
正直、なんでここまで1人で動きたいのかは分からない。
けど、何か運命的なものを感じている。
例の司教。
それがプレイヤーだとしたら、俺のこの世界における最大の敵になるかもしれない。
そんな予感があったからだろうか。
いや、今はもう考える時じゃない。
多少の問題はあれど、帝都まで無事に来れたんだ。
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