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第3章 帝都潜入作戦
第28話 囚われのジャンヌ
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正義。
最近よく聞くことになった言葉。
正直、元の世界にいた時にはあまり考えたことはなかった。
それほど大事なことじゃなかったし、何よりそんなものを主張するのはちょっと変に見られるところもあった。
正義だなんて主張したところで、虚しいだけの空論だし、民主主義においては正義とは多数派のことだ。
けれどこの世界に来て、考えなくてはならなくなった。
いや、あの自称正義の申し子が言った言葉。
『それぞれの人に正義があるってことですかね?』
俺にとっての正義は何だろう?
プレイヤーの皆をもとの世界に戻すこと?
それは正義だ。
マリアを始めとするオムカの人々を守ること?
それも正義だ。
けど、それらは相反する正義であることは明白だ。
前者が写楽明彦という男の正義、後者がジャンヌ・ダルクという少女の正義だから。
プレイヤーの皆をもとの世界に戻すのであれば、今すぐ帝国に降伏してしまえばよい。
だがオムカの人々を守るためにはその選択はできない。
この自分の中にある相反する正義に、俺は悩まされているといっていい。
そしてそこに新たな正義が生まれてしまった。
ついに出会った彼女。里奈。元に戻らなくてもいい、オムカの人々もどうでもいい、そう思ってしまうほどの新しい正義。
「――ん」
声が聞こえた。
「――くん」
何かを訴えかけるような響き。
「明彦くん!」
呼ばれた。はっきりと。
それが自分の名前だと気づくのに、一拍の間が必要だった。
「――あ」
声が出た。
そしてまぶたが開いた。
そこは狭い部屋だった。
暗い。明かりはランタンが1つあるだけで、部屋の隅は真っ暗だ。
どうやら俺は椅子に座らされたまま眠っていたらしい。
毛皮が張ってあるからか座り心地はそこまで悪くはない。
視線を声のした方へ向ける。
ランタンのわずかな光が1つの人影を映し出していた。
そこに、マリアがいた。
違う、年齢も身長も、何もかもが違う。
里奈だ。
1年以上前。最後に見た時とほとんど変わらない。
里奈は俺の椅子に寄り掛かるようにして、こちらを覗いてくる。
「里……奈」
呼ぶ。
喉がからからで上手く言葉が出ない。
「これ、飲んで」
差し出されたのは小さな水差し。
片手で受け取って、一息に飲んだ。
水の中に少し甘みがある。砂糖か。
それで喉が潤い少し力が出た気がした。
「ここは……」
「エイン帝国、パルルカ教の教会の一室よ」
俺が前に来たあの教会か。
それにしてもなんでここに?
俺は外で里奈と出会い、そして……。
「そうだ、大丈夫なのか?」
「……うん。ありがとう。大丈夫。ちょっと、疲れただけ」
疲れただけであんなになるのか。
どこか病的な印象を持っただけに、どうも不安だ。
「本当に、明彦くんなんだね」
それでもそこに里奈がいる。
それだけでどうでもいいと思えてしまう。
「……あぁ。信じられないかもしれないけど、間違いなく俺だよ。写楽明彦だ」
そして俺はこれまでのいきさつを簡単に話した。
「そう……大変だったんだね」
「あぁ、まさかこんな格好になるとは思わなかったからなぁ」
「うん……でも、明彦くん可愛いよ。妹が出来たみたい」
「よ、よしてくれ……」
なんだか里奈にそう言われるのはむずかゆい。
というか妹に見られるのはなんとなくショックだ。
けど、里奈だ。
間違いなく、俺の知る立花里奈がここにいる。
そんな嬉しさが胸の中で広がったところで、
「お目覚めのようですね」
突然の声に、ぎくりとした。
里奈の声ではない。男の声。
顔が引き締まる。
「お前は……」
部屋に入って来たのは神父の服を着た男。
細い目の痩身の男だ。
「里奈さん。申し訳ありませんが、彼女を少しお借りしてもよいでしょうか」
「……ええ」
ぶっきらぼうな返事。
なんだか俺の知る里奈ではないような気がした。
「ありがとうございます」
だがそれに慣れているのか、男は笑みを浮かべると俺の対面にあるもう1つの椅子に座った。
里奈は椅子から離れて、俺と男から等距離の位置に立つ。
そして男は両手のひらを胸元で合わせ、薄い笑みと共にこう自己紹介した。
「はじめまして。私は赤星煌夜。パルルカ教皇にして……エイン帝国におけるプレイヤーのまとめ役をしております」
こいつが……。
ドスガ王が言っていた司祭の話。
イッガーが持ってきたパルルカ教の話。
この大帝国において、皇帝をもしのぐ権力と発言力を持っている存在。
要はラスボスということだ。
40から50のアクの強いおじさんと思っていたから、まさかこんな若い優男だとは思ってもみなかった。
ふと思ったけどプレイヤーは皆、20前後の若者ばかりだ。
何か意味があるのか……。いや、あの女神のことだ。どうせ若い男女をはべらせたいとかどうでもいい理由だろう。
「その教皇さんが何の用だ?」
「いえ、貴女とお話をしたかったのですよ。オムカ王国に突如現れた天才軍師。帝国からの独立、シータ王国およびビンゴ王国との同盟、南郡の制圧。それをやってのけたジャンヌ・ダルクという人物に」
「俺にはないね」
警戒しながら答える。
「ふっ、聞いた以上に気の強い人だ。まぁ、そうでなければ噂に釣られて帝都までは来なかったでしょうが」
「…………やっぱり嘘だったのか」
「ええ、オムカ王国女王の御父上はすでに亡くなっています。すでに何年も前にですが」
そうか。そうはっきりとしたことが分かったのは収穫だ。
ただそれが俺を呼ぶための餌だったというのもいまいちしっくりこない。
こいつの目的が、読めない。
「それより私も貴女を――いえ、貴方を本当の名前で呼んだ方が良いでしょうか、明彦さん?」
「……盗み聞きとはいい趣味じゃないか」
「聞こえてしまったのですよ。そろそろ貴方が起きることが視えましたので」
「へぇ、そりゃ良い勘してるな」
「いえ、勘ではありません。私のは予知です」
「はぁ?」
「私のスキル、『運命定める生命の系統樹』にはそんな能力があるのです。未来を視る力が」
「未来を……視る?」
その言葉に、ざわっと総毛立つ。
ヨジョー地方を襲った大地震。
その時の不可解なエイン帝国軍の撤退の理由。
そこに思い当たったからだ。
まさしく未来予知だったのだ。
それであの大地震を予見して、軍を退かせた。
怒りがぐつぐつと煮えてくる。
この男が、この男こそが、切り捨てたのだ。
ヨジョー地方に住む無辜の民を。
「そうにらまないでください。私たちは敵対する必要はないのですから」
「……どういう意味だ?」
怒りを押し殺して聞く。
よく考えれば、これはチャンスだ。
今、オムカ、シータ、ビンゴの3国で戦っている相手。帝国。その精神的支柱とも言えるパルルカ教の代表の考えを聞ける。
それがこれからの戦いに大いに役立つと俺はにらんでいる。彼を知り己を知れば、ってやつだ。
男――赤星煌夜は、表情の読みづらい顔を浮かべながら、言葉を紡いだ。
最近よく聞くことになった言葉。
正直、元の世界にいた時にはあまり考えたことはなかった。
それほど大事なことじゃなかったし、何よりそんなものを主張するのはちょっと変に見られるところもあった。
正義だなんて主張したところで、虚しいだけの空論だし、民主主義においては正義とは多数派のことだ。
けれどこの世界に来て、考えなくてはならなくなった。
いや、あの自称正義の申し子が言った言葉。
『それぞれの人に正義があるってことですかね?』
俺にとっての正義は何だろう?
プレイヤーの皆をもとの世界に戻すこと?
それは正義だ。
マリアを始めとするオムカの人々を守ること?
それも正義だ。
けど、それらは相反する正義であることは明白だ。
前者が写楽明彦という男の正義、後者がジャンヌ・ダルクという少女の正義だから。
プレイヤーの皆をもとの世界に戻すのであれば、今すぐ帝国に降伏してしまえばよい。
だがオムカの人々を守るためにはその選択はできない。
この自分の中にある相反する正義に、俺は悩まされているといっていい。
そしてそこに新たな正義が生まれてしまった。
ついに出会った彼女。里奈。元に戻らなくてもいい、オムカの人々もどうでもいい、そう思ってしまうほどの新しい正義。
「――ん」
声が聞こえた。
「――くん」
何かを訴えかけるような響き。
「明彦くん!」
呼ばれた。はっきりと。
それが自分の名前だと気づくのに、一拍の間が必要だった。
「――あ」
声が出た。
そしてまぶたが開いた。
そこは狭い部屋だった。
暗い。明かりはランタンが1つあるだけで、部屋の隅は真っ暗だ。
どうやら俺は椅子に座らされたまま眠っていたらしい。
毛皮が張ってあるからか座り心地はそこまで悪くはない。
視線を声のした方へ向ける。
ランタンのわずかな光が1つの人影を映し出していた。
そこに、マリアがいた。
違う、年齢も身長も、何もかもが違う。
里奈だ。
1年以上前。最後に見た時とほとんど変わらない。
里奈は俺の椅子に寄り掛かるようにして、こちらを覗いてくる。
「里……奈」
呼ぶ。
喉がからからで上手く言葉が出ない。
「これ、飲んで」
差し出されたのは小さな水差し。
片手で受け取って、一息に飲んだ。
水の中に少し甘みがある。砂糖か。
それで喉が潤い少し力が出た気がした。
「ここは……」
「エイン帝国、パルルカ教の教会の一室よ」
俺が前に来たあの教会か。
それにしてもなんでここに?
俺は外で里奈と出会い、そして……。
「そうだ、大丈夫なのか?」
「……うん。ありがとう。大丈夫。ちょっと、疲れただけ」
疲れただけであんなになるのか。
どこか病的な印象を持っただけに、どうも不安だ。
「本当に、明彦くんなんだね」
それでもそこに里奈がいる。
それだけでどうでもいいと思えてしまう。
「……あぁ。信じられないかもしれないけど、間違いなく俺だよ。写楽明彦だ」
そして俺はこれまでのいきさつを簡単に話した。
「そう……大変だったんだね」
「あぁ、まさかこんな格好になるとは思わなかったからなぁ」
「うん……でも、明彦くん可愛いよ。妹が出来たみたい」
「よ、よしてくれ……」
なんだか里奈にそう言われるのはむずかゆい。
というか妹に見られるのはなんとなくショックだ。
けど、里奈だ。
間違いなく、俺の知る立花里奈がここにいる。
そんな嬉しさが胸の中で広がったところで、
「お目覚めのようですね」
突然の声に、ぎくりとした。
里奈の声ではない。男の声。
顔が引き締まる。
「お前は……」
部屋に入って来たのは神父の服を着た男。
細い目の痩身の男だ。
「里奈さん。申し訳ありませんが、彼女を少しお借りしてもよいでしょうか」
「……ええ」
ぶっきらぼうな返事。
なんだか俺の知る里奈ではないような気がした。
「ありがとうございます」
だがそれに慣れているのか、男は笑みを浮かべると俺の対面にあるもう1つの椅子に座った。
里奈は椅子から離れて、俺と男から等距離の位置に立つ。
そして男は両手のひらを胸元で合わせ、薄い笑みと共にこう自己紹介した。
「はじめまして。私は赤星煌夜。パルルカ教皇にして……エイン帝国におけるプレイヤーのまとめ役をしております」
こいつが……。
ドスガ王が言っていた司祭の話。
イッガーが持ってきたパルルカ教の話。
この大帝国において、皇帝をもしのぐ権力と発言力を持っている存在。
要はラスボスということだ。
40から50のアクの強いおじさんと思っていたから、まさかこんな若い優男だとは思ってもみなかった。
ふと思ったけどプレイヤーは皆、20前後の若者ばかりだ。
何か意味があるのか……。いや、あの女神のことだ。どうせ若い男女をはべらせたいとかどうでもいい理由だろう。
「その教皇さんが何の用だ?」
「いえ、貴女とお話をしたかったのですよ。オムカ王国に突如現れた天才軍師。帝国からの独立、シータ王国およびビンゴ王国との同盟、南郡の制圧。それをやってのけたジャンヌ・ダルクという人物に」
「俺にはないね」
警戒しながら答える。
「ふっ、聞いた以上に気の強い人だ。まぁ、そうでなければ噂に釣られて帝都までは来なかったでしょうが」
「…………やっぱり嘘だったのか」
「ええ、オムカ王国女王の御父上はすでに亡くなっています。すでに何年も前にですが」
そうか。そうはっきりとしたことが分かったのは収穫だ。
ただそれが俺を呼ぶための餌だったというのもいまいちしっくりこない。
こいつの目的が、読めない。
「それより私も貴女を――いえ、貴方を本当の名前で呼んだ方が良いでしょうか、明彦さん?」
「……盗み聞きとはいい趣味じゃないか」
「聞こえてしまったのですよ。そろそろ貴方が起きることが視えましたので」
「へぇ、そりゃ良い勘してるな」
「いえ、勘ではありません。私のは予知です」
「はぁ?」
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「……どういう意味だ?」
怒りを押し殺して聞く。
よく考えれば、これはチャンスだ。
今、オムカ、シータ、ビンゴの3国で戦っている相手。帝国。その精神的支柱とも言えるパルルカ教の代表の考えを聞ける。
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