知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
231 / 627
第3章 帝都潜入作戦

閑話13 クロエ・ハミニス(オムカ王国ジャンヌ隊副隊長)

しおりを挟む
 それがドアのノック音だと気づいたのは、3回目のノックが響いてから。

 誰もが我に返ったようにドアを見る。
 ミストさんか。
 いや、さっき出て行ったばかり。
 ならば誰がここに来る?

「開いてるぜ」

「馬鹿、ザイン! 誰かもわからないのに」

 マールの言う通りだ。
 ここを自分たちが使っているのを知ってるのは、あとこの帝都にはアヤとそのマネージャーのみ。
 彼女たちは今、引っ張りだこで帝都の各地を回っていると聞く。

 ならこの相手は?

 ガチャリ

 ドアが勝手に開く。

 今さら悔やんだ。
 鍵をかけていなかったことに。

 だから私は戦力になりそうにないイッガーの前に立って双鞭を抜く。
 リンド―に斬られたままのジャンヌとダルク。補修してあげたいけど、今はこれでなんとかするしかない。

 他の皆も緊張感に当てられたのか、それぞれが武器を構える。
 ザインとマールは剣、ルックは弓。そしてリンドーが少し変わった片刃の剣だ。

 ドアが開く。
 そこから現れたのは見知らぬ男だった。

 シルクハットにタキシードに杖。
 全身を黒で包んだ、針金のように細長い若い男。顔には笑みを浮かべて、こちらに優雅にお辞儀をする。

「これはこれは。お初にお目にかかります。オムカ王国、ジャンヌ・ダルクご一行様」

「ザイン!」

 ザインが無言で一歩、足を出すのを見て制止した。
 そしてそれは成功したみたいだ。

「そうそう、早とちりしちゃあいけない。ここでボクを殺したら……君たちの隊長の命は保証しないよ」

「……ぐっ!」

 ザインが歯ぎしりする。
 やっぱり。危ないところだった。
 なんで敵が1人でここに乗り込むか。少し考えればその想像はついた。

「さて。ということで事態は飲み込んでいるとは思うけど、一応説明しよう。それがゲームのルールだからね。あぁ、そうそう。ボクは仁藤光紀にとうこうき。そっちの人には伝わると思うけど、『遊戯願望ゲームメイカー』と呼ばれているよ」

 ゲームメイカー?
 何の事だろう。
 と思っていると、背後のイッガーが明らかな動揺を示した。

「プレイヤー……」

「そういうこと。そして今王都にいるプレイヤー11人のうちのひとり。惜しいね。あと1人いれば12人で使徒みたいだったのに」

 プレイヤー?
 何の話をしているんだろうか。
 いや、そんなことはどうでもいい。
 相手が誰だろうが、何人いようが、何の関係があろうが、敵は敵。

「隊長殿を返して」

「んん、ほぉ、君があれか。ジャンヌ・ダルクの片腕と言われるクロエ・ハミニス」

 自分のことを知っている!?
 いや、驚くな。動揺するな。相手のテンポに呑まれるな。隊長殿は、いついかなる時でも冷静に相手に対した。

「知ってもらえて何より。ニトーさん? それで? ここに単身乗り込んできたってことは何? 隊長殿を捕まえたから私たちに降伏しろっていうの?」

「はっはっは! さすが彼女の一番弟子ってことか。随分鋭い。うん、でも残念。そうじゃあない」

 違うのか。じゃあ何故?

「ボクは遊んでこいって言われただけさ。君たちと命をかけたゲームで」

「ゲーム?」

「そう、ゲームだ。君たちが負ければ一生、その『隊長殿』に会うことはできない。けどもし君たちが勝てば、『隊長殿』のいるところに案内しよう」

 願ってもない話だ。
 隊長殿の捜索が、雲をつかむような話から、一気に現実味を帯びた。

 もしそれが真実なら。
 だからきっと隊長殿ならこう言う。

「その話が嘘じゃないという根拠は?」

「ははっ、さすがに用心深い。さすが一番弟子。うん、これは彼女から言われたんだけど。これをクロエに見せれば自分が捕まったことは信じるってさ。そのうえでそれを持って逃げろって」

 ニトーがポケットから出したものをこちらに投げて渡す。
 空中でキャッチ。
 手を開く。小さな赤色の髪留め。何の……いや、この形。そして……。

「すんすん……この匂い、隊長殿!?」

「いやー、まさかとは思ったけど本当に匂いで分かっちゃったよ。君は犬かな? うん、ちょっと引くね」

 当たり前だ。どれだけあの人と一緒に住んでると思ってるんだ。
 匂いなんて当然。100メートル先からだって隊長殿の匂いに感づいてみせる。

「ま、そういうわけだ。『隊長殿』はボクたちの手にある。そしてそこに行くにはボクのゲームに参加して勝つしかない。探しても無駄だよ。君たちだけじゃ“たどり着けない場所”に彼女はいる。安心してくれ、勝った暁には必ず『隊長殿』の場所にお連れするよ。それはもう、ボクを信じてもらうしかないね」

 信じる。
 敵を?
 誘拐犯を?
 ありえない。
 腹がねじけるくらいの笑い話だ。

 けど――

「どうする、クロエ……」

「クロエ……」

「さーて、どうしよっかー」

「ううー悪と戦うのが正義ジャスティスなのに……」

 ザイン、マール、ルック、リンドーがこちらを見てくる。

「…………」

 背中から視線。
 振り向くとイッガーがじっと見つめてきて、小さく頷いた。どうやら自分も行くと言っているらしい。

 この男。
 ジャンヌ隊に入ったはいいけど、体力はないわ、気力もないわ、武器も使えないわのないない尽くしの人間だった。
 けど、隊長殿に見いだされて探索の仕事をするようになってその力を発揮した。頭も良いらしく、よく隊長殿と難しい話をしていたのは覚えている。

 負い目がある。
 私じゃ、この男の力を十二分に引き出せなかったことに。

 心強くもある。
 私たちに足りない頭脳を補ってくれることに。

 嬉しくもある。
 あんな厳しい訓練の後にこうして同行を申し出てくれることに。

「……決まってるでしょ」

 皆の顔を見る。
 ザイン、マール、ルック、リンドー、イッガー。
 その誰もがすぐに覚悟を決めた表情をして、小さく頷く。

 そう、考えるまでもない。
 隊長殿が捕われている。
 そしてその場所が分かっている。
 なのに背中を見せる理由は私たちにない。

 ただ同時に辛さを感じた。
 この決断をするということは、彼らの命を背負うということ。
 これが決断することの重さ。
 これまで隊長殿という大樹に寄り掛かって自分で決断してこなかったのだと改めて実感する。

 呼吸にして3つ。
 腹に力を入れ、ニトーをにらんで顕然けんぜんと言い放つ。

「そのゲーム、受けて立つわ。そして隊長殿を助けてみせる!」

 私の選択に、ザインが、マールが、ルックが、リンドーが笑顔でうなずく。イッガーは、分からない。
 重い。彼らの命。けど、だからこそ負けられない。

 パァン。

 破裂音。

 ニトーが手を打った音だ。

「グッド! 良い返事だ。それでは皆様。こちらのドアをお通りください」

 ニトーが立っていた場所から一歩、左へずれる。
 そこには外へ通じるドアがある――はずだった。
 本当なら夕闇の帝都の街並みが見えるはずの光景。
 それが今や、紫と黒が混ぜ合わさった気味の悪い色が渦巻く奇怪な空間に変わっていた。
 窓の外を見る。普通の街並み。
 そのドアだけが異様。

「このドアから入れば、『隊長殿』のいる空間につながっている。さぁ入るがいい、選ばれし挑戦者たちよ!」

 変な言い回しが気になったけど、そこに隊長殿がいるなら行くしかない。
 私が先頭で、ドアのふちに手をかける。

「おっと、ボクとしたことが言い忘れていた」

 ニトーがおどけた様子でそう言うと、

「この先は一度入ったらゴールまで出られない亜空間。二度と帰れぬことも、命を落とす可能性もある危険な世界。覚悟ができた者のみがお通りなさいますよう……」

 ふん。そんなもの、戦場いつもと変わらない。
 場所が違うだけで、今、私たちはこいつらを相手に戦をしているのだ。

「今さら。あんた、隊長殿を取り返したらいの一番でぶんなぐってあげるから、覚悟しておきなさい」

「それは怖い。ま、精々頑張ってよ」

 男はおどけたように肩をすくめてみせる。
 そして私は、ドアの中に飛び込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...