知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
232 / 627
第3章 帝都潜入作戦

第28話 囚われのジャンヌ

しおりを挟む
 正義。
 最近よく聞くことになった言葉。

 正直、元の世界にいた時にはあまり考えたことはなかった。

 それほど大事なことじゃなかったし、何よりそんなものを主張するのはちょっと変に見られるところもあった。
 正義だなんて主張したところで、虚しいだけの空論だし、民主主義においては正義とは多数派のことだ。

 けれどこの世界に来て、考えなくてはならなくなった。
 いや、あの自称正義の申し子が言った言葉。

『それぞれの人に正義ジャスティスがあるってことですかね?』

 俺にとっての正義は何だろう?

 プレイヤーの皆をもとの世界に戻すこと?
 それは正義だ。

 マリアを始めとするオムカの人々を守ること?
 それも正義だ。

 けど、それらは相反する正義であることは明白だ。
 前者が写楽明彦という男の正義、後者がジャンヌ・ダルクという少女の正義だから。

 プレイヤーの皆をもとの世界に戻すのであれば、今すぐ帝国に降伏してしまえばよい。
 だがオムカの人々を守るためにはその選択はできない。

 この自分の中にある相反する正義に、俺は悩まされているといっていい。
 そしてそこに新たな正義が生まれてしまった。
 ついに出会った彼女。里奈。元に戻らなくてもいい、オムカの人々もどうでもいい、そう思ってしまうほどの新しい正義。

「――ん」

 声が聞こえた。

「――くん」

 何かを訴えかけるような響き。

「明彦くん!」

 呼ばれた。はっきりと。
 それが自分の名前だと気づくのに、一拍の間が必要だった。

「――あ」

 声が出た。
 そしてまぶたが開いた。

 そこは狭い部屋だった。
 暗い。明かりはランタンが1つあるだけで、部屋の隅は真っ暗だ。

 どうやら俺は椅子に座らされたまま眠っていたらしい。
 毛皮が張ってあるからか座り心地はそこまで悪くはない。

 視線を声のした方へ向ける。
 ランタンのわずかな光が1つの人影を映し出していた。

 そこに、マリアがいた。
 違う、年齢も身長も、何もかもが違う。
 里奈だ。
 1年以上前。最後に見た時とほとんど変わらない。

 里奈は俺の椅子に寄り掛かるようにして、こちらを覗いてくる。

「里……奈」

 呼ぶ。
 喉がからからで上手く言葉が出ない。

「これ、飲んで」

 差し出されたのは小さな水差し。
 片手で受け取って、一息に飲んだ。
 水の中に少し甘みがある。砂糖か。
 それで喉が潤い少し力が出た気がした。

「ここは……」

「エイン帝国、パルルカ教の教会の一室よ」

 俺が前に来たあの教会か。
 それにしてもなんでここに?
 俺は外で里奈と出会い、そして……。

「そうだ、大丈夫なのか?」

「……うん。ありがとう。大丈夫。ちょっと、疲れただけ」

 疲れただけであんなになるのか。
 どこか病的な印象を持っただけに、どうも不安だ。

「本当に、明彦くんなんだね」

 それでもそこに里奈がいる。
 それだけでどうでもいいと思えてしまう。

「……あぁ。信じられないかもしれないけど、間違いなく俺だよ。写楽明彦だ」

 そして俺はこれまでのいきさつを簡単に話した。

「そう……大変だったんだね」

「あぁ、まさかこんな格好になるとは思わなかったからなぁ」

「うん……でも、明彦くん可愛いよ。妹が出来たみたい」

「よ、よしてくれ……」

 なんだか里奈にそう言われるのはむずかゆい。
 というか妹に見られるのはなんとなくショックだ。

 けど、里奈だ。
 間違いなく、俺の知る立花里奈がここにいる。

 そんな嬉しさが胸の中で広がったところで、

「お目覚めのようですね」

 突然の声に、ぎくりとした。
 里奈の声ではない。男の声。
 顔が引き締まる。

「お前は……」

 部屋に入って来たのは神父の服を着た男。
 細い目の痩身の男だ。

「里奈さん。申し訳ありませんが、彼女を少しお借りしてもよいでしょうか」

「……ええ」

 ぶっきらぼうな返事。
 なんだか俺の知る里奈ではないような気がした。

「ありがとうございます」

 だがそれに慣れているのか、男は笑みを浮かべると俺の対面にあるもう1つの椅子に座った。
 里奈は椅子から離れて、俺と男から等距離の位置に立つ。

 そして男は両手のひらを胸元で合わせ、薄い笑みと共にこう自己紹介した。

「はじめまして。私は赤星煌夜あかぼしこうや。パルルカ教皇にして……エイン帝国におけるプレイヤーのまとめ役をしております」

 こいつが……。

 ドスガ王が言っていた司祭の話。
 イッガーが持ってきたパルルカ教の話。
 この大帝国において、皇帝をもしのぐ権力と発言力を持っている存在。

 要はラスボスということだ。

 40から50のアクの強いおじさんと思っていたから、まさかこんな若い優男だとは思ってもみなかった。

 ふと思ったけどプレイヤーは皆、20前後の若者ばかりだ。
 何か意味があるのか……。いや、あの女神のことだ。どうせ若い男女をはべらせたいとかどうでもいい理由だろう。

「その教皇さんが何の用だ?」

「いえ、貴女とお話をしたかったのですよ。オムカ王国に突如現れた天才軍師。帝国からの独立、シータ王国およびビンゴ王国との同盟、南郡の制圧。それをやってのけたジャンヌ・ダルクという人物に」

「俺にはないね」

 警戒しながら答える。

「ふっ、聞いた以上に気の強い人だ。まぁ、そうでなければ噂に釣られて帝都までは来なかったでしょうが」

「…………やっぱり嘘だったのか」

「ええ、オムカ王国女王の御父上はすでに亡くなっています。すでに何年も前にですが」

 そうか。そうはっきりとしたことが分かったのは収穫だ。
 ただそれが俺を呼ぶための餌だったというのもいまいちしっくりこない。
 こいつの目的が、読めない。

「それより私も貴女を――いえ、貴方を本当の名前で呼んだ方が良いでしょうか、明彦さん?」

「……盗み聞きとはいい趣味じゃないか」

「聞こえてしまったのですよ。そろそろ貴方が起きることがえましたので」

「へぇ、そりゃ良い勘してるな」

「いえ、勘ではありません。私のは予知です」

「はぁ?」

「私のスキル、『運命定めるデスティニーズ生命の系統樹・セフィロト』にはそんな能力があるのです。未来を視る力が」

「未来を……視る?」

 その言葉に、ざわっと総毛立つ。
 ヨジョー地方を襲った大地震。
 その時の不可解なエイン帝国軍の撤退の理由。
 そこに思い当たったからだ。

 まさしく未来予知だったのだ。
 それであの大地震を予見して、軍を退かせた。

 怒りがぐつぐつと煮えてくる。
 この男が、この男こそが、切り捨てたのだ。
 ヨジョー地方に住む無辜むこの民を。

「そうにらまないでください。私たちは敵対する必要はないのですから」

「……どういう意味だ?」

 怒りを押し殺して聞く。

 よく考えれば、これはチャンスだ。

 今、オムカ、シータ、ビンゴの3国で戦っている相手。帝国。その精神的支柱とも言えるパルルカ教の代表の考えを聞ける。
 それがこれからの戦いに大いに役立つと俺はにらんでいる。彼を知り己を知れば、ってやつだ。

 男――赤星煌夜は、表情の読みづらい顔を浮かべながら、言葉を紡いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...