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第3章 帝都潜入作戦
閑話14 クロエ・ハミニス(オムカ王国ジャンヌ隊副隊長)
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そこは奇妙な空間だった。
左右に建物が列をなしており、チカチカと目のくらむような明滅する光が、乱立する小さな塔のようなものから発せられている。
建物に挟まれた大通りの奥に見えるのは城だろうか。
だが、どこか異国の世界に迷い込んだような、この世のものとは思えない街並みに私たちはいた。
「なんだよ、ここ……」
ザインがこぼす。
それは皆の共通認識だった。
宿舎にいたのに、ドアを通ればこんな奇妙なところに出てきたのだ。
夢でも見ているのかと思う。
私たちが戸惑う中、空気を震わす笑い声が響く。
そして、その声が実態を伴った。
火薬が爆発したような破裂音が響き、前方に煙がもくもくと立ち込める。
その中から影が飛び出した。
その影は1メートルほどの台の上に着地すると、羽織ったマントをたなびかせてこう叫んだ。
「ようこそ、死と享楽の最強ワンダーランド、ニットーワンダーワールドへ!」
ニトーが両手を高らかに上げると、その背後で再び破裂音が響きキラキラの紙吹雪が舞い、さらに大量の鳩がバサバサと跳んでいく。
その奇怪な光景に誰もが目を奪われている。
だがその中で私は動く。
先手必勝。
双鞭のジャンヌとダルクを抜き放つと、一直線にニトーとかいう男に向かって駆ける。
そして右のジャンヌを頭部に、左のダルクをわき腹目掛け振り抜く。
「っ!」
ジャンヌとダルクが空を切った。
避けた? いや、違う。当たらなかった。
目測を見誤った? いや、距離は完璧。
「おいおいおいおい! さっきは俺を止めてたくせに、何やってんだよクロエ!」
ザインが抗議の声をあげる。
舌打ちしながら、投げやりに答える。
「まさかこいつが手ぶらで来るわけないでしょ。原理はわかんないけど、こいつには攻撃が当たらない。それを確かめたの」
万が一、本当に無策で来た場合に先手必勝で叩きのめせればと思ったけど甘くはなかったわけだ。
「ホログラム……か」
「なんて?」
イッガーのつぶやきに思わず反応した。
「立体映像……と、言っても……ダメかな。えっと……影、みたいなもの。彼は、ここにいない」
「幻術ってことね」
だとしたら厄介。
私たちは直接の戦闘には慣れてるけど、こういった搦め手にはどうしたらいいか分からない。
「ふふふ、そう。ボクは遠い安全な場所で見させてもらっているよ。さてクロエくん。ルール説明の前だからこそ、今の君の行為は許そう。だがこれ以降、ボクに対しての戦闘行為、および“参加者以外の戦闘行為”を禁じるよ、いいね?」
「……好きにすれば」
こいつに攻撃が当たらないなら、何をやろうが無駄だろう。ジャンヌとダルクをしまって、憮然と言い放つ。
「で? ルールって何? さっさと始めて。隊長殿に会わせて」
「グッド! その覇気、素晴らしい。遊びにこそ真剣に取り組む。それこそが真に人生を楽しむものだとボクは思っているよ。だからこそ遊ぶ。真剣に! さぁ、それではルールを説明しよう!」
くるりと一回転してマントをたなびかせるニトー。
いちいち挙動が大げさ。
あぁ、本当にぶん殴りたい。
「さぁ、それではこれを見てもらおうか」
ニトーが指を鳴らすと、どういう原理か知らないけど空間に一枚の絵が映し出された。
それは四角が縦に5つ並んだ絵。
一番下の箱にスタートと書かれている。
「ルールは簡単。この世界は5つの部屋で成り立っている。君たちがいる部屋は一番下のここ。そこから部屋を通って最後の部屋までたどり着いたら、君らの『隊長殿』に会わせようじゃないか」
「通るだけ?」
「ふふ、もちろんただ通ればオーケーってわけじゃない。それぞれの部屋には門番がいる。それを倒さない限り次には進めない仕組みだ」
なるほど。遊びとしては単純。
問題はその門番がどういう敵か。
「制限時間は3時間! それまでに最後の部屋を突破し、君たちの『隊長殿』を救い出して外に脱出できれば君たちの勝ち! できなければ、全員まとめて即死亡!」
「な、なんだそれ!」
「死ぬとか正義じゃないです!」
ザインとリンドーがニトーにうろたえ模様で食ってかかる。
だがニトーは、笑みを濃くして、
「ふっふっふ。残念だけどこの空間に入ったら、脱出するかこの空間ごと死ぬかの二択しかない。言ったはずだよ。二度と帰れないかもしれない、と」
そういうこと。
本当に、意地が悪いというかなんというか。
「それ言えば怖気づくとでも? やってやろうじゃない。門番だろうかなんだか知んないけど、全部私がぶっとばして隊長殿を助け出す!」
私が意気込みを語ると、後にザインとリンドーが続く。
「おう、あったりまえだ! 全部倒して隊長を助け出す!」
「もちろんそれが正義です!」
「あんたら、調子いいわねー」
前言をひるがえして意気込むザインとリンドーに、冷静にマールが突っ込む。
その緊張感のないいつも通りのやり取りに、少し自身の中で硬くなっている部分がほぐれたような気がする。
だから私はニトーをにらみ、
「それと、あんた。次、その本体に会ったら一発ぶん殴るって約束、忘れないでよね」
その言葉にニトーは笑みを濃くした。気持ち悪い。
「グッド! それでこそ、その緊張こそが真理。さぁ、行け勇者たちよ! 立ちふさがる門番たちをなぎ倒し、囚われのお姫様を助け出すのだ! これこそ『運命の分かれ道 ―ロード・トゥ・アビス―』、スタートぉぉ!」
拳を突き上げてジャンプするニトー。
爆発音が響き金色の髪のひもが床の三角の物体(確かクラッカーとかいうやつだ)から飛び出た。
そしてそれが収まった時には、ニトーの姿は影も形も消えていた。
最後まで派手でうざったい。
「さ、行くわよ。時間もないし」
「行くって、でもどこに?」
「次の部屋でしょ。あそこの城の門が扉じゃない? 少し歩きそうだから急ぎで」
奥に城がある。その門のところに扉のようなものが見えている。
告げると同時、先に歩き出す。
ただ城までの距離は遠いと思ったけど、意外とすぐに突き当たった。
どうやら大通りや城はただの絵で、その門に当たる部分にドアノブが見えた。
「トリックアート……手前だけ本物で奥は見せかけ、か」
イッガーが何やら呟いてるけど、今の私にはどうでもよかった。
そのまま扉を開け放つ。
「……っ!」
途端、これまでとは違う自然の強烈な陽光に眉をしかめた。
そして見た。
「……外?」
部屋かと思いきや外に出てしまったのか。人の背丈以上の木々が所狭しと並んでおり、膝まである雑草が地面を覆っている原生林。さんさんと輝く太陽のせいか、ムッとするほどの暑さで、聞いたことのない鳥や動物の鳴き声が響いている。
「いや、ここが壁になってる。何もない、空間なのに。ここは部屋の中」
イッガーが後ろで何もない空間をぺたぺたと触りながら説明する。
触れてみる。なるほど。見えない壁になっているようだ。
ということはやっぱりここは室内で、この木とか草も全部植えたってことか。
ご苦労なことで。
『さぁさぁ、やってきました。第一の関門へようこそ』
空――いや、天井からニトーの声が聞こえた。
声はすれど姿はなし。どういう仕組みなのか分からない。けどそんなことは今はどうでもいい。
「さっさと門番を出して。戦うのは私よ」
ザインとリンドーから文句が出るが、先に名乗り上げてしまえばこちらのもの。
最初から様子見とか面倒なことはしない。誰が来ようと全力で叩き潰す。
『オーケイ! それじゃあ他のメンバーは観客だ。一切手を出したらいけないよ? まぁ、ルールで出せないようにするけど』
「うぉ!」
ザインの悲鳴。
振り返ると、皆の足元から緑の光が出てきて彼らを覆った。
光の箱のようなものに閉じ込められたのだ。
ザインたちが光の壁を叩くが、どういう原理なのか傷1つつかない。
『安心してくれたまえ。それは挑戦者以外のメンバーが手出しできないようにしている光の檻。逆にいかなる攻撃も通さないから、彼らの身の安全は保証するよ。信用してくれ』
「世界一信用できない言葉だけど」
『ゲームはフェアでなくちゃ面白くない。さぁ覚悟はできたかな? それでは門番カモン!』
ニトーが高らかに宣言する。
だが何の反応も答えもない。
いや、違う。
地響きがする。
それはどんどんと近づいてきて、地面を揺らす。
そして――咆哮。
木々をなぎ倒して巨体が現れた。
土気色の肌をした爬虫類に似た生物。
だがその大きさと、凶暴さは比較にならない。
「な……なに、これ」
その答えは、意外なことに背後――イッガーからもたらされた。
「てぃ、Tレックス!! あれは恐竜! 太古の昔に存在した、肉食獣の王様だ!」
左右に建物が列をなしており、チカチカと目のくらむような明滅する光が、乱立する小さな塔のようなものから発せられている。
建物に挟まれた大通りの奥に見えるのは城だろうか。
だが、どこか異国の世界に迷い込んだような、この世のものとは思えない街並みに私たちはいた。
「なんだよ、ここ……」
ザインがこぼす。
それは皆の共通認識だった。
宿舎にいたのに、ドアを通ればこんな奇妙なところに出てきたのだ。
夢でも見ているのかと思う。
私たちが戸惑う中、空気を震わす笑い声が響く。
そして、その声が実態を伴った。
火薬が爆発したような破裂音が響き、前方に煙がもくもくと立ち込める。
その中から影が飛び出した。
その影は1メートルほどの台の上に着地すると、羽織ったマントをたなびかせてこう叫んだ。
「ようこそ、死と享楽の最強ワンダーランド、ニットーワンダーワールドへ!」
ニトーが両手を高らかに上げると、その背後で再び破裂音が響きキラキラの紙吹雪が舞い、さらに大量の鳩がバサバサと跳んでいく。
その奇怪な光景に誰もが目を奪われている。
だがその中で私は動く。
先手必勝。
双鞭のジャンヌとダルクを抜き放つと、一直線にニトーとかいう男に向かって駆ける。
そして右のジャンヌを頭部に、左のダルクをわき腹目掛け振り抜く。
「っ!」
ジャンヌとダルクが空を切った。
避けた? いや、違う。当たらなかった。
目測を見誤った? いや、距離は完璧。
「おいおいおいおい! さっきは俺を止めてたくせに、何やってんだよクロエ!」
ザインが抗議の声をあげる。
舌打ちしながら、投げやりに答える。
「まさかこいつが手ぶらで来るわけないでしょ。原理はわかんないけど、こいつには攻撃が当たらない。それを確かめたの」
万が一、本当に無策で来た場合に先手必勝で叩きのめせればと思ったけど甘くはなかったわけだ。
「ホログラム……か」
「なんて?」
イッガーのつぶやきに思わず反応した。
「立体映像……と、言っても……ダメかな。えっと……影、みたいなもの。彼は、ここにいない」
「幻術ってことね」
だとしたら厄介。
私たちは直接の戦闘には慣れてるけど、こういった搦め手にはどうしたらいいか分からない。
「ふふふ、そう。ボクは遠い安全な場所で見させてもらっているよ。さてクロエくん。ルール説明の前だからこそ、今の君の行為は許そう。だがこれ以降、ボクに対しての戦闘行為、および“参加者以外の戦闘行為”を禁じるよ、いいね?」
「……好きにすれば」
こいつに攻撃が当たらないなら、何をやろうが無駄だろう。ジャンヌとダルクをしまって、憮然と言い放つ。
「で? ルールって何? さっさと始めて。隊長殿に会わせて」
「グッド! その覇気、素晴らしい。遊びにこそ真剣に取り組む。それこそが真に人生を楽しむものだとボクは思っているよ。だからこそ遊ぶ。真剣に! さぁ、それではルールを説明しよう!」
くるりと一回転してマントをたなびかせるニトー。
いちいち挙動が大げさ。
あぁ、本当にぶん殴りたい。
「さぁ、それではこれを見てもらおうか」
ニトーが指を鳴らすと、どういう原理か知らないけど空間に一枚の絵が映し出された。
それは四角が縦に5つ並んだ絵。
一番下の箱にスタートと書かれている。
「ルールは簡単。この世界は5つの部屋で成り立っている。君たちがいる部屋は一番下のここ。そこから部屋を通って最後の部屋までたどり着いたら、君らの『隊長殿』に会わせようじゃないか」
「通るだけ?」
「ふふ、もちろんただ通ればオーケーってわけじゃない。それぞれの部屋には門番がいる。それを倒さない限り次には進めない仕組みだ」
なるほど。遊びとしては単純。
問題はその門番がどういう敵か。
「制限時間は3時間! それまでに最後の部屋を突破し、君たちの『隊長殿』を救い出して外に脱出できれば君たちの勝ち! できなければ、全員まとめて即死亡!」
「な、なんだそれ!」
「死ぬとか正義じゃないです!」
ザインとリンドーがニトーにうろたえ模様で食ってかかる。
だがニトーは、笑みを濃くして、
「ふっふっふ。残念だけどこの空間に入ったら、脱出するかこの空間ごと死ぬかの二択しかない。言ったはずだよ。二度と帰れないかもしれない、と」
そういうこと。
本当に、意地が悪いというかなんというか。
「それ言えば怖気づくとでも? やってやろうじゃない。門番だろうかなんだか知んないけど、全部私がぶっとばして隊長殿を助け出す!」
私が意気込みを語ると、後にザインとリンドーが続く。
「おう、あったりまえだ! 全部倒して隊長を助け出す!」
「もちろんそれが正義です!」
「あんたら、調子いいわねー」
前言をひるがえして意気込むザインとリンドーに、冷静にマールが突っ込む。
その緊張感のないいつも通りのやり取りに、少し自身の中で硬くなっている部分がほぐれたような気がする。
だから私はニトーをにらみ、
「それと、あんた。次、その本体に会ったら一発ぶん殴るって約束、忘れないでよね」
その言葉にニトーは笑みを濃くした。気持ち悪い。
「グッド! それでこそ、その緊張こそが真理。さぁ、行け勇者たちよ! 立ちふさがる門番たちをなぎ倒し、囚われのお姫様を助け出すのだ! これこそ『運命の分かれ道 ―ロード・トゥ・アビス―』、スタートぉぉ!」
拳を突き上げてジャンプするニトー。
爆発音が響き金色の髪のひもが床の三角の物体(確かクラッカーとかいうやつだ)から飛び出た。
そしてそれが収まった時には、ニトーの姿は影も形も消えていた。
最後まで派手でうざったい。
「さ、行くわよ。時間もないし」
「行くって、でもどこに?」
「次の部屋でしょ。あそこの城の門が扉じゃない? 少し歩きそうだから急ぎで」
奥に城がある。その門のところに扉のようなものが見えている。
告げると同時、先に歩き出す。
ただ城までの距離は遠いと思ったけど、意外とすぐに突き当たった。
どうやら大通りや城はただの絵で、その門に当たる部分にドアノブが見えた。
「トリックアート……手前だけ本物で奥は見せかけ、か」
イッガーが何やら呟いてるけど、今の私にはどうでもよかった。
そのまま扉を開け放つ。
「……っ!」
途端、これまでとは違う自然の強烈な陽光に眉をしかめた。
そして見た。
「……外?」
部屋かと思いきや外に出てしまったのか。人の背丈以上の木々が所狭しと並んでおり、膝まである雑草が地面を覆っている原生林。さんさんと輝く太陽のせいか、ムッとするほどの暑さで、聞いたことのない鳥や動物の鳴き声が響いている。
「いや、ここが壁になってる。何もない、空間なのに。ここは部屋の中」
イッガーが後ろで何もない空間をぺたぺたと触りながら説明する。
触れてみる。なるほど。見えない壁になっているようだ。
ということはやっぱりここは室内で、この木とか草も全部植えたってことか。
ご苦労なことで。
『さぁさぁ、やってきました。第一の関門へようこそ』
空――いや、天井からニトーの声が聞こえた。
声はすれど姿はなし。どういう仕組みなのか分からない。けどそんなことは今はどうでもいい。
「さっさと門番を出して。戦うのは私よ」
ザインとリンドーから文句が出るが、先に名乗り上げてしまえばこちらのもの。
最初から様子見とか面倒なことはしない。誰が来ようと全力で叩き潰す。
『オーケイ! それじゃあ他のメンバーは観客だ。一切手を出したらいけないよ? まぁ、ルールで出せないようにするけど』
「うぉ!」
ザインの悲鳴。
振り返ると、皆の足元から緑の光が出てきて彼らを覆った。
光の箱のようなものに閉じ込められたのだ。
ザインたちが光の壁を叩くが、どういう原理なのか傷1つつかない。
『安心してくれたまえ。それは挑戦者以外のメンバーが手出しできないようにしている光の檻。逆にいかなる攻撃も通さないから、彼らの身の安全は保証するよ。信用してくれ』
「世界一信用できない言葉だけど」
『ゲームはフェアでなくちゃ面白くない。さぁ覚悟はできたかな? それでは門番カモン!』
ニトーが高らかに宣言する。
だが何の反応も答えもない。
いや、違う。
地響きがする。
それはどんどんと近づいてきて、地面を揺らす。
そして――咆哮。
木々をなぎ倒して巨体が現れた。
土気色の肌をした爬虫類に似た生物。
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「な……なに、これ」
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